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千刃花〜帝国特務戦闘部隊〜 台本版  作者: REN'sJackson
零章 Characters Side Story 番外篇
5/176

劇情版Ranunculus's Side Story「The Stargazing 」scene BLUE

遂に、ラナンキュラスの全容が明らかになります。

物語の前半は熱があるの中で

書いていました笑

自分を褒めたい!!!


REDからBLUEへ

そしてその意味や画家の謎などなど

気になる方

もしくはここから読んだ人も(望ましくないが)

楽しめる内容かなと。

本編で使ったあの技や

新たな刃術も披露されます。

カッコいいよ!!!


3周年の記念作品に、相応しい物語になりましたので

ワクワクしながら読んでね!


ちなみにホームページに行けば

ここのブルーのボイスドラマが無料できけちゃうよ!


では、楽しんで!!


画家▶︎▶︎▶︎N


前回までの劇情版

千刃花センジンカ帝国特務戦闘部隊テイコクトクムセントウブタイ〜ー

Ranunculus(ラナンキュラス)'s() Side Story(サイド ストーリー)


ラナンキュラスとアイビーの自宅に

一通の手紙が届く。

その宛名には

ラナンキュラスのファーストネームである

ミシェールと書かれていた。

普段、ミシェールではなく

ラナンキュラスと名乗る理由を問うアイビー。

すると、ラナンキュラスは

懐かしげに星空を見上げ

幼い頃の話をアイビーに語りはじめた。

それは兄であるクリスとの口論の末

父ハーゴンに家から追い出されたこと

そして、一族の恥と言われ

バンジャマン家を追放された実の祖母

セリーヌの家に行くことになったことや

樹海で絵をく謎の画家の存在。

更にはセリーヌの口から語られる

死剣 緋葬殺那(フルスティング)を取り巻く

母イブリラとの事件。

そして今宵コヨイ

バンジャマン家の全てが、明かされる。


----------------------------

アイビー

「前から聞こうと思ってたんだけど

どうしてミシェールじゃなくて

ラナンキュラスって名乗ってるの?」


ラナンキュラス

「聞きたいかい?

僕と…ラナンキュラスの話しを」


----------------------------


若きハーゴン

「古来よりバンジャマン家は死刑執行…つまり

死刑執行人(ジュジュマン)生業ナリワイとする。

初代皇帝よりタマワりしこの職務は

世襲セシュウをもって受け継がれていくものだ。」


青年クリス

「ミシェール…まさかお前

バンジャマン家の者でいながら

バンジャマン家を否定するのか!?

そこまでバカだったとは!!!

やはり刃術(ジンジュツ)も全て

取り上げるべきだったんだ!!

父上は間違っている!!!!」


----------------------------


画家

「ミシェール。美しい名だね。」


少年ラナンキュラス

「変な名前だよ。クリスに女々しいって

バカにされるんだ。」


----------------------------


少年ラナンキュラス

「僕の母親?」


セリーヌ

「えぇ。イブリラ=ロラン=バンジャマン。

彼女はとても快活で清らかな人だった。

私は彼女を…」



少年ラナンキュラス

「どうしたの?」



セリーヌ

「殺してしまった」




----------------------------


挿絵(By みてみん)



作者 REN’sJackson


劇情版

千刃花センジンカ帝国特務戦闘部隊テイコクトクムセントウブタイ〜ー

3rd(サード) Anniver(アニバー)sary(サリー) Special(スペシャル) Edition(エディション)

Ranunculus(ラナンキュラス)'s() Side Story(サイド ストーリー)

The () Star (スター)gazing (ゲイジング)scene BLUE(シーン ブルー)



※音楽がある場合鳴り止むまで待つ

----------------------------


静かに、ただ静かにセリーヌは語りはじめた。

セリーヌが父ハーゴンと母イブリラ

そして、自分とクリスの為に

死剣 緋葬殺那(フルスティング)を破壊しようと試みたこと

それを失敗したセリーヌは

長い歳月が過ぎた今でも

心の底から悔やんでいることを。


セリーヌ

「ごめんなさい。ミシェール」


少し、涙を浮かべ頭を下げるセリーヌに

ラナンキュラスはツーッと涙を流した。


少年ラナンキュラス(泣きながら)

「ラナンキュラスは…悪くないじゃないか」


セリーヌ(泣きながら)

「私が殺してしまったも同然よ。

あの時キフォスに殺されてでも

破壊していれば…」


少年ラナンキュラス(泣きながら)

「ダメだ。そんな事になったら

母さんは…絶対ラナンキュラスを…許さない。

全部…全部!!

死剣 緋葬殺那(フルスティング)のせいじゃないか!!!

僕が…死剣 緋葬殺那(フルスティング)

必ず破壊するよ!!」


すると、セリーヌは涙をヌグい、

ラナンキュラスの目を見た。


セリーヌ

「いけません。」


少年ラナンキュラス

「どうして!!!

死剣 緋葬殺那(フルスティング)の呪いだろ!?」


セリーヌ

「イブリラの願いを無にするつもりですか!」


少年ラナンキュラス

「…そんな!!でもラナンキュラスだって!!

それに母さんはーー」


セリーヌ(遮る様に)

「もう遅いの。」


少年ラナンキュラス

「え?」


セリーヌ

「あれからキフォスは、死剣 緋葬殺那(フルスティング)

破壊される事を恐れ

皇帝に申し入れを行ない

国が指定する宝剣となってしまった。

つまり、盗んでも破壊しても極刑。

死罪にアタイするのよ。」


少年ラナンキュラス

「そんな!!!」


セリーヌ

「諦めなさい。

バンジャマン家の者が

そんな事をするのは

私で終わりにしないとけない。

分かるでしょ??」


少年ラナンキュラス

「じゃぁ…なんでそんな事

僕に話したんだよ!!!!!」


セリーヌ

「言ったでしょ?

嘘は愚かな行為だと。」


少年ラナンキュラス

「じゃぁ…本当の事なんだね。」


セリーヌ

「ぇえ。」


少年ラナンキュラス(泣きながら)

「それじゃあ…ラナンキュラスばっかり

ツラいじゃないかぁぁ!!!!」


セリーヌ(泣きながら)

「…ミシェール」


思わず立ち上がったラナンキュラスは

セリーヌに駆け寄り抱きついた。


セリーヌ(泣きながら)

「いいの。私の事は…いいの。いいから」


少年ラナンキュラス(泣きながら) 

「良くないよぉお!!!!」


セリーヌ(泣きながら)

「ミシェールは…

ミシェール自身の事だけを…考えなさい。」


少年ラナンキュラス(泣きながら)

「僕は!!母さんと同じ様に!!

僕はラナンキュラスを誇りに思う!!」


セリーヌ(泣きながら)

「ありがとう。ミシェール。」


セリーヌにとって

昨日の事のように思い出す在りし日の記憶。

時を超えた今、少しだけ救われた様な気がした。

ーー数分後ーー

食器を洗うラナンキュラスに

セリーヌが改まった口調で話しかけた。


セリーヌ

「ミシェール」


少年ラナンキュラス

「ん??もう流石にお皿割らないよ!!」


セリーヌ

「違うわ。」


少年ラナンキュラス

「何??」


ラナンキュラスは

皿を洗い終わるとタオルで手を拭きながら

セリーヌの顔を見た。


セリーヌ

「これだけは覚えておきなさい。ミシェール。

愛する人を妻とする時…覚悟なさい。

必ずその身に災いが降りかかる。」


少年ラナンキュラス

「…うん。でも、結婚なんて

僕は興味ないなー。出来ないと思うし。」


セリーヌ(遮る様に)

「それと、この呪いについては他言無用です。

バンジャマン家の中でも

秘匿ヒトクとされて来た事だから。

あなたの妻にも言わない方がいい。

不安にさせる必要は無いわ。」


少年ラナンキュラス

「わ、分かったよ。」


セリーヌ

「ただ…」


少年ラナンキュラス

「ただ?」


セリーヌ

不神鳥(シンフェニックス)の灰以外にも

呪いにアラガえるものが

あるかもしれない。」


少年ラナンキュラス

「本当に!?!?!?」


セリーヌ

「死剣 緋葬殺那(フルスティング)(オン)

ツイす神聖なものよ。」


少年ラナンキュラス

「一体…死剣 緋葬殺那(フルスティング)ってなんなのさ」


セリーヌ

「あれがどんな物か私には分からない。

だけど、あれからずっと調べたの。

鞘花(ショウカ)になれば

鞘神(サヤガミ)の加護で護ってくれるかもしれない。」


少年ラナンキュラス

鞘花(ショウカ)!?!?興味ないなー。

それにさぁ、そんなの夢のまた夢だよ。

僕がなれる訳ないだろ???」


セリーヌ

「それはまだ分からない。

選ぶのはミシェール

あなたではなく鞘神(サヤガミ)の方よ。」


少年ラナンキュラス

「そ、そうだけど…」


セリーヌ

鞘花(ショウカ)能力(チカラ)

護ってあげればいいわ。

きっと呪いにだって打ち勝てる。」


少年ラナンキュラス

「んーーー。鞘花(ショウカ)。かぁ」



ーーそして、時は巻き戻り現代ーー

ラナンキュラスはセリーヌの言葉の数々を

思い出していた。

するとボソッとラナンキュラスが一言呟いた。



ラナンキュラス

「災いが…降りかかる。」


アイビー

「ん??災い??急にどうしたの?」


ラナンキュラス

「いや、何でもないさ。

バンジャマン家の古い話を

少し思い出してね。」


アイビー

「え?どんな話し??」


ラナンキュラス

「死剣 緋葬殺那(フルスティング)マツわる御伽噺オトギバナシさ」


アイビー

「あの呪われた(ツルギ)の??」


ラナンキュラス

「ぁあ。」


アイビー

「どんな話しだったの?

お母さんが素敵な人だったって所で

急に静かになって星を見ちゃうんだもん」


ラナンキュラス

「話してると、色々思い出しちゃってね。」


ラナンキュラスはアイビーに対して

死剣 緋葬殺那(フルスティング)の真実や

降りかかる災いについての一切イッサイ

話さなかった。


アイビー

「っていうか

バンジャマン家に御伽噺オトギバナシがあるの??

格式高い家なのねー。私の家とは違うなー」



ラナンキュラス

「フフッ。御伽噺オトギバナシは言い過ぎたかな?

それにアイビー。僕と君は結婚するんだ。

君もバンジャマン家の一員になるのさ。」



アイビー

「…うん。」


ラナンキュラス

「不安がる事ないよ。

僕が必ず君を護る。」


アイビー

(イカヅチ)よりも早く?」


ラナンキュラス

「ぁあ。(イカヅチ)よりもずっと早く」


すると突然、後ろからアイビーを

強く抱きしめるラナンキュラス。


アイビー

「どうしたの??」


ラナンキュラス

「願わくばこの時間が

ずっと続けばいいのに。って思ってね。」


アイビー

「…うん。私もそう思う。」


ラナンキュラス

「アイビー。僕らが晴れて結婚すれば

このニュースは世界中に知れ渡る。

だから君を安全な所に連れて行く。

もうその手筈テハズは整えた。」


アイビー

「なんで??ちょっと大袈裟じゃない??」


ラナンキュラス

鞘花(ショウカ)の妻となれば

その身を狙われるからね。

バンジャマン家の護衛だけじゃ

信用ならないからさ。」


アイビー

「私は私の身を自分で護れるし

安全な場所を探さなくてもいいのに。

ここでいいじゃない。

色んな思い出が詰まった素敵な場所だし。」


ラナンキュラス

「僕らの墓はここに建てるって話しは

前にしたろ???」


アイビー

「ここ一帯を綺麗な花畑にしてくれるんでしょ?」


ラナンキュラス

「ぁあ。もちろんさ。」


アイビー

「でもラナン。

新しい家を建てるまでは

私、やっぱりここがいいな。」


ラナンキュラス

「ダメだ。ここは知られ過ぎてる。」


アイビー

「知ってる?

私は八刃花(ハチジンカ)隊の副隊長。

私は強いし闘えるんだよ?」


ラナンキュラス

「フフッ。

ここで毒はマイて欲しくないかなー」


アイビー

「綺麗な花には毒があるものなの!!

もう少し副隊長を信じてよ。」


ラナンキュラス

「信じてるに決まってるだろ??

可愛くて美人で強い女性を

僕が指名したんだからね。

でも、それとこれとは話が別さ。

オルケイディア大隊長とも話しをしたんだ。

大隊長の隠しアジトで初めはカクマう。

幾重イクエにも結界をホドコして完璧に護る。」


アイビー

「フフッ。やりすぎだよ!!!

買い物とかどうするの???まさか…」


ラナンキュラス

「アブラハム(ジルシ)のウィンナーも付けるよ?」


アイビー

「やだーー!!

私達の夢はーーーー」


ラナンキュラス(遮る様に)

「この戦争が終わったら

僕は君と旅に出て...」


アイビー

「世界中を周る。」


ラナンキュラス

「小さな家を建てて

そこで紅茶を育てて売るんだ。

そして家に帰れば」


アイビー

「私が夕飯の準備をして待ってる。

大きなパイ生地に白いシチュー。」


ラナンキュラス

「君によく似た男の子と」


アイビー

「ラナンによく似た女の子」


ラナンキュラス

「それが、僕達の夢...」


アイビー

「そうでしょ??

狭い所に閉じ込められたら

何も出来ないよ??」


ラナンキュラス

「僕がすぐにこの戦争を終わらせる。

それまでの辛抱さ。」


アイビー

「んーー。食事は??」


ラナンキュラス

「そこは…バンジャマン家も

面倒見てくれる。

それに隠れアジトって言っても

大きい屋敷だから不自由しないさ。」


アイビー

「ラナンは…帰って来る??」


ラナンキュラス

(イカヅチ)よりも早く」


アイビー

「っていいながら何ヶ月も

帰って来ないの知ってるよー?」


ラナンキュラス

「それは…約束出来ない…かな??」


アイビー

「そう言うと思った!!

でも、鞘花(ショウカ)だから仕方ないね。

闘う事が使命だもん。」


ラナンキュラス

「アイビー違うよ。

僕ら鞘花(ショウカ)は護る事が使命なんだ。

だから信じてほしい。

僕は必ず。君を護る。例え何があっても」


アイビー

「…ラナン」


セリーヌ▶︎▶︎▶︎N


ーー再び時は少年時代へと(サカノボ)るーー

衝撃の事実を聞いてから数ヶ月後

クリスはナーベルク士官学校の入学式を終え 

自室へ戻って来ていた。


青年クリス

「フゥーー。」


するとそこにハーゴンがやって来た。


若きハーゴン

コンコンコン(ノックする音)

入るぞ。クリス」


青年クリス

「父上!!」


ベッドに倒れ込んでいたクリスは

急いで立ち上がった。


青年クリス

「どうぞ!!!」


若きハーゴン

「クリス。

A-1st(エーファースト)に見事、受かったようだな。

しかし…寮に戻らなかったのか?」


青年クリス

「父上。お話しが…」


若きハーゴン

「どうした。」


青年クリス

「実は…

ダンデライという不良と同じクラスになりまして」


若きハーゴン

「ダンデライ…。

先日、青藍人魚(セイランニンギョ)を継承した

レオント殿の弟君オトウトギミか。」


するとハーゴンはクリスをじっと見つめた後

足から爪先ツマサキまで見た。


若きハーゴン

「まさか…入学初日にーー」


青年クリス(遮る様に)

「はい。喧嘩を」


クリスの服には血がついていた。


若きハーゴン

「ケガは?」


青年クリス

照刃(ショウハ)で治してもらいました。」


若きハーゴン

「そっちではない。

ダンデライの方だ。

お前から一方的ではなかろうな?」


青年クリス

「お互い激しく…」


若きハーゴン

「…負けたのか?」


青年クリス

「いえ!!俺がスラム街出身のギャングなんかに

負ける訳ありません!!」


若きハーゴン

莇生アザミはなんと?」


青年クリス

「タバコ吸うならバレてんじゃねぇ

お前もお前でチクってんじゃねぇっ。と

莇生アザミ先生に2人して

ボコボコに殴られ停学処分に。」


若きハーゴン

「何?お前たち2人だけか?」


青年クリス

「いえ…莇生アザミ先生は

それで停職処分に」


若きハーゴン

「そうか。男なら喧嘩は通る。

次は上手くやりなさい。」


青年クリス

「え!?父上!!バンジャマン家の俺に

ダンデライと莇生アザミ先生は

恥をかかせたんですよ!?

