〜辺りでの飲み会、そしてウェールズの街へ〜
ウェーズ湖にダリキスの開発した光の玉が浮かび、辺りは神秘的に輝き始める。
「綺麗…」感嘆していると
「少し冷えますから」とダリキスが膝掛けを掛けてくれた。
「マヤ様、ダリキス様、このようなものはいかがですか?」
ジュリエッタがいそいそと出してきたのはワインのようだ。
「私の実家で作っているワインなんです。高級なものではありませんが、ウェールズの庶民の間ではよく飲まれているんですよ」
「ジュエリか。いいチョイスだ。渋みが少なくフルーティーで飲みやすい」
「ジュエリ…」
「深くは突っ込まないでください、マヤ様。少々親バカなもので…」
ジュリエッタが耳を赤くしながら "ジュエリ" を注いでくれる。
藍色のマグカップに注がれた赤ワインにそっと口をつけた。
「美味しい!飲みやすい!」
「お口に合ったようでようございました」
いつの間に持ってきたのだろう。ジュリエッタの手には、追加のおつまみが入ったバケットがある。
「こちらのチーズとよく合うのです」
手渡されたチーズは柔らかくほんのり甘い。
「これはお酒が進むね!」
「マヤ様、こちらのスモークチーズとも合いますよ」
ダリキスが負けじと勧めてくる。
その日、私とダリキスは足元がおぼつかなくなるほど飲み明かした。
翌朝、目覚めると1人だった。
「そうだよね。これが正常なのよね」
「なにが正常なのですか?」
ソファーの方から駄犬の声が聞こえた気がする。
「やだー。幻聴まで聞こえるようになっちゃった」
「…マヤ様?」
「なんでいるのよー!!!!!」
私の心からの叫びは屋敷中に響いたらしい。
ジュリエッタに引っ叩かれた頬を赤くしながらダリキスはご機嫌で私の前に座っている。
私はウェールズの伝統的な模様のクッションをぐにぐにしながら、ため息をついた。
「マヤ様、本日は街に参りましょう」
「街?街に行ってもいいの?」
「もちろんです。魔石に魔力を注いだら行きましょう」
「やったー!」
ダリキスのご機嫌取りに、まんまと引っかかり、年甲斐もなく飛び跳ねた。
街までは馬車で行くとのことで私は朝食抜きだ。普通に行けば15分で着くらしい。
たった15分、お尻が痛いのと揺れを我慢すればいいのなら頑張れそう。
「よしっ!」
気合いを入れていると玄関に王城から乗って来た馬車より一回り小さな馬車が止まった。
「マヤ様、お手を」
ダリキスの手のひらに手を乗せる。
エスコートに慣れてしまった自分が怖い。
そうして乗り込んだ馬車には大量のクッションが敷かれていた。
「少しでも楽になるように用意しました。今、馬車の揺れを軽減するバネのようなものを開発中です。今回はこちらで我慢してください」
「スプリング…」
「スプリング?ですか?」
「バネの名前よ」
「いい名です。そちらで特許申請をしておきます」
こうして私のお尻は守られ、少々の吐き気とダリキスの過保護を感じながらウェールズの街へと私たちは向かったのだった。




