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精霊騎士  作者: 羽嵐
12/31

5.目覚め (1)




 それは突然にやってきた。


 夜中、エンナは目をうっすらと覚ました。横のベッドに視線を移すと、どうやらローズは既に起き出しているようで、ベッドの中はもぬけの殻だった。そろそろ出る時刻なのだ。

 エンナも身を起こそうとした時、眼前にとても小さい女の子がいた。不思議なことに宙にぷかぷか浮きながらじっとエンナのことを見ている。エンナは思わず動きを停止して固まってしまった。

 大きさは手の平位で、くりっと大きな赤い目が可愛らしい。耳は尖っており、短髪の髪は緑色で、着ているワンピースも緑色だ。左右の手首にはトゲトゲしたブレスレットを身に着けている。

 その小人さんは、ぱちくりと瞼を瞬かせた。


「もしかして、見えてる?」


 小さなお手々を振って、小人さんは確認を取る。エンナはぎこちない動きで首を縦に振った。すると、途端に小人の瞳が興味津々にキラキラと輝きだして、エンナのことを穴が空く程見詰める。どうしたらいいかわからないエンナは、動けないまま見詰め返した。

 小人さんと睨めっこをしていると、唐突にドアが開く。そこから顔を覗かせたのはローズだった。


「あら、もう起きてましたのね」


 既に目を覚ましているエンナに目を止めて、彼女は部屋の中に入ってきた。


「ロニロニー!」


 ローズの姿を目にして、その小人さんは勢いよく彼女のところへ飛んでいった。


「あのねあのね、あの子ね、ニコンのこと見えてるみたい!」


 ニコン。

 よく魔法を発動させる時にローズが口にする名前だ。ということは、あの子は精霊……? と、変に冷静な頭の片隅でエンナは判断した。

 そんなエンナとは裏腹に、ニコンはかなり興奮しているようだ。エンナに指を指して、熱が沸き立つままにニコンはローズに報告する。ローズは眉間に皺を寄せた。


「ニコン、悪い冗談はお止しなさい。そのようなことがあるわけないでしょう」

「だって本当のことだもん。ニコン、嘘つかないもん」


 相手にしないローズにニコンは頬をぷくぅっと膨らませて拗ねてしまう。それを見てローズは一度溜め息をつくと、ニコンの服の裾を摘んでエンナのところに近付いてきた。掴まったニコンは「や〜ん」と身を捩ったりして嫌がるが、為す術もない。


「貴女、これが見えております?」


 ローズはずいっとエンナの目の前にニコンを掲げた。これ呼ばわりされたニコンは、これじゃないもん、ニコンだもん! と文句を言うがローズは無視している。なんだか可哀想だ。

 何も反応を示さないエンナを見て、ローズはニコンを彼女の顔の方へと持って行くと目を据えた。


「ニコン?」

「ふにゅぅぅ、ニコン嘘ついてないもん。本当だもんっ」


 まだ言うかとローズが睨みをきかせると、ニコンは今にも泣き出しそうな顔で必死に自分が正しいと訴えた。


「見えてる……」


 少し落ち着きを取り戻し始めてきたエンナは、静かに言った。このまま黙ったままだと、あの愛らしい小人さんがあまりにも可哀想だと思ったのだ。


「は?」

「見えてる、わたし、その子……その、小人みないな緑色の子」


 エンナが言葉辿々しく伝えると、ローズは一瞬固まった。が、すぐに平静を取り戻してエンナに問い返した。


「見えているというのは、わたくしが手に掴んでいるものがですか?」

「うん。詳しくその子の容姿言ったら信じてくれる?」


 ローズは暫し思案した後、ニコンに目線を戻した。


「ニコン、あなたまさか実体化しているのでは……」

「してないもん! それはロニだってわかってる癖に!」


 じたばたと暴れるニコンを尻目に、今まさに起こっている事態にローズは衝撃で動けないようだった。ニコンから手を放して、口を覆う。やっと解放されたニコンはプリプリ怒りながら、ロニのバカバカと文句垂れる。しかし、当のローズはそれどころではないようで、それが聞こえていないようだ。


