〜騎士団襲来〜
翌朝、目覚めた私の目の前には天使の寝顔が広がっていた。
…こいつひとりじゃ寝れないのか?うわ。まつ毛長い。
ダリキスを起こさないようにそっと身をよじり、布団から脱出する。
窓から覗く朝日を見ながら、うーんと伸びをした。
「いい天気!いよいよ異世界スローライフの始まりね!」
その呟きはドドドドドドド!というものすごい地響きにかき消された。
「な、な、なに?ちょっと、駄犬!起きて!なんか!すごい!音が!!!!」
「ま、マヤ様、揺らしすぎです!首が!もげる!」
「だ、だっダリキス!どうしよう!私、結界失敗しちゃったみたい!魔物が!魔物が来たんだわ!」
ドスン。
視界がくるりと反転して、気がつけばダリキスの両手が顔の横にある。
目の前には、それはそれはいいお顔をしたダリキス。
そのままゆっくり顔が近づいてきて…
「落ち着きがない子にはお仕置きが必要ですね」
耳にいっぱいに色っぽい中低音が響いた。
やばい。心臓が止まりそう。
「えっと…ダリキスさん…その」
「マヤ様があまりにも揺らすからいけないんですよ?ひっくり返っちゃったじゃないですか?」
「ひゃい!」
「いい声ですね。さすが昨日ウェールズにヴェールをかけてくださった方だ。僕との結婚のためにこの地にヴェールをかけてくださるなんて…なんて可愛い方なんだ」
耳が!耳が!これが俗に言う耳責めか!
…うん?結婚?
ドスっ!
「勝手に変な妄想してるんじゃないわよ!この駄犬が」
一部始終を息を殺して見ていたジュリエッタによるとそれは見事な腹パンだったらしい。
「どうやって止めようかと思案してたところでしたのでようございました」
ダリキスを雑に部屋の外に放りながら、辛辣メイドは妖艶に微笑んだ。
「マヤ様、先程の音は魔物ではありませんのでご安心ください。ウェールズ辺境伯騎士団、通称 "氷の守護者" が訪問した音です」
「…騎士団?」
「ええ、そうです。魔物ではなく軍馬がこちらに向かってくる音ですよ」
「あー結界の確認に行くから?」
「それもありますが目的はスマホかと」
「すまほ…スマホ!スマホ!そうだった!スマホができたって陛下が言ってたわ!」
「そうです。まずは結界の確認の任務に役立てよと陛下が各辺境伯へ、スマホを送ってくださったのです。それはまだ届いてないのですが、坊ちゃん…ダリキス様がお作りになったという噂が広まってしまいまして、おそらく居ても立っても居られなくなったのでしょう」
陛下って意外と賢王なのかもしれない。マリウスが死を覚悟した時も泣きそうになってたし…血の通った王様でよかった。
「騎士団にあわてんぼうがいるのね」
「ふふふ。そうですね。あわてんぼうの騎士団長がおります」
そう言う辛辣メイドの顔は少し赤くなっていた。