それにこれは不当な処分です!!!!」


するとハーゴンは静かに口を開いた。


若きハーゴン

「入学早々に喧嘩沙汰を起こして

莇生アザミカバわなかったら

退学になっていた。それも分からんのか」


青年クリス

「どう言う事…でしょうか」


若きハーゴン

「罪を上塗りして、すげ替えた。それだけだ。

莇生アザミには酒でも贈っておく。

くれぐれも逆らうな。

奴は去年まで

千刃花(センジンカ)屈指の副隊長だった。

荒くれ集団の寄せ集め四刃花(ヨンジンカ)隊を経て

大隊長が統べるニ刃花(ニジンカ)隊のな。

逆立ちしても勝てん。」


青年クリス

「あの…四刃花(ヨンジンカ)隊からニ刃花(ニジンカ)隊の副隊長…ですか」


若きハーゴン

「そうだ。

分かったら処分中は大人しくしていなさい」


青年クリス

「…分かりました。」


するとハーゴンはクリスの部屋から出ていった。


青年クリス

「グッ…ダンデライ=ジョージジェイ=ニューヨーク」


ーーラナンキュラスサイドーー


少年ラナンキュラス

「えーっと…ここを確か…右行って…

それから…あれ??

また元に戻って来ちゃった。

…おかしいなぁ。日が暮れちゃうよ…」


ラナンキュラスは

画家がいた花畑を探して

木漏れ日がアフれる樹海を歩いていた。

理由は家に飾られてある花が枯れた為であった。

諦めたラナンキュラスはキビスを返した瞬間、



















すでに花畑の前にいた。





少年ラナンキュラス

「…あれ?」


すると、前回と同様に

画家はキャンバスに絵を描きながら

ラナンキュラスに話しかけて来た。


画家

「やぁ、ミシェール。

また会えたね。」


少年ラナンキュラス

「僕…どうやって来たんだろ…」


あたりを見渡すラナンキュラスに

画家は微笑んだ。


画家

「フフッ。

来れた理由がそんなに大事なのかい?」


少年ラナンキュラス

「そうじゃないけど…何回も迷ったから…」


画家

「ここは広大な樹海。

似たような景色が続いているから

迷うのも無理はないさ。

それに…大事なのは

君は何故、ここに来たかったのか。だろ?」


少年ラナンキュラス

「あ!!そうだ!!

ラナンキュラスの花が枯れたから

みに来たんだ!!」


画家

「そうか…枯れたんだね。」


その悲しげな言葉とは裏腹に

キャンバスに色を塗り続ける画家を見て

ラナンキュラスは思わず口を開いた。


少年ラナンキュラス

「悲しいの??」


画家

「ミシェールには僕が悲しく見えるのかい?」


少年ラナンキュラス

「何だよそれ。

適当に誤魔化してるでしょ?」


画家

「フフッ。

誤魔化しているのは君だろ?ミシェール」


唐突な言葉にラナンキュラスは

驚きを隠せなかった。


画家

「初めて会った時は

理不尽な出来事に対する怒り。

そう、燃える様な赤が君を包んでいた。

でも今日はまるで違う。

無力な自分に対する悲しみ。

深い深い青が君にマトわりついている。

違うかい??」


少年ラナンキュラス

「なんで…それを」


色で例えるその独特な表現は

絵を描いているからなのかは

分からなかったが

自分さえも見ない画家に心を

完全に見透かされていると感じていた。


画家

「君の本来の色とは分離している。

なかなか整理がつかないみたいだね。」


少年ラナンキュラス

「実は…」


ラナンキュラスはこれまでの出来事を

全て話した。

何故、話したのかは

自分でもよく分からなかった。

ただ、画家の包み込む様な柔らかさに

甘えてしまった。

ーー数分後ーー


画家

「そうだったんだね。

ミシェール。ラナンキュラスから聞いたのは

それが全てかい?」


少年ラナンキュラス

「…うん。」


画家

「そうか。まだ幼い君の心じゃ

理解し難い経験だね。

ミシェール。自分を追い出した兄も父も

祖母を追い出した祖父も

許せないのかい?…いや、許しガタいのは

バンジャマン家そのもの…か。」


少年ラナンキュラス

「許せないよ。

バンジャマン家なんて無くなればいいんだ。

そうすればラナンキュラスだって

母さんだって…こんな事にならなかった」


すると、画家は初めて筆を止めた。


画家

「自分を許さない限り

君の心の葛藤はずっとそのままだよ。」


少年ラナンキュラス

「自分を許す!?

話し聞いてたの!?

僕やラナンキュラスを追い出したのも…

母さんが…死んだのも…全部ーーー」


画家(遮る様に)

「その抱える痛みこそ

優しさに変えられるんだ。

僕はそれをね。"ウツワ"と呼ぶ。」


少年ラナンキュラス

ウツワ?」


画家

「起こってしまったことや

招いてしまったことは

どうにもならない。

だからこそ、許す。

もし、許せる事が出来れば

自分を責める事もなくなる。

全て受け入れて進むしかない。」


少年ラナンキュラス

「受け入れて…進む。

僕には…まだ出来ないよ。」


画家

「フフッ。それでいいんだ。

人は不完全だからこそ

進化出来る余地があるというものさ。

この先、ウツワの大きさを

何度も何度も試されるだろう。

その度に少しずつ大きくしていけばいい。

怒りや悲しみは君の在るべき姿。

その二面性がアデやかに染まる日を

僕は楽しみに待っているよ。」


そう言って画家は

再び筆を取るとキャンバスに色を足していった。

ラナンキュラスは画家の言った一言一言を

全て理解する事は出来なかったが

どこかに落ちた様な気がした。

そして、時だけが静かに流れていく。


少年ラナンキュラス

「画家のお兄さん…聞いてもいいかな?」


画家

「何だい?」


少年ラナンキュラス

「この前、描いてたものの

続きを書いてるの?」


画家

「そうだよ。」


少年ラナンキュラス

「まだ終わらないの??」


画家

「ぁあ。終わらないね。」


少年ラナンキュラス

「何…描いてるの??」


画家

「おや?気になるかい?」


少年ラナンキュラス

「…うん。」


画家

「星さ。」


少年ラナンキュラス

「星!?」


ラナンキュラスは

思わず見上げたが

まだ空には太陽が見えていた。


少年ラナンキュラス

「だってこの前も今日もまだお昼だよ??」


画家

「よく目を凝らせば見えるさ。

ほら、あそこ」


画家は筆を空に向けた。


少年ラナンキュラス

「え?どこ??」


画家

「ずーっと遥か向こうに

美しい夜空がある。」


少年ラナンキュラス

「え!?見えないよ!?」


画家

「フフッ。

いつか、君にも見える夜空がね。」


ラナンキュラスは目を凝らせど凝らせど

夜空なんてどこにも見えなかった。


画家

「とても美しいんだ。

その夜空には人間の美しさが確かに在る。」


少年ラナンキュラス

「人間の美しさって何??」


画家

「君はよく分かっているはずさ。」


少年ラナンキュラス

「僕が????」


画家

「フフッ。その内...分かるさ。」


少年ラナンキュラス

「分かる…かな?」


画家

「未来がどうなるかなんて分からないだろ?

君が一体どうなるのかもね。」


少年ラナンキュラス

「え?」


画家

「物語の結末は

その時まで楽しみにしておきなよ。

どんな絵になるか…

君はまだ、知らなくていいんだ」


夕暮れに照らされながら

黄昏タソガレる画家の言葉とその姿に

人間とは思えない美しさを

ラナンキュラスは感じていた。

同時に恐怖さえ覚えた。


画家

「さぁ、日が暮れる前にお帰り。

この樹海は夜になれば違った顔を見せる。」


少年ラナンキュラス

「あっ!!花をまないと!!」


ラナンキュラスは急いで花をむと

花畑を後にした。


画家

「また会おう。ミシェール」




※音楽がある場合終わるまで待つ



ハーゴン▶︎▶︎▶︎N



ーー数ヶ月後ーー

セリーヌとラナンキュラスの自宅にて。

日に日に足腰が悪くなっていくセリーヌだったが

厳しさは健在だった。

日中、刃術(ジンジュツ)の修行が無い日は

ピアノの練習をセリーヌに見てもらっていた。


セリーヌ

「リズムどころか1小節分ズレてるわよ」


少年ラナンキュラス

「え??イデッ!!」


しなる棒でラナンキュラスの肩を

セリーヌは叩いた。



セリーヌ

「姿勢。」


少年ラナンキュラス

「は、はい!!」


セリーヌ

「何故、暗譜アンプしないの?」


少年ラナンキュラス

「し、したよ!!」


セリーヌ

「では何故、間違えるの?」


少年ラナンキュラス

「そ、それは…その…イデッ」


セリーヌ(遮る様に)

暗譜アンプしていないからです。

運指ウンシもバラ付き、譜面も読めない。」


少年ラナンキュラス

「譜面は読めるよ!!」


セリーヌ

「譜面が読めるなら暗譜アンプ出来るはずね。」


少年ラナンキュラス

「ぼ、僕が得意なのはバイオリンなんだ!!」


セリーヌ

「だからなんです?」


少年ラナンキュラス

「だ、だから…ピアノなんて

やる必要ないじゃないか!!」


セリーヌ

「ピアノは打楽器であり弦楽器。

しなやかさ、強弱、思考瞬発力

全てを養う刃術(ジンジュツ)の基本が

そこに詰まっているの。」


少年ラナンキュラス

「そんなの聞いたことないよぉ!!

イデッ!!」


セリーヌ

「姿勢。」


少年ラナンキュラス

「は、はい!!」


セリーヌ

「音を奏でる様に刃術(ジンジュツ)

組み立てていけば

感覚で刃術(ジンジュツ)の形が分かる様になる。

そうすれば複雑な刃術(ジンジュツ)でさえも

形を繋いで一つに出来るの。

これを複合合成刃術(ジンジュツ)と言うのよ。

ピアノは手っ取り早くその感覚を掴める。

どの位置で呼吸すれば良いか

どの位置まで刃汽(ジンキ)を伸ばせば良いかまでね。

姿勢。」


少年ラナンキュラス

「イデッ!!」


セリーヌ

「気を抜かないの。

緻密チミツさを求められる刃術(ジンジュツ)では

命取りよ。

ミシェール。刃術(ジンジュツ)の種類を答えて。」


少年ラナンキュラス

「攻撃に使う滅刃(メツハ)に…

回復に使う照刃(ショウハ)

その他に分類されていない剋刃(ゴクハ)。」


セリーヌ

「数は?」


少年ラナンキュラス

「それぞれ…50ずつ」


セリーヌ

「よろしい。…姿勢」


少年ラナンキュラス

「イデッ!!」


ラナンキュラスは刃術(ジンジュツ)の練習なのか

ピアノの練習なのか

どちらかはっきりしないモヤモヤを抱えながら

セリーヌの話しを聞いていた。

するとノックが鳴る。



少年ラナンキュラス

「ラナンキュラス…誰かな?

僕出てくるよ!!」


杖をつかなければ

上手く歩けないセリーヌに変わり

ラナンキュラスは玄関へと向かっていった。


少年ラナンキュラス

「はーい!!」













画家

「やぁ、久しぶりだね。ミシェール。」


少年ラナンキュラス

「あ、画家のお兄さん!!」


画家

「おや?今日はなんだかーー」


少年ラナンキュラス(遮る様に)

「ラナンキュラス!!

画家のお兄さん来たよ!」


すると、セリーヌは杖をつきながら

ゆっくり歩いてきた。


セリーヌ

「お久しぶりです。」


画家

「やぁ、セリーヌ。

突然、驚かせてしまってすまないね。」


セリーヌ

「いえ、それはお互い様ですから」


画家

「フフッ。

それと、これを…」


画家はセリーヌに花束を持ってきていた。


画家

「飾るといい。

きっと、元気になる。」


セリーヌ

「わざわざありがとうございます。」


画家

「いいんだよ」


セリーヌ

「新しい葉で作った紅茶でもいかがですか?」



画家

「頂戴しようかな。」


セリーヌ

「どうぞお上がり下さい。」


そう言ってセリーヌは

画家を自宅へと招き入れると

紅茶を淹れた。


画家

「相変わらず見事な味わいだ。

とても美味しいよ。」


セリーヌ

「ありがとうございます。」


少年ラナンキュラス

「今日はどうしたの?」


画家

「紅茶の葉が切れてしまってね。

それを買い足しに来たんだ。

ラナンキュラス。いつもの量を頼むよ。」


セリーヌ

「かしこまりました。

ミシェール。小屋の棚から2袋

それと、この紅茶の葉を1袋取ってきて頂戴」


少年ラナンキュラス

「分かった!!」


ラナンキュラスはそう言うと

菜園にある小屋へと向かっていった。


セリーヌ

「いつもご贔屓ヒイキにしてくれるので

新作の葉はサービスです。気に入ったら

またお買い求め下さい」


画家

「フフッ。君は商売上手だね。

ミシェールとはどうだい?

退屈しなさそうに見えるけど」


セリーヌ

「ええ。毎日が忙しくなりました。」


画家

「止まった時間が動き出した。

そういう感じだろ?」


セリーヌ

「はい。」


画家

「何かを得れば何かを失う。

ある意味、平等なのかもしれない。」


セリーヌ

「相変わらず不思議な人ですね。

そう言えば、絵の方は順調ですか?」


画家

「そうだね。ようやく見えてきた。って

感じかな?