「なんてことですの……」


 そう呟いたローズの顔は、少し青ざめていた。



  *  *  *



 そして、今に至る。

 ローズはこの事態が相当衝撃だったようで、静止したまま微動だにしない。それが少し居心地悪くてエンナは身動いだ。そんなに自分が見えるようになったことがいけないことだったのだろうか。

 しんと静まり返ってしまったこの部屋だけ、まるで時間が止まってしまったかのような錯覚を覚える。暫しの間、いや、数秒のことかもしれない。兎に角、刻が過ぎるのを待っていると、ローズがやっと重い口を動かした。


「貴女……精霊が見えることは、絶対に誰にも言ってはいけませんわよ」


 どうしてとエンナが問う前に、ローズは膝をついてエンナの肩に手を添えて言った。


「いいですか、このことは他言無用のこと。誰にも知られてはいけません……特にリューリ様とシェル様には……わかりましたわね?」


 諭すローズの表情は、深刻に眉根が寄っていた。

 なんでとか、どうしてとか、疑問がエンナの頭に浮かぶ。本当ならすぐに聞きたかった。しかし、ローズの真剣な顔を目にしたらそれを言葉として紡ぐことはできなかった。


「うおーいお二人さん、そろそろ出るぞ〜?」


 ローズの忠告に否定も肯定もできずエンナが反応に困っていると、いきなり部屋の戸が開いた。そこからひょこっとスラッツが顔を覗かせる。


「スラッツ……!」


 緊張がローズに走ったのがわかった。勢いよくスラッツの方へ振り返って、ローズは驚駭している。


「いや、そこまで驚かなくても……」


 スラッツが少し傷ついたように目を細めて苦笑する。が、エンナに視線を移した時、彼は、ん? と首を傾げた。そして、ずかずかと部屋に入って二人のところまでやって来ると、スラッツは何かを吟味するようにじろじろと不躾にエンナのことを見る。


「あの」


 無遠慮に見回されて、エンナは半眼でスラッツに不満の視線を送った。が、スラッツはこれまた遠慮もへったくれもなく、突然エンナの蟀谷部分をガッと掴んだ。ローズが止める間もなく。


「ちょっ……!」


 流石に吃驚して、エンナはスラッツの手を振り払った。


「何すんのよ!!」


 失礼だとばかりにエンナはスラッツを非難するが、スラッツは聞いていないのか彼の反応は全く違うものだった。


「エンナ、もしかして見えてる? 精霊」


 どうしてわかった。

 エンナは「え゛」っと呆気にとられ、ローズに至っては頭が痛そうに額を押さえている。


「ランダー」

「ほいな」


 スラッツが誰かに呼び掛けると、彼の肩に忽然と黒い物体が姿を現した。エンナは目を剥く。一体何処から沸いて出てきたと言いたくなるが、きっとあれも精霊なのだ。蜘蛛に似たその姿。だが、蜘蛛と言うには随分と大きい。拳一つと半分はありそうだ。


「エンナ、今オレの肩に乗ってる奴のこと見えてる?」

「う、うん」

「姿は?」

「黒くて、蜘蛛みたいな……」


 エンナが素直に答えると、スラッツは「あちゃ〜」と片手で後頭部を掻いた。


「こりゃ、完璧に見えてるなぁ」

「どうしてわたしが見えるようになったってわかったの?」


 エンナが訝しく視線を送って疑問をぶつけるとスラッツは答えた。


「特殊能力ってやつかな。精霊と契約すると、みんなってわけじゃないけど、オレみたいに特殊な能力を得られることがあるんだ。オレの場合は人体内に流れる気とは異なる力の動きとかがわかる」

