Rengei's Side Story 「The Thousand Miles」
レンゲイ
((眠れぬ夜を指折り数える。
一つ、二つ、三つ、四つ。
月夜を見上げて想いを馳せる。
五つ、六つ、七つ、八つ。
されど、心通じず
名残の星空に 響く遠吠))
カルミア▶︎▶︎▶︎N
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作者 REN’sJackson
ー千刃花〜帝国特務戦闘部隊〜ー
番外篇 Rengei's Side Story
【 The Thousand Miles 】
※音楽がある場合鳴り止むまで待つ
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N
ここはナーベルク帝国 帝都ルシファンブルク第六区
ロゼウス八番地にある郊外。
N
色とりどりの花々や緑が生い茂るこの一帯には
ポツンと一軒、木造建ての小さな平屋があった。
そして、その広大な庭には
千年枯れないと言われる不思議な桜が植えられており
大きな二つの幹が無数に枝分かれ
まるで 雄々 しい鹿が
この土地を守っているようにも思えた。
その桜は春も夏も秋も冬でさえも
枯れる事は無く咲き誇っており
例え戦火に呑まれても
焼ける事が無いという言い伝えがあった。
そして、人々はやがてこの桜の木をこう呼んだ
"エザの守り木"と
レンゲイ
「フフッ。全く...君って人は」
N
レンゲイは自身とキスツスの映る写真を
寂しげな表情で眺めては少し微笑んだ。
すると、突然誰かがドアをドーンッと
蹴破り入ってきた。
レンゲイ
「あの...ドアノブ付いてるんですけど」
N
レンゲイは手をかざすと
木造のドアに木の根が張り徐々に再生していく
レンゲイ
「シルバさん。訪ねて来るなら
普通に入ってきて下さいよ。
アナスタシアさんといい、オルケイディアさんといい
ルシファンブルクの女性はみんなそうなんですか?」
N
そこに入ってきたのは
レンゲイがナーベルク士官学校時代
C-1stの担任をしていたシルバ=グレイだった。
自身の副隊長であるガーベラと同じく
とても小柄で少女と見間違うほどの背丈だが
腕っぷしの強い勝ち気な女性である。
現在シルバはグレイ家の当主を務めており
五刃花隊 隊舎兼
ナーベルク帝国 帝国兵総合病院"零華"院長
及び五刃花隊副隊長 代理 である。
シルバ
「とんでもねぇ顔してんじゃねぇか。
ちゃんと眠れてねぇみてぇだな。」
レンゲイ
「副隊長 代理 が珍しいですね。
院の方は大丈夫なんですか?
まだまだ、治療者が後を絶たないと聞きましたが?」
シルバ
「俺は鞘花じゃねぇんだ。
ホイホイ治せるかって。それに...
俺の可愛いガーベラが様子見てこいって
うるせぇから来てやったんだよ。」
レンゲイ
「フフッ。ガーベラ君に見抜かれちゃいましたか。
すみません心配かけてしまって。
特に今日は...なかなか寝付けなくて」
シルバ
「そうか。普段...
隊の事はレンゲイやガーベラに任せっきりだけどよ
俺はこれでも一応、五刃花隊の副隊長代理だからな。
たまにはそれっぽい事してやろっかなってな」
レンゲイ
「引退して零華とグレイ家の仕事に
専念すれば良いものの。
副隊長から一戦を遠のいて
わざわざ士官学校に行ったのに
代理として復隊するなんて
相変わらず面倒見が良い人だ。」
シルバ
「ケッ。
生意気言えるようになったじゃあねぇか。
お前も知ってんだろ?
当主をキスツスに譲ろうとした時
ジジイ共がうるせぇのなんの。
だからあん時決めたんだよ。
俺は生涯現役だってな!!!」
レンゲイ
「フフッ。
相変わらずお元気そうですね。
シルバさんお茶でも淹れましょうか?」
シルバ
「いや、俺が淹れてやるからそこ座っとけ。」
レンゲイ
「は、はい。」
N
すると、シルバは勝手が分かっているかの様に
ティーポットを取り出すと
ポケットから様々な茶葉を取り出した。
シルバ
「ラナンキュラスは
本当に出来のいいハーブを作りやがる。」
レンゲイ
「皆さん大ファンですからね。」
シルバ
「そこに俺の照刃をちょっと加えて...と」
『照刃の四・静蓮眠』
N
茶葉が少し弾けると
爽やかなハーブの香りが一面に広がり
その上から湯を注いだ。
シルバ
「ほらよ。」
N
シルバは3つお茶を用意すると
その内の1つをレンゲイに差し出した。
レンゲイ
「ありがとうございます。 ズズーッ 。
うん。美味しいです。
香ばしいのに爽やかな後味ですね。それになんか...」
シルバ
「気が落ち着く...だろ?
リラックス効果があるんだ。
流石の桜雌鹿でも心までは治せねーだろ?」
レンゲイ
「今は...治らなくても良いと考えてます。
キスツスが亡くなってから
色々と向き合う時間が欲しくて。」
シルバ
「そうかい。」
レンゲイ
「シルバさん。
今度、作り方を教えてください。」
シルバ
「若作りの秘訣かい?」
レンゲイ
「いや。そっちじゃなくて。
それにまだまだそんな事を言う歳でもないですよね?
昔より若く見えますよ?」
シルバ
「なんだ?褒めても茶ァしかでねーぞ?
分かってんだろ?照刃を極めれば
反老化現象 なんて訳ねーのさ。
それに、生徒からナメられちゃあ教官としてはシメェだろ?
大人っぽい格好してたんだよ。
いいか?全てはメイクだ!!!!」
レンゲイ
「照刃じゃ...ないんですね。
ま、まぁナーベルク帝国で
シルバさんクラスの照刃の使い手は
そうそういませんから
あながち間違いでは無いですけど」
シルバ
「何言ってんだ。お前を除いて。だろ?
それに俺にだって苦手な系統はあるんだぜ?」
レンゲイ
「それは適正ですから仕方ないですよ。」
シルバ
「適正ねぇ。
お前みたいに天授万才なら話が違ったろうよ。
照刃を全系統使えるのは
お前だけだ。レンゲイ。」
レンゲイ
「天授万才なら僕だけじゃーーあっ。」
N
レンゲイは急に立ち上がると
キッチンの方からチーンッと音が鳴った。
するとレンゲイはオーブンの中から
アップルパイを取り出し3つ皿に綺麗に切り分けた。
シルバ
「おう、用意周到じゃあねぇか」
レンゲイ
「まるでこの時間を見計らって
来たのかと思いましたよ。」
シルバ
「おー。アップルパイの桜添えか
どおりで良い匂いがした訳だ。」
レンゲイ
「バレましたか」
シルバ
「そう言えば...
