第57話 竜星弾
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戦況はティナ率いる冒険者たちの優位に進み、ついには遺跡から異形の魔物を一匹も出さないほどにまでに入り口を固めるに至った。
だが、異形の魔物たちは止まらない。恐怖といった生物としての本能的感情のすべてをかなぐり捨てた異形の魔物たちは決して引かない。どんなに不利でも前に進む。
絶え間ない遺跡からの援軍とともにじりじりと冒険者たちの体力と魔力を奪っていく。
「はあ、はあ……あっ! 剣が!」
十数頭の異業の魔物を倒したあたりで、ティナの剣が折れてしまった。
ファビウスに作ってもらった剣が、リントとの決闘で砕け散ってからは、市販の剣を使っているが、だいぶ慎重に使っても、ティナの魔力に耐え切れず、すぐに折れてしまう。腰に四本もぶら下げてきたが、もうあと一本しかない。
また帝国宝珠マテル・パトリアエの力で、無尽蔵の魔力を供給されているが、体力と気力は有限だ。このままではいずれ押し負けてしまう。
「撃っても、撃ってもきりがない!」
ルチアも二丁の拳銃を両手に戦場を軽快に飛び回り、異形の魔物を乱れ撃ちにしていたが、すでに銃身は赤熱し今にも燃え上がりそうになっている。
「なら、私を援護なさい。このカズィクール最強の砲弾で敵を一網打尽にしてやるわ」
リントは中央に立って、城盾ジギスムントを地面に打ち付けて砲台とし、その上に砲槍カズィクールの砲身を乗せて安定させる。
「そんなことできるなら最初からやりなさいよ!」
ルチアが抗議する。
「出来るならばやっているわ。この技は確かに強力だけど、砲弾の装填に時間がかかるリスクの大きな技
なの」
砲槍カズィクールの弾は実弾ではなく、ルチアの拳銃と同様、魔力から錬成される魔力弾だ。砲弾の錬成に使う魔力を増やせば、火力を高めることができるが、投入する魔力量に足して、砲弾の錬成時間は等比級数的に増大する。
「私一人では魔力が足りない。ティナさんの力が必要よ」
「わかった。魔力だね。それなら、いくらでもあげるよ」
ティナはリントの背中に両手を当て、魔力を送り込んでいく。
胸元の帝国宝珠は黄金の輝きを放ち、あふれんばかりの魔力を生み出していく。
「くっ、あっ、んんっ!」
リントは背中から無限にも思える魔力が自分の体に注ぎ込まれるのを感じる。
魔力の波長というものは、人によって異なり、他人に魔力を渡すのは至難の業だ。ティナは神がかり的な魔力操作技術によりなんとか成功させているが、それなりの受け取る側は、やはり苦痛を伴う。
その苦痛に抗いながら、平静を保ち、高度な多重魔法陣を展開させ、受け取った魔力を巧みに操って、砲弾を錬成していくリントもまた超人的だ。
その間もルチアは銃を乱射して敵の猛攻を防ぐ。
「それって、あとどれくらいかかる?!」
ルチアが叫ぶ。
「あと、三分!」
「三分! もっと早くできないの!」
「なら、二分で終わらせるから、死ぬ気で守りなさい!」
リントが怒鳴る。
カズィクールは鈍い駆動音を響かせながら、盛んに砲身とその周りの多重魔法陣を回転させる。
「みんな、あと二分、リントとティナを守って! そうすれば勝てる!」
ルチアは先頭に立って、冒険者たちに呼びかける。
冒険者たちもこの短くも濃厚な戦闘の間にティナたちを信頼したから素直に従う。発射準備を行うリントとティナを中心に円状に陣形を組み、気力を振り絞って、異形の魔物たちと戦う。
「あと十秒!」
リントが準備完了までカウントダウンに入った時、
「やば、抜かれた!」
飛行型の異形が三体、重厚な防御陣を抜けて、無防備なティナとリントに迫る。
「あと五秒!」
それでも、リントとティナは発射準備をやめない。ここでやめれば、これまでの戦いが水泡に帰す。
(ダメだ! 間に合わない!)