君に頼まれた方はヨウヤく描き始めたよ。

芸術とは思い通りにいかないものだね。

どちらにせよ。

時が来れば必ず完成するだろう。

今はその時じゃないだけさ。」


セリーヌ

「ゆっくり描いてください。

私も急いでいる訳ではありませんので」


画家

「では、

お言葉に甘えさせてもらうとしよう。」


するとラナンキュラスが

紅茶の葉を抱えて帰ってきた。


少年ラナンキュラス

「持ってきたよー!!!」


画家

「さて、そろそろ行こうかな。

ミシェール。ありがとう。」


画家はミシェールから袋を受け取った。


セリーヌ

「またいらしてくださいね。」


画家

「ぁあ。長居してしまって悪かったね。」


セリーヌ

「構いませんよ。」


画家

「ミシェール。

次会う時は君のウツワがどれ程の物になったか

楽しみにしているよ。

それと…今日は早く眠るといい。」


少年ラナンキュラス

「それは…どういう…」


そう言って大量に金貨が入った小袋を

ドスンっと置いて帰っていった。


少年ラナンキュラス

「え…」


セリーヌ

「どうかしたの?ミシェール。」


少年ラナンキュラス

「こんなに沢山の金貨…いいの?」


セリーヌ

「あの方はいつもそうよ。」


少年ラナンキュラス

「あの人…貧乏だと思ってた。」


アイビー▶︎▶︎▶︎N


ーークリスサイドーー

バンジャマン家の敷地内にて

休日、乗馬にイソしむクリスとハーゴン。


若きハーゴン

「そろそろ夕食だ。戻るぞクリス。」


青年クリス

「父上。警護の者から聞きましたか?」


若きハーゴン

「何をだ?」


青年クリス

「ミシェールやラナンキュラスを

時折、フッと見失う事があるそうです。」


若きハーゴン

「ぁあ。耳にはしている。

しかし、セントラルを取り囲む樹海は

自然の要塞だ。迷ってもおかしくはない。」


青年クリス

「にしても余りにも

不可解ではないでしょうか。」


若きハーゴン

「実際に見たような口ぶりに聞こえるぞ。」


青年クリス

「…はい。ダンデライとその手下数名で

興味本位で樹海に行ってみたんです。」


若きハーゴン

「クリス。付き合う友人は選びなさい。

レオント殿の弟とはいえ

その下にいるのは

スラム街のギャングだろう?」


青年クリス

「父上。

そのギャングは俺とダンデライによって

解散しました。

まだ他のギャング残党はいますが

ダンデライ達のギャングに関しては

生徒会の活動の一環として

街への奉仕活動に協力してもらっています。」


若きハーゴン

「なるほど。

全員を士官学校に

入れるつもりだなレオント殿は。

学力の無い者を一からどうするのか…」


青年クリス

「父上。ナーベルク士官学校の入試には

クリシャンテ先生が校長になってから

学力試験だけでは無くなりました。

一芸入試さえ突破すれば入学出来ます。

もちろん、その後は学力が無ければ

進級する事は出来ませんが…」


若きハーゴン

「一芸入試であっても

最低限の学力試験はあるはずだ。

ろくに学校にも行っていない連中が

どうやって行くつもりなのか。

ん?まさかクリス…お前。」


青年クリス

「学びとは

教える事も重要だと考えています。」


若きハーゴン

「ダンデライとクリスで

ギャング共に教えているのか。」


青年クリス

「レオント殿も

一緒に教えてくれる事もあります。

実際の鞘花(ショウカ)能力(チカラ)

の当たりにする機会があるのは

とても光栄な事です。」


若きハーゴン

「そうか。

良い方向に進んでいるのなら

文句はない。今度レオント殿を交えて

バンジャマン家で持て成そう。」


青年クリス

「え!?!?父上本当ですか?」


若きハーゴン

「士官学校で共に学び出来た仲間というのは

一生物だ。大切にしなさい。

それに、お前が楽しそうに

友人の話しをするのを初めて見た。

バンジャマン家の当主には社交性も必要だ。」



青年クリス

「ありがとうございます!!

ダンデライは気性が荒い部分はあるんですが

根はとても真面目なんですよ!!

ギャング仲間にはダンデライに憧れる者も多く

その中でもムスカリーノという少年は

アナスタシアと同い年なんですが

面白い奴なんですよ。」


若きハーゴン

「ブルダニア家のアナスタシア嬢か。

士官学校に入学すれば

その少年も大変だろうな。

あれは幼くして女帝の様だ。」


青年クリス

「それとですね!

魔獣生物 (ドラゴン)にやたらと詳しい女がいまして…」


クリスの話しは豪華な夕食の席まで続き

ハーゴンもそれを真剣な眼差マナザしで聞いていた。



※音楽がある場合は鳴り止むまで待つ



ーーラナンキュラスサイドーー

セリーヌとラナンキュラスは

いつもの様に質素な夕食を食べていた。

しかし、ラナンキュラスは

どことなく元気がなかった。


セリーヌ

「ミシェール。」


少年ラナンキュラス

「ん?」


セリーヌ

「あなたはいつも夕食になると

元気がないのね。」


少年ラナンキュラス

「そんな事ないよ。」


セリーヌ

「豪華な食事が懐かしいのかしら?」


少年ラナンキュラス

「…そういう訳じゃないけど。」


セリーヌ

「はぁ。分かりました。

明日、セントラルに

食材を買いに行きましょう。」


少年ラナンキュラス

「え!?本当!?!?

で、でもラナンキュラスは体調大丈夫なの?」


セリーヌ

「知らないと思うけど私はまだ歩けるのよ?」


少年ラナンキュラス

「わ、分かってるよ!

そういう意味じゃなくてさぁ。

僕…は…ただ…」


するとラナンキュラスは

握っていたフォークとナイフを落としてしまった。


セリーヌ

「ミシェール。拾いなさい。」


少年ラナンキュラス

「あ、ごめん」


ラナンキュラスが拾おうと席を立つと

倒れてしまった。


セリーヌ

「ミシェール!!!」


セリーヌは急いで駆け寄り

ラナンキュラスのヒタイに手を触れた。


セリーヌ

「…熱。」


少年ラナンキュラス

「大丈夫…だから。」


セリーヌ

「ベッドまで運ぶわ。」


少年ラナンキュラス

「一人で…歩ける…よ」


するとセリーヌはヒタイを合わせて呟いた。


セリーヌ

照刃ショウハ の六・蔓音譜カズラネノウタ


少年ラナンキュラス

「あったか…い」


セリーヌ

「これは波動系の照刃(ショウハ)よ。

私から伝わる波動が

身体を温めて筋肉を弛緩シカンする。

体の免疫も上がるから楽になるはずよ。」


少年ラナンキュラス

「ありが…とう」


セリーヌ

「大丈夫。心配しないで。

今日はゆっくり休みなさい」


セリーヌが言葉を発する度に

その言葉の振動がヒタイへと伝わり

ラナンキュラスの身体を暖かく包んだ。

続いて少し距離を取ると

ラナンキュラスに向かって刃術(ジンジュツ)を唱えた。



セリーヌ

剋刃(ゴクハ) 三十四•浮天波無フテンパムウ


剋刃(ゴクハ) 三十六・空乗波濤(クラノリハトウ)


「複合合成刃術(ジンジュツ)


剋刃(ゴクハ) 七十・天歩艇音テンプテーション


ラナンキュラスの身体が

フワッと浮くと周りに空気の渦が生じた。

するとセリーヌの手の動きに合わせて

ラナンキュラスの身体が移動した。


少年ラナンキュラス

「ハハッ…複合合成刃術(ジンジュツ)

やっぱりラナンキュラスは…凄いなぁ」


複合合成フクゴウゴウセイ刃術ジンジュツとは

別の刃術ジンジュツを合わせて発動する

超高等チョウコウトウ刃術ジンジュツ

複合フクゴウする側が超緻密チョウチミツ

刃術ジンジュツコントロールが

出来なければ成功する事はまずない。


セリーヌ

「あなたも出来る様になるわよ。」


その日の夜

セリーヌはロッキングチェアに揺られ

オルゴールを流しながら

2階のバルコニーで夜空を見上げていた。



♪1


セリーヌ

「…風が心地いい。」


すると、眠たい目を擦りながら

ラナンキュラスがやってきた。


少年ラナンキュラス

「ラナンキュラス。」


セリーヌ

「真夜中よ。

寝ていないとダメ。」


少年ラナンキュラス

「そうなんだけど…僕」


セリーヌ

「どうしたの?」


少年ラナンキュラス

「その…」


セリーヌ

「フフッ。こっちへ来なさい」


セリーヌはラナンキュラスを抱き寄せると

膝掛けに使っていたブランケットを床に敷いた。


セリーヌ

「カモミールティーを淹れるから

待っていなさい。」


少年ラナンキュラス

「うん!!」


セリーヌはカモミールティーを持ってくると

ラナンキュラスのカップに注いだ。


少年ラナンキュラス

「ありがとう。

ねぇ、ラナンキュラス。

刃術(ジンジュツ)って凄いね…

なんだか魔法みたい!!」


セリーヌ

「フフッ。魔法は刃術(ジンジュツ)

説明できない事を指すのよ。

理にかなわない現象なの。」


少年ラナンキュラス

「へぇ…魔法とは違うんだ。

でもラナンキュラスのおかげで

身体が楽になったよ!!ありがとう。」


セリーヌ

「良かったわね。

でも、明日は寝ていなさい。

照刃(ショウハ)は特効薬だけど

自然に回復する事が1番。」


少年ラナンキュラス

「お買い物は!?」


セリーヌ

「来週にしましょう。

明日は身体に良いものを作るから」


少年ラナンキュラス

「…分かった。」


セリーヌ

「聞き分けが良い子ね。

本当に素直な子に育ったわ。

おまけに自分の意志もしっかり貫き通す。

その辺はイブリラにそっくりね。」


少年ラナンキュラス

「母さんに?」


セリーヌ

「ぇえ。

イブリラもね。

刑を執行する事をよく思ってなかったの。」


少年ラナンキュラス

「じゃぁ何で父さんと結婚したの?」


セリーヌ

「ハーゴンも、まだ若かった。

口には出さないけど

あの子の葛藤にイブリラも気付いてたのよ。」


少年ラナンキュラス

「あの父さんが!?」


セリーヌ

「そうよ。

キフォスが亡くなって

ヨウヤく覚悟が決まったみたいよ。

イブリラが亡くなったのもあって

ツラくなるとね。

こっそり私に会いに来たりしてね。」


少年ラナンキュラス

「あの父さんが?」


セリーヌ

「だからミシェールの気持ちは

あの子が1番理解しているはず。

だからハーゴンをウラんだりしては

ダメよ。」


少年ラナンキュラス

「でも…父さんは僕を追放したじゃないか。」


セリーヌ

「クリスとミシェールを想ってした事よ。」


少年ラナンキュラス

「クリスを?違うよ。

いつも父さんはクリスばっかりなんだ。」


セリーヌ

「同じ様にクリスも

あなたに対して想ってるんじゃないかしら?」


少年ラナンキュラス

「どうして??」


セリーヌ

「兄弟とはそういうものよ。」


少年ラナンキュラス

「そうなのかな…でもクリスは…

いつも僕の名前を馬鹿にするんだ。

僕はそんな事思ったことないのに!!」


セリーヌ

「イブリラが付けた名前が嫌い??」


少年ラナンキュラス

「嫌いだよ。

みんなの前でも馬鹿にするんだ。」


セリーヌ

「そう。決めるのはミシェール。

あなた自身よ。」


少年ラナンキュラス

「でも…名前を変えるなんて無理だよ。」


すると、ラナンキュラスは

画家の言葉を思い出した。


----------------------------


画家

((自分の名を受け入れられないのであれば

変えてしまえばいい。君の人生だ。

全ての選択肢は君の手に委ねられている。

親は子に対して色んな想いを込めて

名を付ける。健康や人徳、生き様。

様々な理由があるけど

果たしてそれは名付けられた本人が望むのか。

僕はね。

1番大切なのは親がどう在って欲しい。

ではなく自分がどう在りたいか。

だと考えているんだ。))


----------------------------


セリーヌ

「イブリラの想いを分かった上で

そう思うなら"イミナ"として

ミシェールを名乗れば良いんじゃないかしら」


少年ラナンキュラス

イミナ?何それ」


セリーヌ

「名前そのものには力や魂があるの。

刃術(ジンジュツ)の詠唱も

必ず刃術(ジンジュツ)名を叫ぶのもそう。

そこに力を込める事に意味がある。

古来より昔からあるのよ。

本名を隠す事で魂そのものに干渉させない。

だから、通り名として別名を名乗るのは

全然、普通の事よ。」


少年ラナンキュラス

「ニックネームとかそういう事?」


セリーヌ

「そうね。本名がバレる事は

弱点をサラす事と同義。

そんな風に考えることもある。

だからイミナを呼ぶ事を許されているのは

限られた信頼出来る者だけなのよ。」


少年ラナンキュラス

「ツバキもそういう事なのかな…」


セリーヌ

「ツバキ…鍔騎ツバキの者ね。

彼もそうなの??

おそらくそれはクリシャンテ様の考えでしょうね。

私と同じ事を言ったんじゃないかしら」


少年ラナンキュラス

「ツバキのは…もっと、重そうだけど」


セリーヌ

「大切なのは

今のあなたが幸せかどうか。よ。」



ハーゴン▶︎▶︎▶︎N


すると風がピューっと吹き抜け雲を払い

夜空に青白く輝く月明かりと星々が

2人を淡く照らした。


セリーヌ

「ほら、見て。」


少年ラナンキュラス

「うわぁ!!本当だ!!

何で星って夜なのにあんなに光ってるの!?

なんの光なんだろ…」


セリーヌ

「あれはね。ご先祖様達の光」


少年ラナンキュラス

「ご先祖様??」


セリーヌ

「そうよ。

私達が迷わない様に

ご先祖様が星になって

照らしてくれているの。」


少年ラナンキュラス

「へぇ…不思議だなぁ。

ねぇ、ラナンキュラス

聞いていいかな??」


セリーヌ

「何?」


少年ラナンキュラス

「僕が来るまで…ずっと1人だったでしょ?

その…寂しく…なかったの?」


セリーヌ

「寂しくなかった。

だって…見上げれば星が輝いて

夜風に吹かれれば全てを連れ去ってくれる。」


星空に照らされ夜風に髪が(ナビ)く。

そんなセリーヌの姿を見たラナンキュラスは

思わず微笑んだ。



少年ラナンキュラス

「ラナンキュラスは、強いんだね。

僕もラナンキュラスみたいになれるかなぁ。」


セリーヌ

「それは、これから分かることね。」


少年ラナンキュラス

「なれると良いなぁぁ…フワァー (あくび)。」


膝下ヒザモトで眠るラナンキュラスに

セリーヌは背中をポンポンと叩きながら

オルゴールに乗せて子守り唄を歌った。


セリーヌ

「おやすみなさい。ミシェール。」





挿絵(By みてみん)





※音楽がある場合鳴り止むまで待つ






ーー時は再び(サカノボ)り現代ーー

ラナンキュラスは当時を思い出しながら

アイビーと満天の星空を見ていた。


ラナンキュラス

「それから僕はラナンキュラスって

名乗ったんだよ。

彼女の様な人間になりたくてね。

ん?どうして泣いてるんだい?」


アイビー(泣きながら)

「グスンッ…分からない…だけど

…綺麗なお話しだなぁって思って」


ラナンキュラス

「ぁあ。ラナンキュラスは

人としても母としても

とても素晴らしい女性だった。

彼女と過ごした時間は

僕に学びを与えてくれた。

そしてそれが、今の僕にとって

かけがえのない財産となった。」


アイビー(泣きながら)

「私も…そんな人と出会いたかった。

そしたら…もっと…」


ラナンキュラス

「素敵な女性になれたのに?って?

フフッ。君がこれ以上に素敵になったら

僕はどうやって呼吸をしたらいいんだい?

僕は…君を見る度に息を呑むばかりさ」


アイビー(泣きながら)

「んもう!!ラナンったら!!」


ラナンキュラス

「僕はどこかで

ラナンキュラスの様な強さを持った女性を

求めていたのかもしれない。

可憐カレンで美しく高貴な女性を」


アイビー

「見つけた?」


ラナンキュラス (囁きながら)

「ぁあ。今、僕の腕の中にいる人だ。」


アイビー

「まぁーー!!

嬉しい事言ってくれるのね。」


ラナンキュラス(囁きながら)

「君に涙は似合わない。」


アイビー

「…ラナン。

ラナンだって泣いても良いんだよ?」


ラナンキュラス

「泣く…かぁ。

そう言えばラナンキュラスの涙

あの日以来、見たことなかったなぁ。」


アイビー

「そうなんだ…。

気になったんだけど家を出てから

クリスさんとは会わなかったの?」


ラナンキュラス

「兄貴と?」


アイビー

「うん。」


ラナンキュラス

「もちろん会ったさ。」


アイビー

「どうだった??」


ラナンキュラス

「相変わらずというか…何というか」


アイビー

「今と変わらない??」


ラナンキュラス

「あの頃は僕らも子供だったからね」


アイビー

「ラナンはあまり

お兄さんの話ししないもんね。」


ラナンキュラス

「兄貴は…気難しいからね。」




ーー時が巻き戻るーー

数年の月日が経ちラナンキュラスは

背が伸び大人の階段を登り始めていた。

来年にナーベルク士官学校の入学試験を

控えていたが相変わらず

フラフラと遊び回っていた。



青年ラナンキュラス

「ラナンキュラス。

アキレイ達とリナリーのお見舞い行ってくるよ。

ちょっと、この花を一輪もらって行くね。」


するとルシファンブルクタイムズを

読んでいたセリーヌは静かに口を開いた。


セリーヌ

「紅茶も持って行ってあげたら?」


青年ラナンキュラス

「そうだね!小屋から少し持って行くよ!