キスツスはお前が作るスイーツ好きだったな」
レンゲイ
「ええ。特にキスツスはアップルパイが大好きでしたね。
焼いてあげると喜びましたから。」
シルバ
「確かに...これはウマい!!」
レンゲイ
「僕は昔からスイーツ作りは得意なんです。ね?」
間
レンゲイ
「ガーベラ君?」
ガーベラ
「ギクッ!!!」
レンゲイ
「バレないとでも思いましたか?」
N
窓の向こうに
頭に結んだチョンマゲがビクッと動いているのが見えた。
シルバ
「まだまだ修行が足りねーぞガーベラ。
刃汽を隠してぇなら
まずは煩悩を断ち切れ。食欲がダダ漏れだ。
だが...可愛いから許す。」
レンゲイ
「相変わらず甘いですね。ガーベラ君に」
ガーベラ
「ジュルジュル !!
ア、アチシ!!アップルパイ食べたいなんて
お、思ってないっすからね!!!!」
レンゲイ
「そうですか。出て来る気がないなら
シルバさんにガーベラ君の分をあげましょう」
ガーベラ
「わー!!わー!!わー!!!
そんなに言うなら食べてあげてもいっすよ!!」
N
ガーベラは急いで玄関から走ってくると
テーブルについた。
ガーベラ
「アップルパイ!!パイパイパーイ!!」
レンゲイ
「全く...あなたって人は。
隊服汚れますから前掛けをつけて下さい。」
ガーベラ
「いっただきまーす!!!!」
レンゲイ
「無視ですか。
ハァ。そんな勢いよく食べなくても...」
シルバ
「グレイ家の者なら気品よく食べろガーベラ。
それを差し引いても可愛いから許す」
ガーベラ
「アップルパイが無かったらバレなかったっすよ!!」
レンゲイ
「はいはい。」
N
ーー数分後ーー
ガーベラ
「ぷはーーーーーー!!!
ごちそうさまでした!!パンッ!!
アチシ満足!!まんまん満足!!!」
シルバ
「なんだその言葉使いは。
ごちそうさまはもっと落ち着いて言え。
にしても...可愛いから許すか。」
レンゲイ
「お粗末様でした。
まさか、全部たいらげるとは」
ガーベラ
「テイクアウトで
一つ持って帰ってもいいっすか!?」
レンゲイ
「ありません。お店じゃないんですから。」
ガーベラ
「えーーーーー」
レンゲイ
「えーーーー。じゃない。」
シルバ
「隊長に対して何なんだぁ!?その態度は!!
おい!!ガーベラ!!」
ガーベラ
「は、はい!!!!」
シルバ
「あまり失礼な事を言うんじゃねーぞ」
ガーベラ
「す、すみません。」
シルバ
「可愛いから許すが」
ガーベラ
「ヒィ!!シルバの姉御ぉお!!!」
レンゲイ
「ハァ...」
N
すると、シルバは感慨深そうに
窓の外を眺めていた。
シルバ
「エザの守り木...懐かしいなレンゲイ。
俺らも昔はよくこの家で集まった」
レンゲイ
「えぇ。そうですね。
ここはカルミア隊長の別宅でもありましたから」
ガーベラ
「アチシ達の別荘だったのに!!
お父さんが先輩に譲るって言った時は
驚きやしたよぉーー!!!」
シルバ
「そうか??俺からすれば譲った時には
レンゲイに継承するつもりなのが分かったけどな」
ガーベラ
「えー!!!
てっきりシルバの姉御に譲るかと思ってたのに!!」
レンゲイ
「それは僕もですよ。
シルバさんに継承するかと思ってました。」
シルバ
「兄貴は俺が鞘花になる事を
嫌だって知ってた。
俺は鞘花の器なんかじゃねぇし
更々なる気もねぇ。千年の歴史なんて重すぎるしよ。
それに...
兄貴はレンゲイに守って欲しかったんじゃねーか?
あの木をな。」
ガーベラ
「エザの守り木をすか?」
シルバ
「そうだ。」
レンゲイ
「花の鞘花としてですかね?」
ガーベラ
「先輩に鞘を受け継いだのは
何か理由があったんすかねー」
シルバ
「理由ねぇ。代々、花の鞘花が
エザの守り木を守護するらしいからな。」
ガーベラ
「じゃぁお父さんは初めから...レンゲイ先輩に継承を?」
シルバ
「継ぐべき人間が継ぐ。
継承なんて聞こえが良いが
結局、選ぶのは鞘自身。
全ては鞘神様の意思だ。
そこに俺ら人間の意思なんて入る余地ねーって。」
ガーベラ
「継ぐべき人間が継ぐって事は
やはりアチシが桜雌鹿をーー」
レンゲイ
「冗談はやめてくださいよガーベラ君」
ガーベラ
「な、何をぉ!?
アチシが鞘花に相応しくないと申すのか!」
レンゲイ
「ジジさんくらい立派な副隊長になってから
言ってくださいね」
ガーベラ
「グヌヌヌッ!!
おのれキキョウ!!抜け駆けしおってからに!!」
シルバ
「キキョウか。あれには帝国が驚いた。
まぁキスツスが現れた日と比べれば
どうって事はねぇが...」
レンゲイ
「当時、入隊した時には
キスツスはすでに二刃花隊の隊長でしたから
そんなに覚えていませんが...」
シルバ
「あの時は凄かったぞ。」
ガーベラ
「お母さんが死んだ次の日に突然現れたもんで
お父さんもアチシも驚きやした。
悲しみに暮れる時間も忘れるほど遊んでくれて
戦いに出れば強くてみんなの憧れで
お姉ちゃんを嫌う人なんて誰もいなかったっす!!
だから...だから」
N
目を潤ませながら
ガーベラはキスツスとレンゲイの写真を見た。
すると、レンゲイはその写真を手に取り寂しげな表情で
静かに口を開いた。
レンゲイ
「そうですね。知ってます。
彼女は...とても可憐で勇ましく流麗でした。
僕と初めて出会ったあの日も...」
キスツス▶︎▶︎▶︎N
カルミア
「んーーー。今回の襲撃は偶然じゃあない。
裏でラミオラスとエルドーラが手を組んだとしか
私は思えないねぇ。」
N
ーー数年前ーー
突如、ナーベルク帝国の南に位置するナターシャに
エルドーラ帝国軍葬送部隊 四大天が約千人と
エルドーラ帝国軍 三万人もの兵が空と海から来襲した。
唐突な襲撃にナーベルク帝国軍は
急造で編成したカルミア率いる五刃花隊五百人
キスツス率いる二刃花隊五百人
ナーベルク帝国兵が一万で迎え撃った。
同時期にラミオラス帝国に北から攻められており
ナーベルク帝国はまさに虚をつかれた形となった。
レンゲイ
「数的に不利ですね。」
カルミア
「そうだねぇ。しかも...」
シルバ
「四大天がようやく動いたみてぇだな。
どうする?副隊長の俺と代理のレンゲイが出るか?
それとも兄貴が出るか?」
カルミア
「部下を死なせる訳にはいかない...が」
N
するとシルバがニィッと笑った。
シルバ
「どうやらヌラン荒野での戦闘を片付けたキスツスが
出たみたいだな。」
カルミア
「まさに流星の如くだねぇ」
レンゲイ
「え!?もうですか?
ヌラン荒野って1番戦闘が激しかった所ですよね?」
カルミア
「あの子が今回率いてるのは
二刃花隊の中でも
選りすぐりの独立二輪駆動魔進 部隊"流星群"
小編成で戦地を二輪の魔進で駆け回り
かき回すのが仕事だからねぇ。
立派にその仕事を全うしたんじゃあ無いのかねぇ」
レンゲイ
「にしても...あまりに早すぎる!!
