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第二話

   ☆1☆


 ボクは自室のテレビをつけ、チャンネルをNHKにする。

 魔法少女ナナナ対ハメッツー団のスペシャル報道番組が緊急放送されていた。

 司会者が、

『まずは、こちらの映像をご覧ください』

 工事現場を突き破って、突如、あらわれる機獣クモーン。

三十メートルを超える、漆黒、鋼鉄の巨体が、雑居ビルを踏み潰しながら、大安町を目指して、ギシギシと耳障りな音を響かせながら歩きはじめる。

『ネット情報によると、この巨大メカは機獣クモーンと呼ばれていて、ハメッツー団なる謎の組織が製造し、送り出してきた物だといわれています』

 クモーンの前方に自衛隊の戦車部隊があらわれる。

『五個小隊、戦車三十台ほどが、クモーンを迎えうちます』

 千メートルほど離れた場所まで戦車が近づき、クモーンに向かって一斉射撃。

 意外にも、クモーンは素早く動き、この砲撃をかわす。

 時折ヒットするけど、ビクともしない。

 あっというまに戦車隊に接近し、オモチャのように蹴っ飛ばし、ゲシゲシと踏み潰す。

 大人と子供の戦いだった。

 その後、ナナナとの戦いに突入する。

 無論、ナナナの勝利に終わるんだけど。

『では、

 出手育蔵でて・いくぞう国防大臣にお聞きしましょう。

 今回の自衛隊のていたらく、もとい、手際は、いかがなものでしょうか?』

 出手国防大臣が、

『まあまあ、自衛隊の方々も、一生懸命、命がけで戦ってくれているわけですからな。運悪く今回は機獣クモーンの、圧倒的な強さの前に、玉砕して、惜しくも負け戦となったものの、次回は、万全を期して、起死回生を計りたいですな』

 司会者が、

『他人事のようなコメント、まことにありがとうございます。それでは、続きまして、元自衛隊、統合幕僚本部、長官にして、現在は、新進気鋭の女性若手議員、

 是連好子ぜれん・よしこ議員、三十五歳からのご意見です』

 是連議員が、

『まったくなっていませんね! 

 最低な戦闘でした! 

 まず、得体の知れない敵を相手に、何の警戒もせず、千メートルまで接近すること自体が、自殺行為です!』

 出手国防大臣が、

『まあまあ、そんな風に言ったらですな、命がけで、我々のために戦っている、自衛隊の皆さんがね、可哀想でしょう。ねっ、そうヒステリーを起こさないで、落ち着いて話しましょうよ』

 是連議員が、

『隊員が可哀想じゃなくて、国民が可哀想でしょうが! 

 何のために自衛隊があるんですか!?』

 出手国防大臣が、

『それはもちろん、自衛隊の目的はですな、国家の重鎮たる、政治家や官僚、お金持ちの資本家を守る事が第一でですな、それこそが、ひいては、国家と国民を、守ることになるんですな』

 是連議員が、

『金と権力の権化と化したジジイ連中なんて、どうでもいいんだよ! まず国民を守らなきゃダメだろ! そんな考えだから、ものの数分で戦車部隊が殲滅されるんだよ! 最低でも大隊を出すべきだったんだよ! 責任者だせや!』

 井手国防大臣が、

『いや、責任者はワシなんじゃがなあ、あっはっは』

 警戒な効果音とともに、

 ただいまの発言に不適切な表現があった事をおわびします。

 と、数分間テロップが続いたあと、番組が再開される。

 司会者が、

『ただいま特別ゲストが到着いたしました。アニメ、ゲーム、ラノベ研究家の、

 オタッキー佐々田さんです』

『ど~も~、オタッキー佐々田、プー。略して、

 オタササ、プー』

 司会者が、

『では、オタササプーさん』

 オタササプーが不満気に、

『プーはキャラ作りの語尾設定プー。

 オタササでいいプー』

 司会者が、

『では改めまして、オタササさん。まずは、突如あらわれた謎の鋼鉄の機獣、名前は確か、え~と』

 オタササが、

『クモーンプー。ハメッツー団、女幹部、デウス・エクス・マキナが、そう言ってたプー』

 司会者が、

『ははあ、その機獣クモーンの前に突如あらわれた、謎の魔法少女についても、ご意見をどうぞ』

 オタササが待ってましたとばかりに、

『ようやく話せるプー。ちょっと見た感じでは、マギキュア☆セブンをベースにアレンジしたような格好だけど、実際には、かなりオリジナル要素が入っているプー。それはともかく、魔法少女ナナナちゃんが現実世界に現れただけでも、オタササは最高に舞い上がる気持ちプー』

