混沌の始まり
孝之が小学4年に上がって少し経った頃、母親から「お父さんと一緒に居たい?」
そんな事を聞いてくるようになった。
孝之はこれっぽっちもそんな事は思ってなかったので
「ぜんぜん、一緒に居なくても平気だよ」
実際、父親など居なくても良かったし、一緒に居たいとも思ってなかったのだが、
母親が最近そんな事をよく聞いてくる。
不思議に思っていたある日、母親から
「お父さんが明日迎えに来るって」
「お母さんは一緒に居たいけど孝之はお父さんと一緒に居たほうがいいと思うよ。」
目に涙を貯めながらそう言われた。
訳が分からなかった、勝手に出て行って、
何年も経ってから迎えに来る?どういうこと??孝之は混乱した。
ほとんど、父親の存在を忘れていた矢先にそんな事を言われても、
受け入れられる筈もなかった。
しかし、母親の真顔でしかも涙を流す姿を見て事実なのだと
納得するしかなかった。
と同時に、自分には選択する権利はないことも知った。
次の日、父親が迎えに来た、学校で転校の挨拶をする事も
友達にも何も告げることが出来ずに・・・
家を出るときに母親が涙を堪えながら色々言葉を掛けてもらったが、
最後の「頑張ってね」その言葉しか覚えていない
玄関を出るときにわっと泣き崩れる母親の姿みながら
父親と一緒に家を後にした。
駅から電車に乗りこみ、自分の故郷だと思っていたこの場所を
あっさり離れることになった。
孝之は「なぜ今頃迎えに来たの」「僕はお母さんと一緒にいたい」と
何度となく父親に言おうとしたがその言葉を 飲み込んだ。
言っても無駄だと何となく分かっていたし、
言って聞くような父親でも無いことも分かっていた
なにしろ母親にひどい暴力を振るっていたことも知っていた孝之は父親が怖かった。
途中、父親が色々話しかけてきたが、ぜんぜん耳にはいってこなかった
「どこへ行くのだろ?」
流れる景色を車窓から見ながら考えていた
到着したのは、名古屋だった。