だって"流星群"はたったの10人ですよ!?」
シルバ
「なんだ?キスツスとの任務
被った事ねーのか?」
レンゲイ
「噂でしか...彼女を知りません。
月美夜女王を授与した夜も
ちょうど入れ違いで会えませんでしたから。」
シルバ
「あの日は俺も兄貴も酔ってたから覚えてねーな!!」
レンゲイ
「知ってます。」
カルミア
「いい機会だ。レンゲイ。
あの子から色々と学ぶ事も多いだろう」
シルバ
「たまたまキスツスが隊舎にいて良かったな。
アイツの戦いは圧巻だぜ?」
カルミア
「さて、あの子が先陣を切った戰場に
花でも添えに行こうかねぇ。」
N
カルミアは蓄えた大きなヒゲをクルクルといじりながら
腰を上げた。
カルミア
「副隊長のシルバと席官の癒者はここで負傷者の治療を。
レンゲイと私で行く。」
シルバ
「了解。」
カルミア
「準備はいいかな?パチン」
N
カルミアはそう言って大地から根を生やすと
レンゲイと共に根に乗って移動した。
シルバ
「全く!!鞘花ってのは便利だな!」
N
ーー数分後ーー
ヌラン荒野に到着したレンゲイとカルミアは
流星群の戦いぶりが徐々に見えてきた。
レンゲイ
「敵兵が分散されてる。それに...」
カルミア
「程よく距離を保ちながら
不規則的にかつ規則的に連携しているのが見えるかね?
その秘密は隊列の真ん中にいる者のおかげだ。」
レンゲイ
「あの人は...」
カルミア
「副隊長のダイモンジ殿は通信刃術の達人。
それがあの連携の要だろうねぇ」
レンゲイ
「たった10人に...
何千もの敵兵が撹乱されて押されてる。
あの先頭にいるのがキスツスさんですか?
兵の波が次々と割れて突き進んでいく。」
カルミア
「まさに流星にして流麗。
決して誰にも捕らえられない。あの子は本当に凄い戦士だ。
見ていなさい。あれが女性騎士に贈られる 最高峰の名誉
月美夜女王の所持者だ。」
レンゲイ
「凄すぎる...何故こんなにも強いんでしょうか。」
N
するとカルミアはキスツスを眺めながら口を開いた。
カルミア
「レンゲイ。どんな強者でも心の悲しみには勝てない。
それはあの子も同じだ。
その強さには必ず理由がある。
もし、あの子が悲しみの渦にいたら
私の代わりに救ってやってくれ。」
レンゲイ
「僕がですか?
そんなの無理ですよ。面識だって無いのに。」
カルミア
「君は優しい子だ。必ず出来る。
シルバでもガーベラでも無い。レンゲイ。君だ。
グレイ家の女はデリカシーの無い
気が強い者ばかりだからねぇ。
ハッハッハッ!!!」
N
すると敵兵から歓声が上がった。
カルミア
「おっと。四大天の隊長が来たようだねぇ。
我々も眺めていても仕方ない。
どうやらあの子も味方から離れたようだ。
準備はいいかね?」
レンゲイ
「はい!!!!」
カルミア
「ではーーーー」
ガーベラ▶︎▶︎▶︎N
N
ドーーーンッと爆撃がレンゲイ達を襲った。
レンゲイ
「カルミア隊長ぉお!!!!」
N
レンゲイは爆撃にギリギリ巻き込まれなかったが
その衝撃で耳が聞こえなくなっていた。
レンゲイ
「グッ!!なんだ...どうなっているーーー」
キスツス
「ねぇ、君...大丈夫?」
N
レンゲイはキスツスの乗る魔進の後ろに乗せられていた。
風切り音も相まってかキスツスの言葉が聞こえづらく
大声で話しているくらいしか分からなかった。
レンゲイ
「え?...」
キスツス
「全く...あんな目立つ所にいるからよ?
ねぇ?大丈夫???」
レンゲイ
「はい?あの...すみません...少し耳が...」
N
レンゲイは耳に手を当てて照刃を唱えた。
レンゲイ
『照刃四十一・芍薬甘草』
N
すると緑色の粉が両耳の中にスッと入っていくと
破れた鼓膜が瞬時に回復した。
キスツス
「わぉ!!君、凄いね!!
その若さで四十番の照刃出来るなんて!!
父さんも重宝する訳ね!!」
レンゲイ
「ありがとう...ございます」
キスツス
「あっ。この辺で降ろすね!!!」
レンゲイ
「あ、あの...もう耳聞こえてますから」
キスツス
「あ!!そうだね!!」
N
キスツスは魔進を止めてマントを翻えすと
レンゲイの方を向いた。
その瞬間、あまりの美しさにレンゲイは目を離せなかった。
キスツス
「私はキスツス。キスツス=グレイ。
ねぇ、君の名前は?」
レンゲイ
これが僕とキスツスの出会いだった。
キスツス
「どうしたの?」
レンゲイ
「あ...」
キスツス
「名前!!君のな、ま、え!!」
レンゲイ
「ぼ、僕の名前ですか??」
キスツス
「うん。君の名前。」
レンゲイ
「リ=レンゲイって言います。」
キスツス
「レンゲイ!?
レンゲイってあのレンゲイ??」
レンゲイ
「は、はぁ」
キスツス
「嘘ぉ!!レンゲイって言ったら
ナーベルク士官学校一年で卒業した人でしょー?!?
うわぁー!!本物??」
レンゲイ
「僕の事知ってるんーーーちょ!!」
N
キスツスはレンゲイの頬をペタペタと触っていた。
レンゲイ
「な、な、何をするんですか!!」
キスツス
「そんなに顔真っ赤にしちゃってぇ...可愛い!!」
レンゲイ
「ぬぉっ!!!!!」
N
キスツスはレンゲイを豊満な胸の中に沈めると
ギュッと抱きしめた。
レンゲイ
「んーーんーーーん!!!!」
キスツス
「あ!!ごめん!!
可愛いもの見ちゃうと私だめなの!!
絶対、他の隊士には言わないでね!!」
レンゲイ
「い、言いませんよ!!!」
キスツス
「二人だけの約束だから。ね?」
レンゲイ
「は、はい。」
キスツス
「よろしい!!じゃぁ。」
レンゲイ
「ええ!?」
N
キスツスはレンゲイを突き飛ばした。
すると、カルミアが上空から降ってきた。
カルミア
「よいしょーー!!!」
レンゲイ
「ぬぉぉ!!!!」
N
先程までレンゲイがいた場所にカルミアが着地した。
キスツス
「父さん!!!危ないでしょ?」
カルミア
「何やら如何わしい雰囲気を察してな!!」
レンゲイ
「まだ何もしてませんよ!!」
カルミア
「まだ?」
レンゲイ
「そう言う意味ではないですから!!」
キスツス
「ウフフッ。
ねぇ父さん。凄いんだよ!!
