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命の総意が叫ぶ、この手で殺させろと

ヒサシブリ、と笑いかけてくるその笑顔は夏に見た時と変わらない。おいでと招かれるままにヴィトの隣に座り、お互いに軽い近況報告を交わした。


「ボクはナツメの弔いにネ。ソッチはなんか、一皮むけた?」

「まぁ、色々とね」

「そっか」


詳しくは聞かないほうがいいだろう。まだ疼く傷跡の話かもしれない。

あっちの話に触れてはいけないぶん、こっちの話をしよう。最強のルッカの弔いの後の話だ。


「はぁ…………ルッカがいなくてボクはサミシイよ……」


ナツメという最強のルッカが死んだ。その衝撃のニュースのせいで、他のルッカたちの気概はだいぶ折れてしまったらしい。魔女殺しを計画して実行に移そうとする人間がとんといなくなった。アスティルートは挨拶や相槌の代わりとばかりに首をはねてくるが、あの殺意はヴィトが求めるものとは違う種類の殺意だ。冷え切った怜悧な刃のような断頭では魔女殺しには至れない。


おかげですっかり退屈になってしまった。ナツメの喪失がこんな形で大きな穴を残すとは。


溜息を吐くヴィトの顔をカンナが複雑な顔で見ていた。

死にたいと願う切なる思いの重さを知らない。世界に死を望まれ、自身も死を望み、なのに死ねないその苦悶を知らない。

だから軽率なことは言えない。言えないが、だがしかし、友人が死を望んでいるという状況には複雑なものがある。ただでさえレコという友人を喪失したばかりだ。ハルヴァートという先輩も失い、ナツメも失った。ここでヴィトまで亡くすはめになったら。


「あはは、ダイジョーブ。ボクってそうカンタンに死ねないカラネ!」


複雑そうなカンナの心の中を察してか、ヴィトが大仰に明るく笑う。

そう。世界がどれだけ願おうとも自分がどれだけ望もうとも残念ながら死ねない。それはもう複雑でややこしい理由が絡まってこうなってしまっているのだから。自身の状態を整理してみて、そのややこしさに頭が痛くなるほど。


「そもそもボクが死ねない理由って知ってたっけ?」

「知らないけど……」


死ねない仕組みについてはいつだったかにナツメから教えてもらった。ヴィトの体は高密度の魔力で構築されていて、死に至る負傷をしたとしても空気中の微小な魔力を集積して再生する、と。

なぜ、そのようなことになったかという経緯についてはさっぱり。そこはナツメも知らなかったのだろう。


「ボクが死ねないのはネ、世界に恨まれてるからなんダヨ」

「世界に?」

「あぁ、今の世界じゃなくて、昔の」


"大崩壊"で失われた世界中の命に恨まれている。そう言えばいいだろうか。

お前を許さない、殺してやる、この手で殺さねば気が済まない。そういう感情が楔となってヴィトをこの世界にとどめている。

その恨みは深く濃く、この手で殺す前に死ぬのなら無理矢理生かしてでも、というほどだ。自分が殺さないと気が済まないので他者による殺害を拒否する。だから他者による殺害が起きた時、その殺害をなかったことにする。


「一発殴らないと気が済まない、俺が殴る前に殴られたならその怪我を治療してやる、万全のお前を殴らせろ、ってネ」


そういう感情が撚り合わさった結果だ。しかも殴りたいと名乗りをあげる連中は1人ではない。"大崩壊"のあの日に失われた命がすべて待機列に並んでいる。

だから死ねないのだ。この手で殺す前に死ぬなと怒る命ひとつひとつの待機列によって死が拒否される。


「怨念が憑いてるとかじゃナイのが厄介なんダヨネェ……」


この恨みの感情の待機列の話はヴィトの現状をわかりやすく説明した概念的なもの。実際に恨みの念が亡霊となってヴィトに取り憑いているわけではない。

だからこそ厄介だ。怨念や呪霊といったものなら祓えばいい。だがそうではないのでどうしていいかわからない。あの瞬間に燃え尽きた命が出した『赦すな』という総意をどうしたらいいのだろう。

どうしていいかわからないから対処がわからない。対処がわからないからどうにもできない。以下ループして手詰まりだ。


だからこのまま過ごすしかない。

待機列をすべて消化したらおそらく死ねるのだろうが、2000年経った今でも全く変わらないのだからまだまだ列は長いのだろう。


「でも、気付いたんだヨネ」


ここにちょうど事象を改変できる『真実の本』があるじゃないか。


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