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第43話 金獅子と黒龍の決闘

長くなったので分割しました。

今日は20:00にもう一本投稿します。


21/07/31 一部修正

 ティナの治療で生徒たちはなんとか持ち直し、午後、学院所有の闘技場にて、実技の授業になった。

 ティナと出会って開口一番、認めないと宣言し、まくし立て、その後一転して黙り込み、それでいてティナのことを見つめ続けていたリントが、その沈黙を破った。


「私と勝負しなさい」


 リントは、そのどう猛な龍眼でティナを睨みつけつつ指さし、決闘を申し込んだ。

 授業を前にして、生徒たちがざわめき、担当教員は狼狽した。誰も教員の指示を聞かず授業どころではない。が、もはや、こうなってしまった以上、頑固な黒龍の姫君をだれも止めることはできない。

 ティナは一言で返した。


「いいよ」

「い、いい心がけね。私も試しがいがあるわ」


 リントはもっと相手が渋ると思っていただけに、ティナの好意的な返事に多少の動揺を見せたが、すぐに立ち直る。


「一つ条件があるわ」

「なに?」

「神器を使って戦うこと。あなたのその胸のペンダント。神器でしょう?」

「そうだよ。だけど、これを使うのは……」


 ティナは躊躇した。

 このペンダントは、帝国宝器レガリアのひとつ帝国宝珠マテル・パトリアエである。ティナに莫大な魔力を与える強力な神器だが、ティナは編入試験からこの神器を使っていなかった。ティナ自身が、成長を遂げ、神器の力に頼らずとも相当の力を発揮するようになったということもあるが、帝国宝珠は強力すぎた。

 たとえ、相手が神器の使い手であっても、帝国宝珠を使えば、相手をケガさせてしまうかもしれないという懸念がある。


「舐めないで。当然、私も神器を使うから、そんなことは問題にならないわ」

「だけど……」


 それが並大抵の神器なら帝国宝珠にとっては、ただの武器と変わりがない。その説明をしようにも納得しないだろうが。


「いいんじゃないか。黒龍の姫君も相当の使い手って話だからな。そうだろ、レリオ」


 サラディンが助言する。


「ああ、副会長は、二年生ならまず間違いなく最強だ。さすがのティナでもてこずるんじゃないかな」


 レリオは身をもってティナの実力を知っているが、あの戦いでは神器を使用していない。いわば神器使用者同士での戦いは、未知の領域だ。それに神器を使った戦いになれば、リントの方に分があるという確信があった。


「大丈夫よ。ティナ。この際、ここらへんであの女の鼻柱をへし折って、こてんぱんにしてやった方がいいわ」


 すでに二度も龍眼の餌食になって、お冠のルチアは鼻息を荒くする。むしろ、リントをつぶすことを望んでいるかのような勢いだ。


「ふふ、そんなことをするつもりはないけど、僕は戦ってみたい。フローラとアウローラはどうかな?」


 ティナはルチアをなだめ、冷静な二人のメイドマギアマキナに意見を求める。皇帝を守るマギアマキナとしては、神器を用いた危険な戦闘には当然、反対だが、ティナの好奇心に満ちた純真な瞳を向けられれば、ノーとは言えない。しぶしぶ頷く。


「ありがとう、僕も全力で行くよ」


 ティナは胸元のペンダントを握りしめ、自分の体と同調させる。

 すさまじい魔力が、ティナを中心に吹き上がり、電撃がバチバチとほとばしる。


「ずいぶんと舐められているみたいだけど、ようやく本気になったみたいね。イオン」

「はい、リント様。ほどほどにしてくださいませ」


 イオンは二つの鉄の箱を投げて、リントに手渡す。

 二つの鉄の箱は、直方体の漆黒の色で、まばゆい金属光沢を放ち、表面には、真紅のドラゴンの紋章が彫られている。

 リントは受け取ったそれを両脇の地面に無造作に置き、仁王立ちして、魔法陣を展開する。するとだただの鉄の箱は、光に包まれて形を変え、一つは槍に、一つは盾となった。


「これが私の神器、撃滅の砲槍カズィクール」


 一方は巨大で血液のごとき真紅の装飾が施された漆黒の槍だ。しかし、槍というには巨大でリントの身の丈の倍ほどの長さがある。先端部分は筒のようになっていて、大砲といった方がいいだろう。途方もないエネルギーを放ち、内部の熱を解き放つための噴出口からは、赤熱した内部が見え、蒸気をもうもうと吐いている。


「こっちは、城護の龍盾ジギスムント」


 もう一方の盾もまた重厚巨大である。こちらも砲槍に似た色合いだが、冷たい冷気を放ちつつ、厳粛とした存在感を放っている。


「神器が二つ」


 ティナがつぶやく。


「そう、これがドラドニアに伝わる戦略級の神器。それを二つ同時に使用できるのはこの私だけ」


 リントの使う神器は、有象無象の神器とは違う。最強の神器とうたわれる帝国宝器レガリアに匹敵しうるほどの存在感と威圧感を放っている。しかも、リントは、ディエルナで天才神器使いの呼び声高かったヴァレリアでさえ躊躇した神器の二つ同時使用をやってのけている。レリオがリントに分があると確信したのはこのためだ。