四十番の照刃を一瞬でやったの!!」
カルミア
「照刃の才ならシルバをも凌ぐからねぇ」
キスツス
「なるほど...天授万才は伊達じゃ無いのね!!
やっぱり二刃花隊で貰えばよかったぁー」
カルミア
「ハッハッハッ!!レンゲイは渡さんぞ!!
五刃花隊の未来を背負ってるからねぇ」
レンゲイ
「そんな!!言い過ぎですよ。
それよりも爆撃は大丈夫...ですよね。」
カルミア
「この子が見えたから助けなかったが
レンゲイこそ大丈夫だったのかな?」
レンゲイ
「キスツスさんのおかげで何とか...」
カルミア
「よかったよかった。それで...
周りには誰一人いないみたいだが
ここまで離れたのは意味があるんだろうねぇ」
キスツス
「意味のない事は嫌いよ?」
カルミア
「そうだろうねぇ」
N
すると、二人の刃汽が徐々に高まっていくのを
レンゲイは肌で感じていた。
キスツス
「四大天のベリブルー=スコットノーランドが来てる。」
カルミア
「超爆撃 か。やっかいだねぇ。
それにもうすぐ日が沈む。」
キスツス
「相性が良さそうな六刃花隊には
既に救援要請は出してあるわ」
カルミア
「応援が来るのにも半日以上はかかるけどねぇ」
キスツス
「そうね。四大天は正直、異常な集団。
盲目的に神を崇めるように突撃してくるから。
そこに覚悟も何もないのよ。ただ決死で挑んでくる。」
カルミア
「日が沈む前に」
キスツス
「決着を」
N
そう言うと二人は自身の胸に手を当て
口上を唱えた。
キスツス・カルミア
「天輪!!!!」
レンゲイ
そこからの快進撃は凄かった。
銀狼による現実と幻影の連撃
桜雌鹿による治癒と破壊の連鎖
圧倒された。
僕では到底、2人に及ばないと確信させられた。
何よりもカルミア隊長や
シルバ副隊長やガーベラちゃんと同じく
眩いほどの 銀髪が煌めき
颯爽と駆け抜けるキスツスさんの姿は
まさに流麗そのものだった。
N
ーー五刃花隊、二刃花隊合同野営地にてーー
二人の活躍により四大天の隊長ベリブルーは
いとも簡単に退いた。
シルバ
「やるじゃねぇか!!グレイ家もこれで安泰だ!!」
N
シルバはキスツスの背中をバシバシ叩いていた。
キスツス
「ちょ、ちょっとシルバ!!」
シルバ
「グレイ家から隊長が二人も出た時もそうだが
ガーベラを加えたら
千刃花はグレイ家が席巻してるようなもんだな!!」
N
他の千刃花隊士達も酒をあおり
今日の戦果に酔いしれていた。
キスツス
「君も凄かったよ?
他の隊士達を戦場を走りながら
鞭でどんどん回復していくんだもん。
父さんが仕込んだでしょ?その形状変化。
桜雌鹿の神剣宝具 にそっくりだもん。
ね?君。」
レンゲイ
「はい。隊長に教授してもらいながら
白百合鉄花殲を参考にしました。」
キスツス
「やっぱりねぇ」
カルミア
「なんだその目は」
キスツス
「別にぃ。」
レンゲイ
「僕が回復して回れたのも隊長達がいたからですよ。
でもベリブルーから一発もらってしまいましたが」
カルミア
「なんと!!私は三発もらってしまった!!
ハッハッハッ!!!!」
キスツス
「君!!あの爆撃の嵐で
一発しか喰らってないなら充分凄いよ!!」
レンゲイ
「キスツスさんは無傷ですけどね。」
キスツス
「ハハーン。
さては君、私の事ばかり見てたでしょー?」
レンゲイ
「え!?いや、そ、そんな事ないですよ!!」
キスツス
「またまたぁ」
レンゲイ
「からかわないでください!!
って...あれ?
ダイモンジ副隊長はどこいったんですか?」
シルバ
「放っとけ。奴はこう言う場が好きじゃねーんだよ」
キスツス
「ダイモンジ君は生まれつき話せないから
話しかけられるのが苦手なの。」
レンゲイ
「あ、そうなんですか?
もし良かったら僕が診ましょうか?」
キスツス
「ううん。大丈夫。
出来れば他のみんなと公平に扱ってあげて。」
レンゲイ
「分かりました。」
N
すると、カルミアがチーンとワイングラスを叩いた。
カルミア
「ゴホン。今日は娘のキスツス、妹のシルバ
副隊長のダイモンジ。
そして我が五刃花隊の副隊長代理レンゲイ
ひいては我が国の兵士・隊士達の活躍によって
エルドーラ率いる四大天を圧倒した。
明日は更なる混戦になるだろうが
決して我が国の領土を侵略させる訳には行かぬ。
それにアキレイに応援を要請した!!
明朝に着くだろう!!!!
明日は決着!!!!!隊士達よ!!
今宵は英気を養い存分に食べてくれ!!
桜雌鹿で作った特性の 薬膳料理!!
野ヤモリの香草蒸しを召し上がれ!!
ハッハッハッ!!!!」
N
隊士達は喜びなのか困惑なのか
どちらとも取れない歓声を上げた。
シルバ
「苦手な奴は黒ムカデのサラダがあるからな!!」
キスツス
「ねぇ、五刃花隊のご飯って
こんなものばかりなの??」
レンゲイ
「そうですよ?僕はいつも遠慮して
配給のクランチバーを食べてます。」
キスツス
「嘘ーー!?ちょっと分けて欲しい!!
急遽出動したから二刃花隊は配給持って来てないの!!」
レンゲイ
「目の前で食べると隊長達に悪いので
陰でこそっと食べますがいいですか?」
キスツス
「分かった!!ねぇ、来て!!」
レンゲイ
「え!?」
N
宴会が盛り上がるのを横目に
キスツスはレンゲイの手を引いて茂みに連れていった。
シルバ
「...おいおい。」
レンゲイ
「ちょっと!!キスツスさん!!
どこに行くんですか?」
N
触れた指の温もりは暖かく
脈打つ鼓動が伝わると思うと
余計にレンゲイの胸は高鳴りを抑えられなかった。
レンゲイ
「僕は陰でコソッとーーー」
キスツス
「ねぇ!!見て!!
ナターシャは海が近いから星が綺麗なんだよ!」
レンゲイ
「これは...」
N
満天の星空は今にも手が届きそうなほど近く
月明かりがキスツスの 銀髪に反射し
まるでキスツス自身が輝いているようだった。
レンゲイ
「綺麗ですね。」
キスツス
「そうでしょ?
