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発現 タイルド

「なぁ紡、お前の能力ってなんなんだ?」

「…」

沈黙。時が止まったかと思うほど、その沈黙は長く感じた。

「パフェが溶けてしまいますね…いただきましょうか…」

「あ、あぁ」

紡は俺の話を無視してパフェを頬張り始めた。

「お兄ちゃん…この世界では他人に能力を言うのは…はむはむ…元いた世界で…あむあむ…自分の嫌いな所を…もぐもぐ…晒すようなもの…はむはむ…なのですよ…ごくん…」

確かに言われてみればそうだ。能力とは言わばその人の欠点であり、弱点なのだ。それを言うのは良い気はしないのは確かだ。コーヒーを飲みながら、ゆっくりと時間が過ぎるのを感じながら紡が食べ終わるのを待ちながら考える。この世界では誰もが、タイルドという危険と隣り合わせで生き、能力というデメリットを背負って精一杯生きている。それはこの世界の人からしたら普通なのだろう。ただ俺には何か、力にならないか、そう感じるほど、素晴らしいものだと、美しいものだと感じたのだった。

小1時間過ぎ、紡がパフェを食べ終え、紡が会計を済ませ、喫茶店を後にする。

「そろそろ…門限です…帰りましょう…」

「そうだな」

そうして帰路に着く。

ブーッブーッ!

紡のリュックの端末が振動している。紡はサッとそれを取り出し、確認する。メールみたいなものだろうか。

「えっ…?」

「どうした?紡」

何やら驚いている。その顔は怯えや、恐怖も秘めているが、覚悟などの凛々しさを強く感じる。

「タイルドが発生しました。場所はここのすぐ近くです。向かいましょう」

口調はいつもと変わらないが、その言葉はハキハキとしていて、いつものおっとりとした感じは一切無かった。駆け出す紡。俺はそんな紡の手を取り、静止する。

「お、おい!向かいましょうって、紡、戦えるのか?他の人に任せた方が…」

「はぁ…お兄ちゃん。私は社長です。社のトップに立つ者が貧弱でどうするんですか。私もそこそこは戦えます。少なくともお兄ちゃん以上は」

いつもの口調より厳しめだった。凛々しく、気高い、そんな印象を持った。

「む、無理はするなよ?」

「当然です」

そうして発生地へ向かった。

発生地はさっきの喫茶店。発生源は店内のウェイトレス。店内に入り、紡は先程の端末を取り出す。

「こちら紡。目的地に到着した。万一に備え手の空いてる者は救援を頼む」

そう言って紡は店内の奥の方へと進む。倒れた人の確認だ。

「討伐隊だ。この人の能力は?」

紡は見た目からは想像もつかないほどテキパキと動いていた。

「すいません。今はイタズラに付き合っていられる状況じゃないの。親御さんの所へ戻ってね」

紡が若干イラッとしたのが目に見えて分かった。まぁ、見た目が見た目だからな…。

「すいません。私、こういう者です。信じていただけましたか?」

紡は名刺を差し出す。するとそのウェイトレスは青ざめた顔をし、冷や汗を身体が干からびるのでは無いか、と心配になるくらい流し、名刺を受け取った。

「すいませんでした!えっと、この人の能力は無意識に沢山食べてしまう能力です!」

「はい、分かりました。情報提供感謝致します」

そう言うと紡は次に店内で暴れているタイルドに目をやる。端末を再び取り出し、連絡を取る。

「能力ハングリー、店内の商品を次々と喰らっています。推定4等級。討伐を開始します」

そう言って端末をしまう。そしてリュックから立方体を取り出す。だいたい、両手に収まるか収まらないかのサイズだ。それに触れると、立方体は広がり、紡を包み込む。眩しくて目がイマイチ開かない。俺が次に目を開けると、紡の服装が変わっていた。とは言ってもそこまで変わってはいなかった。黒のTシャツに黒のロングスカート。ただ、腰には物騒にも刀や銃などを携えていた。

少し紡は考えるようにして周りを見渡す。人影が無いことを確認しているようだった。すると紡は一般に歩兵銃と呼ばれる大きめの銃を取り出す。紡はそれを放つとタイルドは消しとんだ。

「…は?」

あまりの威力に腰を抜かしたのは俺だった。

「討伐完了しました。これより帰還します」

端末を再び取り出し報告している。

「お兄ちゃん…どうだった…?…やるでしょ…私…」

いつもの口調に戻ってた。凄い豹変の仕方だった。

「あ、あぁ」

そう言うと紡はニッコリ笑って店内のウェイトレスさんと話をしていた。事後処理の相談とかなのだろう。金銭の受け渡しは見たところ行ってはいなかった。なんだか安心した。

再び帰路に着く。

「なぁ紡」

「なに…?お兄ちゃん…」

俺はさっきの紡を見て、決心が固まった。

「俺を、雇ってくれ」

紡は歩みを止めた。

「お兄ちゃん…本気…?」

「あぁ、本気だ」

「…痛いよ…?」

「そうならないよう最善を尽くす」

「…怖いよ…?」

「乗り越えてみせる」

「…最悪…死ぬかもだよ…?」

「怖くないと言えば嘘になる。だけど、それでも、俺はこの仕事をしたい」

「…志望動機…」

「さっきの紡を見てカッコいいと思ったのは確かだ。でも、それだけじゃない。今日この世界のことを色々知った。もちろん、知り尽くしたなんて事はあるわけないが、この世界の人々は欠点や弱点を抱えて、危険と隣り合わせで精一杯生きている。俺はこんな美しい世界を支えられる、手助けできる事をしたい。綺麗事や偽善でも無く、本心から、そう思った」

紡は少し驚いた顔をして、少し俯く。

「明日…採用試験…するから…」

「よしっ!期待に応えてみせますよ!社長!」

気合は十二分!採用試験、乗り越えてみせる!

「その呼び方…まだ…入社前だから…あと…採用でも…呼び方変えないで…じゃないと…採用前から…クビ…」

「あ、はい、紡…さん?」

「…今まで通りで…」

若干むくれてる紡も可愛かった。

「分かったよ、紡」

そうして、俺と紡は帰ったのだった。紡の会社であり、俺の第二の実家へ。

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