〜聖女意思疎通大作戦⑩〜
パーティー会場は夜会にふさわしい賑わいで人々はシャンパンらしきものを持ち談笑している。
ふわふわと浮く光の玉が庭の薔薇を照らしていてなんともロマンチックだ。
何組かカップルであろう男女が手を繋ぎ、初々しい様子を見せている。
そんな中、会場でドレスと言う名の戦闘服を纏った乙女たちの視線はこちらへと注がれていた。
「ダリキスめちゃくちゃ見られてる気がする」
「マヤ様はお美しいですからね」
…いや、美しいのはあんただろ。
「ウェールズ辺境伯のご子息ですな。この度はおめでとうございます」
「ウェールズ様…おめでとうございます」
恰幅のいい中年男性と猫目の令嬢が話しかけてきたが、ダリキスは
「ありがとうございます。良い夜を」
とだけ交わして私を連れてさっさと移動してしまう。
「ダリキス…今日ってなんかおめでたいことあったっけ?」
「…マヤ様はお気になさらず」
そう言って手渡されたのはシャンパンのようだ。人が多くて蒸し暑いと思ってたから冷たい飲み物は嬉しい。
「少しだけ外します。絶対にここから動かないでください」
「はーい」
ようやく外された手を振りダリキスを見送った。
「あれが人柱かしら?ダリキス様の色を纏っちゃって…人柱ごときがいい気になって」
「なんでもダリキス様は未婚の男女が同じ家に住むのは外聞が悪いってだけで婚約させられたらしいですわよ」
「人柱に同情したのよ…きっと」
「愛もなければ政略的価値もない女との婚約なんておいたわしや。ダリキス様」
先程の猫目の令嬢がこちらをチラチラ見ながら"ひとりで"喋っている。
…友達いないんだな。きっと。可哀想に。
ダリキスと私が婚約したなんて妄想までしてしまってるなんて本当に可哀想だ。
「一人芝居令嬢マリーだわ」
「あぁあれが噂の」
「あ!こっち見ましたわよ。移動しましょう」
「ええ、そうしましょう。変な噂を撒き散らされては大変ですわ」
周りがザワザワと移動していき、気がつけばマリーと呼ばれた令嬢と私の2人きりになっていた。
うーん。こう言う時ってテンプレで悪役令嬢が出てくるはずだよね…悪役令嬢ってより残念令嬢って感じ。
まだ一人芝居をしているマリーを横目にそんなことを考えていたら
「ねぇ!ちょっと聞いてるの!」
と本人が話しかけてきた。
「えーっと…初めまして。聖魔術師のマヤと申します。ご令嬢」
「…初めまして。カナエリ子爵が娘マリーと申します」
綺麗なカーテシーでお辞儀をされて、あ、挨拶はちゃんとできるんだと思ったのは内緒だ。
「えっと…素敵な一人芝居でした」
そういうとマリー様は真っ赤な顔をして
「ありがとうございます」と照れた。
そう照れたのだ。やはり残念令嬢だったか。
「人払いしたいときによくやるのです。やりすぎて少々変な噂が立ってしまいましたが、わたくし結婚したくないのでちょうどいいんです」
あれ?もしかして残念じゃない?
「どうして人払いを?」
「マヤ様に商談がありまして」
そうやってにっこり笑ったマリー様は、それはそれはできる女の顔をしていた。
「マヤ様は異世界からお越しだとお聞きしました。もし不思議な魔道具を作られた際はぜひ、わたくしの運営します商会マリーゴールドにおろしてくださいませ。国どころか世界中に広めますわ」
…とんだハイスペ令嬢じゃないか。マリーゴールドって明らかに花の名前じゃないよな。
マリーの金って意味だよな。
「…なにかあったらよろしくお願いします」
私は遠い目をしながら90度のお辞儀をした。
「マリーまたあれをやったのか…」
片手で頭を抱えながらダリキスが綺麗に料理が並べられたお皿を持って帰ってきた。
「ふふふ、貸し一つでしてよ。わたくし馬に蹴られる趣味はございませんのでこの辺で失礼します。どうぞお二人の時間をお楽しみくださいませ」
颯爽と去っていったマリー様に私は尊敬の念すら抱いたのだった。