 司会者が、

『謎の魔法少女の名前はナナナですか、すると、同じ名前の少女が、その付近に、いるかもしれませんね』

 オタササが、

『ナナナなんて名前の人は、探せばいくらでもいるプー』

 司会者が、

『たとえば、同年代の少女を探すとか』

 オタササがムッとしながら、

『魔法少女は変身するプー。変身前は小学生や中学生、高校生や大学生の可能性もあるプー。最近では、男の子が魔法少女に変身することもあるプー』

 司会者が、

『ほほう性転換までするのですか!』

 オタササが首を振り、

『違うプー。メタモルフォーゼプー。完全に身体が入れ変わるプー。つまり、変身前の魔法少女ナナナを見つけるのは、まず不可能プー』

 司会者が、

『それは残念ですね』

 オタササが、

『それがロマンというものプー』

 出手国防大臣が、

『まったく残念ですな、ワシは魔法少女ナナナちゃんのファンクラブを作ろうかと思ったんじゃが』

 オタササが、

『もうとっくに発足しているプー。よかったら入るプー』

 是連議員が、

『この番組はいつから魔法少女ファンクラブになったんだ? そうじゃないでしょっ! 魔法少女の危険性について、話しあうべきなんじゃないですか!』

 オタササが戸惑いながら、

『え? この人、何言ってるプー?』

 出手国防大臣も顔を見合わせ、

『まったくですな。ハメッツー団の巨大メカならともかく、あんなに愛くるしい魔法少女ナナナちゃんを捕まえて、何を危険だと言うのですかね~?』

 是連議員の目尻がつり上がり、

『どんだけ、お花畑なオツムしてんだ! お前らは!』

 司会者が、

『まあまあ、押さえて押さえて、それではオタササさん。魔法少女ナナナの危険性の前に、まず、あの途方もない力について、解説をお願いします』

 オタササがうなずき、

『魔法少女の力の源は、ずばり、魔力プー。そして、魔法少女の攻撃力は素の常態でも戦車以上。必殺技を使えば最新の戦闘機ですら、凌駕するはずプー』

 司会者が、

『そういえば、胸の辺りから、ハート型のピンク色のカッターのような物を、クモーンに対して無数に放出してましたね』

 オタササが、

『ナナナ・カッターブー。同志少女がナナナ・カッター射出の瞬間を、スマホの超・望遠レンズで撃写したブー。同志少女よ魔法少女を撮れ、ブー』

 司会者が、

『ははあ、オタク仲間。ではなく、アニメ、ゲーム、ラノベ研究仲間ですね』

 オタササが、

『そうブー。全国に会員が二千万人いるプー』

 司会者が、

『日本の総人口の二割近いですね』

 オタササが、

『いずれ日本総アニメ、ゲーム、ラノベ研究家になる日が来るプー。その日が待ち遠しいプー』

 司会者が、

『ところで、魔法少女ナナナの音声はどうやって入手したのでしょうか? ナナナ・カッター射出の瞬間は、たしか上空一キロの地点にいたはずですが?』

 オタササが口をとがらせ、

『無論、映像を解析して魔法少女ナナナの唇の動きを読んだプー。いわゆる読唇術プー』

 司会者が、

『ははあ、それも会員の方が解析したというわけですね?』

 オタササが自慢げに、

『そうブー。二千万人の会員は伊達じゃないブー』

 司会者が、

『最後に魔法少女ナナナがクモーンを破壊した必殺技についてですが』

 オタササが、

『ナナナ・アタックブー。魔法少女ナナナ最強の必殺技ブー。会員の計算によると、その力は大陸間弾道ミサイルを撃ち落とす、巨大レーザー兵器、数十台ぶんの威力があるという話だブー。まさしく最強の必殺技ブー』

 突然、是連議員が、

『これではっきりしたわね』

 オタササが目を丸くし、

『何の事プー?』

 出手国防大臣が、

『おおっ! ようやく君も分かってくれたのですな! 魔法少女ナナナちゃんの、メッチャ可愛らしさが!』

『ちゃうわ! 魔法少女ナナナが超・危険人物だということじゃ!』

 出手国防大臣がやれやれ、と肩をすくめ、

『君い、まだそんな事を言っておるのですかね。そんな馬鹿な話があるわけないじゃないですか』

 オタササも同意し、

『そうブー、そうブー』

 是連議員が、

『そもそも、お前らは今回の戦闘で、いったいどれだけの被害が出ていると思っているんだ?』

 オタササがフフンと鼻で笑い、

『そんな些細な事は知る必要はないブー』

 出手国防大臣は明後日の方向を向き、

『あ~、う~。記憶にございません』

 是連議員が、

『三十八億円だ!』

 オタササが、

『な~んだ、その程度か。コロナ予備費の使途不明金、十六兆円のほうが、はるかに大きいブー』

 出手国防大臣が、

『国の借金、一千兆円にくらべれば、たいしたことはありませんな』

 是連議員が呆れ顔で、

『それはそれとして、ともかく、私が言いたいのは、ハメッツー団のクモーンの被害よりも、むしろナナナの、あと先考えない被害のほうが、より大きいという事実だ。クモーンは移動中は出来るだけ、人家を避け、自衛隊との戦いも、民間に被害が出ないよう戦っていた』

 出手国防大臣が、

『ほほう、それは敵ながら天晴れな奴ですな。今の世の中、民間人を巻き込んで侵略し、病院も教会も、それどころか、女子供も見境いなく虐殺するという超大国があるというのに』

 是連議員が、

『どうやらハメッツー団の目的は街の破壊ではなく、とある少年の捕獲にあるらしい。ナナナとの戦いは偶発的なもので、まず、この映像を見てほしい』

 ボクがクモーンに捕まった時の映像だ。だけど、全身にモザイクがかかって、変にボヤけている。そのうえ、声もノイズがひどくて、何を言っているのかわからない。

 是連議員が、

『この映像に限らず、スマホなどで撮影した動画もすべてこんな状態です。魔法少女、もしくはハメッツー団がジャミングをかけたのは間違いありません』

 オタササが、

『それだけじゃないブー。現場で少年を目撃したという市民全員が、なぜか、具体的な少年の姿を思い出せない、と証言しているプー。つまり、記憶を操作している可能性があるプー』

 是連議員が、

『ナナナはそんな事まで出来るのか!』

 オタササが、

『もしくは、ハメッツー団の魔導科学プー。あくまで可能性だけどプー。ともかく、ハメッツー団に捕まった少年は、まったくもって謎の少年プー。まあ、オタササ的には少年より、この少年を助けた、謎の美少女・悪魔のほうが興味あるプー』

 出手国防大臣が、

『うむ。ワシも悪魔ちゃんの大ファンですな、孫にしたいぐらいですな』

 是連議員が、

『二人そろってロリコンか!』

 オタササが、

『違うプー、萌え、推し、プー』

 出手国防大臣が、

『ジジ活したいだけですな。いい意味で、ですな』

 是連議員がジト目で二人を睨みながら、

『ともかく、クモーンの被害よりも、ナナナがクモーンを蹴っ飛ばしたり、ひっくり返った拍子に潰れて倒壊した建物や、小型クモーンの破片を撒き散らしたせいで起きた被害や、クモーンに体当たりして大爆発したあとの被害のほうが、より甚大だという事です』

 オタササが肩をすくめ、

『それは仕方ないブー。正義の戦いには、犠牲がつきものブー』

 出手国防大臣が、

『ふ~む。じゃが、犠牲といえば、今回の戦闘では、死傷者の数は、確かゼロだと聞いておったが、あれは本当ですかな?』

 オタササが意気込み、

『本当ブー。魔法少女ナナナは守護の魔法を使って、市民を守ったブー。まるで天使ブー。もしくは、魔導科学か?』

 出手国防大臣が、

『ワシは魔法少女ナナナ教を創設してですな、ナナナちゃんを神として崇め奉ろうと思うんですが、どうですかな?』

 オタササが喜色満面、

『それはいい考えブー。オタササがさっそく入信するプー』

 是連議員が、

『なにが天使ですか! あの年頃の女の子は、いつ反抗期になっても、おかしくないんですよ! もし、ナナナがグレて、この世界なんて滅んでしまえ! とか言って、破壊活動を開始したらどうするんですか! ハメッツー団以上の驚異! 本当に世界を滅ぼしかねません!』

 オタササがのほほ~んと、

『まさかプー。天使のような魔法少女ナナナが、そんな事するわけないプー』

 出手国防大臣が、

『考え過ぎですな、自分の娘がグレたからといって、魔法少女ナナナちゃんまで一緒にするのはどうかと思いますな』

 是連議員が、

『私は独身です! 

 ともかく、ナナナは魔法少女なんて生ヌルい女の子ではありません! 

 まるでゴジラのような、

 そう!

 破壊神そのもの!

 破壊神☆魔法少女ナナナ!

 です! 

 私はナナナを絶対に野放しにはしません! 

 自衛隊の総力をもって捕獲します!』

 オタササがムッとし、

『そんな事は魔法少女ナナナファン、二千万人の会員が許さないプー』

 出手国防大臣が、

『魔法少女ナナナちゃんよりですな、ハメッツー団の対策が先ですな』

 などなど、議論は紛糾して収拾がつかなくなった。

 色々あって疲れていたボクは、テレビを消すと布団に入り、朝までグッスリと眠った。


   ☆2☆


 翌日、修理中の大安中学へ行くと、校舎の入口横で、新聞部の益子美代が朝っぱらから大声を張り上げていた。

「みんなも知りたい!