じゃぁ!行ってくるね!!」


ラナンキュラスは

迎えに来ていたマーティン家の移動用魔進 (マシン)

颯爽サッソウと乗り込んで行った。

そして、その日の夕方

帰路に着いたラナンキュラスは

見覚えのある移動用魔進 (マシン)

違和感を感じ急いで自宅の扉を開けると

中にはなんと、クリスが立っていた。


青年ラナンキュラス

「…クリス」


スラッと身長が伸び整えられた口髭クチヒゲ

左頬ホホには

バンジャマン家の 刺青(タトゥー)が掘られていた。


青年ラナンキュラス

「…その 刺青(タトゥー)


クリス

「久しぶりだな。」


青年ラナンキュラス

「今更…何の用だ」


ラナンキュラスは足早アシバヤ

カバンを置くと洗面所で手を洗った。


クリス

「帰るぞ」


蛇口をキュッと締め

鏡越しにクリスの顔を(ニラ)んだ。


青年ラナンキュラス

「出ていってくれ」


クリス

「拒否権は無い。荷物をまとめろ」


青年ラナンキュラス

「僕にその選択肢は無い」


ラナンキュラスはクリスの顔を見る度に

怒りが込み上げて来た。


クリス

「いい加減にしろミシェール」


青年ラナンキュラス(遮る様に)

「その名はとうに捨てた」


クリス

「何だと?」


青年ラナンキュラス

「今はラナンキュラスと名乗っている。

敬愛する祖母と同じ名だ。

僕はもうバンジャマンに興味はない。

僕のいない所で好きに首を切ればいい。

悪いけど、もう帰ってくれないかい?」


クリス

「一族をケガした祖母と同じ名を名乗るだと?

馬鹿も 大概(タイガイ)にしろミシェール」


青年ラナンキュラス (遮る様に)

「祖母を侮辱ブジョクするなクリス!!

ラナンキュラスは辛抱強く高貴な名だ!!」


クリス

「辛抱強くとは…フフッ。笑わせる」


青年ラナンキュラス

「何だと!?」


クリス

「お前自身が勝手に

どう名乗ろうと知った事ではない!!!

お前はこの先もこれからも!!

ミシェールである事には変わらない!!

お前がバンジャマン家の次男である事もだ!」


青年ラナンキュラス

「…僕には関係ない事さ」


クリス

「バンジャマン家を愚弄グロウする気かミシェール」


青年ラナンキュラス

「僕がバンジャマン家であろうが貴族であろうが

僕にはもう関係ないんだ!!!」


クリス

「お前に拒否権などない」


するとクリスは両手を合わせた。


青年ラナンキュラス

「その構え…」


クリス

「何度も言わせるな。

お前に拒否権など…ない!!」


青年ラナンキュラス

「ッッ!!」


クリス・青年ラナンキュラス

滅刃(メツハ)の一・(トウ)!!!』


2人は同時に刃汽(ジンキ)を押し固めた

光の(ヤイバ)を生成した。


クリス・青年ラナンキュラス

「ハァーーー!!!」


激しい斬り合いが繰り広げられる。

しかし、一太刀ヒトタチが重いクリスの剣撃に

ラナンキュラスは圧倒されていた。


青年ラナンキュラス

「グッ!!!!」


クリス(遮る様に)

「甘い」


青年ラナンキュラス

「ウガッ!!!」


スキをつかれたラナンキュラスは

外まで蹴り飛ばされてしまった。


青年ラナンキュラス

「グッ!!!!!」

滅刃(メツハ)のーー』


クリス(遮る様に)

剋刃(ゴクハ) 十六・磊枷繫(イシカセツナギ)


青年ラナンキュラス

「何!?手が…!!」


クリス

「腕が思う様に上がらないだろう」


ラナンキュラスの両手首が

カセをハメられたように

ダランと強制的に降ろされた。

そして、クリスはラナンキュラスが握っていた

(トウ)を蹴り飛ばすと更にたたみかけた。


青年ラナンキュラス

「ウグッ!!」


クリス

剋刃(ゴクハ) 二十二・磁鉄甲(ジテツコウ)

「左手」


青年ラナンキュラス

「ウグッ」


クリス

「右手」


青年ラナンキュラス

「アガッ」


クリス

パンッ(手を叩く音)拘束コウソク


青年ラナンキュラス

「ッッ!!」


クリスは鉄で出来た手甲テッコウ

ラナンキュラスの両手首にハメると

磁力が引き合う様に

勢いよく手甲テッコウが合わさった。


青年ラナンキュラス

「クリス…」


クリス

刃術(ジンジュツ)の天才が聞いて呆れる。

俺が士官学校で学んだのは

お前がお遊びでしている

刃術(ジンジュツ)ごっこではない。

その程度では卒業試験など生き残れん。」


青年ラナンキュラス

「こんな事をしてまで…連れ帰りたいのか!!

それで僕がシタガうとでも思うのかクリス!!」


クリス

「黙れ」


するとそこへセリーヌが杖をついて歩いて来た。


クリス

金鳴切縛(カナキリシバリ)を自力で解いたか。」


青年ラナンキュラス

「ラナンキュラス…居たんだね。

まさかクリス!!!手荒な真似をしたのか!」


クリス

「余計な邪魔を排除したまでだ。

ならば…もう一度」


青年ラナンキュラス(遮る様に)

「やめろ!!!!」


クリス

「一族の面汚ツラヨゴしが今さら何の用だ。」


セリーヌ(息を切らしながら)

「待ちなさい…」


青年ラナンキュラス

「ラナンキュラス…」


セリーヌ(息を切らしながら)

「あなたは強い子よ。

私は大丈夫だから…行ってきなさい。」


青年ラナンキュラス

「僕は…もっとあなたのそばに…」


セリーヌ(息を切らしながら)

「身体には…気をつけて。

人には優しく…私は…いつでも待ってるから」


青年ラナンキュラス

「…うん。…うん。」


セリーヌ(息を切らしながら)

「一緒に居れて…私は…幸せだった」


青年ラナンキュラス(泣きながら)

「ラナン…キュラス」


クリス

「連れて行け。」


クリスは執事にそう言うと

ラナンキュラスを移動用魔進 (マシン)

押し込んだ。


青年ラナンキュラス(次のセリフまで)

「やめろ!!離せ!!やめろ!!!」


セリーヌ(息を切らしながら)

「クリス。」


クリス

「話す事など何もない。」


セリーヌ(息を切らしながら)

「また、紅茶を飲みにきなさい」


クリスはセリーヌの言葉を無視し

移動用魔進 (マシン)の扉に手をかけた。


クリス

「愚弟が世話になった」


そして、移動用魔進 (マシン)に乗り込むと

ドアをバンッと閉めた。

ラナンキュラスは窓に顔を押し当てて

涙ながらに叫んだ。


青年ラナンキュラス (泣きながら)

「ラナンキュラスゥゥウウ!!!」






※音楽がある場合終わるまで待つ


アイビー▶︎▶︎▶︎N




その後、セリーヌはその足で

樹海へと入っていった。

杖をつきながら一歩ずつゆっくりと

ラナンキュラスとの思い出を噛み締めながら。

そして、迷いなく花畑に辿り着いた。



画家

「おや。珍しいお客様だね。

どうしたんだいラナンキュラス。

まだ紅茶は残っているよ?」


画家はいつもの様に

キャンバスに向かって絵を描いていた。


セリーヌ

「ここに来れば無心になれる気がして…」


画家

「フフッ。面白い人だ。」


しばらく無言の時間が流れる。


画家

「…名について話そうか。

イミナについて話したんだろう?」


セリーヌ

「…え?なんでそれを」


画家(遮る様に)

「昔、君に話した様に 名には力がある。

ミシェールは名を捨てることにより

強さを手に入れ運命の分岐が解き放たれた。

これから彼は偉業を成し遂げるだろうね。」


セリーヌ

「あの子が偉業を…ですか?」


画家

「ぁあ。

特にバンジャマン家を含む15の貴族は

汽の影響を 良くも悪くも受けやすい。

それぞれの家が初代皇帝から続く

"血の因果"を背負っているんだ。

血筋とは恐ろしいほど

永続性のある繋がりだよ。」


セリーヌ

「血の因果が死剣 緋葬殺那(フルスティング)にも

影響を及ぼしているんでしょうか?」


画家

「そうさ。ユーガの(オン)

現代まで凄まじく影響を及ぼし強いのは

その血の因果が深く関わっていると思って

間違いないだろうね。」


セリーヌ

「それは私にも影響があるのでしょうか?」


画家

「フフッ。

いくらバンジャマン家に嫁いで

姓がバンジャマンに変わったとしても

君は赤の他人さ。

血の因果で結ばれていない君じゃ

死剣 緋葬殺那(フルスティング)の呪いに

影響を受けたとしても

それをどうこう出来ないさ。」


セリーヌ

「では…色濃く影響を受けるバンジャマン家

もしくは、血の因果に関わる者なら

どうこう出来るんでしょうか」


画家

「富と名声を捨てられる覚悟があれば。

可能かも知れないよ。

でもそれを手放すほどの者がいるとは限らないさ。

もし、ミシェールが家を継ぐのであれば

可能性はあるかも知れない。

でも…クリスがそれを許さないだろう。

フフッ。

本当によく出来た物語だと思わないかい?」


セリーヌ

「皮肉ですね。

やはり、私があの時…」


画家

「僕は真実は教えたけど

破壊は無理だよって忠告したからね。

でもそれも運命さ。

君の仕事は子をなし

ミシェールとクリスを

誕生させる事にあったんだからね。

そうやって考えると

君は運命を全うした事になる。」


セリーヌ

「私の運命。ですか。

…あなたは、本当に出会った頃から

何も変わりませんね。

不思議な人です。」


画家

「きみは随分 (ズイブン)と老けた。

時の流れは残酷だね。

でも…心は高貴なままだ。

自分の矜持キョウジを忘れていない。

全く損な人だね。望んだ幸せなんて

手に入れられる訳も無いのに」


セリーヌ

「私があの時…キフォスを」


画家 (遮る様に)

「殺せなかった。

それが、全てさ。」


セリーヌ

「…はい。」


画家

「君は今もなお

キフォスを愛しているんだろう?」


セリーヌ

「…分かりません。」


画家

「時折、聞こえるオルゴールの旋律が

全てを物語っている。

愛とは…呪いそのものさ。

時が経とうとも色褪せずに

より鮮やかに美しくなる。

例え…愛されていなかったとしてもね。」


セリーヌ

「彼は…

決して良い父親ではなかったかも知れない。

それでもハーゴンやクリス、ミシェールを

もたらしてくれました。

私の人生を照らしてくれました。」


画家

「フフッ。人間とは面白い生き物だね。

身体は老いても心の時間は止まったままだ。

君もまた…

名に縛られているのかもしれない」


そう言って画家は辺りの花々を見渡した。


画家

「この花達もまた名に縛られている。

一見、ただの美しい花だと思うだろ?

でも、この花は汽点霊地(キテンレイチ)の更に秘境に咲く

"鮮麗花(ロゼウス)"と言うんだ。

大昔、とある青年が

退廃した荒野にこの花を持ち込み

人々に緑と生命イノチをもたらした。

その花の名から

ロゼウスという土地名が

名付けられたそうだ。」


すると画家は鮮麗花(ロゼウス)を一輪

手に取って顔に近づけた。


画家

「視覚の色鮮やかさで心を癒し

甘美な香りで肉体を癒す。

しかし、その希少性から

目にする事は限りなく少ない。

でも忘れちゃいけないよ。

この世の万物バンブツには二面性がある。」


そう言って画家は鮮麗花(ロゼウス)を握り潰した。


セリーヌ

「何を…」


画家

「これは刃汽(ジンキ)を宿すC級 魔草植物 (マンドラゴン)


挿絵(By みてみん)


画家

「空気中にある刃汽(ジンキ)と日の光によって

癒しの香りを放つ。

汽点霊地(キテンレイチ)には空気中の刃汽(ジンキ)濃度が

溢れているがその地から離れると

近くの刃汽(ジンキ)ユルやかに吸い続け

肉体を癒すどころか刃汽(ジンキ)を吸い上げ

肉体を疲弊させる。」


セリーヌ

「…そんな!!…まさか私は…」


画家

「ある意味、君は若かった。

その豊富な刃汽(ジンキ)量があるからこそ

好天的に効果が続いていたけど

最近はよく枯れるだろ?

それに若いミシェールが

家を空けることも多くなった。

老いた身体から吸い上げる刃汽(ジンキ)量が

減ったから枯れていくのさ。

ここに来れば大丈夫だけど

簡単には来れない。

だからもう、この花に頼るのは

僕はやめた方がいいと思う。

普通の人間の寿命を全うするんだ。

君の淹れる紅茶が飲めなくなるのは

僕も嫌だからね。」


セリーヌ

「この花に…そんな能力(チカラ)があったなんて

私…知りませんでした。」


画家

「無理もないさ。

魔草植物 (マンドラゴン)については

魔獣生物 (ドラゴン)よりも

研究が進んでいない。

何気なく身近にある花が

魔草植物 (マンドラゴン)なんて

気付けるのは一握りだろう。」


セリーヌ

「あなたは…一体何者なの?」


すると画家は再び筆を取り

絵を描きながら言った。


画家

「僕は…ただのしがない画家さ」






ハーゴン▶︎▶︎▶︎N


ーーラナンキュラスサイドーー

移動用魔進 (マシン)の中

刃術(ジンジュツ)で拘束されているラナンキュラスは

向かいに座るクリスを(ニラ)み付けていた。


クリス

「ミシェール。

いつまで(ニラ)みつけているつもりだ。」


青年ラナンキュラス

「…その名は捨てた」


ラナンキュラスは分かっていた。

どんなに意固地イコジに名を教えても

クリスはカタクなに呼び方を変えない事に


クリス

「ミシェール。」


するとクリスは過ぎ去って行く景色を眺めながら

静かに口を開いた。


クリス

「父上が先のイクサで負傷し

右足と右目を失った。」


青年ラナンキュラス

「…え?」


クリス

大尉タイイとして前線で指揮をしていた。

そんな折、作戦司令部に急襲があって

負傷したそうだ。

救護部隊には癒者イシャは少ない。

全て間に合わなかった。」


青年ラナンキュラス

五刃花(ゴジンカ)隊は…」


クリス

千刃花(センジンカ)は特務部隊だ。

特殊作戦以外は参加しない。

他国も一般兵で構成されていた部隊だったのが

功を奏した。

千刃花(センジンカ)と並ぶ特務部隊であれば

生きて戻ることは出来なかっただろう。

あの傷では父上はもう数年後には

軍司令部にいられないのは明白だ。」


青年ラナンキュラス

「僕には関係無いことさ。」


クリス

退役タイエキすれば

父上は死刑執行人(ジュジュマン)に専念する。

無論、俺も死刑執行人(ジュジュマン)としての責務を

全うするつもりだ。力が入らぬ父の足では

もう首を切り落とすことは叶わないだろう。

帝国兵に身を置かぬ貴族の没落ボツラクは必至 。

ミシェール。

お前はバンジャマン家の次男として

帝国に身を捧げろ。」


青年ラナンキュラス

「僕には興味ない。

クリスが千刃花(センジンカ)に入ればいいじゃないか」


クリス

「俺が千刃花(センジンカ)や帝国軍に入って

何かあればバンジャマン家はどうなる?

