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第64話 選挙前哨戦

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 遺跡都市アクレアを襲った一連の機械龍騒動はティナたちの八面六臂(はちめんろっぴ)の活躍によって、被害は最小限に抑えられて、解決を見た。

 その後、応援に来た最後の軍団、軍団長の一人ガイウスの艦隊によって機械龍はディエルナへと輸送され、アクレアの町も元通りになり始めている。

 機械龍と一騎打ちを演じたティナは、冒険者たちから惜しみない称賛(しょうさん)を受け、今や、リントの名付けた通り、迅雷の金獅子姫として英雄となっていた。

 あれから早数週間が経ち、物語の舞台は再びアルテナの魔導学院へと戻る。

 ティナの機械龍討伐は、尾ひれのついた様々なうわさとなって学院にも伝え聞こえていた。それでも、事件の現場にいた冒険者たちほどの騒ぎになることはなく、学院に戻ったティナたちはまた普通の学生として、いつも通りの平穏な学生生活を送っている。

 もうすぐ夏季休暇期間ということで学院生たちは、久しぶりの帰郷(ききょう)に浮き足立っている。

 そんな中、夏季休暇を前に、重要な学院行事がある。

 生徒会長選挙の立候補者による演説会だ。

 これは、学院の一大行事である生徒会選挙の始まりを宣言するものであり、夏季休暇前に公示するのが慣例となっている。

 演説会を前にティナたちも学院の一室を借り、そこを事務所として、選挙戦への準備を本格化させようと話し合っていた。


「準備って言ったってなにもすることなくない? その立候補の演説? ってやつが終わったらすぐに夏休みじゃない。剣闘演武大祭もそのあとでしょ。そんなに急がなくても」


 死線を超えたばかりのルチアはまったく働く気が起きない。


「なに馬鹿なこと言っているの。生徒会長選挙では、この立候補演説が一番重要なのよ。ここで存在感を示せなければ、その候補はずっとうだつが上がらないまま敗北していくわ」