 美代も知りたい!

 一年B組、新聞部、益子美代の!

 大スクープです!

 みんな見て!

 本当に大スクープなんだから!」

「いったい、どんなスクープなの?」

 ボクがたずねると、

「昨日の魔法少女ナナナの速報です! 

 くわしくは、この号外を読んでね! 

 読んで、読んで!」

 ボクは号外を受け取り、歩きながら何気なく目を通す。

 途端に戦慄する。

 七奈が変身する写真がバッチリ掲載されていた。

 あの時、聞こえたシャッター音は、益子美代が撮影した、号外用の写真だった!

「こりゃ大変なスクープだぞ。早く七奈に知らせなきゃ!」

 ボクは教室へ急いだ。

 七奈はもう教室の席に座っていた。

「七奈! 大変だよ! 魔法少女ナナナに変身する瞬間が写真にバッチリ写っているよ!」

 七奈がボソッと、

「そう、それは大変ね。とりあえず、その号外を見せてちょうだい」

 七奈がジックリ号外に目を通す。すると、教室に益子美代が入ってきて、

「みんなも知りたい!

 美代も知りたい!

 一年B組、新聞部、益子美代!

 大スクープ!

 正体見たり!

 魔法少女ナナナ!

 その実体は、な、なんと!

 一年B組、根倉七奈だった!

 さあ、みんな!

 号外を読んでね!

 読んでね!」

 言いながら号外を教室の生徒に配ってまわる。しかし、みんなそれをクシャクシャに丸めてゴミ箱に捨ててしまう。

 ゴミ箱から号外があふれだす始末だった。

 益子美代が憤慨し、

「みんな何で読んでくれないの!? すぐ捨てるなんてヒドイよ!」

 グラサンが、

「お前のニュースは、とんでもねぇガセばかりで、俺はとんでもない目に合ってばかりなんだよ! つい、こないだも、グラサンのサングラスの下はノッペラぼう。とか、とんでもない記事を書きやがって! あれは目をつぶっていただけなの! 光の加減で、目と目尻のシワの境が、一瞬、曖昧になっただけなのよ! たまたま、その瞬間を撮影して、スクープ、スクープって騒ぎやがって! とんでもない奴だ!」

 パンチが、

「俺だってよ~、リーゼントの中に波動砲があるって、とんでもない記事を書かれちまってよ~。ありゃ、たまたまリーゼントが崩れないよう、挿していたヘアピンを抜き忘れただけでよ~。まったく、ひでぇ目にあったもんだぜ」

 委員長が、

「あたしだってそうよ。出薄不破人くんとの秘密の密会、二人はつきあっているのか~? なんて書かれてさ、全校女子生徒の嫉妬のマトになっちゃったじゃないの。勘弁してほしいわ。そりゃ不破人くんが嫌いってわけじゃないけど、むしろ愛してるぐらいだけど、やっぱり、こう、ロマンスってものが大事よね。芸術家としては、あ、言い忘れたけど、あたし、こう見えても美術部に入っていて、美大を目指している芸術家なのよね。今度、個展を開くから、みんな見に来てね」

 他の生徒も口々に益子美代の記事を非難する。

 すると、市音先生が朝礼のために教室に入ってきて、

「おはよ~。みなさ~ん。今日も元気にお勉強しましょうね。あれ? 何か、騒がしいですね? 何か、あったんでしょうか?」

 市音先生がゴミ箱に目をとめ、

「あらあら、ゴミが散らかっているじゃないの。ゴミはゴミ箱に、ちゃんと入れないとダメですよ」

 言いながら号外をゴミ箱に入れ直そうとする。が、号外の記事に目をとめ、

「まあ! なにこれ! 凄いじゃない! 誰なんですか! これを作ったのは!?」

 益子美代が息を吹き返し、

「みんなも知りたい!

 美代も知りたい!

 一年B組、新聞部、益子美代!」

 市音先生が目を細めて、

「まあ、益子さんが作ったの! えらいわ! きっと面白い映画になるわよ! 先生って意外と特撮映画とか、大好きなのよね~。ウルトラマンとか~、仮面ライダーとか~、魔法少女ポワトリンとか~。この根倉七奈さん主演の魔法少女の映画も、すっごく面白そうだから、完成したら、ぜひ観せてちょうだいね!」

 益子美代がブルブル震えながら、

「特撮じゃないもん! 根倉七奈は本当に魔法少女に変身したんだもん! 美代はこの目で見たんだから! 絶対に見たんだから!」

 涙ながらにそう訴え、教室を出ていった。

 愕然とする市音先生がオドオドと、

「あの、先生って、何か、 おかしな事を、言ったかしら?」

 グラサンが、

「いや、全然おかしくないっすよ。そもそも、あの暗くて地味でダサい根倉七奈と、天真爛漫、天使のように可愛らしい魔法少女ナナナが同一人物であるという、とんでもない前提からして間違っとる」

 パンチがうなづき、

「だよな~。どう考えても、CGの合成だよな~」

 委員長が、

「そうよね~。最近はスマホで簡単に画像の加工とか出来ちゃうんでしょ、色々コラージュとかしてさ、悪用されると恐いわよね~」

 市音先生が、

「あの~、それはそれとして、朝の朝礼を始めたいと思います。今日はみなさんに重大ニュースがあるんです! そう! みなさんに、新しいお友達をご紹介します! 転校生ですよ~っ! ヨーロッパの小国、ガセネータン共和帝国から留学生として日本にやって来た、

 メフィー・ストーン・フェレスン小皇女さんですっ! はいっ、拍手拍手っ! パチパチパチ」

 大安中学の制服に身を包んだ、メフィーだった。

 突然の美少女の出現に、教室中が万雷の拍手喝采、雨あられに包まれる。

 市音先生が咳払いし、

「では、メフィーちゃん。自己紹介をどうぞ!」

 メフィーが教卓の上に登り、

「聞けっ、愚民ども!

 ガセネータン共和帝国、

 メフィー・ストーン・フェレスン小皇女は世を忍ぶ仮の姿! 

 その正体は!

 悪魔界においても名高いメフィスト・フェレス!

 大悪魔そのものじゃ!

 愚民ども!

