プロローグ
プロローグ
「あぁ・・・又か・・・」
中学2年になる孝之は心の中で、
あきらめに似た気持ちでそう呟いた。
孝之の目の前には、化粧の濃い水商売風の
30代後半位であろう女性が
親父の隣に座っていた。
香水の匂いが鼻につく、ほのかに匂うのではなく
体に纏わりつくようなキツイ匂いだ。
「あなたが孝之君ね」
「これから一緒に住む事になった千代です、よろしくね!」
「よろしくお願いします。」
孝之は義務的に返事を返す。
と、同時にこれで何人目なのかと
数えはじめ、5人目という結果にたどりつく
なぜ、こんな親父にのこのこ付いてくるのか
孝之は不思議だった。
親父は別段取得もないし、顔だってそんなに
整っているわけでも
流行りの俳優に似ている訳でもないし
お金を持っているわけでもない。
只の普通の何処にでも居る中年のオヤジ
いや普通ではないのかもしれない
普通であれば、孝之が覚えているだけでも
過去に4人の女性が日替わり定食のごとく
入れ替わるなんて ありえない事だろうから。
孝之は、最初の3人目位までは
「お母さん」と呼んでいた。
しかし、4人目からは馬鹿らしくなり
「お母さん」とは呼ばなくなった。
親父の身長は160cmくらいで
そんなに太ってなく中肉中背といったところ。
転職を繰り返したあげく、今では定職に付いていない
どうやってお金を稼いでいるか
孝之には皆目見当がついていなかった。
孝之は、友達に「お父さんの仕事は何をやっているの?」
と父親の仕事を聞かれるのが嫌だった
どんな仕事をしているか分からなかったし
たとえ答えたとしてもすでに仕事が
変わっている場合が多々あったからである
そんな時は、決まってこう答えた。
「工場勤めだよ」
「何か作っているらしいけど、良くわからないや」
それ以上聞いてくる友達は居なかった
そんなに興味は無かったのだろう。
親父はいつもお金がないのは知っていた
孝之が新聞配達で稼いだお金も貸してくれと
持っていくのは日常だし
アパートの家賃も期日通りに支払った事が
無い事でもわかる 。
お小遣いは、もうずいぶんと貰った記憶がなかった、
そのための新聞配達だった。
「今度は、いつまでもつかな?」
親父とその女性を見つめながら孝之はそんな事を
ぼんやり考えていた。
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