最も尊い北の地より
「やっほー、久しぶり。あ、地理の合宿受けてた人はそうでもないかな?」
でも課題の内容が内容だっただけに地理の合宿を受けていた人も『久しぶり』かもしれない。なにせ合宿の内容は小旅行をしてその旅行記の提出をすることだったのだから。
まぁ全員久しぶりだということにしておこう。雑にそう結論付けて、クロッケスは教室内を見回した。生徒たちの顔は明るく、すっかり新入生気分も抜けて合宿で一段成長した印象を受ける。男子3日会わざれば、というが似たようなものだろう。生徒1ヶ月会わざれば刮目して見よ。
若者の成長は喜ばしい。うん、と満足気に頷いて、それから授業に移った。
「せっかくだ。今日はニウィス・ルイナについて学ぼうか」
まずは基礎知識の確認。ニウィス・ルイナ高等魔法院とは北の大陸にある高等魔法院だ。ヴァイス高等魔法院と同じく、そこでは生徒が日々武具の習熟や知識の獲得に勤しんでいる。よりよく学び、得た技術と知識で神々に信仰と感謝を示すため。
ヴァイス高等魔法院が『最も神に近い』とされるなら、ニウィス・ルイナ高等魔法院は『最も尊い』とされる。ちなみにもう一つの高等魔法院であるコーラカル高等魔法院は『最も信仰が深い』と言われている。
ニウィス・ルイナ高等魔法院が最も尊いと言われるのは、再信の時代の終わりに最後の再信審判に勝った国だからだ。当時は国ではなくクランと呼ばれる共同体であったが。
「再信審判ってのは、不信の時代の過ちを人間が償う儀式のこと。常識だよね」
"大崩壊"を機として、人間は信仰を捨て武具を破壊し神々を忘れ去った。それが不信の時代だ。
そうして人間の手のみで発展した世界はやがて行き詰まり、過去の信仰に回帰する運動が起きた。人間が作り上げた機械文明ではこれ以上の発展は不可能、やはり神々による魔法という奇跡が必要だと。
人々は一度捨てた信仰を取り戻そうとし、神々の存在を求めた。しかし人間に見切りをつけた神々はすでにこの世界から去り、この世界を振り返ることはしなかった。
簡単に言えば喧嘩して絶交状態だ。どうにかそれを解こうと人間が始めたのが再信審判だ。神々に再び信じてもらえるようにと行った信仰の儀式はやがて各々が掲げる神々への信仰の示し合いになった。我々が一番神々を信仰しているのだというアピール合戦だ。この世界を形作ったとされる7柱の神々をそれぞれ掲げ、決闘のような形で争った。
その争いを再信審判といい、再信審判を繰り返していたのが時代が再信の時代と呼ばれる。
ニウィス・ルイナ高等魔法院のその校名は、最後の再信審判に勝利し神々への信仰を示した者たちにちなんでつけられた。永久凍土の氷の国より氷神を掲げて信仰を示し、決闘に勝利した彼らを称え、そして"灰色の魔女"が封印から解き放たれたこととあわせてこれ以上の審判は不要と判じた神々は人々を赦すに至った。そうして今の信仰の時代につながっていく。
だからこそニウィス・ルイナ高等魔法院は『最も尊い』高等魔法院と呼ばれている。
だが、最も尊いとされる理由は他にも在る。それは原初の時代にまで遡る。
「あの子の自己紹介の時に気になったよね、ラピスって何だ、って?」
その疑問の答えは『最も尊い』と呼ばれる理由につながってくる。
結論から言うと、ラピスというのはあの氷の国に古くあった地名だ。再信の時代、あそこに住んでいた人々がニウィス・ルイナというクラン名を掲げて氷神への信仰を示すよりもずっと前、それこそ原初の時代にまで遡った地名がラピスだ。
「原初の時代には北の大陸の南東に小さな群島があってねぇ」
古くはシャロー大陸と呼ばれた北の大陸。その南東には小さな群島があった。その群島は"大崩壊"の衝撃によって海に沈んだり海底火山の活動によって海が埋め立てられて大陸と接続されたりして消失した。
その群島の名をラピス諸島といった。古くは活気のある街で、その跡地に住み着いたのが後にニウィス・ルイナを名乗る人々だった。
彼女のラピスという名乗りはそれに由来する。そんな古い地名をあえて現代に名乗るほど、ラピス諸島には重大なものが存在していた。
さて、ではラピス諸島には何があったのか。それが『最も尊い』の2つ目の理由だ。
「それがアブマイリの儀式さ」




