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第62話 機械龍

 壁や天井は崩れ去り、晴天の空が顔をのぞかせる。

 機械龍の砲撃により遺跡は崩落、中層階はすべて押しつぶされて、直接キャンプ地とつながってしまった。

 リントによる咄嗟(とっさ)の防御によって機械龍の熱線が直撃することは避けられたが、その衝撃を受け止めるきることはできずティナたちは空高く放りだされる。


「きゃああ、やだやだ、落ちるうう!」


 ルチアは絶叫しながら空中から自由落下する。


「このままじゃいい的ね」


 リントも龍眼を()らし、落下地点を見る。どこも凹凸(おうとつ)が多くこのまま落下すれば大けがでは済まない。


「僕に任せて、飛行魔法をやってみるよ」


 ティナは冷静に魔法陣を展開する。


「ティナ、あんた、飛行魔法なんて使えるの?!」

「ううん、初めて!」

「うそでしょ!」

「でも成功させるよ」

「ティナさんならできるわ。あんたも信じなさい!」


 リントは重荷になる神器を先に下に放り投げつつ叫ぶ。


「あーもう、絶対成功させてよ!」


 ルチアは目をぎゅっとつむる。

 飛行魔法は、魔法の中でも特に高度な技で使えるものはごく限られている。ましてや初見で使えるはずもない。だが、それに賭ける以外に方法がない。


「帝国宝珠の力なら、ぐぬぬぬ!」


 ティナは帝国宝珠からあふれる魔力を操って、背中に魔力で翼を形成すべく踏ん張る。


「たあ!」


 その場の気合いと根性でティナはついに魔法の翼を作りあげた。その魔力でできた光の翼を羽ばたかせ、ティナは大空を舞う。大博打は成功した。


「と、飛んだ」

「すごいわ。ティナさん」


 ルチアとリントは自由に空を旋回(せんかい)するティナを見上げる。


「手を(つか)んで!」

「ティナ様!」


 ティナは両手で、同じく落下していたフローラとアウローラの手を取る。

 フローラはリントの、アウローラはイオンの手を取る。

 ティナは全員を引っ張り上げるべく懸命に翼を伸ばし、魔力を噴射して上に飛ぼうとする。


「絶対に落ちないでよ!」


 ルチアも必死にリントの足にしがみつく。

 さすがに五人を抱えて大空を舞うことはティナの魔力をもってしても困難だったが、地面に激突することだけは避けられた。


「いたた、なんとか無事みたい」


 地面に不時着したティナは強打した尻をさする。


「今日は何度死にかければいいのよ」


 土ほこりを吸い込んだルチアはむせる。


「は、はやく、どきなさいよ!」


 リントは自分の上に乗っかっていたルチアを力任せになぎ倒すと地面に先に落下していた神器を手に立ち上がる。

 機械龍はすでに大空に飛び上がり、キャンプ地の上で滞空状態にある。


「おーい、ティナちゃん、みんな無事か?」


 慌てた様子でバルガスとミリナが走ってくる。どうやら遺跡の

崩落には巻き込まれず無事のようだ。

 パナケアやエル、ロレーナ、ダーニャの三人組も心配してきてくれた。

 ティナたちは力なく手を振って健在をアピールする。


「まだ死んじゃいないみたいだな。こっちもみんな無事だよ。アクレアの市長は顔を青くしていたがな。それにしてもあいつはなんだ」

「遺跡で帝国宝器(レガリア)を守っていた機械龍だよ」

「絶賛暴走中ってわけ」


 ルチアは肩をすくめる。


「早くなんとかしないと、町に出たら手遅れになるよ」


 ティナの表情がくもる。

 もし、機械龍が遺跡から街に出るようなことがあれば、その被害は想像を絶する。

 機械龍はその魔力が尽きるまで暴れまくれば、アクレアは廃墟になってしまうだろう。


「動きはないみたいですけど」


 ミリナは手をかざして、機械龍を見上げる。


「あれほどの魔力を使った攻撃、そう何度も撃てるものではないはず、この隙に撃墜(げきつい)しましょう」


 リントの洞察力(どうさつりょく)はさえわたっていた。機械龍の全範囲攻撃は準備に時間がかかる。


「あんな化け物どうやって撃ち落とすつもりよ。飛行魔法が使え

る冒険者なんて、そういるものじゃないでしょう」


 ルチアの言う通り、この場にいるもので飛行魔法を使えるのはティナだけだ。冒険者にも期待はできない。


「僕が行くよ。なんとか暴走を止めてみせる」

「ティナ様。危険です。いくらティナ様でも機械龍相手に一人で挑むなど無謀です」


 フローラとアウローラは必死に止めようとする。

 機械龍は龍に騎乗して戦う大空の戦士たち、かつての騎龍民族たちが数十人がかりで相手をするような兵器だ。いくら帝国宝珠の力ならどうにかできるかもしれないが、ティナは満身創痍(まんしんそうい)で、武器となるはずの新しい帝国宝器(レガリア)もまだ見つかっていない。


「わかった。なら、こうしよう」


 バルガスが提案する。


「今のうちにミリナは避難誘導を頼む。それから遠距離攻撃ができるやつと防御系の魔法が使えるやつであの化け物を囲む。ここで足止めしつつ、ティナちゃんに飛行魔法で接近して、暴走状態止めてもらう」

「それでは、ティナ様に危険が」


 フローラの言葉をティナは手で止める。


「いいよ。町に被害を出さないためにはそれしかない」


 ティナの黄金の瞳はすでに決断していることを物語っていた。

 全員が黙ってうなずいて同意した。


「私の船、リントヴルムからも砲撃も加えるわ。リント急いで手配を」


 リントの指示でイオンは魔導艦の停泊する港まで走る。


「ティナ様。私たちもディエルナの艦隊に連絡をつけておくよ」


 エルはティナに耳打ちする。


「わかった。お願い」


 言われるまでもなくエルの配下は連絡をつけるために通信魔法の準備を始める。


「ティナ様。絶対に無理はしないでくださいね」


 パナケアはティナの傷の手当てをしていく。

 ティナはうんとうなずく。


「負けそうになったらみんなで、尻尾巻いて逃げればいいのよ」


 ルチアは心配そうにティナの肩に手を置く。


「逃げるが勝ち。盗賊の心得でしょ」


 ティナは微笑で答える。


「じゃあ、みんな、また、後で。頑張ろう!」


 ティナは空へと飛び立ち、各々自分の持ち場へと足早に向かう。

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