 なれなれしく余に近づくでないぞ!」

 めっちゃ正体をバラした。だけど、教室中が万雷の拍手喝采、雨あられに包まれる。

 グラサンが、

「なかなかユニークなキャラ設定じゃないか、メフィーちゃん。ぜひ俺の映画で使ってみたいなあ! ちなみに俺は、映画研究部で監督をやっているから。将来はクロサワやスピルバーグを目指す、世界の、

 サング・クラゾウだ!」

 パンチが、

「本当に、今やヨーロッパでも日本のアニメ、ゲーム、ラノベが大人気なんだね~。こんな小さな可愛いお嬢ちゃんにまで、強い影響を与えちゃって。マニア、ネクラ、オタク、と蔑まれてきた過去が、まるでウソみたいだよ。ちなみに俺は、2・5次元演劇部に所属している、2・5次元役者だ。そこんとこヨロシク」

 委員長が、

「今度、ぜひ美術部のモデルになってね☆メフィーちゃん!」


   ☆3☆


 昼休み、メフィーが肩を落としながら、

「余は本当に大悪魔なのに、誰一人、信じてくれないのじゃ」

「まあまあ」

 ボクは慰める。

 七奈が、

「ムギくんは、オオカミ少年っていう童話を知っているかしら? 新聞部の益子美代は、大安中学では、そういう存在なのよ。ただ、記事の当事者以外は、面白がって、はやしたてる場合があるけど。ムギくんは、いつもスマホのエミュレーターで、レトロゲームばかりしているから知らないでしょうけど」

「全っ然、知らなかったよ。でも、そういうことなら、七奈が本当に魔法少女だっていうことは」

「たたのガセネタで終わるでしょうね」

 出薄巻奈が、

「何がガセネタですって? 

 根倉さん? 

 相変わらず、巻奈のムギくんとイチャイチャラブラブしまくってからに、ちょっと、くっつき過ぎです! もう少し離れなさい! 

 あなたは一人で魔法少女ごっこでもして遊んでいればいいんです!」

 平和な昼休みが、いっきに修羅場と化した。

 ボクは二人をなだめ、

「まあまあ、みんな仲良く」

「いいのよムギくん。あたしは平気だから」

 カタカタカタカタ、

 七奈が激しい貧乏揺すりを始める。

 イラついた時のクセで、徹底抗戦の合図だ。

「いや、だからさ」

 その時、巻奈のスマホから、ガンパレード・マーチの着信音が鳴り響く。

「あっ、おじい様からの電話だわ」

 巻奈が少し離れ、

「おじい様ですか? 巻奈です」

 巻奈から数席離れた場所に座っていた不破人が、

「おじい様ではない! 

 ハメッツー団首領、ファウストだ!」

 巻奈がデウス・エクス・マキナモードに入って、

「はっ! 

 ファウスト首領! 

 何でしょうか?」

 不破人が、

「今回の作戦を伝える。前回の、青空ムギ拉致計画は失敗に終わった。その最大の原因は何だ?」

 巻奈がシレっと、

「クモーンが弱かったからです。おじい様」

「おじい様ではない! ファウストだ!」

「はっ! ファウスト首領!」

 不破人が言い含めるように、

「よいか、マキナ! 現代科学の、先の、先を行くオーバーテクノロジーに加え、魔導の力をも組込んだ魔導機獣は、この世界においては絶対無敵! 人間には決して太刀打ち出来ない驚異だ! だが、ここに新たな、予期せぬ強敵が現れた! それは誰だ!」

 巻奈が、

「私にとっての強敵は、私自身です!」

 不破人がムッとしながら、

「クモーンを倒すほどの強敵だ!」

 巻奈が、

「クモーンが弱かったからです!」

 話が堂々巡りをしている。

 どうやらマキナは、ナナナを強敵として認めたくないらしい。

 不破人が、

「くっ、そこは曲げないということだな。仕方がない。では、言い方を変えるとしよう。前回の戦いにおいて、我がハメッツー団の障害となった少女は誰だ!」

 巻奈が、

「自称、魔法少女ナナナです。ただのコスプレ少女です」

 不破人が、

「ヤツは強敵だ! 

 そこで、今回はナナナの正体を暴くことを目的とした作戦をたてる! 

 将を射んとすれば、まず馬! 

 作戦を説明する! 

 大安中学の優秀なジャーナリスト、益子美代が魔法少女ナナナの正体を嗅ぎ付けた、との情報が今朝、ワシの耳に入った。

 その情報によると、このクラスの根倉七奈こそが、

 魔法少女ナナナの正体である! 

 ということらしい。

 灯台もと暗しとは、このことだ! 

 次の作戦は、ワシみずから魔導機獣ゲローデムで出撃する! 

 そのさい、マキナは根倉七奈にピッタリとマークし、決して目を離してはならん! 

 キッチリ、最後まで見張るのだ! 

 以上!」

 巻奈が嫌そうに、

「ゲローデム。あの気持ち悪いヤツですか?」

「気持ち悪くない! 液状型万能ナノマシーンだ!」

「黒いゲロみたいなスライム」

「ゲロでもスライムでもない! ゲローデムだ! とにかく、今回の作戦には、ワシが出撃する! マキナは根倉七奈を見張りやすい場所に誘き出し、決して目を離さないこと! よいな! では、いつも通り、せーの!」

 巻奈と不破人が、

「「ハメッツー! ハメッツー!」」

 ハモった。

 通話を終えると、巻奈がしばし黙考、チラッと視線をメフィーへ向けて、教卓の上へ駈け上がると、

「みなさん! 聞いてください! 遠い異国から、はるばる日本へやってきたメフィーさんのために、歓迎会を開きたいと思います! どうでしょうか?」

 突然の提案に、グラサン、パンチ、委員長をはじめ、クラス全員、部活だ、塾だ、趣味だと、忙しい、忙しいと、ブーブー文句をたらす。

 巻奈が、

「参加した全員に現金五万円をもれなくプレゼントします。さらに、歓迎会のメインイベント、仮装パーティー大会に優勝した方に、優勝賞金一千万円を進呈します! 歓迎会は後楽園遊園地で、仮装パーティー大会は東京ドームで行います。こんなイベントでよろしいかしら?」

 教室が揺らぐような歓喜の声に包まれ、

 巻奈が念を押すように、

「では、全員参加ということで、よろしいですね?」

 いいともーっ!

 満場一致で可決した。


   ☆4☆


 遊園地は貸し切り状態だった。

 乗り物は全部タダ。

 ボクはとりあえず観覧車に乗った。

 そのあとすぐ七奈が乗り込み、巻奈も乗ろうとするけど、

「余も乗るのじゃ~っ!」

 突然メフィーが割り込み、巻奈は締め出され、係員によって無情にも扉が閉められる。

 巻奈が目に涙を浮かべて悔しがる。

 メフィーが、

「あの娘は気に入らぬ! 心にもない歓迎会など開きおって!」

 七奈がボソッと、

「あたしを見張るワナ」

 ボクが、

「ワナでも、楽しいことに変わりはないから、楽しめばいいよ。全部無料だし。ところで七奈って、魔法少女ナナナに変身すると、姿もそうだけど、性格もずいぶん変わるんだね」