それに満天の星空を見ると思い出すんだぁ。
月美夜女王の称号を授与された時の事」
レンゲイ
「どうしてですか?」
キスツス
「父さんがお祝いに
蓮の花をたっくさん夜空に浮かべてくれたから。
本当...素敵だったなぁ。」
レンゲイ
「そうだったんですね。」
キスツス
「うん...あっ。えへへ」
N
グーっとおなかが鳴ったキスツスは
照れ臭そうにレンゲイを見ていた。
レンゲイ
「フフッ。そうでしたね。
はい。クランチバー。
りんご味ですが大丈夫ですか?」
キスツス
「え!?りんご?すっごい好き!!」
レンゲイ
「そうですか。それは良かったです。フフッ」
キスツス
「もー!!私だっておなかぐらい鳴るよ!!」
レンゲイ
「いや、そういう事ではなくて
なんというか...その...」
キスツス
「その?」
レンゲイ
「噂とは違うなって」
キスツス
「噂??」
レンゲイ
「噂というか先入観というか。
もっと孤高で冷徹なイメージがあったので...」
キスツス
「えー!ひどい!!」
レンゲイ
「思ったよりも可愛い人ですね。」
キスツス
「か、可愛い!?!?
もう!!君!!
女の子をからかっちゃいけません!!」
レンゲイ
「べ、別にからかってませんよ」
N
キスツスはクランチバーを食べながら
レンゲイの顔を下から覗いた。
レンゲイ
「ちょっと!!急に何ですか!!」
キスツス
「絶対、君の方が可愛いと思うけどなぁー」
レンゲイ
「ど、どう言う意味ですか!?」
キスツス
「君、身長いくつ??」
レンゲイ
「え!?身長ですか??」
キスツス
「そう!!」
レンゲイ
「6フィート3.59インチくらいですかね」
※192センチ
キスツス
「おっきいね!私よりも4.72インチもおっきい!!」
※12センチ
レンゲイ
「確かにグレイ家の女性は
皆、小柄な人ばかりのイメージですね。」
キスツス
「あはは。気づいちゃった?」
レンゲイ
「どう言う事ですか?」
キスツス
「私ね」
レンゲイ
「はい。」
N
キスツスは星空を眺めながら微笑むと
ポツリと口を開いた。
キスツス
「ガーベラとはお母さんが違うんだぁ」
レンゲイ
「...そうなんですか」
キスツス
「君、驚かないんだね。」
レンゲイ
「ぇえ、まぁ。出自はあまり関係ないですから。」
キスツス
「じゃあさぁ。
私がラミオラス帝国出身って事も?」
レンゲイ
「ぇえ。言ったでしょう?
出自はあまり関係ないって。
モルバンジャスは実効支配されていただけなので
あそこはナーベルクの領土です。
それに、入隊時の身辺調査をクリアしたじゃないですか。」
キスツス
「それは私が既に鞘花だったから
鞘欲しさに緩和されたのよ。」
レンゲイ
「聞きましたよ。
入隊前にラミオラス帝国の一個師団を潰したって。
隊長試験だって突破しましたし。」
キスツス
「父さんが推薦人を集めてくれたからよ。
たまに思うんだけど、今まで会った事ない娘が
突然現れてあなたの子です!!って言われて
よく信じたなぁーって。
私に身に覚えがあったのかな?」
レンゲイ
「どうでしょうか。この世界で 銀髪を持つ一族は
グレイ家だけですから。
それが何よりの証拠ですよ。
それに、今日までの活躍ぶりは
ナーベルクの歴史に刻まれる賜物です。」
キスツス
「でも私、この 銀髪嫌いなんだぁ」
レンゲイ
「どうしてですか?」
キスツス
「小さい頃いじめられたもの。」
レンゲイ
「ラミオラス人からすれば 銀髪はグレイ家の証ですから。
よく乗り越えましたね。本当に凄いです。」
キスツス
「ウフフッ。優しいのね君って。」
レンゲイ
「思ったことを言ったまでですよ。」
キスツス
「ねぇ、また話そうよ。」
レンゲイ
「はい。僕でよければ。」
N
するとユラッと花びらが舞い
2人の頬を優しく撫でた。
レンゲイ
「これは...」
キスツス
「桜の花びら。綺麗ね。」
シルバ
「ねぇ、また話そうよ。」
カルミア
「僕でよければ」
シルバ
「今のは兄貴に言ったんじゃねぇって!!
って何やってんだ!!花びら隠せ!」
カルミア
「演出さ!!」
シルバ
「いらねーだろ!!」
カルミア
「だって!!」
シルバ
「だってじゃねぇ!!」
キスツス
「もう!!父さん!!シルバ!!聞こえてるよ!!」
レンゲイ
「何してるんですか?」
シルバ
「 薬膳料理食わねぇから 薬膳カユを持ってきたらよぉ
兄貴がついてくるもんだから」
カルミア
「父さん、不純異性交遊は許しません!!」
キスツス
「ちょっと!!からかうのはやめてよ!!」
レンゲイ
「僕もそんなつもりは無いですよ!!」
キスツス
「え!?」
レンゲイ
「え!?」
シルバ
「はいはい。任務終わってからにしろなぁ」
カルミア
「まぁいい!!酒もあるぞぉ!!
明日に備えて飲むといい!!」
N
ーー翌朝5時ーー
事態は一変する。
シルバ
「クソッ!!!間に合わねぇ!!!
全隊士に告ぐ!!!!!
一人一人距離を取って離れろ!!」
レンゲイ
「カルミア隊長!!!
脈拍に合わせて身体が赤く光ってます!!!」
カルミア
「グッ!!!大丈夫...だ...心配無用...ゴホッゴホッ」
キスツス
「一体...いつの間に...
ベリブルーの刃汽は無いのに!!」
カルミア
「ゴホッゴホッゴホッ。他の...隊士達を」
キスツス
「父さん!!無理しないで!!」
カルミア
「触るな!!!」
キスツス
「グッ!!」
カルミア
「ゼェ...ゼェ
私に...触れたらダメ...だ。
それよりも...他の隊士達を」
レンゲイ
「カルミア隊長!!」
シルバ
「触れるな。兄貴が正しい。みんな距離を取れ!!」
N
見張りは全滅。周りは火の海。
テントで寝ていた隊士達は次々と爆散していった。
レンゲイ・キスツス・カルミア・シルバ
「グッ!!」
レンゲイ
「どうなってるんですか!!!」
シルバ
「してやられた...」
キスツス
「父さんの刃汽の流れが汽枢を中心に淀んでる。
これがベリブルーの...超爆撃 本来の能力" 時限爆撃"」
N
数々の悲鳴や爆発音が野営地に響く
カルミア
「ゼェ...ゼェ...ゴホッゴホッ
私は...大丈夫...だ...桜雌鹿の能力で...抑えられる。
隊士達を...助けねば!!!」
キスツス
「待って。今は解放しない方がいいよ!!
刺激すると爆発しかねない!!
それに!!鞘花クラスの刃汽が爆発したら
ここ一帯が吹き飛ぶかもしれない!!
父さん!!汽枢に出来るだけ刃汽を溜めないで!!」
レンゲイ
「どうすればいいんですか!!!
桜雌鹿なら助けられるかもしれないのに!!」
キスツス
「待って...爆発するタイミングがそれぞれ違う」
シルバ
「鞘花と違って刃汽量が低い人と
脈拍が早い人は
赤く光ってすぐに爆発してやがる。これは...」
キスツス
「時限式空間刃術の類い」
レンゲイ
「どこから攻撃されたかも見当が付かない...」
カルミア
「放っておいても...時限爆撃 で殺す事が...出来るからねぇ
でも、隊長格は...これで殺せるとは
向こうも...思っていない...はずだろうねぇ
必ず...近くにいる...もっと範囲を...広げ...ゴホッゴホッ」
レンゲイ
「そんな...。本当に周りにいないんですか!?
