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永久凍土より白の悪徳へ

予告通り、全校集会が開かれた。全校集会といっても強制ではない。校舎と寮に挟まれた広場の空間に全校生徒がおさまらないからだ。興味があれば広場に出向いて直に話を聞けばいいし、興味がなければ後で概要を聞くだけで済ませていい。そんなゆるい集会だ。

それでも今日ばかりはほとんどの生徒が広場に詰めかけ、広場に入り切らなかった生徒は校舎や寮の窓から広場の様子を見ようと覗いている。中には双眼鏡まで用意している生徒もいた。


「そりゃ転校生ってのはいつだって注目の的だからなぁ」


気持ちはわかる。留学生という非日常は興味をそそるものだ。

そういうものだが、それにしたって皆食いつきすぎではないか。ベルダーコーデックスは呆れたように頭上の主人兼友人を見た。


そんな大注目の中、校長のアスティルートが壇上に登る。その横に立っている妙齢の女性が噂の留学生とやらなのだろう。ふぅん、とベルダーコーデックスは件の人物に目を向けた。


黒髪黒目。目を引くほどの美人でもなく一見地味だが、長めのポニーテールをまとめる髪飾りの青が目を引く。

例えるなら、黒曜石混じりのラピスラズリ。原石のままでも存在感を放つそれは磨けばもっと輝くのだろう。


「今日より、このヴァイス高等魔法院に留学生が訪れました」


アスティルートのほぼ定型文の紹介曰く。北の大陸の高等魔法院からやってきた。生徒としてのカリキュラムはすでに終えており卒業の資格を満たしているが、自身の研究のため高等魔法院に在籍しているという。

ヴァイス高等魔法院に研究資料を求め、交換留学というシステムを用いて来校するに至った。生徒ではないので生徒同様に授業を受けることはないが、興味をそそられる授業内容があれば聴講生として参加する。それくらいの距離感で留学生活を楽しむそうだ。


「紹介にあずかりました。ニウィス・ルイナ高等魔法院より来ました、フュリ・ラピス・サイトです」

「……ラピス?」


聞いたことのない地名だ。北の大陸といえば氷の国ニウィス・ルイナがあるところだ。ラピスという地名は知らない。


名乗りのルールとして、名と性の間に所属するコミュニティや身分を挟むというものがある。カンナがヴァイス高等魔法院の生徒であることを強調したい場合、名乗りはカンナ・ヴァイス・フォールンエンデだ。出身地を強調したければカンナ・アロギ・フォールンエンデとなる。

大切なのは『どこ』の誰であるかで、他に強調したいコミュニティや身分があるのならばそれを使っていい。だがだいたいは現在の住所や出身地を挟むことが多い。


だからラピスというのも現在の住所や出身地なのだろうか、と予想はできるのだが聞いたことがない。ある程度の人口のある街の名前ならだいたいは知っているが、その知識の中にラピスという文字はない。


集団か組織の名前だろうか。世界を旅する劇団などは団名を名と性の間に挟むし、ラピスという呼称が地名でなければそうかもしれない。

ラピスというまったく知らない単語。地名か、組織名か、その謎もまた留学生への興味をそそる。


「本人に聞けばいいんじゃねぇの?」

「それはそうだけど……」


同じように考えた人たちに質問攻めをされるのだろうなと思うと気が引ける。きっと口々に同じ質問をされて何度も同じ回答をするのだろう。その苦労のひとつに加わるのは気が進まない。気が進まないが、気になる。

すでに質問した人をつかまえてラピスってなぁにと質問するくらいなら本人に聞けと返されるのがオチだし。


まぁ、うん。いずれ聞くとしよう。もしかしたら誰かが話しているところに出くわして何かの拍子に聞けるかもしれない。そうなったら質問する手間も省けるし、あちらも回答する労力も減る。


「では、校長室へ」

「はい」


カンナがあれこれ考えている間に自己紹介が終わってしまったらしい。彼女は壇上を降り、アスティルートと一緒に校舎のほうへと向かっていった。このまま校長室へと行くのだろう。


「さぁて、新入りも見たことだし。そろそろ授業の時間じゃねぇか?」

「あっ」


そうだ。そろそろ教室に向かわないと。

教えてくれてありがとうとベルダーコーデックスにお礼を言い、教室に駆け出す。遅刻したら笑いものだと揶揄する意地悪に負けないように廊下を走る。危ないから走るなと誰かの注意する声が聞こえたが無視。始業まであと10分。遅刻はまずい。



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