〜死にかけの魔法師団長と魔力〜
とりあえず落ち着く場所で改めて説明すると言われ案内されたのは、ステンドグラスが頭上に輝くサンルームだった。
メイドのお着せをきた年配の女性が手際よく紅茶を淹れてくれる。
「ミルクはお入れになりますか?お疲れでしょうからよろしければハチミツもいかがですか?」
おっとりと優しい口調でミルクとハチミツまで勧めてくれるなんて、いい人に違いない!
「ゆーちゃん、ミルクとハチミツ入れていいか?って」
「うん。大丈夫」
妹は言葉が通じないこともあり、ひどく緊張している。それにね、永遠の誓いの前に連れ去られちゃね。
「すみません…えっと…メイドさん?ミルクとハチミツお願いします」
「かしこまりました。わたくし侍女のサリーと申します」
「あ、サリーさん失礼しました。よろしくお願いします」
「サリーで結構ですよ。聖女様」
「わたしは聖女じゃないのです。聖女の姉です」
「なぜそう思われるのですか?」
凛とした声がサンルームに響いた。
「あ、死にかけの…」
「ゔ…私は魔術師団長を務めています。マリウス・ナルミードと申します。死にかけではありません。魔力は確かに消費しておりますが…」
「回復薬ってないのですか?」
「話の途中ですよ。かい、ふく、やくとはどのようなものですか?」
「魔力を回復させる薬のことです」
マリウスが気怠げな茶色の目を見開きその瞳はこぼれ落ちそうになっている。
「聖女様の世界にはそのような薬があるのですか?!レシピは?!どのように?!!!」
「…いえ、期待されて悪いですけど空想の世界の産物です」
「空想でもあるのですね!ならばきっとこちらの世界でも作れるはず…魔力を回復させる方法はないとされてきたのですが、ここ数年ある食物によって微量ながら回復することがわかってきたのです。その食物を凝縮させれば…あるいは…」
「マリウス、先に聖女様方にきちんとした説明をしろ」
ずっと後ろで控えていたアイスブルーの髪を持つ男がようやく口を開いたようだ。
…なんだ喋れるのか…人形かと思うくらい喋らないし、整った顔で怖かったのよね。
「ダリキス・ウェールズ…えーと。説明でしたね、まずはなぜこの国が聖女を必要としているかそして聖女がなぜこの国の言葉を理解できないのかを説明いたします。この国には王都を中心に大まかに分けて4つの地域がございます。東のウェールズ、西のナルミード、南のサリナン、北のマーナード、そして今我々がおります王都ヨーデル。この5つを合わせてヨーデル王国と我々は読んでおります。そしてこの国を囲うように魔の森が存在し、その奥にシムタリア大陸と呼ばれる大小さまざまな国からなる大陸がございます。ここまでで質問は?」
祐華に通訳しながら今までのマリウスの話を整理する。
「要するに陸の孤島ってこと?」祐華が聞くのでマリウスに尋ねた。
「ここヨーデル王国は陸の孤島ってことであってる?なぜ魔の森の真ん中に国があるの?」
「初代国王様と聖女様がそれだけの力をお持ちだったからです。異世界からやってきたと言われる初代国王様と聖女様はその見慣れぬ容姿から迫害を受け、魔の森に逃げ込んだと言われています。そして魔物からこの国を守る結界を築き、同じような境遇の難民たちを受け入れ、成長してきたのがこの国ヨーデル王国となります。そしてその結界を維持するため150年に一度異世界から聖女様をお招きしていたのですが…魔力が結界に取られるせいでこちらの言葉を理解していただくのが難しく意思疎通が取れず、申し訳ないと思いつつ魔力だけいただき元の世界へと戻していたのです」
「え…ってことは150年に一回だれかが命懸けで戻してたってこと?」
「ええ、ですがそれが魔術師団長の務めであります。…聖女様は魔力を失ってしまいますので、さぞ元の世界で苦労されたのではないかと」
「いや、私たちの世界に魔力はないから全然苦労してないと思う。むしろあなた方の死に損ね、それ」
「死に損…」
銀と茶のイケメン2人が声を合わせて呟いた。