〜聖女意思疎通大作戦⑤〜
「ダリちゃんお勤めご苦労様〜!でんわ?くれたおかげで準備できたけど…次からはもう少し早く連絡ちょうだいね?」
ダリキスによく似た儚げな美女がおっとりとした口調で言う。
「よく帰った、倅よ。聖魔術師様をお送りする任務ご苦労であった。すぐに王城へ帰還せよとの勅命が入っているが…どうする?このままお前の嫌いな田舎を継ぐのであればそのように伝えるが」
屈強な肉体のおじさまは厳格な口調でダリキスに話しかける。
「継ぎます!継ぐので近衛の辞職願いを正式に通してください」
駄犬のお尻には尻尾がぶんぶんと振られている気がする。
「はっ!はっ!は!そう言うと思ってもう手続きしておいた!2ヶ月後には我は愛しの妻と国一周の旅にでるからそのつもりでおれ!」
「はい」
…えっと今すごく重要な会話が目の前でなされているような。
「まさかあのダリちゃんが…好きな」
「うゔん!」
美女の話の途中で大きな咳払いするなよダリキス。なにが好きなんだろう。魚?
「ご紹介します。こちらが我が領をお守りしてくださる守護神、いや、女神様であられます聖魔術師マヤ様です」
ダリキスが取り繕うように、私を紹介してくれる。
「初めまして。マヤと申します。成り行きでこちらの世界にきてしまったので、常識外れなことも多々あるかと思いますが、ご指導いただければと思います」
私は建国誌に出てきたお姫様の真似をしてローブをスカートのように摘み膝を折る礼をした。
…あ、これ、意外と足にくる。
そう思ったら最後、絶叫乗馬で疲れていた私の足はグラッとよろめいてしまった。
「「「無理ないで!」」」
家族3人の絶叫が重なった。
改めて歓迎の晩餐で自己紹介するといわれ、それまでしばらく時間がある(ダリキスが飛ばしすぎたが故に)とのことで私は案内されたお部屋で魔術学の本を読もうとウキウキだ。
私室にと案内されたお部屋は白で統一された可愛らしいだけどもホッとする部屋だった。
王城みたいにファンタジーだったらどうしようかと思ってたけどここならくつろげそう。
一通り部屋を見て回る。大きな猫足のお風呂に、なぜか黒統一のカラフルでないでも決して暗くないドレスが10着ほど掛かったクローゼット。白色のソファーはふかふかで上にキルティングのされたクッションが置かれている。
「すごく素敵…」
キルティングを眺めていると後ろから声がかかった。
「マヤ様、そちらはウェールズに伝わります伝統的な模様にございます。お気に召したようで何よりでございます」
振り返ると水色のお着せをきた赤毛の女の子が立っていた。
「初めまして。本日よりマヤ様のお身周りのお世話をさせていただきます。ジュリエッタと申します」
綺麗なお姫様のような礼をしたジュリエッタに目を見張る。
「すごい!綺麗な礼!それ足に来るわよね?」
「ふふふ、こちらカーテシーというのですよ。ポイントは足の筋肉と忍耐です」
「忍耐…」
「ええ、そうです。忍耐です」
ニコリと笑うジュリエッタの顔は少し幼く、それでいて妖艶で不思議な魅力がある。
「よろしくね、ジュリエッタ!」
笑顔で返すと早速ですが…とジュリエッタとその後ろに控えていた辺境伯のメイドたちによって浴室に連行された。
あぁさよなら、私の読書タイムよ。