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いざ!異世界へ!

「拝啓

お父様、お母様、先立つ不幸をお許しください。

どうか探さないでください。」

頭を抱える。

…これじゃ無い!

死んだ事にして、もう戻らないという設定は無理がありすぎる!絶対探すはず!…いや、分からないが

とにかく…少し趣向を変えてみよう。

「拝啓

お父様、お母様、異世界へ休みに行ってきます。

どうか探さないでください。」

再び書いて頭を抱える。

なんだ、異世界って!信じるわけねーじゃん!俺なら速攻で破り捨てるわ!事実なのだが…

まぁいい…また少し趣向を変えよう。

「拝啓

お父様、お母様、自分探しの旅に出ます。

どうか探さないでください。」

たぶんアニメなら縦線でどんより感出している演出されるくらいに頭を抱える。

胡散臭ぇ…。どうしようもない人間感出ちゃってるよ…。

まぁいいや。そろそろ書き上げないと、外の少女に申し訳がない。

「拝啓

お父様、お母様、少し出かけてきます。

いつかは帰るので、それまで待っていてください。絶対、どこかで元気でやってます。

今まで、天音もいる中、育ててくださってありがとうございました。いつか恩返し出来るように精進致します。

追伸、天音へ。俺の分まで家族と仲良くしてください。」

玄関へ向かう。たぶん手紙の事を考えたらもう一度書き直す羽目になる気がしたので考えない事にする。

「では…参りましょう…」

少女は言うが早いか、歩き始める。

「参りましょうって、どこに?」

不安を隠しきれない。誰だって信用しないだろう?異世界なんて。

「私の家です。ポータル…転移装置は私の家にあります…」

なるほど、こんな少女でも使えるくらい、向こうの世界は発展してるのかな?

少女は無口な人らしく、話しかけないと何も話してくれない。世間話なんて話題が無いのである。

喋らず歩く事約20分。突如として何者かが沈黙を破った。

ピロリン♩

俺の携帯だった。俺はまだガラケーを使っている。安いのだ。単純に。

開いて確認する。妹の天音からだった。

「件名:説明しなさい!

手紙!あれどう言う事!?意味がわからないんだけど!説明しないよ!」

あの天音が珍しく誤字をしていた。いつも一文字一文字丁寧に打って、再確認までするはずの天音が。相当に焦っているのだろう。まぁ、当然か。あんな意味深な手紙を置いて出て行ったんだ。もう心配される事も無いと思っていた分、少し寂しくもなる。

俺は携帯を閉じる。

「返信…なさらないのですか…?」

珍しく少女から声をかけてきた。

「まぁな。急ぎでも無いし、歩きながらメール打てるほど器用じゃ無い。」

手がブレて歩きながらだと、相当な回数の誤字をする。マルチタスクは苦手なのだ。

「そうですか。では…」

言うが早いか、少女は近くの公園へ小走りで駆け出す。そしてベンチに座り、隣をポンポンと叩く。

「いや、別にそんなに急いで無いって…」

少し返信が遅れるくらいだ。誤差だ誤差。

「何を勘違いなさってるのですか…?私は疲れたのです…。少し…休憩にしましょう…」

妙なところ、気遣いが出来て、行動力のある。少し不器用みたいだが。

「…ありがとう」

「…いえ」

休憩中、会話はこれだけだった。お互いの名前も知らないまま。

「件名:Re.説明しなさい

悪いけど、説明は出来ない。どうしても納得しないんだったら…お兄ちゃんは異世界に出かけて行った、と思っておいてくれ。書いておいたはずだ。いつかは戻るから。」

送信する。

ピロリン♩

早い…ずっと携帯眺めていたのか?この妹は…

「件名:Re.Re.説明しなさい

わかった」

ただ一言。携帯の前で彼女がどんな顔をしているのかは分からない。うざったい兄が消えて喜んでいるのか。もしくは、悲しんでいるのか。それとも怒っているのか。でも、この一言で分かることが一つだけある。メールはここで終わり、という事だ。天音はメールのやり取りで大抵5行は送ってくる。それは返さないと怒るが、1行だけの文、一言だけ送ってくる事もある。その時が会話は終わりの合図なのだ。

