〜聖女意思疎通大作戦④〜
「まさかだけど…この石がスマホ?」
「ええ、そうです。スマホ…意味は分かりませんがいい名前ですね」
ダリキスの手には10cm×5cmほどの細長い石が握られてる。丁寧に角は落とさされ丸くなっているそれは習字の際に使う文鎮のようだ。
「女性でも気軽に持てる重さかつ、手を傷つけない素材を探すのに苦労しましたよ。結果として早馬のついでに、実家の床から大理石を拝借しまして、形になりました」
「ツッコミどころが多すぎる」
「取り急ぎ私の実家と繋いでみますか?」
「え?もう一台は実家にあるの?ここで作ったのではなくて?」
「早馬で向こうへ行き、私の部屋で制作して戻ってきたのですよ。さすがに資材もなければ付与魔法陣もない宿では作れませんよ」
「えっと…もしかして実家って近い?」
「早馬で2時間の距離ですね。馬車でも5時間もかからないのです。本来なら。本来ならね」
「今日中に着くってこと?」
「いえ、今までのペースを考えると明日です」
…そうですよね…はい。知ってました。
王都を出発してから早4日。ペースが亀なのは100も承知です。
「へ、陛下が5日かかるって…言ってたのは…」
「休息日を入れて5日です」
ガクッと首から項垂れてしまった。そうだよね。馬車疲れるもんね。休息日込みだよね。
「わかった!!!我慢するから休憩は1時間置きにして!!!今日中にウェールズに着くわよ!!!」
「…でしたらいっそのこと馬で行きましょう」
「うま?馬?お馬さん…えっと…乗ったことないけど?」
「大丈夫です。相乗りしましょう」
この時のダリキスの顔は一生忘れないと思う。本当に芸術作品のように綺麗な笑顔だった。
そして今、わたしは死の危機に瀕しています。
「ひゃむひひゃ!落ちる落ちる落ちる!」
「ちゃんと支えているので落ちませんよ。あと喋ると舌噛みますよ。落ちたくなかったら私にに体重をかけてください」
「ひゃいーーー」
いろんな意味で死の危機です。体重をかけると密着度が一気に上がって、ダリキスの綺麗な鼻筋が目の前に。し、心臓がもたない。
そんなこんなで2時間後…私はなんとか生きてウェールズ辺境伯領主邸へと辿り着いた。
ダリキス飛ばし過ぎよ。乙女の心臓と体力を分かってないんだわ。あの駄犬が。
ウェールズ辺境伯領主邸は豪邸…というわけではなく貴族にしてはこじんまりした家だと聞いていたが、実際はそんなことはなく、水色の屋根に白亜の建物に光が反射して一層煌びやかに見えた。庭には花が咲き誇り玄関にかけてアーチになっている。
そしてそのアーチの向こうに金髪黒目の兵士のような屈強な肉体を持つおじさまとアイスブルーの髪に灰色の瞳の儚げな美女が立っていた。