「異なる力……」


 と、回答を得ても、よくわからなかったエンナだった。


「スラッツ、このことは……」


 言い淀むローズに、何を言おうとしているのか察したらしいスラッツは力強く頷いた。


「わかってるって。これは内密にしとく」


 それを聞いてローズはほっと胸を撫で下ろした。

 エンナが精霊を視認できるというのは、そんなに問題ありなのだろうか。


「さってと、兎に角さ、そろそろシェルさんのところに行こう。待たせちゃってるし」


 スラッツの最後の“待たせている”発言にローズは血相を変えた。


「そうでしたわ……!! 貴女、早くお起きになって! これ以上シェル様をお待たせしてしまってはいけませんわ!!」


 今までの深刻さは何処へやら。そちらの方が由々しき事態だとばかりにローズはエンナを急かす。

 なんというか、この四人の関係がよくわからない。エンナは首を捻るのだった。






 エンナは蟠りを抱えたまま、月が空に浮かんでいる内に四人は出発した。冷たい夜風が身体に凍みる。

森の中にある街道を皆黙々と馬を進ませていたわけだが、旅路の間エンナはとても困ったことがあった。

精霊が見える。これに他ならない。

 ローズに隠せと言われたが、これがどれ程難しいことか痛感した。あちらこちらにニコンのような精霊を見かけるし、普通の動物かと思ったものが急に姿を消したりして、そこではじめて精霊だったのだとわかったりと、そういうことが多々あったからだ。まだ、人の姿をした小人なら良い。どんなに物珍しくて反応しようとも、あれは確実に精霊だとわかるので、どうにかこうにか見なかったことにすれば良いだけの話だ。


 しかし、動物の姿をした精霊は、普通の動物達との見分けが全然つかない。何処をどう見たら精霊だとわかるのか。ローズやスラッツに見分け方があればそれを聞き出したいところだったが、シェルがいるので耳打ちすら憚られた。

 なので、エンナは兎に角、目に映るもの全てを無視することにした。そうすれば、少なくても、動物と見せかけて実は精霊でした、とボロが出ることは格段に減る。


 無視! 無視無視! 何も見えない何もない!!


 エンナは、それを呪文のように心の中で唱え続けた。



  *  *  *



 朝焼けで空が明るみ始めた頃、ロンドという大きな町に辿り着いた。寝静まった町が起き出していることを象徴しているかのように煙突から白い煙が出ている。

 エンナ達は馬から下りて、その手綱を引きながら本道ではなく、薄暗い裏路地を通って目的の場所へと向かっていた。建物の合間にある馬が一頭通れるくらいの細い道なので、煉瓦の冷たさが肌に伝わってくる。

 裏道を縫うように歩みを進めていくと、開けた場所に出た。裏の小広場のようなそこは閑散としていて、中央に申し訳程度の噴水が設置されている。水は枯れているらしく、只そこにここのオブジェのような噴水の縁に誰かが腰をかけていた。鮮やかな赤い髪。まだ陽が昇りきっていない朝の中、そこだけ色付きハッキリと存在を主張している。


「やぁ」


 紛う事なきリューリだ。

 エンナ達に気付いたリューリは、綺麗な微笑みを称えて片手を挙げた。


「追われている中、遅刻もなく無事着くなんて素晴らしいね」

「リューリ様……!」


 声を上げたのはローズだった。リューリの無事な姿を目にして安堵の息をついている。


「リューリさんこそ。ていうか、一人で行動してたのに無傷なんて流石ですね」


 スラッツが感心して褒めると、リューリは「まぁね」と肩を竦めた。


「スラッツも災難だったね。守護使なんてやらされてさ」

「あれ、知ってたんですか」

「勿論、その辺りはシェルから報告済みだよ」


 リューリは立ち上がって、座って着いた埃を叩き落として四人に近付いてきた。


「エンナは、会った時より随分元気が良さそうだね」

「おかげさまで……」


 皮肉の交じった笑みを口端に表して、エンナは視線を逸らした。顔を合わせて早々、どうして嫌味紛いのことを言われなければならない。いや、もしかしたらリューリなりに気を遣ってくれているのかもしれないが、彼は裏で何を考えているのかわからないので、一々勘ぐってしまう。

