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精霊騎士  作者: 羽嵐
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~花の精霊~エピローグ

 切り立った山の突き出た所から、青年は胡座をかいて座っていた。親指と人差し指を小さな粒を摘むようにして、その隙間から何かを覗いている。


「おぉ、どうやら発動したみたいだな」


 彼はいきなり喜々を含んだ声を上げる。口端を上げてニッと笑うその顔を満足げだ。


「やはり助けたんだな……」


 すると、後ろから随分と不機嫌な声がした。身体の奥底が震えるような重低音は、知らぬ者が聞いたら怯えてしまうだろう。

 しかし、青年にしてみたらその声はどの者達よりも馴染み深い。寧ろ、彼の声は青年の耳にはとても心地良くて好きだった。


「何のことだ?」


 青年、リベラはとぼけた顔で彼の方へ振り返る。薄暗く大きな口を開けた洞穴の中に身を隠しながら、リベラの白々しい態度に声の主はふんと鼻を鳴らした。


「しらばっくれおって。あの娘のことだ」


 リベラはわざとらしく今思い付いたように「あぁ」と呟いた。


「確かに手を貸してはやったが、助けた覚えはないぞ?」

「嘘をつけ。お前、偶然を装ってあの娘を自分の方へ来るよう引き寄せただろう」


 少しの沈黙の後、リベラは素知らぬ顔で口笛を吹く真似をしている。


「しかも、“リベラ”とは一体誰のことを言っている。そんな立派な名前でもあるまいに……大体慣れない言葉を遣いおって……何が“私”だ“さらば”だ。このえーかっこしいめが」

「いいじゃないか。俺だってな、格好つけたい時があるんだ。そりゃぁ、ちょっとやりすぎた感はあったかもしれんが……」

「やり過ぎだ馬鹿者。寒気がしたわ」

「おい、そこまで言うことないだろ?」


 リベラは少し傷ついてしまったようで、拗ねて唇を尖らせた。

 そんなリベラを目にして、彼は呆れ気味に溜め息をつく。


「いや、だから本当に助けたわけじゃないって」


 とリベラが言っても、彼は疑いの眼差しでじっと見つめてくる。リベラは苦笑を零した。


「確かにお前の抜け落ちた鱗にちょっと細工は施したけど」

「細工?」


 疑念を込めて彼が問う。リベラは何処まで信用ないんだ俺は、と情けなさそうにぼやいた。


「光だよ。エンナが何かを見出し強く生きたいと思えば発動するようにした。もしエンナがあのまま負の感情に囚われ、嵌っていくようならあれは発動せず、ルージュの予言通りに死んでいたか、もしくは……」


 リベラから表情がサッと消え去った。硝子玉のような瞳には温度が見えず、感情を完全に隠してしまっている。

 しかし、それでも彼にはリベラが今どう思い、感じているのか、手に取るようにわかっていた。


「酷く心の闇に引き込まれていたら、あの鱗に魅入られ死んでいた」


 鱗に蓄積された心の闇が、持ち主を酩酊めいていさせて何も考えなくても良い甘い“無”の世界へと誘う。それはまるで、ある種麻薬中毒のような……

 リベラの質の悪いやり方に、彼は臆することもなく「ふむ」と呟いた。


「甘いな」


 意外な彼の言葉にリベラは面食らったらしく、目をぱちぱちと瞬かせる。


「甘い、か?」

「あぁ、甘い。甘々の甘ちゃんだ。運命を変える行為なんだぞ。なのに、たったそれだけで発動するようにするなんて……」

「そう言われてしまうと、流石に何も言えないな」


 リベラは困ったような笑いを溢して頭を掻く。そんな締まりのないリベラにまた彼は溜め息をついた。


「全く……また奴らにグチグチと嫌みったらしく文句を言われるだろうな、お前のせいで」


 彼は恨みがましい視線をリベラに送った。


「別にそんなのどうってことないじゃないか。言っただろ? 俺は別に助けたわけじゃない。気まぐれに手を貸しただけだ。堂々としてればいい」

「……付き合いきれん」


 鼻息荒く彼がふんと顔を背ける。

 コイツはいつもそうだ。

 気まぐれ気まぐれとほざいておきながら、結局のところ……


「でも、お前は最後まで俺に付き合ってくれるだろう?」


 リベラは漆黒の鱗に覆われている彼の鼻梁に手を添えて微笑んだ。

 空色の硝子玉に星々をちりばめたような双眸が彼の眼を見つめる。

 リベラの黒い髪に相俟って、その不思議な瞳はとてもよく映えていた。一体幾千、幾万の人々がこの 宝石の虜となったことだろう。しかし、その美しい瞳は憂愁が浮かび不安定に揺れ動いている。

彼は金の目を細めた。


「当たり前だ。お前は我にとって、かけがえのない存在、心友なのだから……」


 リベラは嬉しそうに感謝の言葉を口にすると満面の笑みを浮かべた。

 昔からそうしてきたように、これからもずっと傍にいよう。


 この命、尽きるまで――


 気を取り直すようにリベラは背を向けた。


「さて、そろそろ帰ろうか。俺達の故郷へ――」


 振り返ったリベラの笑顔は、先程の愁嘆さはなく、この空のような清涼さを取り戻していた。




~~~Fin~~~


 執筆をはじめてから「花の精霊」完結までに約一年以上もかかってしまいました。

 当時はもっと短く終わらせるつもりが……結局の所、40×40のページ約180枚という長い長い話となってしまいました……力量の無さが浮き彫りですね。泣きたい……

 でも、その分「花の精霊」では色々勉強させて貰いました。

 挫けそうな時もありましたが完結まで書き続けられたのは、これもそれも、応援して下さった方々や読者の方々のおかげです。ありがとう御座います!


 そして次回作ですが、まったりした後にある程度書き溜めてから更新できたらなぁと思っております。

 その次回作で今回不明な用語とかの説明が出来たらなと……「Ⅹ.決意の光」なんかは特に、何この新しい単語って感じだったかと思います。あそこはリューリやシェルなどの視点のため、そういったことは知ってるものとして書いているため、ご容赦頂ければ幸いです。


 更新速度も遅いにも関わらず、最後までこの話とお付き合いして下さいまして本当にありがとう御座いました!

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