 七奈がボソッと、

「それは、普段のあたしが、地味で暗くてダサい、ということかしら?」

 メフィーが、

「その通りなのじゃ!」

「ちょっとメフィー!」

 ボクはあせる。

 カタカタカタカタ。

 七奈が激しい貧乏揺すりを始める。

「いいのよ、本当のことだから。でも、魔法少女ナナナこそが、真のあたしの姿なのよ。つまり、シン・ナナナ、といったところね」

「さっぱり意味がわからないんだけど?」

「つまり、人間の性格は、生まれた環境や、受けた教育によって、大きく変わるということよ。あの暗くて、やけにだだっ広い、古~い洋館に育ち、ホコリにまみれた魔導書と、子供をかえりみることもない、魔術に没頭している魔術狂の両親から、嫌というほど魔術を叩き込まれれば、誰だって自然とあたしのようになるはずよ。でも、本当のあたしは、きっともっと違うのよ。もしも、あたしが普通の家庭に生まれて、普通に育っていたなら、きっと、魔法少女ナナナのように、元気で明るい女の子になったはずなのよ。あたしは魔法少女ナナナに変身することで、本来の、真の根倉七奈になるのよ」

「だから、シン・ナナナなんだね」

「そう、シン・ナナナなのよ」

 メフィーが無邪気に、

「シン・ウルトラマンみたいじゃな!」

 七奈がジト目でメフィーをにらんだ。

 NGワードみたいだった。

 ボクは気を取り直して、

「ところで、ハメッツー団のことなんだけど、やっぱり、巻奈と不破人が交わす、スマホの会話を聞いていると、ハメッツー団とスゴい重なっている部分があるなあって、思うんだけど」

 七奈があっさりと、

「偶然の一致ね」

「でもほら、クモーンの名前とか、今回のゲローデムも。たぶん、本当に知っていたかもしれないじゃん」

 七奈がボソッと、

「インターネットには様々な情報が流れているわ。ゲローデムの名前も昨夜から、誰が広めたか知らないけど、ネットで周知の事実になっているわ。ハメッツー団やクモーンの情報も、調べてみたら一週間以上前から色々なSNSに書き込みがあったわ」

 ボクは驚いた。

「そうなの!」

「そうなのよ。それを元にした妄想が、たまたま似たような状況になったのね」

「そ、そうかな~?」

「ムギくん! ムギくんは知らないだろうけど、こういう事は、世の中にはまま、あることなのよ。

 例えば、あくまで、この話は、例えば!

 の話よ。

 ここにライトノベル作家を目指すNという女の子がいたとするわ。

 Nはそりゃあもう、一生懸命、艱難辛苦を乗り越えて、命がけでラノベの超大作を書き上げたのよ。

 Nは自信満々で懸賞小説に自分のラノベを投稿したわ。

 ところが!」

 七奈が胸を押さえ、つかみかからんばかりにボクに迫り、一にらみしたかと思うと、

 ゼハー、ゼハーと、

 深呼吸して乱れた息を整えた。

「いい、これは本当にあった話じゃないのよ。

 あくまで、あくまでも、仮の話だからね。

 ともかく、投稿したラノベは一次落ち、しかも大賞を取った小説は! なんてこと! あたしの書いたラノベと、さして違いのない設定、内容、タイトルまで似たり寄ったりじゃないのよ!

 嘘でしょ!

 どんな偶然よ!

 どんな神様の悪戯よ! どういう事よ説明してよ!

 あたしは絶叫したわ。ところが、その後あたしがインターネットで同じ設定や内容の小説を検索してみたところ、驚愕の事実が判明したのよ!」

「へ、へ~」

「そう!

 似たような本が、すでに数十冊、出版されていたのよ!

 あたしは愕然としたわ!

 これじゃあ一次落ちしても仕方ないじゃない!

 でも、よ~く考えてみたら、人は同じようなアニメを見て、同じようなゲームをやって、同じようなラノベを読んでるんだから、同じようなアイデアが浮かんでくるのは当然の事じゃない!

 そこで、さらに一歩踏み込んで、考えなきゃいけなかったのよ!

 と、あたしはさとったわ。

 話が随分それたけど。つまり、あたしが言いたいのは、人間って、考えることは、

 みんな全部!

 一緒だって!

 事なのよっ!!!」

 最後は絞り出すような絶叫だった。

 真っ赤に血走った瞳に涙をいっぱい浮かべ、青白い玉の肌から脂汗をダラダラ流し、紫色に変色した唇をブルブル震わせながら力説する七奈を前に、ボクは返す言葉もなかった。

「う、うん。そ、そうだよね。七奈の言う通りだよ。きっと、偶然の一致だよね!」

 七奈は否定するだろうけど、どうやらボクは、絶対に触れてはいけない、七奈のトラウマに触れたらしい。

 ボクはこの問題を、ボクの胸の中だけに、永遠に封印することにした。

「次は遊園地の定番、ジェットコースターにしようかな」

 観覧車を降りたあと、ボクがそう言うと、

 メフィーが小さな胸を誇らしげに張り、

「フフン! 

 あんな小さな乗り物! 

 たいしたことないのじゃ! 

 でも、ムギがそうまで乗りたいと言うなら、仕方がないのう! 

 乗ってやってもよいぞ!」

 目をキラキラ光らせながら、ワクワク気分を隠そうともせず、メフィーが楽しそうにそう言った。

「やっぱりやめようかな?」

 ボクがつぶやくと、途端に泣き出しそうになるメフィー。

「でも、やっぱり乗ろうか」

 メフィーがパッと顔を輝かせ、

「うむ! 何事も体験せねばわからんからな! つまらんと思っても、実際に乗ってみたら、結構、面白いかもしれんぞ!」

 ということで、みんなでジェットコースターに乗り込んだ。

 メフィーがはしゃぎながら、

「おお~っ! 

 カタコト、カタコト、上がっていくの~。しかし、この程度では、たいしたこ、と、とっ、

 おおおっ! 

 んなっ! 

 んぎゃああああああああああ! 

 ぐおおおおっ! 

 んあああああっ!」

 メフィーが絶叫を連発した。

 ジェットコースターが終わりを告げ、メフィーがフラフラしながら降りてくる。

「フ、フフ、な、なかなか、やりおるでわないか。ジェットコースターの奴め、余をここまで追い詰めるとはな」

「次はパラシューターに乗ろうか?」

 メフィーがパラシューターを見上げて、

「フフン! 

 上まで上がって降りてくるだけの子供だましなマシーンじゃな! 

 芸がないのう!」

「じゃあやめ」

 みなまで言わせずメフィーが、

「じゃがムギが、どうしても乗りたい! 

 と言うなら、仕方がないのう! 

 よし! 

 全員、乗るのじゃ!」

 こうしてボクらはパラシューターに乗り込んだ。

 メフィーが街を見下ろし、

「おお~っ! 

 見晴らしがいいのじゃ! 

 東京ドームの中まで丸見えなのじゃ! 

 って、んぎゃああああああああああ! 

 落ち! 

 るうううううっ!」

 パラシューターが地上に戻り、フラフラしながらメフィーが出てくる。

「フ、フフ、突然の奇襲攻撃に、ほんのチビっとビビったわい! じゃが、余の戦いはこれからじゃ!」

 フラフラしながらシャドーボクシングを始めるメフィー。

 だいぶ混乱しているらしい。

「よし、じゃあ次は」

「待て待て、待て~い! 