興味がないと言ってばかりの弟は

家を継ぐ意思も無いのだぞ。」


青年ラナンキュラス

「じゃぁ僕が犠牲になれって?」


クリス

「いつまで子供でいる気だ。

衣食住や不自由のない生活

その全ての恩恵オンケイを受けてきたのは

お前自身の力だというつもりか。

ラナンキュラスの所にいた時も

危険が無いように

警備を巡回させていたのは父上だ。

学校に通えていたのも父上のおかげだ。 」


青年ラナンキュラス

「そんな事…僕にだって分かってる!!」


クリス

「お前の地位も名誉も富も

バンジャマン家の上で成り立っていることを

忘れるな。」


青年ラナンキュラス

「言われなくても…分かってるさ」



セリーヌ▶︎▶︎▶︎N


無言の時間が

バンジャマン家の屋敷に着くまで続いた。

ーーバンジャマン家ハーゴンの寝室にてーー

数年ぶりに会うベッドに横たわる父親の姿を見て

ラナンキュラスは胸の内から

込み上げるものがあった。


青年ラナンキュラス

「…父さん」


起きあがろうとするハーゴンに

ラナンキュラスは駆け寄った。


青年ラナンキュラス

随分 (ズイブン)と派手にやったね。」


ハーゴン

「ウッ…ミシェール…

こんな不様ブザマな姿を…

お前に見せる事に…なるとはな」


青年ラナンキュラス

「立派に戦った証さ」


ハーゴン

「…私に怒っているか?」


青年ラナンキュラス

「…うん」


ハーゴン

「こんな形でなければ

戻って来なかっただろう?」


青年ラナンキュラス

「先に追い出したのはそっちだ。 

なのに今度は戻って来いなんて

身勝手過ぎるよ。」


ハーゴン

「すまなかった。」


すまなかった。

父が謝るその一言が

ラナンキュラスに重くのしかかる。


青年ラナンキュラス

「でも感謝もしてる。

ラナンキュラスがいなかったら

今の僕はいないから」


ハーゴン

「…そうか。

ミシェール。こっちへ来なさい。」


ハーゴンは自身が横たわるベッドに

ラナンキュラスを呼んだ。


ハーゴン

「母上は元気だったか?」


青年ラナンキュラス

「…最近は足腰を痛めてるんだ。

1人じゃ暮らすのは大変だと思う。」


ハーゴン

「…そうか。

私もこの歳になると

母上の事を思い出す。

とても厳しかったが

辛抱強く愛情深い人だった。」


ラナンキュラスは

ことの顛末テンマツを知っていただけに

少し胸が苦しくなった。


青年ラナンキュラス

「ラナンキュラスから聞いた。

あの日、バンジャマン家で起きたことを」


ハーゴン

「…私を憎むか?」


青年ラナンキュラス

「キフォスがした事は許せない。

だけど、今となれば理解は出来なくはない。

それが正しかったのかどうかは

今の僕には分からないけどね。」


ハーゴン

「父上も考えがあってのことだった。

父上が良く言っていた。

貴族が規律を守らずして高貴など無い、と。」


青年ラナンキュラス

「もし今も生きていたら

僕とキフォスは

ソリが合わなかっただろうね。」


ハーゴン

「そうだろうな。

そういえば…刃術(ジンジュツ)は上達したのか?」


青年ラナンキュラス

「うん。沢山教えて貰った。」


ハーゴン

「母上は教えるのが上手い。

私も沢山教えてもらったが

なかなか上達しなかった。」


青年ラナンキュラス

「え?父さんが?」


ハーゴン

「人には向き不向きがある。

常人たる私は超人たる千刃花(センジンカ)

入隊する事は叶わなかった。」


青年ラナンキュラス

「父さん…

もしかして千刃花(センジンカ)に入りたかったの?」


ハーゴン

「この国の者なら誰しもが憧れるものだ。

鞘神(サヤガミ)に選ばれし8人の鞘花(ショウカ)

戦場を鮮やかに駆け抜けて圧倒的な武力で沈める。

子供ながら私も憧れた。

私にとってのスーパーヒーローだ。」


青年ラナンキュラス

「スーパーヒーロー…か。」


ハーゴン

「お前にはその素質がある。

千刃花(センジンカ)を目指せ。」


青年ラナンキュラス

「ライバルが多すぎるよ。

ジジやプラム、ツバキにアキレイ。とね。

1番なりそうなのは…ジジかなぁ。」


ハーゴン

「心配するなナーベルク帝国には

(サヤ)は八本ある。オルケイディア殿の様に

ニ刃花(ニジンカ)隊と大隊長を兼任すれば

ナオの事、素晴らしい。」


青年ラナンキュラス

「フフッ。それはいくら何でも無理だよ。

彼女はナーベルク帝国の最高戦力。

武力の象徴さ。

何年経っても追いつきっこ無い。」


ハーゴン

「切磋琢磨し、仲間と励めば

必ず道は見える。」


青年ラナンキュラス

「…家を継げとは言わないんだね。」


ハーゴン

無理強ムリジいするつもりはない。

クリスは千刃花(センジンカ)の入隊を蹴った。

バンジャマン家の為にな。

奴の覚悟を無視する訳にもいかなかったからな」


青年ラナンキュラス

「クリスはどうするの?」


ハーゴン

「しばらくは私の補佐をしてもらうつもりだ。

3年以上実務を経験すれば

ナーベルク士官学校で教官になれる。

元々、考えていたそうだ。」


青年ラナンキュラス

「クリスらしいね。

昔から何かと教えたがるからさ。」


ハーゴン

「そこは母上に似たのかもしれんな。」


青年ラナンキュラス

「それ言ったらクリス怒りそうだなー」


ハーゴン

「フフッ。言わないでおこう」


青年ラナンキュラス

「フフッ。だね」


それから2人は今までの時間を埋めるかの如く

気が済むまで語り合った。


※音楽がある場合終わるまで待つ



ーーそして時は(サカノボ)るーー

クリスやハーゴンとのやり取りを

初めて聞いたアイビーは驚愕していた。


アイビー

「お兄さんとそんな事があったの!?」


ラナンキュラス

「ぁあ。ただの兄弟喧嘩さ」


アイビー

「兄弟喧嘩…って

そんな規模が大きいものなの?

やっぱり六大貴族ともなると

スケールが違うなー」


ラナンキュラス

「そうかな??」


アイビー

「そうだよ。

普通は家柄とかないから

好きなことして好きな仕事に就くもん!」


ラナンキュラス

「好きなこと…かぁ。

教官は好きな事なんじゃないかな?

アイビーも知ってると思うけど兄貴は

死刑執行人ジュジュマンカタワ

A-1st(エーファースト)の先生してるし」


アイビー

「ぁあ…後輩たちが言ってた…

お兄さんの無言の圧が怖いって。」


ラナンキュラス

莇生アザミ先生と比べたら…ねぇ」


アイビー

「そんなに怖かったんだ…」


ラナンキュラス

「怖いっていうか…痛い。かな?」


アイビー

「フフッ。何よそれ」


ラナンキュラス

「でも、だいぶ鍛えられたよ。

今思えばとても感謝してる」


アイビー

「お兄さんって

エロディウムさんとはどうなの??」


ラナンキュラス

「さぁねぇ。

くっついたり離れたりしてるみたいだよ。」


アイビー

「でも、お互い先生だし忙しいんじゃない?」


ラナンキュラス

「僕らだって同じさ。

任務も大切だけど

それ以上に君を愛していれば

何の問題もない。」


アイビー

「…ラナン。」



ラナンキュラス

「出会ったあの日から

君への愛はずっと変わらない」


アイビー

「…私も同じよ。

ねぇ、覚えてる??

私達が初めて会った日のこと。」


ーー時は現代より数年前に巻き戻るーー

バンジャマン家の屋敷にて。

ハーゴンの退官式が行われ

その後の祝賀会として

仮面舞踏会が開催されていた。

古風なクラシックが会場に流れ

豪華な食事と仮面をつけた様々な要人達が

参列しており

八刃花(ハチジンカ)隊 隊長となったラナンキュラスが

早々にワインを飲んでいると

莇生アザミの後任として

A-1st(エーファースト)の担任となったクリスが

会場に到着した。


クリス

「早いなミシェール。」


主催者の席に座るラナンキュラスは

ワインをクルクルしながら

グラス越しに会場を覗いていた。


ラナンキュラス

「今日はナーベルク全土の美女が

沢山来ると聞いてね。」


クリス

パチンッ(指を鳴らす)

俺にはブランデーを」


クリスは執事にそう言うと

ブランデーにライムを添えて

グビッと飲んだ。


クリス

「父上の事だ。

祝賀会にカコツけて

俺たちに結婚を考えろと言ってるんだろう。」


ラナンキュラス

「クリスには必要ないだろ??」


クリス

「フンッ。」


ラナンキュラス

「また別れたの??

エロディウム先生も可哀想に。

年上女房トシウエニョウボウは嫌なのかい?」


クリス

「年など関係ない。」


ラナンキュラス

「エロディウム先生は

若くして 魔獣生物 (ドラゴン)学の権威になった凄い人なのに。」


クリス

「そう言う問題ではない。」  


ラナンキュラス

「そっかぁ。」


クリス

「お前も自分の隊には

女性しか入れないと聞いたが?

隊を私物化するな」


ラナンキュラス

「やだなぁ。偏見ヘンケンだよ。

入隊希望が女性しか来ないだけさ。

八刃花(ハチジンカ)刃術(ジンジュツ)が得意であれば

男だろうが女だろうが関係ないし。」


すると、遠くの席でガラスやテーブルが

ひっくり返る音が聞こえた。


ラナンキュラス

「あちゃぁ…」


クリス

「何事だ。」


ラナンキュラス

「アナスタシア達だよ。」


クリス

「誰だ酒乱アナスタシアを呼んだのは。

立ち入り禁止リストに加えたはずだ」


すると執事が申し訳なさそうに

頭を下げていた。

どうやら酔ったアキレイを引きずって

乗り込んで来たというのだ。


ラナンキュラス

「はぁ、流石に執事のみんなじゃ

止めようがないか。

でも、キスツスが来てるから

解放させないと思うよ?」


クリス

「解放したらつまみ出せ。

おい、あそこの席に酒は持って行くな。

水だけにしろ。どうせ酔っていては

味の違いなど分からん。」


クリスは執事にそう言うと同時に

アキレイとジジ、ガーベラ達もいる席へ

刃汽(ジンキ)を飛ばした。


ラナンキュラス

「ちょっとクリス!!

他の人が失神しちゃうだろ!!」


クリス

「構わん。」


するとそれを察したジジとガーベラは

アナスタシアとアキレイを止めようとしたが

まるで無意味だった。


クリス

「大人になってもなんら変わらん。

相変わらず騒がしい奴らだ。」


ラナンキュラス

「それが、今となっては

この国を守護する中枢チュウスウだもんね。」


クリス

「なんの運命なのか知らんが

物語にしては繋がり過ぎている。」


ラナンキュラス

「考え過ぎさ。

努力したからこそ今がある。」


クリス

「フンッ。努力か。

お前からそんな言葉を聞く日が来るとはな。」


ラナンキュラス

「こんな世界では

いつまでも子供のままじゃいられない。」


クリス

「偉くなったもんだな」


ラナンキュラス

「もし、兄さんが良かったら

八刃花(ハチジンカ)隊に…」


クリス(遮る様に)

「ふざけるな。

お前の下で働けと?」


ラナンキュラス

「フフッ。だよねー」


クリス

シャクに触るのは

昔から変わらん奴だ。」


すると、ハーゴンが杖をつきながら

マイクを持って登壇トウダンした。



ハーゴン

((此度コタビはお集まりいただき

真にありがとうございます。))


会場は大きな拍手で出迎えた。


ハーゴン

((勤続30年。とてもとても長い旅でした。

ラミオラス帝国や他国からの侵略を

この身を持って体感し、この身をもって

痛みを刻みました。

息子達も立派に育ち今やクリスは上級教官である

ナーベルク士官学校A-1st(エーファースト)担任

そして、ミシェールに至っては

鞘神(サヤガミ)様に選ばれた鞘花(ショウカ)

バンジャマン家当主として

ホマれ高い事この上ない。))


そういうとハーゴンは

クリスとラナンキュラスを見た。


ハーゴン

((寂しい思いを沢山させてしまった。

母もいない2人に私はどれだけの事を

してやれるのだろうと考える毎日。

しかし、立派に育った。

これからはバンジャマン家の責務である

皇帝のサバキとして人生を全うするつもりだ。

そして、今も我々がこうしている中でも

ナーベルクの兵士達は戦っている。

先の戦乱では多くの兵や

鞘花(ショウカ)が散っていった。

まずは、その誇り高き戦士たちに祝杯を捧げよう。))


ハーゴンはグラスを高く掲げた。


ハーゴン

「誇り高き戦士たちに」


ハーゴンがそう言うと

会場全体が復唱し酒を飲んだが

すでに騒がしいアナスタシア達の席に

苦笑いをしながらハーゴンは言った。


ハーゴン

((き、今日はニ刃花(ニジンカ)隊の隊長のキスツス殿を始め

七刃花(ナナジンカ)隊の隊長アナスタシア殿

六刃花(ロクジンカ)隊の隊長アキレイ殿

一刃花(イチジンカ)隊の副隊長ジジ殿

五刃花(ゴジンカ)隊の副隊長ガーベラ殿も

参列してくれている。

幼き頃から彼らを知る私も

まじまじと、成長を見ることも出来た。

息子達同様、ご立派になられた。

この先、この国も安泰だろう。

咳払い(ゴホン)!!アナスタシア殿。

それは100年物のアンティークのツボだ。

その中に吐かぬように。))


クリス

「ミシェール。止めてこい。」


ラナンキュラス

「はぁ。」


ハーゴン

((今日は大いに楽しんでくれたまえ。))


すると、ラナンキュラスは

バチバチッと紫電を(ホトバシ)らせて

アナスタシアの所へ向かった。


ラナンキュラス

「キスツス…頼むよ!

アナスタシアとアキレイを連れ出してくれ!!

ガーベラ!!早く照刃(ショウハ)で酔いを!!

って!ジジ!!!それに落書きしちゃダメだ!

