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〜商業の街ウェールズ〜

馬車の車窓から豊かな緑が流れる。木々は青々と繁り、小さな白い花を咲かせている。

「あのドレスの花だわ」

「あぁ、ぶどうの花ですよ」

ダリキスがふんわり笑いながら教えてくれる。

「ぶどうの花だったのね」

「ええ。あのドレスは母がウェールズの地に来た時、ぶどうの花が気に入ってどうしてもと作らせたものだと聞いております。花言葉は忘却。ドレスを見た父はそれはそれは慌てたらしいですよ」

「忘却…」

「それを見た母が、わたくしが忘れても貴方が思い出してくださるでしょうと言って、父がその場でプロポーズしたんだとか」

「ふふふ。素敵な話」

あの水色のドレスにそんな素敵な逸話があったとは。


「ねぇダリキス、そういえば今日は街に何しに行くの?」

「ドレスを作りに行くんですよ」

当たり前かのように駄犬が言う。あぁ尻尾の幻覚が見える。

「ドレスはもういらないのだけど」

「マヤ様が黒のドレスがお気に召さなかったと伺いましたので。水色のドレスを何着か作りましょう」

人の話を無視して駄犬は話を進める。

「…なぜ水色指定」

私の疑問に答えてくれる人はいなかった。


ガタゴトと揺れながら馬車はゆっくりとぶどう畑を抜けていく。しばらくすると車窓から小さな街並みが見えてきた。

「あれがウェールズの街ね!あのカラフルなものはなに?」

「住民たちが露店を開いてるんですよ。あれは日差し避けです」

「露店!露店があるのね!」

「ウェールズは商業の街ですからね」

どこか誇らしげに微笑むダリキスは相変わらず美しい。

「楽しみだわ!」


ウェールズの街は活気にあふれていた。

白い建物に水色の屋根が並ぶ可愛らしい街並みにはレンガ道が続き、家々にはカラフルな日差し避けがかかっている。

それぞれの家で作ったものを露店で売っているようだ。

ビーズのアクセサリーにドライフラワーのブーケ、クッキーに煮込み料理まで多種多様である。

中で目を引くのはウェールズ伝統のキルトで作られた小物だ。各家でそれぞれ微妙に模様が違うらしく、色とりどりであり、温かみがある。


「すごい!いろんなものが売ってる!」

「少し冷やかして行きましょう」

逸れないようにと手を繋がれ、ドギマギしながらレンガ道をゆっくりと進んでいく。

「あら、このキルト…他のものと少し違うのね」

三角や四角を組み合わせたものが多い中、その店のキルトは毛色が違った。

六角形の布を組み合わせお花の柄になっている。売っている店主は栗毛を三つ編みにした10代であろう少女だ。


「これは貴方の作品?」

ダリキスが尋ねると下を向いて作業をしていた少女が顔を上げ、目を見開いた。

「お、お貴族様に見ていただけるようなものではご、ございません」

「そんなに硬くならなくていい。この街の者は僕のことを見ても背景の一部のように捉えるからな」

「そーよ、坊ちゃんはいい顔してるけどね、この辺じゃ有名な悪ガキでね…」

隣でビーズアクセサリーを売っているおばちゃんが声を上げる。

「や、やめてくれ。頼むから」

ダリキスが頬を赤らめると、周囲は笑い声に包まれた。

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