 メガネをかけたリントはじっくりとティナの原稿に目を通している。


「そんなことしなくたって今のティナなら圧勝よ。なにせ今やティナは機械龍を討伐した冒険者の英雄。えーっと、迅雷の、なんだっけ?」

「金獅子姫!」


 リントが声を張る。


「そう、それ。私たちも二階級上がって一気にゴールド級冒険者だし、選挙活動なんて頑張らなくても勝手に票が集まるでしょうに」


 ルチアはソファの上でごろごろとけだるそうにしている。


「手を抜いていたらすぐにバレて、支持率に影響するわ。それに人手も足りないし……」


 ティナのために選挙計画を練るリントだったが、予想よりも人が集まっていない。

 ドラドニア派閥のトップであるリントが一声かければ、いざ、と駆けつけてくるものかと思ったが当てが外れた。

 支持率はまだわからないが、選挙戦を戦うメンバーが不足している。


「あんた、実は人望ないんじゃないの?」

「そ、そんなわけないでしょう! それは今まで選挙になにもかかわってこなかったからで……」


 実際、リントはドラドニア閥の頂点とはいえども、積極的にそれを組織化し、立候補するようなそぶりを見せていなかったので、必要な時に機能していない。


「ティナの選挙戦に付きあってくれそうなのは、ここにいるメンバーだけか。連中(マギアマキナ)はつれないしねえ」


 ルチアはティナの横に(はべ)るフローラとアウローラを見る。

 ティナを主君と仰ぐマギアマキナは全部で五十以上この学院に潜入している。しかし、この選挙戦ではまるで協力しないどころか積極的に関わってこようとすらしない。


「しょうがないよ。みんな、僕のためにやってくれているんだから。それにウルやルーナたちと戦えるなんて僕は結構ワクワクしているんだ」


 ティナは演説の原稿に頭を悩ませながらも、笑顔を浮かべる。

 ルチアにとっては面倒な選挙戦もティナからすればこれほど面白いことはない。


「ティナ様!」


 突然、フローラとアウローラがティナの方を向いてひざまずく。


「どうか我ら二人をティナ様の軍団の末席にお加えください」

「いいの? ベリサリウスが止めてそうなものだけど」


 ティナの疑問にフローラとアウローラは交互に答える。


「はい。確かにベリサリウス様より、ティナ様の御教育のため、選挙戦に協力してはならぬと厳命(げんめい)されております」

「あらら、言っちゃった。やっぱり、あいつら、変なこと考えていたのね」


 ルチアは驚きもしない。

 やはりティナの予想通り、ベリサリウスたちはこの選挙戦で何か仕掛けてくるつもりだ。常にティナを警護するフローラとアウローラすら近づけさせないことがその証明だった。


「しかし、我らはマギアマキナとして皇帝陛下に仕えるのではなくフローラ、アウローラとしてティナ様にお仕え申し上げたいのです」


 フローラとアウローラは深々と頭を下げる。

 二人は機械龍との戦闘の折、ティナの戦いぶりと仲間を思う気持ちに、乏しいはずの感情しかない心を打たれた。

 それはまさにティナが学院に来てから成長を果たし、勝ち得たものであって、ベリサリウスの趣旨に反することはない。

 難しいことはともかく、フローラとアウローラは、ティナの下で働きたいという衝動を我慢できなくなった。


「うん、僕は二人の気持ちを尊重するよ。ありがとう。これでもっといっぱいおしゃべりできるね」


 ティナは、フローラとアウローラを立ち上がらせると、とてもうれしそうな表情で喜んだ。

 ティナと距離を置かなければならなったことがよほどつらかったのだろうフローラとアウローラは目端に涙を浮かべ、ティナも二人に遠慮することは何もなくなった。


「これでイオンも合わせて五名。まだまだ足りないわ。あと十人いても足りないくらい」


 リントは頭を悩ませる。


「大丈夫、頼もしい助っ人をお願いしてあるから。そろそろ来るはずだけど……」


 ティナ時計を確認し、扉の方を気にする。


「助っ人? そんな知り合いが……」


 ルチアの言葉を(さえぎ)るように扉がバタンと勢いよく開く。


「は、話は!」

「聞かせてもらった!」


 逆光とともに現れたのはポーズを決めたロレーナとダーニャだ。

 ロレーナは恥ずかしそうに顔を真っ赤に染め、ダーニャは満足そうにしている。

 凛とその真ん中に立っているエルがおかしそうにクスクスと笑っている。大方、ダーニャの提案に対して、エルが言葉巧みにロレーナを乗せたのだろう。


「お久しぶりですね。みなさん。私たちも協力させてください」


 エルが言う。


「そうだぞ。なにせ私たちはあの機械龍を一緒に倒したディエルナの冒険者だからな。選挙戦にも協力するぜ」


 ダーニャは、親指を立て、腕を突き出す。

 ディエルナの冒険者と言っているが、ダーニャはあの後バルガスと意気投合し、ディエルナの冒険者にしてもらっていた。ロレーナも巻き込まれてディエルナのギルドで冒険者にされてしまっている。


「また調子のいいこと言って、私たちは最後見ていただけでしょう」


 ロレーナはため息をつく。


「でも、私たちもティナさんの選挙に協力したいわ。ティナさんならきっといい生徒会長になれるもの。いいかな」

「もちろん! 歓迎するよ!」


 ティナはロレーナの手をにぎる。


「やった」


 とダーニャは飛び跳ねる。


「エル? あんたはいいわけ?」


 ルチアが(たず)ねる。

 軍団長であるエルは、ほかのマギアマキナ以上にティナへの協力を禁止されていた。


「いいんです。私もティナさんと一緒に選挙を戦いたいですから。それに私はかなりの情報通ですよ」


 エルはまるで淑女のように静かに笑う。

 もともとエルはベリサリウスの命令など聞く気はない。学院での生活に溶け込むためにも自然の成り行きに身を任せているだけだ。


(ティナ様についた方が面白くなりそうだしね)


 面白いか否か。それが、最近、密偵活動に退屈しているエルの行動原理になりつつある。


「な、なにそのしゃべり方、かわいい……って、痛ったああああ!」


 エルを小ばかにしたルチアは、無言で足を踏みつけられて悶絶(もんぜつ)する。

 どうやらエルはここでも擬態するらしい。

 ともかくこれでティナのもとにも仲間が集まり、選挙戦が本格的に始まろうとしていた。

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