アキレイ!!そっちは女子トイレだよ!」


その様子をハーゴンは微笑ましく見ていた。


ハーゴン

「ミシェールは仲間と共に成長した。

今や他国に恐れられる英雄だ。」


クリス

「俺からすればあの頃と変わりません。

父上、あの時…えて

ラナンキュラスの所にミシェールを

送りましたね?」


ハーゴン

「あぁ。」


クリス

刃術(ジンジュツ)の才を伸ばす為に。」


ハーゴン

「そうだ。」


クリス

「結局の所

ミシェールのしたい様にさせたんですね。」


ハーゴン

「ミシェールの刃術(ジンジュツ)の才は

クリシャンテ殿をもシノ稀代キダイの才だ。

それを伸ばすことが

バンジャマン家の繁栄に繋がる。

残るは…後継ぎだな。お前はどうだ?」


クリス

「俺は…メトることはないでしょう。」


ハーゴン

「何故だ?」


クリス(心の声)

((父上は…本当に知らないというのか

死剣 緋葬殺那(フルスティング)の呪いを))


クリスは知っていた。

死剣 緋葬殺那(フルスティング)の呪いを。

バンジャマン家の栄華繁栄エイガハンエイと引き換えに

バンジャマン家の男の妻となる者に

降りかかる災いの事を。


ハーゴン

「今日は沢山の美女を集めた。

気にいる子がいれば声をかけなさい」


クリス

「心に決めた者がいます。」


ハーゴン

「なんと!?」


クリス

「しかし、それは叶いません。」


ハーゴン

「男女とは難しいものだな。

しかし、当主となるのであれば

避けては通れぬ道だ。」


クリス

「分かっています。」


ハーゴン

「父であるキフォスもそうであった。

母のラナンキュラスを愛していなかった。

だがそれもバンジャマン家の為だ。」


クリス

「はい。」


ハーゴン

「クリス。

愛が無くても構わんのだ。」


クリス

「父上は母上のことを…」


ハーゴン

「愛していた。

だからこそ失った時の絶望はツラい。

今思えば父キフォスの気持ちが

分からなくもない。

今でも美しいイブリラを夢見る。

お前たちの成長を共に見届けたかった。」


クリス

「俺も…母上に逢いたいです。」


ハーゴン

「私もだ。

さ、今宵コヨイは仮面舞踏会だ。

行ってきなさいクリス」


すると男性陣が女性陣をダンスに誘い始めた。


クリス

「舞踏会か…士官学校卒業以来ですね。」


ーーラナンキュラスサイドーー

暴れ回るアナスタシアにアキレイが

振り回されるのを見た後

ラナンキュラスは人気ヒトケのいない

バルコニーへ出て夜風に当たっていた。


ラナンキュラス

「アナスタシア…あれじゃ武道会だよ。

シルバもいたら

とんでもない事になってたな…

リナリーがいたら

ジジはちゃんと誘えてたかな」


するとそこに仮面をつけた女性が話しかけて来た。


アイビー

「おかわりはどうですか?」


ラナンキュラス

「ん?ありがとう。もらうよ。

って君は執事じゃないよね?」


アイビー

「ウフフッ。はい。」


仮面越しでも分かる彼女の美しさとタタズまいに

ラナンキュラスは一瞬で目を奪われた。


アイビー

「こんな所でどうしたんですか?」


ラナンキュラス

「あ、ぁあ。

ちょっと夜風に当たりたくてね。」


アイビー

「そうなんですね。」


ラナンキュラス

「君はどうしてここに??」


アイビー

「隣があまりにも騒がしくて…」


ラナンキュラス

「あぁ…ごめんね。

アナスタシア達が騒がしくて」


アイビー

「大丈夫ですよ。

仲が良いんですか??」


ラナンキュラス

「幼少期からみんなと一緒だったからね。」


アイビー

「まぁー!!

それは長い付き合いですね。

一緒にいて楽しそうでしたもんね。」


ラナンキュラス

「楽しい??

困ったもんさ。とにかく酒癖が悪くて」


アイビー

気心キゴコロが知れてるからこそですよ」


ラナンキュラス

「そうかな??普通に迷惑なんだけどね」


アイビー

「ウフフ。」


ラナンキュラス

「何で初対面の君に

こんな話ししてるんだろう僕」


アイビー

「お酒に酔ってるからですよ。」


ラナンキュラス

「いや、君に酔っているからかもしれない」


アイビー

「まぁー!!」


するとゆったりとしたワルツに

演奏が切り替わった。


アイビー

「誘って…くれないんですか?」


ラナンキュラス

「フフッ。見てごらん?」


ラナンキュラスはアイビーが言う前に

手を差し出していた。


ラナンキュラス

「良かったら僕と踊りませんか?」


アイビー

「もちろん。」


ラナンキュラスはアイビーの手を引いて

ダンスホールへと向かった。


ハーゴン

「クリス」


クリス

「…ミシェール」


2人の踊りには

会場全体が目を奪われた。

あまりにも洗礼された美しさに

感嘆カンタンの声が溢れる。

すると、景色がガラッと変わり

取り囲む人々は消え2人は星降る中で

優雅に踊っていた。


クリス

「…キスツスの花纏捧君(カテンホウクン)か。」


幻を作り出す銀狼の鞘花(ショウカ)であるキスツスは

(サヤ)能力(チカラ)を会場全体にかけていた。


アイビー

「とても綺麗」


ラナンキュラス

「君には負けるさ」


アイビー

「ウフフッ

誰にでも言ってるんでしょ?」


ラナンキュラス

「まさか。」


アイビー

「嘘つきぃ」


ラナンキュラス

「今夜だけは君は僕のものさ。

誰にも渡さない。」


星降る夜に奏でるワルツ

2人だけの時間がゆっくりと流れていく






※音楽がある場合終わるまで待つ



画家▶︎▶︎▶︎N



すると演奏が中断した。


ラナンキュラス

「ん?」


アイビー

「何かあったのかな?」


遠くの方でジジとガーベラの喧嘩が勃発し

アナスタシアが暴れ始めた。


クリス

「あやつらめ…父上。」


ハーゴン

「止めてきなさい。」


クリス

「アナスタシア!!

ジジ!!ガーベラ!!アキレイ!!

お前達いい加減にしろ!!!!!」


ラナンキュラス

「おっと。耳を塞いでて」


アイビー

「え?」


ラナンキュラス

「少しシビれるよ。」


クリス(遮る様に)

剋刃(ゴクハ) 十四ジュウヨン金鳴切縛(カナキリシバリ)!!』


キーンッとツンザく様な高音が

会場全体に鳴り響く前に

ラナンキュラスはアイビーを抱えて

雷速で移動した。


アイビー

「え!?キャッ!!」


ラナンキュラス

「ごめんね。」


ラナンキュラスは

帝都ルシファンブルクのセントラルにある

大きなビルの屋上に移動していた。


アイビー

「一瞬で…こんな所に」


ラナンキュラス

「ここはアキレイの会社の屋上だよ。

よくここでパーティするんだ。

もちろん今は誰もいないけどね。

ここはとても…」


アイビー

「星が綺麗」


ラナンキュラス

「ぁあ。そうなんだ。」


アイビー

「ルシファンブルクってこんなに

星が見えるんだね。」


ラナンキュラス

「フフッ。アキレイの会社は

クリーン事業にも力を入れてるからね。

それはそうと

仮面舞踏会にはどうして来たんだい?」


アイビー

「私みたいな普通の女の子からしたら

憧れるでしょ?」


ラナンキュラス

「そうなんだね。どうだった?」


アイビー

「騒がしかった」


ラナンキュラス

「だろうね。」


アイビー

「でも来て良かった。

こうしてあなたにも逢えたから。」


ラナンキュラス

「僕は世界一ラッキーな男だ。

こんなに美しい女性と

こうして2人でいられるなんて」


すると12時の鐘が鳴り響く


アイビー

「もうこんな時間。」


ラナンキュラス

「帰ってしまうのかい?」


アイビー

「…うん。」


するとラナンキュラスは

アイビーの手を掴んだ。


ラナンキュラス

「言ったろ?

今夜だけは君は僕のものさ。

誰にも渡さない。ってね。」


アイビー

「魔法が解ける前に帰らないと」


ラナンキュラス

「それは恋の魔法かい?」


アイビー

「さぁ、それはどうでしょう。」


ラナンキュラス

「寝言はベッドの上でしか聞かない事にしてる」


アイビー

「まぁー!」


ラナンキュラス

「もし、良かったら…」


するとアイビーは仮面を外して

ラナンキュラスに手渡した。


ラナンキュラス

「これは…」


アイビー

「目を閉じて…」


ラナンキュラス

「…え?」


ラナンキュラスは目を閉じると

アイビーが静かに口を開いた。


アイビー

「私に逢いたかったら

今度は迎えに来てね。」


ラナンキュラス

「フフッ」


アイビー

「バイバイ。私の王子様」


アイビーはラナンキュラスのホホ

キスをすると向かい合ったまま後ろに下がり

屋上から飛び降りた。


ラナンキュラス

「あっ」


目を開けるもそこに

アイビーの姿は無かった。

ビルの屋上から下を見下ろすと

フワッと着地するアイビーの姿が見えた。


ラナンキュラス

浮天地遊(フテンチユウ)

やっぱり千刃花(センジンカ)隊士かぁー」


後日、ニ刃花(ニジンカ)隊士と知ったラナンキュラスは

キスツスと交渉してアイビーを

八刃花(ハチジンカ)隊へと招き入れた。

ラナンキュラスの剛腕っぷりには

誰もが驚いたがスデに2人は恋に落ちていた。



※音楽がある場合鳴り止むまで待つ



ーー数年後ーー

アイビーは八刃花(ハチジンカ)隊の副隊長に

着任しており

ラナンキュラスと共に任務にイソしんでいた。

すると送り主不明の手紙が1通届いた。

中身を見てみると

それはセリーヌに関する内容だった。


ラナンキュラス

「…ラナンキュラス。一体、誰が…」


アイビー

「おばあちゃん?」


ラナンキュラス

「ぁあ。もう何年も会いに行けてない。」


アイビー

「もうだいぶ…ご高齢でしょ?」


ラナンキュラス

「そうだね。

ちょうど良かった。

色々と報告も兼ねて会いに行こう。」


アイビー

「今から?」


ラナンキュラス

「ぁあ。」


アイビーはマリンブルーに光る指輪を

薬指に光らせていた。

ラナンキュラスは部下に移動用魔進 (マシン)を用意させ

かつて自分が住んでいた樹海へと

向かっていった。


アイビー

「ここは…」


ラナンキュラス

「僕が以前、住んでいた所だ。」


♪1


美しい湖に小さな菜園

そして、その奥には石造りの家が建っていた。

夜空には星が煌めきオルゴールの

悲しく鳴り響いていた。

ラナンキュラスは一通り懐かしむと

ゆっくりと自宅の扉を開けて

2階のバルコニーへと向かっていった。


ラナンキュラス

「ラナンキュラス」


そこにはロッキングチェアではなく

車椅子に座るセリーヌの姿があった。


セリーヌ(弱々しく)

「…ミシェール」


ラナンキュラス

「ラナンキュラス…久しぶりだね。

急に来てごめんよ。」


アイビー

「はじめまして…ラナンキュラスさん。

私はアイビーと申します。」


ラナンキュラス

「僕…結婚するんだ。」


セリーヌ(弱々しく)

「そう。」


ラナンキュラス

「ぁあ」


セリーヌ(弱々しく)

「顔を見せてミシェール」


ラナンキュラス

「うん。」


セリーヌはシワがれた冷たい手を

ラナンキュラスのホホに当てた。


ラナンキュラス

「ラナンキュラス…」


セリーヌ(弱々しく)

「大きくなったわね。」


ラナンキュラス

「ごめんよ。

なかなか来れなくて…任務で忙しくて」


セリーヌ(弱々しく)

「いいのよ。

鞘花(ショウカ)になったのね。立派だわ」


ラナンキュラス

「…うん。」


セリーヌ(弱々しく)

「アイビー。こちらへ」


セリーヌはアイビーの手を弱々しく握った。


セリーヌ(弱々しく)

「まぁ、綺麗な子」


アイビー

「ご挨拶が遅くなってしまって

すみません。」


セリーヌ(弱々しく)

「いいのよ。」


ラナンキュラス

「身体にサワるよラナンキュラス。

中に入ろう。」


セリーヌ(弱々しく)

「夜風に…吹かれていたいの」


ラナンキュラス

「…ラナンキュラス」


アイビー

「ラナン…もう」


ラナンキュラスは目配メクバせをすると

アイビーはコクリとウナズ

1階へ戻っていった。


ラナンキュラス

「…ラナンキュラス」


セリーヌ(弱々しく)

「私は…長く生きた。

あまりにも…長く。

色んなことがあったわ。」


ラナンキュラス

「…うん」


セリーヌ(弱々しく)

「叶わないことが

あまりにも…多かった。

望んだ様に…いかないものね。

私は…何も…成し遂げられなかった。」


ラナンキュラス

「そんな事ないよ。

僕はラナンキュラスから沢山のことを学んだ。」


セリーヌ(弱々しく)

「ミシェール。

あなたは…暗闇にいる私の…光だった。

あの日…私の人生は…

初めて色鮮やかに…輝いた。」


ラナンキュラス

「…僕もだよ」


セリーヌ(弱々しく)

「ミシェール。

私が…教えた事…忘れちゃダメよ?」


セリーヌの手を握り返す

ラナンキュラスの瞳から

自然に涙が溢れ出した。


セリーヌ(弱々しく)

「女の子には…優しく。」


ラナンキュラス(泣きながら)

「…うん。」


セリーヌ(弱々しく)

「家族と…仲良く」


ラナンキュラス(泣きながら)

「…うん。」


セリーヌ(弱々しく)

「仲間を…思いやる」


ラナンキュラス(泣きながら)

「…うん。」


セリーヌ(弱々しく)

「自分を…大切にする」


ラナンキュラス(泣きながら)

「…うん。」


セリーヌ(弱々しく)

「愛する人を…必ず護りなさい」


ラナンキュラス(泣きながら)

「…うん。」


セリーヌ(弱々しく)

「逢いたかったわ…ミシェール」


ラナンキュラス(泣きながら)

「…僕もだよ。来るのが遅くて…ごめん」


セリーヌ(弱々しく)

「いいのよ…あなたの人生を

精一杯生きなさい」


ラナンキュラス(泣きながら)

「…うん。」


セリーヌ(弱々しく)

「あなたに逢えて…よかった」


ラナンキュラス(泣きながら)

「僕も…僕もだよラナンキュラス…」


次第に心拍数が落ちていくのを

ラナンキュラスは感じていた。

刃汽(ジンキ)も尽きかけており

息をしているのが不思議にさえ思えた。


セリーヌ(弱々しく)

「あなたの顔を…見れて良かった。

彼女を…必ず…護るのよ。

呪いになんか…負けないでね。」


ラナンキュラス(泣きながら)

「…うん。」


セリーヌ(弱々しく)

「幸せな日々を…ありがとう」


ラナンキュラス(泣きながら)

「なんで…そんな事言うんだよ…

それは僕の方だって!!!」



セリーヌ(弱々しく)

「幸せだった?」


ラナンキュラス(泣きながら)

「ラナンキュラスに逢えて…

僕は…僕は…幸せだった…幸せだった!!」





セリーヌ(弱々しく)

「私も…よ」


ラナンキュラス(泣きながら)

「ラナンキュラス??」


そして、セリーヌは



眠る様に



息を引き取った。


ラナンキュラス(泣きながら)

「…ありがとう…ありがとう」









※音楽がある場合鳴り止むまで待つ




ハーゴン▶︎▶︎▶︎N



ラナンキュラスはそっと

後ろからセリーヌを優しく抱きしめた。


アイビー

「ラナン!!!」


尽きた刃汽(ジンキ)を察したアイビーは

急いで駆け寄ったが

ラナンキュラスはそれを静止した。


アイビー

「…でも。もしかしたら照刃ショウハで」


ラナンキュラス(泣きながら)

「もういいんだ。

これ以上、彼女を苦しめる事はない」


ラナンキュラスはセリーヌを抱き抱え

外へと出ると裏庭にある

広大な空き地へと向かった。

そこは幼い頃にセリーヌと共に

刃術(ジンジュツ)を練習した場所だった。


ラナンキュラス

「見て。ラナンキュラス。星が綺麗だ。」



アイビー

「…ラナン」


涙がこぼれぬ様に

星空を見上げるラナンキュラス

しかし、止める事は出来なかった。

そして、ラナンキュラスはセリーヌを

地面にそっと下ろすと

自身の胸に手を当てて優しく口上を唱えた。


ラナンキュラス

『『天輪テンリン遠鳴トオナリ(キラメ)く閃光

(ウレ)い・黄昏タソガレ一矢イッシに消えよ

(ホトバシ)れ・ (トドロ)かせ

そして彼方カナタ御・名(オン・ナ)を刻め

『『紫苑シオン雷刃ライジン葡萄染麒麟エビゾメキリン』』


解放の余波により空は曇り雨が降り注ぐ。

ラナンキュラスは

葡萄染エビゾメ色の刀身を握りしめ

セリーヌに(ヤイバ)を向けた。


ラナンキュラス(泣きながら)

「僕が…連れて行ってあげるから。

星になって…見守ってて。ラナンキュラス」


そして、夜空に向かって叫んだ。


ラナンキュラス(泣きながら)

『『紫死シシ麒麟天昇(キリンテンショウ)!!!』』




アイビー

「…ラナン」


ラナンキュラス(泣きながら)

「4つ数えれば

あなたの魂は天へと昇る」


そしてラナンキュラスはセリーヌを背に

心の中で4つ数えた。

同時にセリーヌとの思い出が

走馬灯の様に駆け巡る。


----------------------------


セリーヌ

「ほら、見て。」


少年ラナンキュラス

「うわぁ!!本当だ!!