 今度は余が選ぶのじゃ! 

 うむ! 

 あれがよい! 

 あれに入ろう!」

 見るとお化け屋敷だった。

 メフィーが自信満々に、

「魔界の者に慣れ親しんできた余にとって、人間どもが想像で作った、作り物のお化けなど、一切通じぬは! ウハハハハ!」

 お化け屋敷に入って三秒後、

「ひいっ! 

 ひぎゃああああああ! 

 ぐはあああおっ! 

 うひいいいいいっ!」

 ジットリと嫌な冷や汗をかきながら、真っ青な顔をして、メフィーがお化け屋敷から飛び出してくる。

「う、うむ! 

 想定外のリアルさじゃわい! 

 チビっとだが、キモが冷えたの!」

「次は何にしようかな?」

 巻奈が、

「ぞろぞろヒーローショーの時間ですよ。みなさん、そちらへ参りましょう」

 定番のヒーローショーだった。

 さすがのメフィーもマギキュア☆セブンショーは絶叫することなく、心から楽しんでいる様子だった。

 握手会も終わり、巻奈が、

「最後はお楽しみの仮装パーティー大会です。衣装は巻奈のメイドが厳選して、たくさんご意しましたから、好きな仮装を心から楽しんでください」

 巻奈の案内に従い、東京ドームに入ると、メフィーが困惑気味に、

「余は悪魔界の大悪魔じゃ。なのに、悪魔の敵である神の子。人間とともに、こんなに楽しく遊んでいて、果たしてよいのであろうか?」

 ボクが、

「楽しいことをするのに、敵も味方もないんじゃないかな。素直に楽しめばいいんだよ、メフィー」

「本当に、それでいいんじゃな、ムギ?」

「メフィーがイヤじゃなければ」

「ムギのオロカモノめ! 楽しくないわけが、ないであろう!」

「仮装パーティーも楽しみだね」


   ☆5☆


 東京ドームの中は仮装用の衣装が、山のように積まれ、並んでいた。

 そのまわりに軽食や飲み物の置かれた長いテーブルが設置されている。

 ドームの壁に沿って、豪華な更衣室と簡易トイレが複数、設置されていた。

 ボクが気になったのは、さりげなく入口を封鎖する、メイドのスタッフたちだ。

 七奈がボソッと、

「完全に袋のネズミね。ハメッツー団が動くのも時間の問題よ」

「それで、ちょっと考えたんだけど、ゴニョゴニョ」

 ボクは小声で七奈にささやく。

 それを聞いた七奈が感心しながら、

「なるほど、この仮装パーティーを利用するということね。たしかに、その方法なら、巻奈の目を誤魔化せるかもしれない」

 メフィーがふくれっつらをしながら、

「なんじゃ、なんじゃ、余に隠し事とは、けしからん奴らじゃのう」

 ボクは、

「メフィーにもやってもらいたい事があるんだ、ゴニョゴニョ」

 ボクがささやくと、メフィーが瞳を輝かせ、

「フムフム、誰にも気づかれずに、密かに扉を開けておいてくれ。という事じゃな。その程度なら楽勝じゃ!」

 巻奈が、

「何が楽勝ですの? さあ、仮装パーティー大会が始まりますよ! 早く着替えてくださいまし!」

 ボク、七奈、メフィーの三人が、目配せをしながら、衣装の山に向かう。

 十分後、

 巻奈が大型ビジョンの下に設置された、特設会場に登壇し、

「では、これより仮装パーティー大会を開催します! 最初はロボ不破、じゃなくて、出薄不破人くんです!」

 ロボットのようにカクカクと歩きながら、不破人が壇上に上がる。

 全身をおおう黒いマント。

 その下はタキシード。

 手には金色に輝く、丸い握りのついたステッキ。

 顔半分を隠すマスクをその場でかぶり、

「ハメッツー団、首領、ファウスト、デス。今後トモ、ヨロシク」

 なんだかロボットめいた挨拶を済ませ、壇上を降りる。

 でも、女子には馬鹿ウケしていた。

 美少年は何をやっても女子に受けるな。

 念のため、ネットでファウストの事を検索したら、かなり前から不破人と同じ格好のコスプレやイラストが、大量にアップされていた。

 その後、次々に生徒が登壇して、仮装を披露した。そして、ついに主役のメフィーの番になる。

 メフィーが小さな胸を張り、

「ウハーハッハッ! 

 大悪魔メフィスト・フェレスの仮装なのじゃ! 

 制服より、こっちのほうがしっくりくるのうっ!」

 要するに、いつもの悪魔姿だった。

 そして、七奈も壇上にあがりボソッと、

「魔法少女七奈です」

 グラサンが激怒し、

「どこがナナナさんじゃあああっ! 

 似ても似つかんわ! 

 ナナナさんを冒涜する気か! 

 魔法少女ナナナ・ファンクラブ会員ナンバー777をなめんなよ!」

 グラサンの罵倒に続いて、委員長が、

「まあ、衣装はね~。まんま、魔法少女なんだけど、いかんせん根倉さんじゃ~、ちょっとイメージに合わないかな~」

 他の生徒もブーイングをはじめ、ムッとした顔つきで七奈が壇上を降りた。

「次はいよいよ、お待ちかね! 

 青空ムギくんです! 

 真打ち登場です! 

 はいっ拍手! 

 拍手!」

 異様にテンション高く紹介する巻奈だが、生徒の反応はいまいちだ。

 七奈とメフィーだけが喜んで拍手していた。

 ボクは壇上にあがり、

「青空ムギだワン」

 と一声発した。

 ダブダブの全身をおおう犬の着ぐるみに、犬耳のフードも付いていた。

 全身をおおっているので顔しか出ていない。

 巻奈が感動したように、

「凄い! 超・可愛いいっ! ムギくん超・最高っ!」

 巻奈だけが狂喜乱舞し大絶賛する。

「ということで仮装パーティー大会の優勝者はムギくんに決定したいと思います。ではムギくん賞金の一千万円をどうぞ」

 いきなり一千万円を渡されて、

「え! でも」

 ボクが躊躇すると、詩音先生が飛び出してきて、

「いけません! 

 いけません! 

 先生は許しませんよ! 

 賞金が高すぎます! 

 学生には、学生にふさわしい金額があります! 

