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ペナルティ。


「失礼します。」


ノックの後、武井がガラリと職員室の扉を開ける。


「あっ、武井さん、何度も携帯に連絡を入れたんですが」


目敏い学年主任の藤森が声をかけてくる。


「すみません。運転中だったもので吉井先生を送り届けて良かった。二度手間にならなくて済みましたわ。」


「いや、そう言う問題ではありませんよ。武井さん、何故連絡を入れたかは分かってらっしゃるんですよね?」


「ああっ、あの親子の事ですよね?謝りには言ったんですが物別れに終わりまして。学校に連絡してやる!って喚いてましたが来ましたか?」


苦虫を噛み潰したような表情で話す藤森にあっけらかんと返答する武井。それを聞いて藤森は呆れたような溜め息を漏らす。


「はぁーっ。武井さん、分かってらっしゃいますか?一生君は中学3年の大事な時期ですよ。ハッキリいってそんな時期に問題ばかり起こして他の生徒達にも悪影響なんですよ。」


「藤森主任、これにはちゃんとした理由があるんです。」


吉井が、ふたりの間に割って入りポケットから先程の親子と武井のやり取りを録音したスマートフォンを取り出そうとすると武井に服の袖を引かれ、後ろに引き戻される。驚いて武井の方を見ると小さく顔を左右に振ったあと藤森に視線を合わせ話し出す。


「そうなんですよ。一生にとってもクラスの皆さんにとっても大切な時期です。そこで、提案させて貰いたいんですが、アイツをこのまま夏休みの終わりまで休校させてもらえないでしょうか?」


「きゅ、休校?」


突然の提案に驚いて怯む藤森に畳み掛けるように武井が話しかける。


「夏休みまで1週間です。少し早いですがこのまま一生を休校にさせて頂きたい。アイツには今回起こしたことのペナルティとしてウチの施設で奉仕活動を行い自分を見つめ直してもらおうと思うんですよ。」


「急にそんな提案をされても、ちょっと校長と話してきますので談話室でお待ちください。吉井君、武井さんを談話室へお通しして。」


「はい、分かりました。武井さん、こちらです。」


談話室に通すと武井はソファーにどさりと座り込んだ。


「こりゃ、いいソファーですな。」


「武井さん、今はソファーの座り心地とか言ってる場合じゃなくて一生の事ですよ。どうして録音した音声を公開しないんですか?休校にしてくれなんて武井さん、どうかしてますよ!!」


吉井は、訳のわからない武井の提案に動揺し、苛立ちをぶつける。


「吉井先生、すいません!!」


ソファーに座り直し、姿勢を正した武井は深々と頭を下げた。


「一生の為でもあるんです。アイツの進路希望、吉井先生もご存じですよね?」


「あっ、フリーター。」


一生は、学校から渡された進路希望の用紙に進学は希望せずフリーターになると記入し提出していた。


「それじゃ、駄目なんですよ。アイツが駄目になる。今回の事を逆に利用してアイツに、一生に将来を見つめ直すチャンスを作ってやりたいんです!録音した音声は一生が休校に入ってからでも聞かせてやってください。どうか今は俺に話を合わせてください。お願いします吉井先生。」


また深々と頭を下げられ、それを見た吉井は提案を受け入れるしかなかった。


「分かりました。一生の為だと言うのなら僕も合わせますよ。」


「ありがとうございます。」


ガチャリ。

丁度話終えたタイミングで藤森主任と校長が談話室に入って来た。


「武井さん、一生くんの事ですが夏休みの終わりまで休校を希望されるということで本当によろしいんですね?」


開口一番、一生の休校について校長が口を開く。


「はい。是非そうさせて頂きたい。」


「先程、先方の親御さんとも電話で話させて頂いたのですが休校手続きを取ることに納得されていました。本来ならば、義務教育で休校処分はあり得ないの事なのですが、これは私達だけの内密な取引と言うことで。学校では病欠扱いと言うことでいいですか?武井さん。」


校長の言葉を引き継いで藤森主任が話を繋ぐ。武井が「それで結構です」と答えると藤森主任は薄い笑いを浮かべて


「期末テストも受けられませんので全教科零点の扱いとなりますがそれも了承頂けますね?」


と言った。その発言に少し動揺の色を覗かせた武井だったが直ぐに「分かりました」と提案を受け入れた。


「では、私達はこれで。」


校長達は去っていき、談話室にふたりが残される。


「武井さん、本当にこれでいいんですか?」


「いいんです。テストの一回飛ばしてもアイツの学力は相当なもんですから。それより問題は気持ちの方だ。明日から俺はそれを育てることに注力しますよ。吉井先生、今日はありがとうございました。では、これで。」


また頭を下げて武井は談話室から出ていった。


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