何で星って夜なのにあんなに光ってるの!?

なんの光なんだろ…」


セリーヌ

「あれはね。ご先祖様達の光」


少年ラナンキュラス

「ご先祖様??」


セリーヌ

「そうよ。

私達が迷わない様に

ご先祖様が星になって

照らしてくれているの。」


少年ラナンキュラス

「へぇ…不思議だなぁ。

ねぇ、ラナンキュラス

聞いていいかな??」


セリーヌ

「何?」


少年ラナンキュラス

「僕が来るまで…ずっと1人だったでしょ?

その…寂しく…なかったの?」


セリーヌ

「寂しくなかった。

だって…見上げれば星が輝いて

夜風に吹かれれば全てを連れ去ってくれる。」


少年ラナンキュラス

「ラナンキュラスは、強いんだね。

僕もラナンキュラスみたいになれるかなぁ。」


セリーヌ

「それは、これから分かることね。」



----------------------------



紫電を(ホトバシ)らせながら

セリーヌを突き上げる様に

(イカヅチ)が天に向かってハシると

美しい葡萄染(エビゾメ)色の麒麟キリン

セリーヌの魂と共に

(イカヅチ)を駆け昇っていった。

振り向けば

セリーヌの身体は跡形アトカタなく消えていた。



ラナンキュラス(泣きながら)

「僕も…

ラナンキュラスみたいになれたかなぁ。」



するとアイビーが

ラナンキュラスの胸の中へと飛び込んだ。


アイビー

「ラナン!!!」


ラナンキュラス

「アイビー…

2人きりにしてくれてありがとう。」







※音楽がある場合鳴り止むまで待つ















そしてそこに画家が現れた。


画家

「お別れは言えたみたいだね。」


ラナンキュラス・アイビー

「ッッ!?」


画家

「やぁ、ミシェール。」


ラナンキュラス

「画家の…お兄さん。」


アイビー

「画家の…って」


ラナンキュラス

「まさか…君が手紙をくれたのかい?」


微笑む画家は(イカヅチ)

晴れた星空を見上げていた。

しかし、それよりも

容姿があの頃と変わらない事に

驚きを隠せなかった。


画家

「死者の魂を冥府へと送る慈悲の(イカヅチ)

夜空に光る稲妻とは

こんなにも美しいものなんだね」


ラナンキュラス

「…アイビー」


アイビーの前に出るラナンキュラスは

画家の刃汽(ジンキ)を探ったが

何も感じ取れ無かった。

しかし、葡萄染麒麟(エビゾメキリン)が少しザワついていた。


画家

「間に合って良かった。

どうやら無事に彼女は逝けたみたいだね。」


切っ先を向けるラナンキュラスに対して

何事も無かった様に画家は話し始めた。


画家

「数奇な人生だった。

晩年は君の話しばかりしていたよ。

お陰で退屈だった。おや?彼女は…」


ラナンキュラス

「僕の婚約者だ」


アイビー

「…私達、2人を相手にするつもり?」


画家

「正に虎の女狐メギツネ

シタタかな女性だ。」


アイビー

「何ですって…」


画家

「ミシェール。

君は僕が絵に描いたような人生を歩む。

必要な物は全て手に入れた訳だね。」


ラナンキュラス

「どう言う事だ…」


画家

「リンゴを覚えているかい?」


ラナンキュラス

「リンゴ?」


ラナンキュラスは幼い頃

画家に手渡されたリンゴが

トグロを巻いた蛇に変わった事を思い出した。


画家

「そうか。忘れていなければそれでいい」


すると画家はどこからともなく

一枚の 絵画(カイガ)を取り出した。


アイビー

「…何者なの!?」


画家

「ただのしがない画家さ。

君こそ…何者だい?」


アイビー

「わ、私はアイビー=へデラ=ポーチス。

八刃花(ハチジンカ)隊の副隊長よ!!」


画家

「なるほど。 パチンッ(指を鳴らす)


すると、画家に向けていた切っ先が

アイビーに向いていた。


ラナンキュラス・アイビー

「何!?!?」


画家

「ラナンキュラスから

礼儀を教わらなかったのかな?

久しぶりの再会というに

随分 (ズイブン)じゃないか。

安心しなよ。今日は彼女をトムラいに来たんだ」


ラナンキュラス

「アイビー…」


アイビー

「…ラナン」


ラナンキュラスは葡萄染麒麟(エビゾメキリン)

自身の胸の中へと納刀した。


ラナンキュラス

「戻っておいで、葡萄染麒麟(エビゾメキリン)


画家

「さて…」


ラナンキュラス

「その絵は…なんだい?」


画家

「この絵は…

生前、彼女から頼まれていたんだ。

よくやく渡せる日が来た。」


アイビー

「渡せるって…ラナンキュラスさんはもう…」


画家

「彼女の力強い心を描いた

トムラいの花さ。」


そこには白いラナンキュラスの花が描かれていた。


ラナンキュラス

「まさか…あの時、描いていたのは」


画家

「あれは、とうの昔に書き終わっている。

それとは別の絵さ。

彼女は僕のために長年

美味しい紅茶を淹れてもらった恩がある。

せめてもの手向タムけになるといいけどね。」


すると画家はラナンキュラスを見た。


画家

「良い"ウツワ"になったね。

ミシェール。」


そう言い残して画家は去っていった。


アイビー

「あの人…何者なの?」


ラナンキュラス

「分からない…」



※音楽がある場合鳴り止むまで待つ



後日、副隊長代理であるスミレと共に

アイビーとラナンキュラスは

遺品の整理を行うと

隊舎タイシャを引き払い

この家に引っ越すこととなった。


アイビー

「よし、これで終わりだね。」


ラナンキュラス

「久しぶりに魚でも獲って来ようかなぁ」


アイビー

「え?ラナンって魚釣れるの?」


ラナンキュラス

「フフッ。電撃でバチバチッとね。」


アイビー

「焼く手間が省けるね!!」


ラナンキュラス

「丸焼きしか食べない気かい?」


アイビー

「ウフフッ。

味付けは任せて!!」


ラナンキュラス

「ソースで誤魔化すのは

もううんざりだよぉ」


セリーヌ▶︎▶︎▶︎N


ーーそして現代ーー

全てを話し終えたラナンキュラスは

アイビーと共に星空を見上げる。

すると、チャイムが鳴り響く。


アイビー

「はーい!!」


扉の向こうには

ハーゴンとクリスが立っていた。


クリス

「まさかここに来るとはな…」


ハーゴン

「懐かしいものだ」


アイビー

「は、初めまして!!

どうぞ上がって下さい。」


アイビーは2人を招き入れた。


ラナンキュラス

「いらっしゃい。」


クリス

「フンッ」


ラナンキュラス

「父さん。久しぶり。

アイビーが食事の用意をしてる間

少し3人で話さないかい?」


そう言ってラナンキュラスは

ハーゴンとクリスを

2階のバルコニーへ案内した。


ハーゴン

「ここは…」


ラナンキュラス

「そうさ。

ラナンキュラスはいつもここにいた。

ここで夜風にあたって星を眺めた。」


夜空を見上げると

あの頃と変わらない満天の星空が煌めき

月が3人を照らしていた。


クリス

「…綺麗だな。」


ハーゴン

「…母上」


ラナンキュラス

「ラナンキュラスは高貴な人だった。

そして、辛抱強くて優しかった。

最後まで人の幸せを願う様な人だった。

クリスにだって優しかったでしょ?」


クリス

「知らんな。

ただ、紅茶は美味しかった。」


ハーゴン

「母上が淹れる紅茶は絶品だった。」


ラナンキュラス

「良かったら飲むかい?」


そういうとラナンキュラスは

3人に紅茶を振る舞った。


ラナンキュラス

「どう?」


クリス

「…美味い。」


ハーゴン

「母上の味によく似ている。」


ラナンキュラス

「ラナンキュラスから教わったんだ。

ただ、教わったのはそれだけじゃ無い。

人生と生き様を教えてもらった。」


ラナンキュラスはロッキングチェアに座り

ユラユラ揺れながら語り始めた。


ラナンキュラス

「クリス。

何で、星が光ってるか知ってるかい?」


クリス

「太陽の光の反射だろう?」


ラナンキュラス

「違うよ。

どんな時でも道迷わぬように

僕達の祖先が照らしてるんだ。」


ハーゴン

「我々の祖先が…か。」


ラナンキュラス

「だからきっと

ラナンキュラスも

今、僕らを照らしてくれているんだ。

あの遠い遠い星からね。」


3人は星降る夜を眺め

夜風に吹かれていた。


ラナンキュラス

「何だか気持ちいいだろ?」


クリス

「ぁあ。」


ラナンキュラス

「こうして家族そろってこの場所で

ラナンキュラスの事を話せるなんて

思いもしなかった。」


ハーゴン

「そうだな。」


ラナンキュラス(心の声)

((それも全部

あなたのおかげです。ラナンキュラス))




すると1階からアイビーの声がした。




アイビー

「ご飯の支度できましたよぉー!!」


ラナンキュラス

「あぁ。今行くよアイビー!!

さぁ、クリス、父さん。行こう」




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挿絵(By みてみん)


作者 REN’sJackson


劇情版

千刃花センジンカ帝国特務戦闘部隊テイコクトクムセントウブタイ〜ー

3rd(サード) Anniver(アニバー)sary(サリー) Special(スペシャル) Edition(エディション)

Ranunculus(ラナンキュラス)'s() Side Story(サイド ストーリー)

The () Star (スター)gazing (ゲイジング)scene BLUE(シーン ブルー)



※音楽がある場合鳴り止むまで待つ

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おまけ









アイビーは様々な料理を振る舞い

忙しくしていた。


ラナンキュラス

「クリス。前もって話していた返事を

当日の手紙に書くなんて

もっと早く返信出来なかったのかい?

と言うより手紙じゃなくても…」


クリス

「こんな辺境に住むのが悪い。

俺は間に合う様に書いた。」


アイビー

「まぁまぁ。来るって分かってたんで

用意出来ましたし!!」


ハーゴン

「式はどうする?何人呼ぶんだ?」


ラナンキュラス

「派手にやろうと思ってるよ。」


クリス

「当たり前だバンジャマン家の結婚式だぞ。

仮面舞踏会など比にならん。

何人かうちの生徒を

執事として使う事も出来る。」


ラナンキュラス

「それは名案だね。」


アイビー

「お色直しは12回がいいかな!」


ラナンキュラス

「それは多くないかい?」


ハーゴン

「ジジ達とまたバンドをやったらどうだ?」


アイビー

「え!?バンドやってたの??」


ラナンキュラス

「ま、まぁね。学生時代の話しさ。

ツバキがベースで僕がキーボードで

アキレイがドラムだったんだ。

ジジはギターボーカルだったんだ。」


アイビー

「え!?ツバキ隊長が!?

あのツバキ隊長が!??」


クリス

「聞くに耐えん」


ラナンキュラス

「上手かったでしょ?」


ハーゴン

「アナスタシア殿は呼ぶのか?」


ラナンキュラス

「結界の中にいてもらうよ。」


クリス

「そこまでするなら呼ぶな」


アイビー

「失礼でしょ?アナスタシア隊長に!」


ラナンキュラス

「アイビー知らないからだよ。

飲んだら凄いんだから。」


式の話も一通り終わると

ハーゴンが話し始めた。



ハーゴン

「私からも話しがある。」


ラナンキュラス

「なんだい?」


ハーゴン

「私も後数年で死刑執行人(ジュジュマン)

引退しようと考えている。」


クリス

「明日からでも構いません」


ハーゴン

「そう言うなクリス。

当主についてだがーーー」


クリス    ラナンキュラス

「やります」 「やらないよ」


ハーゴン

「しかし、クリス。

跡継ぎはどうするのだ。」


ラナンキュラス

「より戻したら?」


クリス

「何?」


ラナンキュラス

「好きなんでしょ?」


顔を赤らめるクリス

それを見てアイビーは微笑んだ。


アイビー

「同じ職場だと

変に意識したりませんか?」


クリス

「職場は職場だ。」


アイビー

「そ、そうですよねぇ…アハハ」


ハーゴン

「クリス。跡継ぎがいないのであれば

ミシェールが有力となるぞ。」


クリス

「しかし、ミシェールは継ぐ気はないです。」


ハーゴン

「…このままでは引退出来そうにないな。」


ラナンキュラス

「真面目な話しさ。

死剣 緋葬殺那(フルスティング)を破壊したらどうかな?」


ハーゴン・クリス

「何だと!?」


ハーゴン

「お前まで何を言うんだ!!」


クリス

「一族の恥を上塗りするつもりか?」


ラナンキュラス

「僕は神に選ばれた鞘花(ショウカ)

一族の恥どころか誇りだと思うけど?」


ハーゴン

「それは…」


クリス

「それとこれとは別だ。」


ラナンキュラス

「ラナンキュラスから聞いたんだ。

死剣 緋葬殺那(フルスティング)の本当の呪いについて」


ハーゴン

「本当の呪いだと?」


ラナンキュラス

「クリスは知ってるんでしょ?

だからエロディウム先生に

本当の気持ちを伝えられないでいる。」


クリス

「…知っている」


ハーゴン

「どう言うことだ。」


クリス

「あの日、ミシェールを迎えに行った時

全て聞かせてもらった。

母上の死も全て合点ガテンがいく」


アイビー

「どう言う事なの?」


ラナンキュラス

「心配する事ないさアイビー。

さっきも話そうと思ったんだけど

みんながいる時に話そうと思ってね。」


アイビー

「災いって呟いてたのって…まさか」


ラナンキュラス

「そうさ。

僕はバンジャマン家の呪いを断ち切るために

鞘花(ショウカ)を目指した。

もちろんこの世界の平和も

願っているけどね。」


アイビー

「呪いってただ、罪人ザイニンの血で

鍛えられただけじゃないの?

だから呪われた(ツルギ)って言ってたんじゃ」


クリス

栄華繁栄エイガハンエイの代わりに

バンジャマン家の男子が

最も愛する者を妻とする時

その妻に対し災いが降りかかる。」


ラナンキュラス

「だからラナンキュラスは

母さんと僕らの為に破壊しようとしたんだ。

でも、それを母さんが止めた。」


ハーゴン

「なんだと…ではイブリラが死んだのは

その呪いのせいだと言うのか!!!」


ラナンキュラス

「そうだよ。

でも大丈夫さ。

バンジャマン家の僕が

(サヤ)能力(チカラ)で破壊する。

葡萄染麒麟(エビゾメキリン)神剣宝具 (デュランダル)

斬れないものは無い。

きっと上手くいく。」


ハーゴン

「しかし死剣 緋葬殺那(フルスティング)

バンジャマン家の代々伝わる宝剣

それに国が指定した宝剣でもあるんだぞ。

今更、破壊したら没落ボツラクでは済まない!」


クリス

「俺は破壊する事に反対だ。

バンジャマン家であるのであれば

バンジャマン家の呪いを受け入れるべきだ。」


ラナンキュラス

「分かってるさ。

"現皇帝"の政権下では恐らく無理だろうね。」


クリス

「何を言うつもりだ。」


ラナンキュラス

「そのままの意味さ。

僕は義次(ヨシツグ)皇子オウジじゃなく

義忠(ヨシタダ)皇子オウジ

次期皇帝になるべきと考えてる。」


アイビー

「ツバキ隊長を?」


ハーゴン

「やめろ。それ以上言うな。

誰かに聞かれればタダでは済まないぞ。」


ラナンキュラス

「父さん。心配しないで

刃術(ジンジュツ)でここは護られてる。」


クリス

「馬鹿げた事を抜かすな。

椿は鍔騎ツバキには決してなり得ん。」


ラナンキュラス

「僕らは本気だよ。」


ハーゴン

「僕らとは?誰だ」


ラナンキュラス

千刃花(センジンカ)に所属する

六大貴族の総意だ。」


クリス

「なんて事を…いい加減にしろ!!