 もっと減らしなさい!」

 すると巻奈が、

「では賞金は千円にします。なお、賞金が下がったので、参加特典もそれに合わせて百円にします」

「えええーーーっ!」

「ウソだろーーっ!」

「マジかよーーっ!」

 と生徒は大ブーイング。

 それでも、なぜか珍しく、市音先生は食い下がった。

「学生の本文はお勉強です! そして、働かざる者、お金を取るべからずです!」

 変な格言に納得のいかない生徒たちが、市音先生に猛反発。

 どうにも収拾のつかない状態で、突然、警戒アラームがドーム内に響き渡る。

 大型ビジョンにアナウンサーが登場した。

 昨日のスペシャル報道番組に出ていた司会者だ。

『緊急速報です。今回は国会より生中継いたします。ただいま、ハメッツー団の機獣ゲローデムが、お茶の水方面に出現しました。その後、東京ドームへと向かい進撃中です。なお、ここで、本日づけで更迭された出手育蔵、元・国防大臣にかわり、新たに国防大臣に任命された、是連好子新・国防大臣の記者会見を行います。是連国防大臣、どうぞ』

 是連国防大臣が、

『今回、二個大隊の戦車、ヘリ、戦闘機を出撃させ、一個大隊は機獣ゲローデムの破壊へ、もう一個大隊は魔法少女ナナナの捕獲へと向かわせます、この作戦は』

 うんぬん。

 報道の途中で、ボクと七奈は衣装の山に向かって走り出す。

 いち早くそれに気がついた巻奈がボクらを追ってくる。

「お待ちなさい! 

 なぜ逃げるのですか? 

 もしや根暗さん! 

 あなたが魔法少女ナナナなんじゃ!」

 すでに衣装にまぎれていたボクは、すぐに犬の着ぐるみを脱ぎ、七奈に渡す。

 素早く七奈がそれを着ると、メフィーの待つ扉へ向かった。

 ボクはそのまま多目的トイレへ向かう。

「待ちなさい! 根倉さん!」

 案の定、巻奈がボクを七奈と間違えて追ってくる。

 ボクは犬の着ぐるみの下に、魔法少女ナナナの仮装をしていたんだ。

 背丈も体型も比較的似ているから、たぶん引っ掛かるだろう、と思って立てた作戦だった。

 ボクは多目的トイレに入ると鍵をかけた。

 あとは七奈が外に出て、本物の魔法少女ナナナに変身してくれれば、七奈がナナナである疑いは晴れるだろう。

 トイレの扉を巻奈が叩く。

「観念して出てらっしゃい! 

 あなたこそが、魔法少女ナナナであることは! 

 先刻承知ずみです!」

 扉の外でメフィーの声がする。

「何を言っておるのじゃ、巻奈。魔法少女ナナナなら、もうとっくにゲローデムに向かっておるのじゃ。あの大型ビジョンを見てみい!」

 メフィーがそう言うと、巻奈が驚いたように大型ビジョンの生中継画面に映るナナナを見ている様子がし、

「まっ、まさか! 

 でも確かに、あれは魔法少女ナナナだわ! 

 ということは、ここにいる根倉七奈と、魔法少女ナナナは別人とうこと? 

 ともかく、そうとしか説明がつきません。となると、七奈さんに用はありません! 

 おじいさま、もとい、ハメッツー団、魔導機獣ゲローデムの戦いぶりを見なければ!」

 巻奈が走り去ったので、メフィーが、

「もう大丈夫なのじゃ! 巻奈は大型ビジョンの前に行ったのじゃ、衣装の影になるから、こちらは見えぬのじゃ!」

 ボクは恐る恐る多目的トイレから出ていく。

 実は、魔法少女の衣装の下から、さらに体操着を着ていた。今は体操着姿だ。そして、魔法少女の衣装は、衣装置き場に返してきた。

 メフィーが、

「暑かったじゃろう。体操着、魔法少女、犬の着ぐるみ、の三段重ねは」

 ボクは首を振り、

「大丈夫だよ。それより、ナナナはどうなったの?」

 ボクとメフィーは大型ビジョンの前を陣取る生徒たちの、ちょっと後ろに立って見た。

 大型ビジョンに映るナナナは、とんでもないことになっていた。

 自衛隊の戦車、数百台に囲まれ、ナナナがジャンプ。

 戦車の砲頭がナナナを狙って旋回し、一斉に火を吹く。

 ナナナに直撃。

 するが、ナナナ・カッター数十枚を重ねた盾で集中砲火をしのぐ。

 ナナナ・シールドとでも呼ぼうか。

 ナナナが叫ぶ。

 その悲痛な叫びが、ボクにも聞こえる気がしたた。


   ☆6☆


「みんなやめて! 

 何で魔法少女のあたしを攻撃するの! 

 あたしは何も悪くないのに! 

 悪いのは、ハメッツー団の魔導機獣ゲローデムだよ!」

 が、自衛隊は聞く耳など持たない。

 ナナナの着地と同時に機銃掃射。

「ナナナ・シールド! 

 あ~んど、パンチ!」

 ナナナ・シールドごと戦車に向かって拳を振るう。

 ゴワンッ!

 重たい、鈍い音とともに、戦車が吹っ飛んでいく。

 後方の戦車の機銃手が呆気にとられながら、とっさに機銃掃射、

「邪魔しないで!」

 ナナナが弾丸を左手ですべて受け止め、

 それを全部、投げ返す。

 弾丸は光の尾をひきながら戦車を貫通。

 ボガン!

 戦車が爆散する。

 それでも、数で圧倒する戦車軍団が次々にあらわれ、ナナナを取り囲んでいく。

 四方八方から発射される砲弾の雨アラレ、ナナナはナナナ・シールドで全弾防ぐ。

「も~っ! 

 わからず屋ばっかり! 

 あたし、怒っちゃうよ!」

 ナナナが目にも止まらぬ早さで戦車を持ち上げると、装甲体を、

 ガシャンッ!

 と引き裂き、大空に向かって投げ棄てる。

 他の戦車も千切っては投げ、千切っては投げ、

 時には、鋼鉄の悪魔どもをナナナ・チョップでぶっ叩き。

 ナナナ・パンチで撃ち砕く。

 破竹の勢いでナナナが数百台の戦車をスクラップに変えていく。

 すると、今度は対戦車・重武装ヘリの大軍が、無数のハエのようにナナナに群がり、頭上から重機関銃の弾丸を、雨アラレとばかりに射ってくる。

 ナナナは戦車の破片を抱え上げると、ヘリに向かって投げつける。

 ローターや機体の各所が破壊され、瞬く間にヘリが撃墜されていく。

 対戦車・重武装ヘリでも、ナナナが相手では、ものの数分と持たなかった。

 最後にジェット戦闘機、数十機が出撃し、

 ギイイイィーッンッ!

 大気をつんざく轟音とともに飛来する。

 F15・イーグルだ。

 バシュ、バシュ、バシュッ!

 機体下部から次々にミサイルが発射され、長い尾を引きながら、高速でナナナに迫る。

 ナナナが神速のスピードで地上を突っ走り、右に、左に、次々に爆発するミサイルをかわす。

 ナナナが、ジャンプ!

