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再会

結局、終業のチャイムが鳴るまでずっと語りは続いた。地理学の授業が終わり、カンナはその足で図書室に向かうことにした。せっかくなのでニウィス・ルイナに関わる本を求めて。


「あれ?」


図書室のカウンターで誰かが司書に話しかけている。その誰かというのは今朝、全校集会で紹介にあがった彼女じゃないか。

距離があって会話は聞こえないが、何やら司書に質問をしている最中のようだ。


特に気にも留めず、その横を通り過ぎようとした。その時。


「あぁ、カンナさん」

「はい?」


不意に司書に呼び止められた。何だろう。

はい、と立ち止まったカンナを司書が指し示す。そしてカウンターに身を乗り出す勢いで話しているフ彼女へ向けて言い放つ。


「そういう考察なら彼女のほうが適任だと思いますよ」

「へっ?」


何が、と聞く前に彼女がぱっとカウンターを離れてカンナの前へ歩き寄ってきた。

こんにちは、はじめまして、フュリです、と挨拶と軽い自己紹介をした彼女はさっそく話を切り出した。


「再信審判ってどう思う?」

「……はい?」


何が?


戸惑うカンナの様子を見て自分が話の段階を数段吹っ飛ばしたことに気がついたらしい。ごほんと咳払いしてフュリは最初から話し始めた。


曰く。彼女が高等魔法院でしている研究とはアブマイリの儀式についてなのだそう。アブマイリの儀式は神々への感謝と祈りを捧げるための信仰の儀式だ。と、いうことは同じく神々への信仰を示す儀式であった再信審判は広義のアブマイリに含まれるのではないか、ということだ。


と、いう論を確かめるためにこのヴァイス高等魔法院へ留学してきた。『最も神に近い』とされるヴァイス高等魔法院のあるここは再信審判の決闘の地だからだ。人々は神々への信仰を示すため、この地で決闘をした。

この地なら再信審判についての資料も豊富だろう。そういうわけで研究の一環でやってきたわけである。


さて、ヴァイス高等魔法院の生徒として今の論をどう思うか。それが冒頭の問いだ。


「え、えーと……」


いきなりそんなことを言われても。司書に助けを求めようにも彼女はもう業務に戻ってしまっている。

もしやこれは押し付けられたのでは。じとっと司書を睨むが、カンナさんは神秘学者志望ですから議論は得意ですよねという微笑みとともに聞き流されてしまった。押し付けたなテメェ、とベルダーコーデックスがカンナの代わりに恨み言をひとつ。


「うんまぁえーっと……」


どう、と言われても。そう思うならそうなんじゃないか、としか返せない。アブマイリの儀式なんて知らないのだし。だがそう言ってもフュリはきっと満足しないだろう。

どうしよう。困って視線をさまよわせると、ちょうど今図書室に入ろうとするアルカンと兄弟たちの姿が見えた。


「あ、アルカン先輩!」

「やぁ」

「よっ!」

「やっほー!」


というわけで。


「先輩に任せました! 後はよろしくお願いします!」

「えっ!?」

「えっ!?」

「えっ!?」


脱兎。アルカンにフュリを押し付けて走って図書室を出る。三十六計なんとやら。

頑張れよぉ、とベルダーコーデックスがアルカンを笑う。悪戯に成功して逃走する悪童のそれだ。


そのまま図書室の外の遊歩道へ。数人の生徒を追い越してからアルカンが追ってこないことを確かめて歩調を戻す。逃走成功。やりやがったな、とハイタッチでもしたそうな声でベルダーコーデックスが含み笑いをする。


「やりやがったなコイツ」

「後で謝っておくから……」


アルカンには悪いことをした。だが議論ならおそらくアルカンのほうが適任だ。話す技術も聞く技術も、初めて聞く概念でも自分なりに解釈して理論を頭で組み立てる術も自分よりはるかに優れているはずだ。


そういうことにしておく。図太いなぁとベルダーコーデックスが肩を竦めたそうな溜息を吐くのを聞きながら、遊歩道を逸れて森へ。それほど遊歩道から離れていない場所に小さな広場が拓かれている。いつだったかにハルヴァートから教えてもらった秘密の場所だ。ほどよく喧騒から離れて人気のないここは絶好の休憩所になっている。


しかし、今日はそこに先客がいた。

交雑しているカロントベリーとベロットベリー(嘘つき)の中から器用にカロントベリーだけを選んでつまんでいるその背中。


「ヴィト?」

「ワァ、ヒサシブリだネ」


どうも、と聞き慣れた片言で彼女はカンナを振り返った。


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