 と、リューリの肩から何かが飛び上がった。その何かはシェルの肩に飛び乗ると、彼の頬に擦り寄ってくる。イタチのような姿だが、にしては鼻が低い。

 これは、精霊なのだろうか。興味深そうにエンナはその生き物を観察していると、リューリは口を開いた。


「ヒン、シェルにようやっと会えて良かったね」


 ヒンと呼ばれたイタチみたいなその動物は、リューリの方へ顔を向けて鼻をひくつかせた。そうして、また喉を鳴らしながらシェルに擦り寄っていく。嬉しいという表現なのだろう。なんとも可愛らしいではないか。

 少時の間、シェルに身を寄せて満足したのか、ヒンは空気に溶けるようにその姿を消していった。エンナは目を丸く見開く。やはり、あの動物も精霊だったのだ。

 そこでローズに言われたことをはたっと思い出す。ここで今起こったことに反応していると、リューリ達にエンナが見えるようになっていることがばれてしまう。エンナは心中慌てて平静を装った。

そして、リューリとシェル双方の反応をちらっと伺う。幸い、二人共気が付いていないみたいだ。


 しかし……


「シェル、ヒンがいてくれて色々助かったよ。ありがとう」

「そうか」


 言葉を交わす二人の様子が少し変なような気がした。何故か違和感を感じる。ローズやスラッツも様子がおかしい。ちらちらと周囲を気にし始めている。ピリッと肌に突き刺す二人の緊張感が伝わってきた。


「ねぇ、そろそろ出てきたら?」


 リューリは誰にともなく言葉を掛ける。リューリの涼やかな声は建物の壁に跳ね返って反響した。一体何事?


「それとも、こっちから手を出した方が良いかな」


 にやりと口元に怪しい笑みを浮かべて、リューリは後方にある建物へ視線を投げた。

 エンナはリューリの目線の先を追ってそちらを見やる。その建物には、外壁に二階の戸へと続く石造りの階段があった。そこの戸から人が一人、姿を現す。するとローズとスラッツは、素早くエンナを守るように陣を取った。

 建物の中から現れたその人は、壮年の男だった。鎧とその上に外套を羽織っているが、それでも尚、鍛え抜かれた立派な体格だとわかる。男は憎々しげに厳つい顔を歪めた。


「怪異者め」

「怪異だって?」


 リューリはぷっと吹き出した。


「一流の教育を受けてきた人の発言とは思えないなぁ。しかも、苦学を共にした君にそう呼ばれる日が来るとはね、ディック」

「黙れっ、この化け物風情が! 気安く私の名を呼ぶな!!」


 ディックは荒々しく怒鳴った。顔を赤くし肩で息をして、リューリを睨み付ける。まるで敵を前に威嚇する猫のようだ。

 やれやれとリューリは肩を竦めた。


「そういうところは昔とちっとも変わってないね。すぐに頭に血が上って、高ぶった感情のままにことを進めるからいつも為損じてばかり」

「御託はいい」


 声を振り立てて叫んだお陰か、ディックは少し落ち着きを取り戻したらしい。リューリの挑発には乗らず、吐き捨てるに終わった。


「単刀直入に言わせて貰う。その娘、大人しくこちらに渡して貰おうか」


 呼吸を整え、リューリとそしてシェル達を見据えると、ディックは語調を強めて言った。

 その娘とはエンナのことだろう。エンナは反射的に身を固くさせた。一方、ローズはディックを鋭く見て、スラッツは懐に手を突っ込み臨戦態勢に入っている。

 反して、リューリとシェルは落ち着いたものだった。リューリは満面の笑みを浮かべているし、シェルなどは腕を組んで動向を見守っている。


「答えは聞かずとも、わかってるでしょ?」

「ということは、渡さない。そういう解釈になるがいいか」

「勿論」


 リューリの答えにディックは瞑目した。そして、徐に手を挙げる。すると、道から、建物の裏口から、潜んでいた衛兵が続々と姿を現した。これだけの数を一体どうやって潜ませていたのかと思う程だ。四人を包囲するように取り囲み、剣を構える。まさに袋の鼠という言葉がぴったりだ。緊迫感が一気に押し寄せてきてエンナの身に駆けるように襲った。

 そんなエンナを守るようにリューリ達は彼女を中心に陣を組んだ。そして、それぞれ構えの型をとる。シェルは剣を抜き、ローズは茨の鞭を手にして、スラッツは苦無くないを構える。