それとも僕たち...寝てる間に攻撃されたんですか!?
でも、刃汽にも気配にも気が付かなかった。」
キスツス
「落ち着いて。ダイモンジ君と流星群が
周りを捜索してる。見つければ通信刃術が入るから。ね?」
レンゲイ
「でも...」
シルバ
「兄貴を五角羅生門で閉じ込めて
爆散した瞬間に俺の土砂系の剋刃と
レンゲイの波動系
キスツスの氷雪系の剋刃で抑えればあるいは...」
レンゲイ
「複合合成刃術ならいけるかもしれないです」
シルバ
「一度、爆散させれば規模は抑えられる」
キスツス
「分かった。私が2人の刃術の核になるから
調整は任せて。
父さんが動ければ他の隊士達を助けられる」
シルバ
「行くぞ!!!」
レンゲイ
「はい!!!」
キスツス
「待って!!!!」
カルミア
「レン...ゲイ」
レンゲイ
「そ...んな...」
N
レンゲイの身体が脈拍に合わせて赤く光り始めた。
シルバ
「ベリブルーの攻撃を何回受けた?」
レンゲイ
「ゴホッゴホッゴホッ一度...だけです」
キスツス
「時限爆撃 は一度仕込めば闘う必要がない。
だからベリブルーは簡単に引いたって事よ。
なんて...卑劣なの」
カルミア
「ゼェ...ゼェ...シルバ。キスツス。
私達から...離れろ。」
キスツス
「私とシルバがいればーー」
カルミア
「離れなさい!!!!」
キスツス
「嫌だ!!!!」
シルバ
「兄貴...何言ってやがんだ」
カルミア
「ゼェ...ゼェ
取り乱すんじゃあない!!」
キスツス
「だって!!!」
カルミア
「周りを...よく見なさい。
かろうじて息のある者も...いる。
敵の刃汽が感じられぬのなら
報復よりも...救助。
私達は...放っといて...助けに行かねばならない」
レンゲイ
「ガハッ...」
シルバ
「レンゲイ!!!」
キスツス
「父さんより...進行が早い」
レンゲイ
「僕は...いいから...他の隊士を」
シルバ
「何言ってんだレンゲイ!!!」
キスツス
「見捨てる訳ないでしょ!!!!!」
カルミア
「五刃花隊の...隊長として...ではない。
グレイ家の当主として...命ずる。
助けられる命があるなら...行け!!!!」
シルバ
「本気なんだな。兄貴」
カルミア
「ガーベラに...寂しい想いを...させる」
シルバ
「心配すんじゃねぇよ。俺がいる。」
キスツス
「父さん...私もここにーーーーー。
え?そんな!!!!!!」
N
すると、前方上空から
四大天が襲来した。
キスツス
「空!?!?させない!!!!!」
シルバ
「クソ!!!!!」
レンゲイ
「ゴホッゴホッ...刃汽知覚の届かない上空に...
ずっといたんです...ね。」
シルバ
「見つからねぇ訳だ。
刃汽探索は横に広げる。縦じゃねぇ。」
キスツス
「ベリブルー!!!!!!」
カルミア
「キスツス。」
キスツス
「父さん?」
カルミア
「私に...出来る事は...これくらいだ。
母さんの事も...1人にしてしまった事も
長い間...苦しかったろう...すまなかった。」
キスツス
「え?」
N
ドドドドドと
遠くから爆撃の音が鳴り響く
シルバ
「来やがった!!!」
カルミア
「行けぇえ!!!!!!」
シルバ
「行くぞ!!!!」
キスツス
「何を今さーーーー」
N
シルバはキスツスの手を引いて走り出した。
爆撃の黒煙が明け方の寒空を
曇天へと変えていく。
すると、カルミアはレンゲイの手を取った。
レンゲイ
「何を...するつもり...ですか...」
カルミア
「何故...隊長に...副隊長や...代理がついているか...
知っているかね?」
レンゲイ
「そんな事はいいから...手を離して下さ...い
僕は爆発...しますから」
カルミア
「それは...常に...鞘花の技を...
近くで学ばせる...ためだ。
レンゲイ...君には...沢山見せて来たゴホッゴホッ
この後...どの技で隊士達...全員を...
救うか...わかるね?」
レンゲイ
「そんな...やめてくだーー」
カルミア
「レンゲイ...よく聞きなさい。
五刃花隊の本分を...グッ...
忘れてはいけない。」
レンゲイ
「やめ...て...ください。
隊長は...助かる。僕は...ここまでです。」
カルミア
「ゼェ...ゼェ...私じゃ...救えない。救えないんだ」
レンゲイ
「救えます...救えない訳がない!!!
ゴホッゴホッゴホッゴホッ」
カルミア
「ツライ想いを...これから...君にさせてしまう。
私の罪を...背負わせてしまう。」
レンゲイ
「何を言ってるんですか!!!」
カルミア
「桜雌鹿は...受難の鞘。
運命の終末が君を呑み込む。
だが...レンゲイ...君なら出来る。
君は誰よりも...愛が深い子だ」
レンゲイ
「やめてください!!!」
カルミア
「聞けぇ!!!!
あの子達を...救ってくれ」
レンゲイ
「そんな...」
N
レンゲイの身体の光は更に赤く光はじめ
カルミアはレンゲイの頬に手を当てると
レンゲイの涙を拭った。
カルミア
「任せ...たぞ...レンゲイ!!!」
レンゲイ
「そんな!!僕は...僕はまだ!!」
カルミア
「大丈夫...大丈夫だ。」
N
するとレンゲイはカルミアの温かな手をそっと握った。
レンゲイ
「...これは」
カルミア
「生命は巡り...深淵に帰す。
エザの守り木で...また会おう」
レンゲイ
「カルミア...隊長...カルミア隊長ぉおお!!!」
N
そう言ってカルミアは
レンゲイの手を握りながら
桜雌鹿を継承するために
遺ノ口上を唱えた。
カルミア
「天...輪」
※BGMがある場合鳴り止むまで待つ
N
ーーキスツスサイドーー
キスツス
「あれは...クリスタルの柱」
シルバ
「結晶化したか。
兄貴がレンゲイに鞘の能力を継承した。」
キスツス
「最後の最後まで...勝手な人」
シルバ
「自分の命よりもレンゲイを救う方を選んだ。
桜雌鹿の能力があれば
レンゲイは助かるからな。
ったくよぉ。兄貴らしいっちゃ兄貴らしいぜ。」
キスツス
「シルバ」
シルバ
「さて。ヤルぞ。キスツス。グレイ家の底力
見せてやろうじゃあねぇか!!!