ルチアは心中叫びながら、身をひるがえして左手を振るい弾丸を放とうとする。
異形の魔物がリントとティナをその歯牙にかけんと間合いを詰める。
「三、二……」
その時、二つの華やかな影が、躍り出る。
「フローラ! アウローラ!」
ティナは歓喜する。
影ながらティナのことを護衛していたマギアマキナのフローラとアウローラが主人の危機を救うべく飛び出してきたのだ。
メイド服姿の二人は、その剣を閃かせ、異形の魔物を一刀両断にし、見事にティナを守った。
だが、まだリントを狙う異形の魔物が残っている。
「……一……」
異形の魔物がまさにリントを攻撃しようとしたとき、突如、異形の魔物の腕が何かに弾かれて消し飛ぶ、そのまま、頭と胴も何かに撃ち抜かれて爆発四散する。
「装填完了、みんな離れて、頭を低く」
リントが咆哮する。
冒険者たちは一斉に散開し、防御態勢をとる。
「殲滅竜星弾、発射!」
砲槍カズィクールの砲口から巨大な砲弾が発射され、いくつかの魔法陣を通った後、拡散し、流星群のごとく、異形の魔物の群れを襲う。
無数に分裂した砲火は、遺跡の入り口から内部までを焼き尽くし、異形の魔物たちは断末魔をあげることなく灰燼に帰する。
その衝撃波は冒険者たちをも無差別に襲うが、黄金の魔力障壁がこれを防ぎ、被害を最小限に抑える。
「いつつ、死ぬかと思った」
ルチアはまだぐわんぐわんと音が反響する耳を押さえつつ目を開ける。
「終わったの?」
「うん、僕たちの勝ちだよ!」
一人戦場に立っていたティナは満点の笑みを浮かべると喜びのあまり、拳を天に突き上げた。
ティナたちが他の冒険者たちと勝利の喜びを分かち合っていると、フローラとアウローラがティナの前に来て、
「「申し訳ありません!」」
とひざまずく。
「決して、ティナ様を邪魔するつもりはなかったのですが、御身の危険を黙って見ていることができず、身勝手なことを」
フローラとアウローラは地面にこすりつけそうな勢いで、頭を下げる。
二人の任務はティナの護衛なのだが、ティナにはついていくと伝えていなかった。その挙句、ティナの戦いに水を差してしまったと悔いているらしい。
「そんなに謝らないで。フローラ、アウローラ。二人が来てくれた時、すごくうれしかったよ。二人は僕の、そして、みんなの命の恩人だよ」
ティナはしゃがみ二人の顔をあげる。
「大儀であったぞ。ご苦労だった。……なんてね」
ティナが少し恥ずかしそうに笑うと
「ティナ様……」
これまで感情に乏しかったマギアマキナのフローラとアウローラが散々に泣いた。
「ねえ、一つ気になることがあるんだけど?」
「なに? 私、今、人生で一番疲れているのだけれど」
地面に座り込んだルチアが、地面に大の字に寝そべったリントに聞く。
「最後、リントを襲おうとした魔物、あれを倒したのは誰?」
「ああ、あれならじきにわかるわよ」
リントがそういうとキャンプの方から一人の青年が血相かいて走ってくる。
「リント様! あれほど危険なことはしないようにと言ったではありませんか。私は魔導艦で待ちぼうけを食らっていたのですよ。そのようにはしたない恰好で地面に寝てはいけません。ドラドニア王国の姫としての自覚が……」
いつもクールな美青年であるリントが今回ばかりはよほど心配したのか多弁になる。
「ああ、もう、お説教はいいでしょ」
リントは鬱陶しそうに、そして、どこか嬉しそうにしている。
「なるほど。イオンがやったのね」
ルチアはイオンが肩から掛けた漆黒の長銃を見る。
見たところドラドニア製の超長距離狙撃銃のようだ。
地上の騒乱を魔導艦の上で聞いたイオンはすぐさま、地上に降りて、主人であるリントの下に駆けつけ、はるか後方から狙撃でリントの命を救った。
「これでも、イオンの狙撃の腕はドラドニア一よ」
「なら、最初から連れて来ればよかったのに」
「……正直、忘れていたわ」
ルチアとリントは珍しく顔を合わせて笑いあった。




