二つの幸せ 【月夜譚No.237】
手土産にと貰った箱の中身は、バウムクーヘンだった。
生地をつけては焼き、つけては焼きを丁寧に繰り返した層が木の年輪に見えることからこの名がついたと言われているが、これはそれに準じているらしい。受け取った時に目についた、樹の幹の皮をあしらったような外箱のデザインが腑に落ちた気分だ。
彼はバウムクーヘンを取り出し、切り分けて皿に載せる。沸かした湯で紅茶を淹れ、部屋の奥に声をかけると二人の子どもがリビングに駆け込んでくる。何事かと一緒に来た飼い猫が微笑ましい。
子ども達には昨日買ったオレンジジュースを添えて、猫にはおやつの缶詰を与え、自分も席に着く。
幼稚園であったことを聴く傍ら、彼は甘味と紅茶を楽しむ。ほど良い甘みに僅かに苦い茶の香り。穏やかな午後は、彼にとって幸せな一時だ。
少し休んだら、夕食の準備をしよう。仕事から帰ってくる妻の為に美味しいものを作って、デザートにはこのバウムクーヘンを出そう。その時に感じるのは、また違った幸せに違いない。