なん...だと?」
キスツス
「もう...終わりだよ。」
シルバ
「なんかおかしくねぇか?」
N
前方上空に現れた四大天の飛行戦闘魔進の空爆は
キスツス達とは別の場所で行われていた。
シルバ
「アイツらなんであっちに...」
キスツス
「私は月光の鞘花。
幻を見せるなんて訳ないの」
シルバ
「じゃぁ。あいつらにはここが見えてねぇってか!?」
キスツス
「すぐ終わらせてくるから待ってて」
N
すると、キスツスは指を鳴らした。
キスツス
「パチン。
夜天狼おいで。」
N
キスツスに呼応して白銀の二輪駆動魔進が
ブォンとエンジンをふかし走ってきた。
キスツスは空中で夜狼にまたがると
四大天のいる方へ消えていった。
シルバ
「この規模の幻影の結界を張ってたのかよ。
しかも未解放状態で。
キスツスの花纏捧君はやっぱバケモンだな。」
N
ーーレンゲイサイドーー
クリスタルの柱と化したカルミアは消えていった。
レンゲイ
「ありがとうございます。
カルミア隊長...ガーベラちゃんは僕が護ります。」
N
レンゲイはそう言うと地面に手を当てて
味方の刃汽を探った。
レンゲイ
「まだ...助けられる!!桜雌鹿なら!!
僕に力を!!隊士全員を救う!!力を!!」
N
レンゲイはそう言って自身の胸にそっと手を当てた。
すると、レンゲイの想いに呼応する様に
暖かな温もりが辺りを包み込むと
様々な花々や木々や緑が生い茂っていく。
レンゲイ
『『天輪 ・波濤・恵の鉤爪
芽吹 ・花咲・枯り落つ 贄木
巡れ 生命よ 深淵に染まれ!!
『『散桜突刃•桜雌鹿!!!』』
N
桜色の刀身が月明かりに照らされ淡く光る。
そして、ここに
花の鞘花が
受け継がれた。
シルバ
「この光は...」
N
シルバは夜空を見上げると
蓮の花が風に流されていくのを目にした。
そして、その花から降り注ぐ光輝く花びらに触れた瞬間
温かな光に包まれると傷が瞬時に回復していった。
シルバ
「レンゲイ」
レンゲイ
『輝夜•花蓮息吹ノ物語』
「この蓮の花達は桜雌鹿の治癒の刃汽を押し固めたもの。
そこから溢れ出る刃汽は花びらへと変わり
柔らかな風に乗って降り注ぐ。
そして、僕の莫大な刃汽量と引き換えに
広範囲の回復を可能とします。」
シルバ
「へへッ。相変わらず美しい技だな。」
レンゲイ
「はい。」
シルバ
「後悔は無いか?」
レンゲイ
「はい。」
シルバ
「兄貴はお前の為に死んだ。
お前を助ける為に。」
レンゲイ
「はい。」
シルバ
「泣くな。」
レンゲイ
「はい!!!」
シルバ
「俺も...泣いちまうじゃねえかよ」
キスツス
「...君。継承したんだね。」
レンゲイ
「キスツスさん。」
キスツス
「それに...この技」
シルバ
「おい...キスツス...お前...それ」
N
キスツスはベリブルーの首を地面に投げた。
レンゲイ
「キスツスさん」
キスツス
「終わった...終わったのかな。
何でだろう。全然...心が晴れないの。」
シルバ
「お前は...千刃花の隊長としてナターシャを守った。
グレイ家の人間として当主の仇を討った。
今は...それだけでいいじゃねぇか。」
レンゲイ
「みんな...ボロボロですね。」
N
暖かい蓮の花びらが明け方の月に反射する。
肉体は癒せど心は晴れず3人はしばらく空を見上げていた。
キスツス
「ガーベラになんて言えばいんだろう。」
シルバ
「その内...分かってくれるさ。」
レンゲイ
「カルミア隊長の代わりに彼女をしっかり守っていきます。」
キスツス
「ありがとうレンゲイ。」
レンゲイ
「もちろん。あなたもですよ。キスツスさん」
N
レンゲイはそう言うとキスツスの手をしっかり握った。
シルバ
「お、ようやくお出ましかよ。アキレイ!!
テメェ!!また道に迷ったな!?!?」
N
二刃花隊隊長キスツスの活躍により
四大天は全滅。
新たに鞘花となったレンゲイの尽力により
半数の隊士は一命を取り留める事が出来た。
そしてアキレイ率いる六刃花隊に
後処理を任せ二刃花隊と五刃花隊は
帝都ルシファンブルクへと帰還した。
※BGMがある場合終わるまで待つ
カルミア▶︎▶︎▶︎N
N
ーー数日後ーー
グレイ家の屋敷にて
レンゲイ
「ガーベラちゃん。」
ガーベラ
「ウッ...ウッ...お父さん...
お父さんに会いたいよぉおお!!!」
レンゲイ
「泣かないで下さい...
僕が...僕が...」
ガーベラ
「ウワーーーーん!!!!
お父さんに会いたいよぉおお!!!」
N
ガーベラは訃報を耳にしてから
何日も何日も泣いていた。
レンゲイ
「僕がもっと強ければ...
敵の攻撃を...食らわなければ...
カルミア隊長は...助かっていたのかもしれません。」
ガーベラ
「来るな!!!帰れ!!帰れ!!!!」
シルバ
「ガーベラ!!!!
兄貴は軍人だぞ!!!
立派に戦って死んだんだ!!!胸を張れ!!!
グレイ家として何故それを誇れない!!」
ガーベラ
「シルバ言ってたもん!!!!
レンゲイを助ける為に死んだって!!」
シルバ
「そういう意味で言っーーーー」
レンゲイ
「シルバ副隊長。大丈夫です。
事実は変わりませんから。」
シルバ
「でもーーー」
レンゲイ
「いいんです。
僕がガーベラちゃんのお父さんを奪った事は
彼女の中では変わりません。」
ガーベラ
「帰れよ!!!!!!帰れって!!!
二度と来んなぁぁあ!!!!!」
シルバ
「いい加減にしろ!!!ガーベラ!!バチン」
ガーベラ
「ウッ!!!」
レンゲイ
「シルバ副隊長!!!なんて事を!!!」
N
レンゲイはガーベラに近寄ろうとしたが
ガーベラはレンゲイを突き飛ばした。
レンゲイ
「グッ」
ガーベラ
「アチシに触んな!!!!!」
シルバ
「ガーベラお前ーーーー」
レンゲイ
「いいんです。」
シルバ
「すまない...レンゲイ」
レンゲイ
「いえ。」
N
レンゲイは踵を返して
玄関へと向かった。
ガーベラ
「アチシは!!!!
いつか絶対に強くなって!!
桜雌鹿の鞘花になる!!
お父さんの鞘を継承してやる!!」
レンゲイ
「はい。楽しみにしていますよ。
その時は五刃花隊で待ってます。」
ガーベラ
「誰が五刃花隊に行くか!!」
レンゲイ
「でも僕は五刃花隊にいますから
入隊するなら五刃花隊になりますよ?」
ガーベラ
「うるさいうるさい!!
絶対行かないもん!!!!!!
