血を分けたはずの兄妹
そしてその日は突然やってきた。
バーン!!
鉄扉が蹴破られる。外では警報もなっている。埃が舞い良く見えない。そこには1つ、人影があった。
「助けに来たよ!お兄ちゃん!」
元気に、何事もなかったかのようにそう言う彼女は誰か。埃が晴れ、その正体はようやく掴めた。赤い髪にツインテール。若干吊り目で妙にスタイルの良い
「って…天音!?」
あろうことか、目の前にいるのは妹だった。そもそも妹はこの世界の住民ではない。ならば一体、どうやって…。
「そうそう!お兄ちゃんの愛しの1人妹、天音なのです!」
右手でサバイバルナイフをくるくるしながら、そう自己紹介をする。
「まったく…何事ですか…」
紡が天音の後ろから歩いてくる。
「少し我慢してね、お兄ちゃん」
そう小声で囁くと、天音は俺の身体を拘束する。後ろで手を掴まれ、動かせない。首元にはナイフを突きつけられる。
「さて、社長さん!お兄ちゃんを返してもらいに来たわ!」
話の流れが早過ぎてついていけて無い人が1人だけいた。そう、俺である。
「先日も…お見せしたはずです…この人は契約書にサインもしました…」
「あらぁ?私、カメラを通して見てたのよ。それは詐欺よ。紛うこと無き、ね。なんなら証拠映像でも提出して法廷で戦いましょうか?」
「別世界で起きた出来事を法廷に持ち出す事は…禁止されているのです…さぁ…大人しくお兄ちゃんを離すのです…」
「嫌ね。内容も確認させて貰ったけど、優遇してるように見せかけて、やってる事は非人道的、良心は痛まなかったのかしら?」
「私も…生きるのに必死なのです…ギブアンドテイクの関係は…成立しています…」
「いいえ、足りないわね。全然。お兄ちゃんに対する負荷が大きすぎるもの」
「あなたの…要求は…なんですか…?聞くだけ聞きます…」
「私の要求はただ一つ。お兄ちゃんへの待遇の改善よ。外出許可くらいは出してくれないかしら?」
「…契約違反です…致しかねます…」
「だったらこの場でお兄ちゃんを殺すわよ?」
「あなたに出来ますか…?」
「覚悟は出来てるわよ、とっくに。生き地獄から解放してあげるだけよ。むしろ幸せじゃないの」
「む…それはこちらに…あまりに不平等です…」
「なら、ナイフでザクッといくしかないわねぇ?」
「交換条件として成り立たないと…言っているのです…それはただの脅し…です…」
「元よりそのつもりだけど?まぁでも…交換条件を成り立たせるなら、どんな条件を提示するのかしら?」
「契約破棄は…重大な違反です…あなたにはその埋め合わせで…ここで働いて貰います…」
「へぇ…それで?それは給料とかは出るの?」
「三食賄い付きの、お小遣い程度の給料、住居の提供も致しましょう…いかがですか…?」
「論点がズレてきてるような気がするけど…まぁ、いいわ。交換条件成立。後で新しく契約書でも作りましょうか」
「そうですね…では、そのつもりで…」
なんか、話がトントン拍子で進み、当事者が一言も喋らず収束した。
「さて、お兄ちゃん?」
笑顔の天音。なんだ上機嫌じゃないか。
「なんだ?天音」
ニッコリと笑顔で返す。平穏そうで何より
「なんだ?…じゃぁないでしょ!」
パーンッ!
平手打ちが飛ぶ。女子の力じゃない…
「なんで急にいなくなるのよ!私がどれだけ心配したことか!というか!なんで契約書しっかり読まずサインしちゃうの!?ありえないありえないありえない!ちゃんと説明しなさいよ!」
パン!パン!パン!
往復ビンタをくらう。感覚で分かる。たぶん今真っ赤に腫れている。
「いや…その…だな…」
「言い訳なんて聞きたくない!」
パーンッ!
強めの1発が俺の頬を襲う。というか…矛盾…して…ない…か………
「ハッ!」
気を失っていた。どれだけの力で叩いたのだ、この怪力妹は…
「目ぇ覚めた?」
「あ、あぁ」
天音は椅子に腰掛け、書類片手に色々書き上げてる。
「だったら、次こそちゃんと読んで、サインして頂戴」
渡されたのは一枚の契約書。しっかりと読み込む。
だいたいは最初の契約書と同じ内容だった。
違う点は
外出許可が下りた事。門限付きで。
天音がここで働く事となる事。
この2点だ。
「いいのか…?天音、お前ここで働く事になっても…」
「もしかして、なにか勘違いしてない?私、もともとここの仕事興味あったのよ。お兄ちゃんを助けるためとか、そんなんじゃないから」
ここで1つ気になる点がある。
「なぁ、天音、ここでの仕事ってなんなんだ?まさか、倫理的にアウトな仕事じゃないだろうな!?そんなのお兄ちゃんが許さないぞ!」
「どの口が言うのよ!んまぁ、簡単に言えば、異世界おなじみの、魔物退治みたいな感じね。これ以上は言えないわ。まぁ、街を出歩けば嫌でも分かるわ」
「危なくは…ないのか…?」
情けない兄を助けるため、優秀で優しい妹が死んでしまったら、兄として、人としてどう生きていけばいいのか分からなくなる。
「大丈夫よ。私はこれでも強いのよ?社長のお墨付き」
「なら…信じるよ」
サインを書く。しっかり読み込んで、変な点が無いことをしっかり確認した上で、だ。俺は別に死んだら生き返るみたいな力は無いのだと思う。奇跡みたいな力も無いのだろう。だから、しっかりと自分の身を守らねばならない。天音から、そんな事を教わったような気がした。
「ところで天音?」
「なに?お兄ちゃん」
相変わらず書類と睨めっこしながら返事をしている。
「どうやってこの世界に入ってきたんだ?もしかして、実は異世界とかじゃ無かったオチ?」
「いえ、異世界よ」
「ならどうやって…」
益々謎だ。天音は確かに頭も良くて運動も出来る、才色兼備なのは理解しているが…
「お兄ちゃんに付けたGPSを辿ったのよ。小型カメラ付きのね」
「はぁ!?おい!それはどこにある!」
「さぁ?どこでしょう。それで、紡ちゃん…社長さんの別荘を見つけたってわけ。そこの装置を少し分解したら仕組みは簡単に分かったわ。まぁ、盲点だったわね、あの材料は…」
「あの材料って?」
「ふふ、秘密。科学技術はよく、偶然から生まれるの。その偶然が分かっちゃったら、つまらないでしょ?そして、異世界転移装置を独自で開発、そしてだいたい…一週間前飛んできたってわけ。ごめんねー、ちょっと準備に手間取っちゃって」
「まぁ…その…なんだ…ありがとな…助けてくれて」
「…!まぁ…別に。感謝は受け取っておくわよ」
そう言って立ち上がる天音。
「社長に書類いくつか渡してくるわ」
「あぁ、紡によろしく頼む」
「自分でやりなさい」
そう言って部屋から出て行った。俺は妹と血を分けた兄妹のはずなのに、妹は強かで、俺は情けなく、不甲斐ない。コンプレックスや、妬みは当然ある。ただ、今ではそんな妹は、心強い、そんな存在となっていたのだった。