第1話 ありがちな転生
僕はなろう系の小説が好きだ。
だからこそ、なろう系でありがちな流れは断ち切りたい。
でも現実世界では、それほどうまくいかない。
そんなこと、僕も分かっている。
その日は何の変哲もない普通の日の朝だった。
ただ、僕の体は連日の残業で疲れていた。
朝日が毒に感じられる程、僕は眠りを必要としていた。
でもそんな疲れ切った体でも、そのとき起こした行動は無意識だった。
僕の目の前には登校中の子供たちがいた。
同級生と談笑しながらグループで登校する沢山の子供たち。
僕はあるグループの先頭に立つ小さな女の子が目に止まった。
その女の子はおそらく班長なのだろう。
後ろをちらちら振り返りながら、不安げに子供たちを先導していた。
通学路は車通りが多い地域だった。
だからその小さな班長は、自分の役割をしっかり果たそうと頑張っていた。
交差点の横断歩道付近ではグループの子供たちに注意を払い、彼らが赤信号を無視して走り出さないように何度も確認していた。
信号が青に変わる。
彼女はグループの子供たちに横断歩道を渡りましょうと合図をした。
僕はその光景を微笑ましく眺めていた。
人生には、いくら万全の備えをしていても防げない事故がある。
このときもそうだったと思う。
大型の車が信号無視をして突っ込んできたのだ。
そして、その少女のグループはちょうど横断歩道の真ん中にいた。
テレビでたまに見かけるニュースが思い浮かんだ。
通学路で信号無視の車が子どもの列に突っ込む。死傷者多数。
まさにそんな状況だった。
グループの真後ろにいた僕には、咄嗟の事で動けない子供たちがよく見えた。
なぜ、僕にそんな余裕があったのかは分からない。
車の突っ込む位置から僕は安全圏にいた。
だから客観的に見れたのかもしれない。
僕が感心していた班長であろう女の子も、突然の事態に目を見開くばかりだった。
行動は無意識だった。
僕は勢いよく駆け出す。
まず、グループの手前で慌てふためく子供たちを無理やり後ろに追いやった。
驚きで動けない班長の女の子が目に入る。
彼女は身が竦んでいるのか、微動だにしなかった。
車は目の前まで来ていた。
僕は走り出し、女の子を突き飛ばした。
乱暴な助け方しちゃったね、ケガしてたら本当にごめん。
そう思いながら、僕はあっという間に車に跳ね飛ばされ、宙を舞った。
…
……
………
あれ…
ここは…?
目覚めたか。レント。
誰ですか、あなたは?
ワシはお主の世界ではゼウスと呼ばれておる。
ゼウス?
(なんだこのおっさん。
てかなんだここ?)
そうじゃ。
ゼウスって確か神様…
(神々しさが凄い…本物?)
そう。
じゃが、ただの神ではない。
全知全能の神じゃ。
全知全能?
そんな人がなんで僕の目の前に?
その説明をする前に。
お主は自分がここに来る前の出来事を覚えておるか。
覚えてないです…
いや、そういえば誰かのイメージが強く残ってる。
あれは…
…
……
小さな女の子。
そうだ。
僕は小さな女の子を助けようとしていた。
そして車に轢かれたんだ。
記憶は失われとらんようじゃな。
失われていない?
どういうことです?
ふむ。
順を追って説明してしんぜよう。
まず、お主は死んだ。
そしてその魂は別世界、お主たちの世界でいえば神の世界に招かれた。
神の世界?
だからあなたがいるのですか?
(これって、ありがちな転生モノじゃない?)
そういうことじゃ。
そして、ワシはお主の水先案内人という訳じゃ。
水先案内人…
そしてお主は神となった。