クーデターでも起こす気か!!!」


ラナンキュラス

鞘花(ショウカ)数人相手に

国に何が出来る。」


ハーゴン

「ならん。ならんぞミシェール。」


ラナンキュラス

「僕は甘んじて呪いを受けるつもりはない。

正式にアイビーを妻とする前に

ケリをつける。

父さんは母さんを亡くしてどう思った?

クリスは愛する人と一緒に居たく無いの? 

死剣 緋葬殺那(フルスティング)が無くても

責務は全う出来るんだよ?

心配しなくていい。僕は(イカヅチ)鞘花(ショウカ)

必ずみんなを護る。」


クリス

「くだらん。高貴とは法のもとにある。

勝手に学生時代の様に決めるな。」


ハーゴン

「ミシェール。本当にいいのか?」


アイビー

「わ、私…この話し聞いてて良いのかな?」












ラナンキュラス

「現皇帝は恐らく操られている。」


ハーゴン

「何を根拠に言ってるんだ。」


ラナンキュラス

「誰が糸を引いているか分からない。

でも、このままだとナーベルクは危ないんだ。

僕の家族なら僕を信じて欲しい。」


ハーゴン

「それは鞘神(サヤガミ)様の意志なのか?

それともお前自身なのか?」


ラナンキュラス

葡萄染麒麟(エビゾメキリン)と話す?」


クリス・ハーゴン・アイビー

「!?!?!?!?」


ラナンキュラス

「なーんてね。」


ハーゴン

「脅かすんじゃない」


クリス

(サヤ)が選んだのがお前という事は

そういう事なのか」


ラナンキュラス

「そうだね。

僕らだって簡単に鞘神(サヤガミ)と話せない。

元々、人間のいざこざに干渉しないからね。」


アイビー

「ねぇ、ラナン。

別に皇帝が操られてるにしても

義次(ヨシツグ)様でも良いんじゃないの?」


ラナンキュラス

「ツバキは正統な後継者だ。

正しい者が継ぐべきだよ」


ハーゴン

「では、死剣 緋葬殺那(フルスティング)を」


ラナンキュラス

「ぁあ。

これはラナンキュラスの意志でもあるんだ。

彼女の人生を狂わせた死剣 緋葬殺那(フルスティング)

僕は許す事は出来ない」


クリス

「どちらにせよ。俺は反対だ。

バンジャマン家は死剣 緋葬殺那(フルスティング)と共にある。」


ラナンキュラス

「よく考えておいてクリス。

僕は本気だよ。」



ーー数日後ーー

バンジャマン家屋敷にあるクリスの書斎にて

クリスは死剣 緋葬殺那(フルスティング)を眺めていた。


クリス

「破壊。かぁ」































画家

「迷ってるのかい?」



クリス

「ッッ!!」


突然現れた画家に

死剣 緋葬殺那(フルスティング)を向けた。



画家

「出来のいい弟は鞘花(ショウカ)

父親はナーベルク帝国軍の軍司令

君は…士官学校の先生。

埋めがたい差が付いてしまったね。」


クリス

下賤ゲセンヤカラめ」


クリスは画家に斬りかかるも

画家はすぐ後ろにいた。


クリス

「何!?」


画家

「君も感じているだろう?

愛に飢えた死剣 緋葬殺那(フルスティング)慟哭ドウコクを」


クリス

「何を言っている」


画家

「見せてあげるよ。 パチンッ(指を鳴らす)



その瞬間、死剣 緋葬殺那(フルスティング)

緋黒アカグロく光り出した。



クリス

「これは!!!!!」











配役変更一覧

----------------------------


セリーヌ▶︎▶︎▶︎スグリ


ハーゴン▶︎▶︎▶︎ユーガ


アイビー▶︎▶︎▶︎N


----------------------------



戦争が苛烈カレツを極める中世ナーベルク時代

兵士として従事していた

まだ若きバンジャマン家七代目当主ユーガは

家の扉に手をかけた。



ユーガ

「ただいま…スグ…リ」


家の中に入ると

見知らぬ男の声がした。



ユーガ

「スグリ…スグリ!!!!」


スグリ

「ウフフッ。

まぁ、またそんな事を言って!!」


ユーガ

「スグリ!!!」


スグリ

「お、おかえりなさい」


画家

「お邪魔しているよ」


そこには容姿端麗な男が

妻であるスグリと楽しげに話していた。


スグリ

「あ、あなた…戻られたのですね!!

今、食事を用意させます。」


ユーガ

「誰だその男は。」


画家

「フフッ。僕はしがない画家。

奥様が是非、僕の絵を買いたいと言ってね。」


悪びれる素振りも見せず

不遜フソンな態度を取る画家に

ユーガは苛立イラダちを覚えた。


ユーガ

「絵など腐るほどある。帰ってくれ。」


スグリ

「そんな無礼な事を言わないで!

彼の絵は素晴らしいんですよ?」


ユーガ

「では、絵はどこにある?

絵を売りにきたのであれば

持ってきているのだろう?」


画家

「僕は全てオーダーメイドなのさ。

だからここに打ち合わせに来ている」


ユーガ

「ならば絵はいらん。

帰ってくれ」


画家

「おや…仕方ない。今日は帰る事にしよう。」


そう言って画家は

大きなつばの広い帽子を被った。

(ニラ)みつけるユーガに

画家は微笑み返していた。


画家

「どいてくれないかい?

扉の前に立っていては

帰れと言われても帰れない。」


スグリ

「フフッ。面白い人」


ユーガ

「…グッ」


ユーガはわざと肩をぶつけようとしたが

その場で転んでしまった。


画家

「おや…

何もない所でツマズくとは」


ユーガ

「…黙れ」


画家

「では、スグリ嬢

またお会いしましょう」


そう言って微笑む画家に

ユーガはハラワタが煮えくり返っていた。



ユーガ

「今のは何だ。」


スグリ

「何ってあなた。画家ですよ?」


この時代、戦争から戻らぬ夫がいない間

不貞を働く妻達の噂が

兵士達の中では有名だった。


ユーガ

「私が国のために戦争へ向かっていると言うのに

お前はあの男と何をしていた!!」


スグリ

「何もしていません!!

ただ、仕事の話をしていただけです!!」


ユーガ

「もう二度とアイツと会うな!!!」


スグリ

「そんな!!」


ユーガ

「子供もいるというのに

母親として...妻としての自覚がないのか!!」


そして、月日が経ち

再び戦争へ向かったユーガは

あまりにも悲惨な戦場に疲弊ヒヘイしきっていた。



ユーガ

「帰ったぞ…スグリ…

今回は…多くの兵が」






画家

「やぁ、久しぶりだねユーガ。」



ユーガ

「なん…だと?」


スグリ

「あなた…」


ユーガ

「何故…ここにいるんだ」


画家

「それはこちらの台詞だよ。

何故、戦場から逃げて来た?」


ユーガ

「何!?」


ユーガは恐怖のあまり

戦場から逃げ出し帰って来ていた。


スグリ

「あなた…逃げて来たの?」


ユーガ

「ち、違う!!違う!!

私は逃げて来た訳では!!!」


スグリ

「バンジャマン家である…あなたが…

戦場から逃げ出したなんてバレたら…

末代マツダイまでの恥!!

バンジャマン家は終わりよ!!」


ユーガの精神は限界を迎えており

愛する妻からの言葉に深く深く傷ついた。

期待していた言葉とは違ったからだ。


画家

「君は…壊れているんだね。」


ユーガ

「私は…壊れてなどいない!!!」


画家

「ガラクタ同然じゃないか。」


ユーガ

「ガラクタなどではない…

私は…バンジャマン家七代目当主…

そして、スグリの夫だ!!!!!!」


画家

「はぁ…アワれな…」


ユーガ

「私を…そんな目で…見るな…

見るな!!!見るな!!!!!

帰ってくれ!!帰れ!!!」


画家

「では、お望み通り帰ろう。残念だよ。

これでさよならだ、スグリ。」


そう言って画家は去っていった。


スグリ

「こんな人が私の夫だなんて…」


ユーガ

「なん…だと?」


スグリ

「戦場から逃げ出す様な人だなんて!!」


ユーガ

「やめろォオオオ!!!!!」


スグリ

「アガッッ」


ユーガの目は血走り

気づけばスグリの首を絞めていた。


スグリ(次のセリフまで)

「アガッッ…ガガッ…アッ…アッ」


ユーガ

「私は!!!!

戦場で立派に戦った!!!

来る日も!!来る日も!!血を浴びた!!

仲間をこの手の中で!!亡くした!!

私は国のため!!家族のために

死ぬ気で戦ったんだ!!!!

それなのに!!お前は!!!!

こんな男と不貞を働き!!

私を!!子供たちを!!バンジャマン家を!!

平気で裏切った!!!!

戦場から逃げ出したっていいじゃないか!!

私はもう!!疲れたんだ!!!

疲れたんだよぉおおお!!!!!!

もう嫌だ!!嫌だ!!嫌だ!!!

何故…暖かく…迎えては…くれないんだ…

君は…私を…愛していないのか?」


スグリ

「ウグッ…アッ…アッ……アッ」



スグリの目は充血し

苦痛の表情を浮かべたまま

死に絶えた。


ユーガ(泣きながら)

「ハッ…スグリ!!スグリ!!!

スグリィィイ!!!!!!!」


我に返ったユーガはスグリの遺体を抱きしめ

泣き崩れていた。

すると頭の中で画家の声が響く


ユーガ(泣きながら)

「何だ…これは…」


画家

((残念だよ。君の誕生月の為に

スグリは絵を注文していたというのに))


ユーガ(泣きながら)

「…え?」


画家

((やはり…君は壊れている))


ユーガ(泣きながら)

「私…私は壊れて…いる?」


画家

((君は愛が欲しかったんだね。

なら…未来永劫…手放しては...))


画家

「いけないよ」



すると床からヌッと画家が現れた。


ユーガ(泣きながら) 

「お前…は」


画家 (囁きながら)

「ほら、スグリにキスをして。

最後のお別れをするんだ」


ユーガ(泣きながら)

「最後の…お別れ」


画家 (囁きながら)

「ぁあ、そうさ。」


ユーガ(泣きながら)

「スグリ…スグリ」


そういうとユーガは

冷たい唇に深く深くキスをした。

その瞬間

絶望というには深淵シンエン過ぎる程の闇が

ユーガを包んでいく


画家 (囁きながら)

「それでいいんだ。」


すると力無き目で

ユーガは呪詛ジュソを呟いた。


ユーガ

『『怨限限オンキリキリ怨限限オンキリキリ

甘露カンロツボにて髑髏疼ドクロウズかん

怨限限オンキリキリ怨限限オンキリキリ

冥々恨(メイメイウラ)めし屍人シビトワラえ』

『『愛玩具(ラブドール)!!!

死剣卿(サーバリン)緋葬殺那(フルスティング)!!!』』



画家(囁きながら)

「素晴らしい。

ほら、スグリの肉体で

作られたこの緋黒アカグロウツワ

君の愛を捧げるんだ」



ユーガは画家に手を添えられて

刀身を首にピタリと付けた。


画家(囁きながら)

「そうすれば未来永劫…愛は渇かない」


ユーガ(心の声)

((未来永劫…))


画家(囁きながら)

「血の因果は渇きを許さない」


その瞬間、ユーガは自身の首を

勢いよくハネた。


画家

「良い子だ」





※音楽がある場合鳴り止むまで待つ




ーーそして時が戻り現代ーー

クリスは両手を床につき

汗を滲ませていた。


クリス(息を切らしながら)

「ハァ…ハァ…ハァ…

これは…何だ!!」


画家

「人はいつの時代も愚か極まりない」


クリス(息を切らしながら)

「これは…何だと聞いている」


画家

「歴史さ。

君らバンジャマン家の背負う因果のね。」


クリス(息を切らしながら)

「まやかし…だ!!」


画家

「真実さ。

死剣卿サーバリン 緋葬殺那(フルスティング)がどう言った武器モノ

事細かく分かっただろう?

僕には分かるよクリス。

君が抱くミシェールへの劣等感をね。」


クリス(息を切らしながら)

「ハァ…ハァ…劣等感だと!?」


画家

「クリス。

君は決してミシェールに劣っていない。

能力(チカラ)の在り方を知らないだけさ。

君はバンジャマン家当主の中でも

群を抜いて才能が豊かだ。

感じただろう?死剣卿サーバリン 緋葬殺那(フルスティング)

その手に握った時の高揚感を。

これは特別な愛玩躯(ラブドール)なんだ。

魂が二つ、肉体が二つで錬成されている。

それを扱えるのが君なんだよクリス。」


クリス(息を切らしながら)

戯言ザレゴト…だ…」


画家

「君は尸諫術士(ネクロマンス)の才能がある。

しかも血の因果付きのハイブリッド。

極めてマレな存在だ。」


クリス(息を切らしながら)

「俺が…ミシェールと…敵対する…とでも?」


画家

「面白いね。

振り返ってごらんよ。

君の人生はミシェールと敵対してばかりだった。

違うかい?

それはこれからも、この先も変わらない。

君には人を幸せにする事なんて

到底、出来ないんだ。自分でも分かるだろ?」


クリス(息を切らしながら)

「俺は…ナーベルク帝国…

初代皇帝に誓った…誇り高き…

六大貴族の末裔マツエイだ!!」


画家

「意志が強いのは祖母譲りなんだね。

君にも高貴な魂を感じるよ」


クリス(息を切らしながら)

「…黙…れ」


画家

「全ては運命の終末 (ディステルニドン)の思うがままに。さ」


そう言って画家は消えていった。



※音楽がある場合鳴り止むまで待つ


ーー場面変わりセントラル樹海にある花畑ーー

画家は一枚の絵を眺めていた。




画家

絲哀(イトウツク)しき、二人」










配役変更一覧

----------------------------




スグリ▶︎▶︎▶︎クラメンシー




----------------------------




すると、ズズッと空間がユガ

その円の中から老婆が姿を現した。



画家

「…ばぁや」




クラメンシー

「そろそろ、シウダペルーダ城に

お戻りなられてはいかがでしょうか」



しかし、画家は頬杖ホオヅエをつきながら

クスッと笑っていた。



クラメンシー

「いかがなさいました?

マスターシヲン。」








配役変更一覧

----------------------------


画家▶︎▶︎▶︎シヲン


----------------------------








シヲン

「フフッ。

いや…相変わらず面白い一族だなぁ」





















シヲン

「バンジャマン家って」






挿絵(By みてみん)


(完)












やく、2時間半

お付き合い

いただきましてありがとうございました。


シヲンは一体どんな思惑があるのか

それは、本編でお楽しみに。


次は4周年かな(生きてれば)


その時、サイドストーリーでお会いしましょう。

本編も読んでね!!


P.S

よくメツハをメッハと読みますが

ジテッコウ✖︎→ジテツコウ○ 

ミシェールはピエールと同じ発音

ラナンキュラスのアクセントは

 

 ↑        ↓

ラナンキュラス✖︎ ラナンキュラス  です。

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