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〜商業祭と恋人の日〜

どうぞとマリー自らお茶を淹れてくれる。

白い陶器のティーセットは薄く少しの失敗で割れてしまいそうだ。

私は慎重にティーカップを持ち上げた。


「ダージリンでもアッサムでもないのね。お砂糖入れてないのに甘くて美味しいわ」

「こちらは我が商会の主力商品のひとつとなります。ブレンドティー "ユリ" になります。サリナンで取れますミラナという実を干したものを乾燥させた数種類のハーブにブレンドしております。お砂糖を入れなくて良いだけでなく、魔力も微力ながら回復するので男女問わず人気なんですよ」


「マリウスが言ってた魔力を回復する食べ物って…ミラナ?」

ダリキスのシャツ袖をちょんちょんと引っ張りながら小声で聞く。

「えぇ。若い実の方が魔力含有量が多いのですがその分酸っぱいのです。おそらくこのお茶に使われているのは熟した実ですね。マリウスの作った回復薬は酸っぱすぎるのが難点です。あまりに酸っぱいので改良をと指示してありますが…マヤ様にもそろそろ飲んで頂かないといけないですね…」

ダリキスの声は尻窄みになっていく。

「あ、やっぱり飲まなきゃいけないのか」

魔術師の証であるブレスレットを見ながら呟く。新品の銀細工だったそれは今では少しくすみ輝きが薄れていた。


「内緒話もいいですが、そろそろわたくしと商談していただけますか?」

マリーの声にハッとしてダリキスと距離を取った。

「マヤ様、まずわたくし達の祭りの認識とマヤ様の世界の祭りの認識の違いから確認いたしましょう。わたくし達が思う祭りというのは初代聖女様に感謝を捧げる休日のことになります。皆仕事を休み、家族と家でランマルという昔ながらのお菓子を食べて、ゆったり過ごす日のことです。わたくし達はこの日のことを聖夜祭と呼んでおります。わたくしの認識では、この祭りが商売につながることはないと思うのですが…マヤ様の思う祭りとはどのようなものでしょうか?」

「明らかに聖夜祭はクリスマスから来てるね。私の世界にも聖夜祭はあったよ。ちょっと認識が違うけど。私の認識では聖夜祭は恋人の日って感じかなー。聖なる夜に結ばれた男女は永遠の愛を得るみたいな」

本当は宗教的な日だけどもそれは伏せ、日本での一般的な認識を教える。


「ロマンチックですわ〜!それはお金の匂いがいたします!」

マリーにとっては恋人よりお金らしい。

「えーっと…今回開きたいのは聖夜祭ではないの」

「残念です。いろんなアイディアが浮かんだのに」

マリーは本当に残念そうに頬に手を当て、考え込んでいる。


「そのアイディアについては後日聞くとして!今回やるのは商業祭よ!ついでに恋人の日にしてしまいましょう!」

「しょうぎょうさいと恋人の日ですか?」

「えぇ。ウェールズでは毎日露店が出てるのでしょう?その露店の中で一番を決めるのが、商業祭。部門別にアクセサリー、料理、伝統キルトの3部門に分けて、お客様にそれぞれ投票してもらうの。一位には賞金なんかがあるといいわね。二位、三位の他に辺境伯特別賞ってのもいいかも」

「マヤ様も出店なさるということですか?」

マリーが不思議そうに聞いてくる。


「違うわ。賞レースに参加するお店には出店料をもらうのよ。その代わりに家の前ではなく、広い場所に出店できるようにするの。どこかいい場所はあるかしら?」

「でしたら、図書館予定地を開放しましょう。ちょうど街の真ん中ですし、古い建物の取り壊しが終わったところですから」

黙って聞いていたダリキスの提案は魅力的だ。

「他にも公園とかがあったら使いたいんだけど」

「辺境伯所有の庭園なんていかがですか?普段から一般解放してる場所なので民にも馴染み深いかと」

「いいわね!火を使わないものは庭園に、火を使うものは図書館予定地に集めましょう」

「あのー、出店料…だけでは大した儲けにならないのではなくて?」

考え込んでいたマリーが口を開いた。

「ふふふ、だから!恋人の日よ!」


その後のわたしの提案にマリーもダリキスも目を輝かせたのだった。

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