携帯を今度こそ閉じる。

「終わりましたか…?では…出発しましょう…」

そう言うと少女は立ち上がり、俺も続いて立ち上がる。

また歩き出した。沈黙の中。聞こえるのは車のエンジン音くらいなもので。

だいたい40分くらい歩いただろうか。少女は口を開く。

「着きました。ここが私の家です…」

ポツンと、それでいて堂々とその家は建っていた。

こじんまりとしていて、スペースもさほど取ることのない、ありふれた一軒家。

「と、言っても…別荘…ですけど…」

どうぞ、と一言。俺はその家に足を踏み入れる。

2階建ての住居、1階は女の子の部屋、と言う感じの可愛らしい家だった。

「いま…お茶煎れますね…少しお話ししましょう…」

そう言うと少女は台所へ。少しして、少女は戻ってくる。

「えっと…ですね…少し説明を…」

少女の話した内容は大まかにこうだった。

今から飛ぶ世界は、今いる世界とさほど変わらない世界で、科学力、技術力はこの世界と大差ないらしい。世界を飛び越える事はそれなりのエネルギーを使うらしく、死ぬ事は無いが、酔う事はあるそうだ。衣食住に関しては向こうで提供してくれるらしく、こっちから何か負担する必要は無いらしい。凄く怪しい話ではあるが…。

対して、俺の向こうの世界でして欲しい事と言うのは、休んで欲しいという事。永住して貰っても構わない、とのことだ。

「こちら…契約書…」

差し出してきたのは普通の契約書。

「さっき話した内容…だいたい書いてある…」

そう言って、俺は信じ込んで契約書にサインをする。いや、もちろん、少し目は通した。同じ事が書いてあるだけだったので、少し斜め読みになったのは否定しない。

「では…こちらです…お兄ちゃん」

この歳だから、お兄ちゃん呼びも構わないが…なんというか、何かに目覚めそうな気がする。

2階に上がると、廊下はない。あるのは、3方向壁、壁、壁。後ろには階段。

「?何も無いじゃないか」

やはり騙されたのか?

「…こっちです…」

少女は右の壁に入り込む。良くあるゲームのバグの壁抜けのような感じで壁を通る。

「…えっと、これはどういう技術なんだ?」

訳が分からない。

「…少し、光の屈折と…反射を…利用しただけの…簡単なものです…」

やはり中卒の俺には理解が厳しかった。

壁を5枚ほどすり抜け、その部屋は姿を現した。

「このカプセルに入ってください…」

そう言うと、ちょうど人一人入れるカプセルに入る。それはホントにカプセルだけで、何も無い。隣で少女はもう一つのカプセルに入り、そこではキーボード…なんか発光して宙に浮いているが…を打っている。

「では…飛ばします…強い光もあるので…少し目を閉じていてください…」

言われるがままに目を閉じる。強い衝撃と、目を閉じていても分かる強い光。

「もう大丈夫ですよ…目を開けてください…」

目を恐る恐る開ける。そこには見たことない景色が広がっていた。さっきの別荘とは違い、明かりがあり、一面鉄の壁で覆われている。カプセルが開かれる。

「ようこそ…私達のいる世界へ…」

どうやら、ホントに飛んだらしい。とても信じられないが。携帯も圏外になっている。こりゃもう使えないな。

「では…少しご案内します…」

少女について行く。案内された先は社長室。

「ここが、私の…部屋です…」

「…え?」

そう言って、少女は扉を開く。そこには立派な社長椅子やら、社長机があり、その片隅にはランドセルを置く場所や、勉強机がある。

「そういえば…自己紹介がまだでしたね…」

そう言って、少女は社長椅子に腰掛ける。よじ登ってる姿は少し愛らしくもあった。

「あのー?そこ、社長の椅子…たぶんお父さんとかの椅子じゃないのかな?」

愛らしいが、それは娘だろうと許されないだろう。いや、許されるかもしれないが。

「?…あぁ…私の椅子で間違い無いです…」

ますます訳が分からない。

「私は…きずな つむぎ…紲星 紡…」

そう言うと、社長机の三角柱のネームプレートを名前の書いてある方に向ける。

「紲星 紡、この会社の…社長です…」

たぶん、俺は開いた口が塞がらない、という状態に陥ってた。そして、素っ頓狂な声を上げて、ありふれた、驚き方をした。

「はぁーーー!?」

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