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命の総意が縋るのではなく

では、手伝ってやろう。まずは理論の見落としを指摘するところから。

ここに集まっているのだと精霊が教えた場所を目的地に設定して転移魔法を発動させた。


***


「楽しそうなことしてるわね」

「リグ!?」


不意の来客。来るはずのない乱入者にヴィトは目を丸くした。どうしてここが。驚くヴィトに、だって、とリグラヴェーダは告げる。


「私は精霊の守護者よ?」


精霊は世界のあらゆる場所を見ている。あらゆる会話を聞いている。その精霊がこの場所を教えてくれた。だから来た。それで回答は十分だ。


「精霊の守護者……」


誰、と誰何の問いを発そうとしたフュリはその回答だけでリグラヴェーダの正体を諒解した。精霊の守護者とは人間と精霊の境界を守るもの。人間が精霊を害することも、精霊が人間を害することも許さず、お互いの関係に正しい線引きを敷く者だ。


精霊の背後には神々がいる。こうして人間と神々云々と喋る自分たちの場に精霊の守護者が同席することは何ら不思議ではない。むしろ神々側の意向を知るため仲立ちを頼んでもいいくらいだ。


「お邪魔するわね。楽しそうな話に一枚噛ませてほしくなって」


ここにいるのは精霊の守護者として当然。そうでしょう、と言い、リグラヴェーダはヴィトの横の椅子に座った。

特に反対の言葉は出ないので参加していいということだろうと解釈し、それなら、と早速自分の知見を語り始める。致命的な前提の間違いを指摘する。


「あなたの不死の原因はね、世界の恨みなどではなくてよ」

「え? ナニ、どういうコト?」

「リグラヴェーダと……あぁ、薬店の店主の方ね、彼女との取引を忘れた?」


2000年の時間の間に忘れてしまっているようだから指摘しておこう。

ヴィトが不死の体であるのは世界の恨みによるものではない。リグラヴェーダとの取引の結果だ。対価と引き換えに何でも願いを叶える薬店の店主と取引をした結果、ヴィトには不死が付与された。


それは、"大崩壊"の日のこと。


すべての生命が絶えた世界で、皇女だけが生き残った。そうした世界でただひとり彷徨っていた皇女へ、生命代表として彼女は問うた。これで満足か、これがあなたの望んだことか、と。万魔を排して復讐を遂げ、取り戻したかった世界の有り様がこれなのかと。

昔日への回帰を神に望み、滅びの運命は再来した。その輪廻への慟哭の結果をどう見るか。

問われ、皇女は返した。こんなこと望んでいなかったと。理不尽に取り上げられてしまったものを取り戻したかっただけなのだと。


だからこの滅びをなかったことにする。爪痕は残ったものの滅亡は帳消しになり、生命は『生き残った』ということにする。『崩壊』はしたものの『滅亡』はしていない。歴史はそういうことに修正された。


その書き換えの代償が不死だ。


「正確には、世界の総意の願いを叶えつつ、あなたの絶望を手段として利用したということだけど」


その日、奪われた命の総意がこう唱えていた。

度合いの差こそあれ、すべての生命は同じことを思っていたし、よって同じ結論に至った。


どうして。原因は何だ。経緯は何だ。許せない。世界を滅ぼした者に相応の応報を。


――苦しめ。


その願いを受け取り、その願いを叶えるためリグラヴェーダ(願いを叶える店主)は皇女の後悔を利用した。地獄を見せるための口実として、歴史を修正する対価に不死を、と。


それがヴィトの不死の理屈。滅亡を崩壊に書き換えて"大崩壊"となした結果だ。

世界の恨みはその結果を理由づける動機。あの日死んだ命が苦しめと願うから、その総意を叶えるためにヴィトを不死にしてやろうと思い至り、不死にするために歴史修正を提案した。


「あなたの不死は歴史を修正するための事象の消滅の結果よ」


取引の結果、ヴィトには事象を『なかったことにする』能力が付与された。その『なかったことにする』力で滅亡の歴史をなかったことにした。

そしてその能力は自らの死さえなかったことにした。死はキャンセルされて事象は消滅する。だから死ねない。死という結果が消滅するから死なない。


――そうして永遠に苛まれるように。それがあの日の命の総意だ。


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