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魔女と巫女と

図書室へヴィトと一緒に向かう。カウンターの司書がカンナへと、アルカンが半泣きで逃げ出していたということを教えてくれた。

彼には悪いことをした。だがしかし、そもそも司書がカンナに押し付けなければカンナだってアルカンに押し付けなかったのだ。発端は司書なのだから彼女も反省してくれ。


「……あまり長居はしないでくださいね」


無駄な騒ぎにならないよう迷彩魔法で隠れているヴィトの姿を見通して一言だけ注意を。知識の前にはどんな者でも平等であれというのが姉分であるリグラヴェーダの教えだがそれを破りたい気分だ。正直言ってあまり好きではない相手に自分の城に立ち入られると気分が良くない。


「ゴメンネ、ちょっと借りるヨ」


思いっきり不満を顔に出している司書に形だけ謝って、それから待ち合わせの場所へ。書架の奥、誰も立ち入らないような埃だらけの資料室が目的地だ。汚損して修復途中の本や、文化財に匹敵する書物が納められているそこは司書以外立ち入り禁止となっている。"灰色の魔女"の立場にものを言わせて今だけ貸してもらう。


こんこん、とノックしてから資料室のドアを開ける。先に着いていたフュリがぱっと立ち上がって2人を出迎えた。


「あれ、さっきの子?」

「どうも」

「よぉ」


さっきぶり。あの時は自己紹介もろくにしていなかった。改めてお互いに自己紹介を交わす。


「喋る武具なんて珍しいな、どこのものだろ、ゴーグ、いやキロ……?」

「そんなハンパな工房じゃねぇよ」


ベルダーコーデックスを見てあれこれ考察を始めようとするフュリを一刀両断する。こうして目の前の興味あるものに深く入り込んでしまう性格だからあのようにいきなり見ず知らずの他人に突っ込んでいくのだろうな、と思いながら。


「オレがどこ産だろうがどうでもいいだろ、おい本題」

「ハァイ、んじゃ本題ネ」


これ以上は別の追究が始まってしまう。さっそく本題と行こう。と言っても今日はお互いの顔合わせと前提と目的の共有だけだが。あれこれ話したり案を出したり実行するのはまた今度。


繰り返しになるが。ヴィトの目的は死ぬことだ。この長い生に終焉を。

しかし死ねない。その原因は"大崩壊"の瞬間に失われた生命の恨みによるもの。"灰色の魔女"によって理不尽に奪われた命の総意が死んで楽になることを許さない。

その恨みが軛となってヴィトをこの世界にとどめている。囚人の足に鎖をつけて逃亡を阻止するように、ヴィトの魂に絡みついて離さない。

その呪いともいえる感情を取り除くためにベルダーコーデックスの現実改変能力を用いる。しかし今のままではカンナを挟む都合上非常に難しい。なので能力を分離させ、別の武具に作り直す。

ヴィトには武具作りの知識も技術もない。だが、同じように知識も技術もないのに武具を作り上げたラピスの巫女を知っている。それをなしたアブマイリの儀式を参考にして、その仕組みを解明したい。


フュリには巫女の末裔として、アブマイリについての情報を。カンナとベルダーコーデックスには改変能力の提供を頼みたい。


「ってワケ。ココまでダイジョーブ?」

「大丈夫。ね、ベルダー」

「おう」

「わたしも」


よし。じゃぁ今日のところはこのあたりで。あまり長居すると司書が不機嫌になる。資料室を貸し出すために貴重な古文書や修復途中の本はしまったのでこの部屋には今何もない。落ち着いて話をするためのテーブルと椅子があるだけだ。

つまりは何もない。何もないということは、貴重品などを汚損するおそれがないということ。それなら何をやってもいいだろう。そんな理論で司書が首をはねに来ないとは限らない。


「また物理的排除されるのはイヤだからネ、早めに撤退が吉だよネ」


待ち合わせのために待っていた時間のほうが長いような、そんな短い時間の顔合わせで申し訳ないが。

今度は慌ただしくないよう、別の場所を探しておこう。心当たりはひとつある。掃除すれば使えるだろう。


「じゃ、ボクは帰るネ~」


あとはご自由に。ひらりと手を降ったヴィトがまた迷彩魔法で姿を隠して資料室を出る。授業の時間が近いカンナもまたそれに続こうとする。


「フュリさんは?」

「呼び捨てでいいよ。わたしはもうちょっと調べ物する予定」


せっかく資料室を開放してくれたので。それに便乗して、未公開の古文書や文献を見せてくれないかと司書に頼んだのだ。その頼みは無事承諾され、話が済んだらラピス諸島に関連する古い文献を見せてあげると約束をしてもらった。その話が転がってあのような質問攻めと、辟易した司書がカンナに押し付けるに至ったのだが。


「じゃぁ司書さん呼んでおくね」

「ありがとうカンナ、お願い。あ!」

「なに?」

「ベルダーコーデックスの作者、あとで教えて!」

「教えねぇよ!!」


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