 さらに驚くべきことは、この巨大な二つの神器をリントはその細い腕で軽々と苦も無く持ち上げ、涼しい顔をしているのである。決して無謀なことをしているのではないと分かる。

 ティナがこれまで戦ってきた相手の中では、間違いなく最強だ。

 リントの本気を初めて見たルチアとサラディンは震え上がり、声も出ない。決闘騒ぎに興奮していた生徒たちも、固唾を飲んで見守り、授業をするはずだった教師に至っては、何事もないようにただ神に祈っていた。

 フローラやアウローラたち護衛のマギアマキナは、平静を装いつつも、いつでも助けられるように身構えた。


「まさか、私の神器に恐れをなして、戦う前から降参するなんて言わないでしょうね」


 リントは龍眼でティナをにらみつけ、口角を上げる。


「言わないよ。言えるわけないよ。だって、僕、今すっごくワクワクしているんだから」


 ティナは腰に帯びた長剣を抜き、鞘を放り投げる。黄金の瞳が光り輝き、ティナの中に流れる古代英雄の血が沸騰する。

 かつて森の中で、ヴァレンタインから感じた耐え難い絶望と恐怖もまた力だった。だが、リントの力強さは勇猛で、すがすがしい。ティナは心の底から、戦いたい、全力でぶつかりたいと溌溂と感じている。

 両者構え、リオンが手を振ると、決闘が開始された。


「さすがは、私の……」


 まだ話し足りなかったリントの言葉は、落雷のような轟音にかき消され、目の前からティナの姿が消えた。


「私をかく乱するつもり?」


 リントの武器は明らかに、攻撃の威力に重点を置いたものだ。その鈍重な見た目からは、速度は感じられない。ティナは自身の身軽さを最大限活用して、リントの周りを高速で駆けまわり、死角からの一撃を狙った。


「ここ!」


 ティナは背面からリントに剣を突き立てる。

 が、見えない結界に阻まれて、剣が弾かれる。


(まったく無防備だったのになんで)


 リントの盾も槍も正面を向いていて、背中はがら空きだった。しかし、ティナの剣はリントにかすりもしない。


「ジギスムントは絶対の盾。死角なんてないわ」


 ジギスムントが神器たるゆえんはこれだ。魔力が続く限り、使用者の周りに強固な結界を構築する。

 ティナの剣は業物だが、神器ではない。その程度の武器で、しかもティナの軽い一撃なら、傷をつけることも叶わない。


「スピードなら負けないと? 甘い!」


 リントが、魔力を砲槍に充填すると、砲槍の側面についた噴出口から、龍の息吹のごとき火炎が噴き出す。その推進力を利用して、リントはその場で回転し、砲口をティナに向ける。


「発射っ!」


 まずいとティナが死を予感して、後ろに飛び抜いたのも、つかの間、砲槍カズィクールの砲口から凝縮され、砲弾のようになった魔力が射出され、高速でティナに迫る。


(間に合わない)


 ティナは避けることは不可能と判断し、そのあまりある魔力を剣に集中させ、砲弾を切り裂いた。二つに斬られた砲弾は、ティナの両脇をかすめ、着弾し、爆裂炎上。ティナも勢いを殺しきれずに、後ろに吹っ飛ばされる。


「私の砲弾を剣で切るなんて、あなたが初めて」


 リントは、かつて真正面から破られたことのない一撃をティナが防ぎ切ったことに驚嘆し、素直に賞賛した。

 一方、観客たちは戦慄した。


「なんなのあれ、戦争でもおっぱじめる気?」


 ルチアはリントの一撃の威力に顔を引きつらせる。

 強固な石造建築であるはずの闘技場が、その攻撃の余波だけで、ものの見事に粉砕されてしまったのだ。その破片がルチアたちの方に飛んできて、フローラとアウローラが対処してくれなかったら、ルチアは大けがをするところだった。


「あれが、黒龍の姫君の本気か。こりゃ噂以上だな」


 いつもは終始、余裕の表情をみせるサラディンも、頬に冷や汗が流れる。


「いや、こんなもんじゃない。闘技場が吹っ飛ぶくらいじゃ済まないかも、賢明な生徒ならもうとっくに逃げだしている」


 レリオは、かつて学院に入ったばかりのころ、まだ加減を知らなかったリントが、闘技場を全壊させ、上級生を半殺しにしているのを生で見た。当時、優秀な成績で天狗になっていたレリオが上には上がいることを知り、謙虚になったほどだ。リントも大目玉を食らったようで、以降は全力を見せることはなかった。


「するとお前は馬鹿野郎という事になるぜ」

「逃げないやつは馬鹿だが、この決闘を見ない奴はよほどの大馬鹿野郎だ」


 その全力が見られるかもしれないと思うと、あの日の光景を見ていたレリオたちは、狂喜した。あの興奮と感動。自分がまきこまれるかもしれないと分かっていても見ずにはいられない。

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