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時を刻む

2階。光景はさっきとまったく変わらない。これが頂上まで続くのだろう。

シレンティウムのおかげで何もトラブルなく平穏な時間だ。いっそ退屈まである。だからといってダレカに襲われるなんて展開は勘弁してもらいたいが。


「そうだ、ホロロギウム暦って知ってる?」

「神暦?」


ホロロギウム暦。あるいは神暦。

日が登って降りて次に登るまでを1日、それを7回繰り返して1周期。1周期を4回繰り返した28日を1ヶ月。1ヶ月を100回繰り返して1年とする。その特殊な周期は人間の時間感覚とは大きく異なっており、それゆえに神が使う暦だと言われている。

365日を1年とする人間と違ってホロロギウム暦の1年は2800日もある。人間の時間感覚からすれば7年少々が1年だ。


「誰だよ100ヶ月なんて言ったやつは」

「ほんとだよ」


それさえなければ1ヶ月28日でまぁだいたい人間の時間感覚と同じなのに。100ヶ月にするからわけがわからなくなる。文献を読み調べる時、ホロロギウム暦が出てくるたびにいちいち計算しなければならない。面倒くさい。

その面倒さを思い出してカンナが苦い顔をする。


「アレ、原初の時代にはナイんだヨ」


ヴィトが『生きていた』その時代、原初の時代はそんなものなかった。"大崩壊"が起きて不信の時代が始まっても。

その不思議な暦を知ったのはヴィトが封印から目を覚ましてからだ。眠っているその間は再信の時代。つまりホロロギウム暦は再信の時代に生まれた暦だ。


「うん。知ってる。だから神々によってもたらされたって」


再信の時代、再信審判と呼ばれるそれはホロロギウム暦を基準に行われていた。ホロロギウム暦で10年に一度、およそ76年に一度だ。

それを決めたのは誰だということはわからない。当時の記録を探ってみても、ホロロギウム暦という単語はいきなり現れるのだ。誰が定めたというのはまったくわからない。

だからそれは再信審判のルール同様、神々によってもたらされたものである。それが神秘学者の見解だ。


「そう。ボクもネ、ホントかなって思ってナツメに聞いたんだ」


ナツメの姓はホロロギウムだ。だから、もしかしたら彼の先祖が暦を定めたのではないか、と。

しかしそれは否だった。よく聞かれるけど俺も知らん、と快活な声が申し訳無さそうに。


「でも、その時言ってたコトが印象に残ってるんだ」

「何て言ってたの?」

「俺は100年修行したが、その100年が神暦であれば君を殺せただろうか、ってサ」


100年とは36500日。だがホロロギウム暦の100年は28万日。365日で割れば765年。『100年』でも大いに違う。

人間の時間感覚の『100年』では届かなかった。では神の時間感覚の『100年』なら。それだけの時間をかけて研鑽を積んだらこの刃は愛しい女を殺せただろうか。


それは自らの無力さを嘆く言葉だったが、やけに記憶に残っている。

もし自分が暦を作るのなら1年を100ヶ月に定めて表記上の時間稼ぎをしただろう、と。『1年』を365日ではなく何千日にもして『1年』の言葉を圧縮する。そうして1年2年3年5年10年と積んで『100年』を作り上げる。


「だからネ、ホロロギウム暦が100ヶ月なのもそうなんじゃナイカナ、って」

「時間稼ぎ?」

「うん」


もし何らかの約束があり、その期日が迫っているのに何もできていなかったら。時間の解釈を変えて時間稼ぎをするだろう。

たとえばだが、1年後に借金を返せと迫られているのに貯金がなかったら。取り立てに来た借金取りにこう言うだろう。その1年はホロロギウム暦の約束だと。そう言って屁理屈を捏ねて期日をごまかす。

そんなふうに期日のごまかしをするためにホロロギウム暦は定められたのではないだろうか。1年2800日なんて自棄じみた長さはそういうことだ。逆に言えば、神々は何かの時間稼ぎのために暦を作った。

では何の時間稼ぎだ。神々が時間稼ぎをしなければならないこと。それはきっと人間を神の国に招くという約束だろう。10年に1回の再信審判で人間を神の国に招くと約束したが、神の国の拡張が遅く許容量がいっぱいで間に合わなかった。だからその10年の尺度を変えるためにホロロギウム暦を作って『10年』の意味を変えて期日を3650日から28000日に伸ばした。


と、いう議論をナツメと交わしたことがある。

真実はどうなのかわからないが、それなら神々はずいぶん人間じみた粗忽者だなと笑いあった。

その日々はもう帰ってこない。寂しいものだ。


そんなことを言っている間に3階への階段が見えてきた。

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