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〜ピンクブロンドの団長と氷の獅子〜

お客様がいらっしゃいますのでと着せられたのは薄い水色の可愛らしいオフショルダーのドレスだった。胸元には見たことのない小さな花が刺繍されている。黒一色だったクローゼットにいつの間にか増えていたドレスだ。


「ジュリエッタ…あのクローゼットにはドレスが増える魔術でもかかってるの?」

「そのような魔術はございませんよ。黒のドレスはダリキス様がご用意されたもの、こちらのドレスはアリス様が若い頃に着られていたドレスをお直ししたものです」

「水色の方が好きだわ。ダリキスに伝えておいて。これ以上のドレスは不要だって」

「かしこまりました」

ジュリエッタはなぜか勝ち誇ったような顔をする。

クローゼットにあるドレスで充分って意味だったのだけど、なにか勘違いさせたような…まぁいいや。


支度を終えてエントランスに向かうと、アリス様とジェラード様がすでにいらっしゃった。

その視線の先には、ピンクブロンドの髪に茶髪の瞳を持つムキムキマッチョな大男がいる。

大男は駄犬の頭を撫で回していた。


「ダリキス坊ちゃん、大きくなったなー!僕はウェールズなんて継がない!って出てったときはまだ俺の半分しかなかったもんな。王都の騎士学校主席だったんだろ?うんでもって近衛とは大出世じゃねぇか!いつまでこっちにいるんだ?あと、坊ちゃんの開発したガラクタが王家から送られてくるってのは本当か?なんでも離れていても会話ができるって噂だが…」

「…僕は帰らない!あとガラクタじゃなくてスマホ!発案したのは、聖女様のお姉様で聖魔術師のマヤ様だ!ガラクタと言ったな?取り消せ!」

威勢はいいが身長差も相まって、子供が駄々を捏ねているようにしか見えない。


「ほぅ…この地を継ぐってのか?その細腕で?ガハハ!無理だ!坊ちゃん大人しく王城に帰るんだ。魔物との戦闘は近衛のお飾りじゃできねぇよ」

「やってみなきゃわからないだろ!」

「ガハハ!そこまで言うなら闘技場に来な!どれだけ無謀なことなのか教えてやる」

ピンクブロンドの大男は髪を掻き上げながら、ダリキスを挑発していた。


「…ジュリエッタ、そういえば私ダリキスの作ったスマホの性能確認してないわ」

「マヤ様、心配ご無用です。ダリキス様はそれはそれは腕のいい魔道具師ですので。ウェーズ湖に浮かぶ光の玉も、坊ちゃんの作品にございます」

「そうよーマヤちゃん。あの光の玉はダリキスがお化けが出そうで怖いからって理由で作ったのよー。スマホも私は使わせていただいてるけどとても便利だわ。王太子殿下なんて毎日 "王国ッター" を更新されていて、精力的に政策の草案を出してらっしゃるわ」

「アリス様、王国ッターって…」

「国の内政を宣伝するために陛下が発案されたのよー。あくまで独り言って体だから、チャレンジャーな草案もあったりして面白いわー」

わたしは頭を抱えたくなったが、かろうじて我慢した。ツツッターがもっと気軽な日記のようなものだったとは言えない。言ってはならない。


アリス様に「面白いものが見られるわよ」と連れてこられた闘技場には青の騎士服に身を包んだマッチョが大量にいた。

右を見ると二の腕をアピールするマッチョ。

左を見ると胸筋をアピールするマッチョ。

ジュリエッタの顔が赤く興奮しているように見えるけど触れないでおこう。


そんなマッチョ達の中心には先程のピンクブロンドの大男とダリキスが立っていた。

マッチョに囲まれるとダリキスがひ弱に見える。ダリキスは細マッチョだからな。でもうちの駄犬はやるんですのよ?

私がふっと口元を緩めたとき、ジェラード様の合図で戦いの火蓋が切られた。


カキン。模造刀のぶつかる音がする。

大男は力任せにでもしなやかにダリキスに向けて刃を放つ。

ダリキスはそれを受け流し、身軽に大男の横を横切り背後から切りかかる。

大男はそれを最も簡単に受け止めて身を翻し、ダリキスへ強烈な一本を放つ。

受け止めたダリキスの足元からは砂埃が舞い、静けさに包まれていた競技場がザワッとした。


「団長の一閃を受け止めた」

「地面に穴が空いたって噂のアレを」

「しかも刃は折れてないだと?模造刀だぞ…」

ふふふ。うちの駄犬はやる時はやるんです。


------

王城からウェールズへの馬車での移動中、吐き気に催された私を抱えて木陰に逃げ込んだダリキスと出会ったのは、盗賊。

明らかに不潔で下品な男たちはダリキスを見るなり舌なめずりをした。


「こりゃ上玉だぜ。男だけど高値で売れそうだ」

「親方、俺味見していいっすか?」


吐き気も引っ込むほどの衝撃だった。

駄犬のお尻が危ない!そう思ったときには賊は全員気絶し、味見発言をした賊に関しては、ズボンが切られパンツ丸出しにされていた。


「マヤ様、見てはいけません。汚れます」

「いや、あんたがやったんでしょ」

「さぁ吐き気が治ったなら馬車に戻りますよ」

-----


あの時は片手に私を抱えていたけど、今回は両手が使える。王城のメイド達がこぞってダリキスのことをこう呼んでいた。


"氷の獅子"


「いけー!ダリキス!男はムキムキマッチョより細マッチョの方がモテるんだって思い知らせてやれ!」

私が叫ぶと、氷の獅子はフッと笑った。


受け止めた刃をダリキスが跳ね返し、そのまま真正面から突っ込む。

キンキンキン!金属のぶつかる音がして

「早いっ」

という大男の呟きのあと勝敗は決まった。

大男の喉元にダリキスの模造刀が光り、大男は模造刀を放し両手を上げる。

ジェラード様がダリキスの勝利宣言をした。


「坊ちゃん、強くなりましたね」

ニヤリと笑った大男がこちらを見たような気がしたが気のせいかもしれない。

「いい人ができたんですね」

大男の小さな囁きはダリキスの耳にしか入らなかった。

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