 F15の主翼に飛び乗り、

「ナナナ・チョップ!」

 手刀で主翼を叩き折る。

 落下する機体を足掛かりに、次のF15に飛び移る。

 同じように主翼を叩き折る。

 まるで源義経の八艘飛びのように、飛び移っては、主翼を叩き折っていく。

 それを繰り返し、ついに全ての戦闘機を撃墜してしまった。

 ここで大型ビジョンの画面がハメッツー団の側に切り替わる。


   ☆7☆


 ナナナ戦と同じ規模の一個大隊の自衛隊が、ハメッツー団の機獣ゲローデムを取り囲む。

 ゲローデムは付近のビルより巨大な、でかくて黒いスライムだ。

 液状化している内部からコックピットがせりあがり、

 ハメッツー団、首領らしきファウストが姿をあらわす。

 ネットにアップされているファウストの姿と一緒だった。

 ファウストが声も高らかに、

「ようこそ自衛隊の諸君! 

 我こそは、ハメッツー団、首領、ファウストである! 

 貴君らをゆっくり、おもてなししたいところだが、あいにく、今日はちょっと忙しい。さっそくだが、早く終わらせるとしよう。かかってきたまえ! 

 自衛隊の諸君!」

 ファウストがコックピットに戻るとゲローデムが内部に取り込む。

 自衛隊指揮官の、

「撃て、撃てっ、撃ちまくれっ!」

 号令一下、

 地をはう戦車。

 ハチのようにブンブンうなるヘリ。

 大空を駆けめぐる戦闘機がゲローデムに向かって、雨あられのごとく砲弾、弾丸、ミサイルを大量にばら撒く。

 ゲローデムの液状装甲は、その全ての攻撃を吸収し、

「自衛隊の諸君! ありがたいプレゼントをありがとう! と、言いたいところだが、すべてお返しする! 撃ってきたという事は、撃たれる覚悟があるのだろう!」

 ファウストの不敵な声が響き、

 ゲローデム体内に吸収された砲弾、弾丸、ミサイル。

 その全てが反転、自衛隊に向かって全弾、射出される。

「ばっ! 馬鹿なっ!」

 自衛隊指揮官の悲痛な叫びも虚しく、戦車、ヘリ、戦闘機が一瞬で壊滅した。

「フハハハッ! 

 さらば! 

 自衛隊の諸君! 

 次は、もう少し手応えのある戦いがしたいものだな! 

 ハーハッハッハッ!」

 ファウストの哄笑が響くなか、

「そこまでだよ! ハメッツー団、首領、ファウスト!」

 ナナナがビルの屋上に降り立ち、ゲローデムと対峙する。

「クックック。真打ち登場だな、魔法少女ナナナよ! 

 ワシの計画の障害となる奴は、生かしておかぬ! 

 今のうちに慈悲を乞うがよい! 

 そうせねば、必ず後悔することになるぞ!」

 ナナナがきっぱりと、

「後悔なんかしないもん! 

 ファウスト! 

 あなたを倒して、平和を絶対! 

 取り戻す!」

「ぬかせ!」

 ゲローデムが触手を無数に伸ばしナナナを捕まえようとする。

 ナナナが触手を避けつつ、

「ナナナ・カッター!」

 反撃する。

 が、自衛隊の攻撃と同じようにカッターはゲローデムの体内に吸収された。

 ファウストが勝ち誇る。

「無駄、無駄、無駄あああ!」

 ゲローデムがナナナ・カッターを射出、ナナナに向かって飛んでくる。

「ナナナ・シールド!」

 防御するが、その一瞬の隙をつき、触手がナナナの足に絡み付く。

「しまった! 気持ち悪~い!」

 あっという間にナナナの全身がゲローデムに包まれる。

「これで終わりだな! いったい何分、耐えられるかな?」

 このままじゃ息が出来なくて窒息する!

 ボクはブルブル震えながら、だけど、ある考えが閃く。

「そうだ! 貧乏ゆすりだ! 貧乏ゆすりだよ! ナナナ!」

 ナナナが口をパクパクさせながら、

 貧乏ゆすり?

 と、言ったような気がする。

 次の瞬間、

 ズズズズズ!

 大型ビジョン前の生徒たちが、

「何? 地震か!?」

「地震だ! 地震だ!」

 物凄い震動だけど、これは地震じゃない。

 ナナナの貧乏ゆすりだ。

 その証拠に、大型ビジョンに映るナナナの身体が紅蓮の炎のように赤く輝き始める。

 ファウストが驚いたように、

「な、何だ!? ナナナの周囲の温度が、突然、急上昇している!」

 そう。ナナナの超・高速、貧乏ゆすりは、物体の最小単位である原子核ですら高速で揺らす。

 原子は高速で揺れると熱を持つ。

 たとえ液状のゲローデムでも、この熱からは逃げられない。

 ナナナが叫ぶ。

「ナナナ・ビーム!」

 ナナナが閃光に包まれ、超高温の熱線が三百六十度、全方位に放たれる。

「ちいいっ! 脱出!」

 ファウストが脱出ポッドで逃げた瞬間、

 核爆発のような炎が巻き起こり、凄まじい爆風が発生。

 爆心地から半径三百メートル圏内は瞬時に蒸発。

 三キロ圏内は爆風で全てが吹き飛んだ。

 後楽園遊園地と東京ドームもほぼ全壊した。が、生徒もスタッフも奇跡的に助かった。

 その後、政府の公式発表によると、この戦いにおける総被害額は、三百七十二億円。自衛隊二個大隊の損害が相当に大きかったらしい。

 だけど、

 幸いなことに、

 今回も死傷者は奇跡的にゼロだった。


   ☆8☆


 翌朝、大安中学へ行くと、校舎の入口横にある掲示板の前で益子美代が声も高らかに叫んでいる。

「みんなも知りたい!

 美代も知りたい!

 一年B組、新聞部、益子美代! 

 の、超スクープ!

 な、なんと!

 あの大安中学一の美少年!

 出薄不破人の正体は!

 なんと!

 ハメッツー団、首領、ファウストだった!

 みんな号外を読んでね! 

 読んでね!」

 ボクが渡された号外を見ると、確かに不破人がハメッツー団、首領、ファウストの姿に着替える写真が載っていた。

 でも、昨日の仮装パーティー大会で不破人は同じような格好をしていたし。

 そもそも、ナナナがファウストと戦っていた時、不破人は東京ドームにいた。

 不破人イコール、ファウストはありえない。

 号外をスルーする大多数の生徒たち。

 益子美代はめげずに、

「特ダネ!

 特ダネだよ!

 今世紀最大の、超・大スクープなんだから!

 みんな、もっと読んでよ~っ!」

 こりずに配っていた。

 めげない増子美代だった。


   ☆9☆


 ~次回予告~


「みんな~っ!

 ナナナだよ!

 今回、かな~り、ピンチだったけど、なんとか、魔導機獣ゲローデムをやっつけたよ!

 やった~っ!

 さて、次回の破壊神☆魔法少女ナナナは!

 えええ~っ!

 こんな内容なの~っ!

 これじゃ紹介する気にならないよ~っ!

 って!

 もう、時間がなくなっちゃった!

 とにかく、絶対面白いから、絶対に読んでね!

 それじゃ、またね~っ!」


   ☆つづく☆

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