「ならば問答無用でその娘、奪わせて貰う!」

「奪えるものならね!」


 言い様にリューリは帯びていた細身の剣を抜き放った。刀身は炎が揺らめいているかのような波型をしており、フランベルジュの刃渡りを短くしたような剣だった。


「かかれぇぇえええっ!!」


 ディックの掛け声で戦いの火蓋は切って落とされた。

 獲物に群がっていく蟻のように兵士達が一斉に襲い掛かってくる。斬り掛かってくる兵士と刃を交え、一振り一振り無駄なくリューリとシェルは攻め返していった。ローズは常にエンナの側で彼女の身を棘の鞭で守り、スラッツは身軽々に苦無を走らせて二人に近づけさせまいとしている。

 この乱闘に馬達は驚いて、甲高く嘶くと分け目も振らずに逃げていった。この密集した中だ。馬が暴れたらその犠牲者が出るのは当たり前で、兵士の数名かあるいは数十名か、正確な人数はわからないが、確実に負傷者が出た。


「その娘は生かして捕らえろ!! 他はどうなろうが構わん!!」


 ディックは階段の上から兵士達に指示を出しと、彼は自らも剣を抜いてこの乱闘の中へ身を投じた。


「リューリさん! このままじゃ埒明かないですよ!!」


 スラッツは苦無を振り切り様に叫んだ。


「言われなくてもわかってる!」


 敵の剣を流れるような動きで躱して、リューリは相手の首目掛けて剣柄を喰らわせる。やられた相手は堪らず呻き声を上げて、そのまま卒倒した。

 リューリとシェル双方は、敵の刃を退けながら周囲に目を走らせる。そして、同じ所に視線が止まった。二人は目を一瞬だけ合わせ、それだけで互いの考えを理解したようだ。


「あそこの橋下の道を使うぞ!!」


 シェルの声が頭の中で強く響いた。

 あそこと示された橋を探すと、小道を間に挟んだ建物同士を繋ぐ橋が三階くらいの高さに架かっているのが目に映った。きっとあれに違いない。


「はいっ!」


 シェルの指示にローズは鞭を撓らせながら答えると、エンナの肩を抱いて庇いつつ一歩一歩前に歩み始めた。その先頭をリューリが切り、スラッツがエンナとローズの側を、シェルが後方を守る形で徐々に進んでいく。


「これではどうしようもない。トゥグル!」


 なかなか先へ進めず痺れを切らしたのだろう。シェルが天に向かって彼の精霊の名を呼んだ。

 空から一声、拡散するように、だが鋭く空気が震えた。その直後、上空からトゥグルが急降下してきて舞い降りる。リューリと兵士の間に割って入る形で、勇敢にも敵の目の前へ立ちはだかった。リューリは素早く身を引き、対峙していた兵士の男は、一瞬何が起こったのか判断が付かなかったようだ。が、トゥグルがくわっと嘴を開けるとやっと目からの情報が脳へ行き渡ったようだった。


「風の鷹……!!」


 その男の他に兵士数名もトゥグルの姿を見て、顔を青くさせた。どうやら、恐れ戦いているらしい。一歩後退って躊躇している。


「ふんっ、この愚か者共め」


 自分を目前にして震え上がる兵士達を一瞥して、トゥグルは心底馬鹿にしたように吐き捨てた。

 そして、トゥグルは眼光鋭く兵士達を睨み付ける。蛇に睨まれた蛙の如く、兵士達は逃げることも出来ず身体を竦ませた。


「邪魔だ。道を空けて貰うぞ」


 一度大きく羽撃いて、相手の目線まで飛び上がると、トゥグルは二、三度両翼を広げて強く打った。

 すると、何の前触れも無しにいきなり兵士の一人が吹っ飛んだ。後ろにいた数名の兵達を巻き込み、石造りの壁に強く叩き付けられる。まるで目に見えない空気の弾丸が発射されたような感じだ。トゥグルは何回かそれを繰り返して、道を塞ぐ兵士達を次々になぎ倒していった。

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