〜花嫁は聖女様〜
リーンゴーン、リーンゴーン
教会の鐘がなる音がする。
隣には父親の代わりにとエスコートを立候補した姉がニコニコと笑っていた。
「ゆーちゃんおめでとう!緊張してる?大丈夫だからね!お姉ちゃん一緒だから!幸せにね…」
姉は自分の緊張を誤魔化してるんだと思う。
私も口から心臓が飛び出そうだ。顔がポカポカと火照る。
「お時間です」
式場のスタッフが開けてくれた扉が開くと眩い光に包まれて…
「眩しいっ」姉の呟きが聞こえた。
「え…どこここ?」「ゆーちゃん?」
姉が呼んでいるのが聞こえるが私はパニックで返事ができない。
おかしい。そこは教会では明らかになくて、バージンロードのような赤い絨毯の先にはキラキラと輝く玉座があって…そこに40代くらいのイケおじが座っていた。
「○*×☆*○×」
なにかを言っているけれど
なにを言っているのか理解ができない。
え、私幸せの絶頂にいたよね?なんでこのタイミングのなの?
もうすぐ結婚して幸せな家庭を築く予定だった悠介さんはここにはいない。
代わりに藍色のローブを着た茶髪に茶色の目をした男性とアイスブルーの銀髪に黒い瞳の男性、玉座の隣にはイケおじと同じく眩しいくらいの金髪碧眼のいかにも王子様とお姫様という人が3人ならんで座っている。
「…○×○*×○☆」
さっきからずっとなにかを話している王様らしき人はなんだか諦めたような顔をして、それでも話を続けていた。
「どうしよう…お姉ちゃん…」
「任せて、ゆーちゃん」
「○○☆×○×☆」
姉から聞いたことのない言語が発せられた。
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妹に悠介さんを紹介されたのは約1年前の春だった。両親を早くに亡くして、親代わりだったばあちゃんの一回忌のすぐあとだ。
「気を使わんとよかったのよ…」そんなばあちゃんの声が聞こえてきそうなタイミングで
妹の祐華は結婚したい人がいると悠介さんを連れてきた。
お互いに「ゆーちゃん」「ゆうさん」と呼び合う2人は仲睦まじくて、これなら安心だと心の底から思った。
それから1年は式場選びからドレス選び、前撮りまで付き合わされて…うん、独身貴族まっしぐらな私には少々辛いこともあったけど、妹が輝く笑顔でいてくれたので幸せだった。
…なのにだ。なのに。なのに!なぜ!今このタイミングで異世界なんかに召喚したの!!!
この王様アホなの?!
「…というわけで我が国は聖女様の魔力によって守られています。そのため聖女様にはこの国に滞在していただき…その、あの、快適に過ごして…いただければ…」
「ふざけるな!今日は結婚式当日、それも始まる寸前だったんだ。それを聖女だかなんだか知らんが、連れ去っておいて快適に過ごせるやつがいるかよ!」
私が言葉を発した瞬間、その場にいた皆がびっくりしたような顔をしてこちらを見た。
「聖女様、もしやお言葉がお分かりになるのですか?」
そう発したのは茶髪の男。
「えっ…ちょっと待って…」
「ゆうちゃん…もしかして日本語じゃない言葉喋ってる?この人たち…」
「お姉ちゃんもね」
「え…てことはあの偉そうな王様が何喋ってたのかわからないってこと?ゆうちゃん」
「うん、全くわからない」
「…コホン。お待たせしました。わたしはここにいる聖女の姉であり、保護者である北川真耶。で!この子が聖女である北川祐華です。先程もお話しした通り妹は結婚式の真っ只中だったんです。できることなら元の世界に妹だけでも返したいのですが…」
その言葉に王様はひどく悲しげな顔をした。
「我らは今まで結婚寸前の娘を攫っていたことになるな…マリウス」
マリウスと呼ばれた茶髪のローブの男が返事をする。
「今までの謎が解けました…それは泣きわめき…暴れもします」
…今までの聖女さま?ちょっと情緒が…わからなくもないけど。
「マリウス、そちには悪いが命をとして聖女様をお返ししてはくれないか?」
「王命とあらば」
…うん?命をとして…命…え、え、え!
「ちょ、ちょっと待って、待ってください。あなた妹を返すと死んじゃうの?」
「ええ。魔力が尽きますので死にます」
「ダメダメダメ!ダメ!死なれたら一生後悔するから!違う方法が見つかるまで…滞在します!!!」