お姉ちゃんやシルバみたいに強くなって
絶対に桜雌鹿の鞘花になってやる!!」
N
そういうとガーベラは泣きながら去っていった。
シルバ
「子供の戯言だ。気にすんじゃねーぞ」
レンゲイ
「シルバ副隊長。」
シルバ
「なんだ?」
レンゲイ
「カルミア隊長の死は大々的に報じられます。
恐らく記者でここは溢れかえるでしょう。
しばらく僕の家に来てください。
あそこなら安全です。
ガーベラちゃんには酷でしょうから」
シルバ
「ガーベラがあんな調子じゃ無理だろうよ。」
レンゲイ
「はい。なので僕は別の所に行きます。」
シルバ
「当てはあるのか?」
レンゲイ
「今は五刃花隊の隊舎で寝泊まりしてますから。」
シルバ
「なんだ。あれから帰ってないのか?」
レンゲイ
「はい。」
シルバ
「そろそろやめとけ。
隣の隊舎アキレイが寝泊まりするらしいからな」
レンゲイ
「何でですか?」
シルバ
「リナリアがブチギレたみたいだぜ?
何でもマーティン家の実家を吹き飛ばしたらしい。
死者は出なかったがお陰で
アキレイは新たに家が建つまで
隊舎に暮らす事になったってよ。
それにリナリアの家に転がり込むつもりだったらしいが
リナリアがそれを許すはずも無いしな。」
レンゲイ
「フフッ相変わらず兵器ばかり作ってるんですね。
ラナンキュラス隊長に頼んで強力な結界刃術を
張ってもらいますよ。」
シルバ
「そうか。隊長じゃなかったら
学生の時みたいにぶん殴って止めるんだけどよ。
そうもいかねーからリナリアに話はつけといてやるよ」
レンゲイ
「それは頼もしいですね。ありがとうございます。
では、僕はこれで」
シルバ
「レンゲイ」
レンゲイ
「はい?」
シルバ
「ガーベラを許してやってくれ。」
レンゲイ
「もちろんですよ。」
N
レンゲイはそう言ってグレイ家をあとにした。
キスツス
「君。また会ったね。」
レンゲイ
「キスツスさん。」
N
玄関を出ると二輪駆動魔進から降りる
キスツスの姿があった。
キスツス
「どうしたの?浮かない顔して。
ガーベラになんか言われた?」
レンゲイ
「ちょっと怒られちゃいまして。」
キスツス
「そっかぁ。ちょっと走りに行く?」
レンゲイ
「走りに?」
キスツス
「うん。」
レンゲイ
「たまには良いかもしれませんね。」
キスツス
「ほら、乗って!!」
レンゲイ
「僕が運転しますよ」
キスツス
「え!?君は二輪駆動魔進の免許あるの?」
レンゲイ
「ええ。もちろん。」
キスツス
「そ、そうなの!?
お、男の人の後ろはちょっと...その...恥ずかしい」
レンゲイ
「がっつり飛ばしたい気分なんです。ダメですか?」
キスツス
「い、いいけど...」
N
そういうと二人はサングラスをかけて
キスツスの二輪駆動魔進にまたがった。
キスツス
「どこ連れてってくれるの?」
レンゲイ
「ちょっと行きたい場所があって」
キスツス
「じゃぁ行こっか!」
N
レンゲイはエンジンをふかし
ルシファンブルクを駆け抜けた。
風切り音が街の雑踏をかき消していく。
レンゲイは背中にキスツスの温もりを感じると
胸の鼓動が少し高鳴った。
キスツス
「どう?気持ちいいでしょ?」
レンゲイ
「そうですね!!」
キスツス
「でしょ?
っていうか君!!運転上手いね!!」
レンゲイ
「キスツスさんに褒められるのは光栄です!!」
N
すると信号が赤に変わりかけたがすぐに青に戻った。
レンゲイ
「あれ!?まさか...」
キスツス
「何のことでしょー」
レンゲイ
「銀狼の幻を
このメインストリート全体にかけたんですか!?」
キスツス
「さぁね!!」
レンゲイ
「全くあなたって人は!!」
N
キスツスの花纏捧君の能力により
全ての信号が青に変わっている様に見せられた市民達は
疑う事もなく信号に従った。
レンゲイはアクセルを回しグングンと進んでいく。
まるであの日から逃げるかの様に。
ひたすら進んでいった。
ーー数十分後ーー
キスツス
「わぁーー!!綺麗!!」
N
二輪駆動魔進を走らせると
ヒラヒラと桜の花びらが風に乗って吹きぬけていく。
そして、レンゲイは更に魔進を飛ばした。
レンゲイ
「しっかり捕まってて下さいね!!」
N
すると、キスツスはレンゲイの肩をギュッと掴んで
少し腰を上げた。
レンゲイ
「ちょっと!!立たないで下さい!!」
キスツス
「ウフフッ。君、楽しそう!!あっそうだ!!」
N
キスツスはゴソゴソ、ポケットからMangoroid を取り出すと
カシャっとカメラのボタンを押した。
レンゲイ
「な、何してるんですか!!」
キスツス
「後であげるね!!!記念に!!」
レンゲイ
「自由な人ですね!全く!!」
レンゲイ・キスツス
「アハッハッハッハッハッハッ」
N
するとレンゲイは徐々に速度を落とし魔進を停めると
眼前に聳えたつ大きな桜の木を指差した。
レンゲイ
「着きましたよ。」
キスツス
「エザの守り木...ここって...君の家...だよね?
女の子との初デートで自分んち連れていくのー?」
レンゲイ
「デ、デート!?
違いますよ!!!
ただ、キスツスさんと見たいなぁって思って。
カルミア隊長もよくエザの守り木を眺めてましたから。」
キスツス
「そっかぁ。どう?落ち着いた?」
レンゲイ
「どうでしょうか。
キスツスさんはどうですか?」
キスツス
「私は大丈夫。だって父さんが望んだ事だもん。」
レンゲイ
「強い人ですね。」
キスツス
「強く...ないよ。」
レンゲイ
「え?」
キスツス
「私だったら父さんみたいに
誰かを助ける為に継承とか出来ないから。
正直、遅めの反抗期っていうか
母さんを置いてった事、大人になった今も
ずっと心に引っかかってるし」
レンゲイ
「そうだったんですね。
でも何かしら事情があったんだと思います。
そうとしか考えられません。
カルミア隊長はキスツスさんの事を
最後まで大切に想っていましたよ。」
キスツス
「うん。分かってる...」
レンゲイ
「失った時間は取り戻せません。
でも戦争さえしていなければ
再び巡り会う事が出来なかったかもしれませんしね」
キスツス
「そうかもしれない...。
あのね、私ね。
ラミオラス帝国から亡命して
ナーベルクに保護された時
父さんが私を1番最初に迎えに来てくれた。
その時は嬉しかったなぁ」
レンゲイ
「カルミア隊長とキスツスさんの刃汽は少し似てますから。
すぐに感じ取れたと言ってました。
それに母君によく似ているからだそうです」
キスツス
「親子...だもんね。」
レンゲイ
「はい。親子ですから。
その血も肉も意思も形を変えて
枝別れしたとしても脈々と受け継がれていきます。
意志は僕に。
その血はキスツスさんとガーベラちゃんに。」
キスツス
「そうだね。守っていかなくちゃね。」
レンゲイ
「カルミア隊長が最後に言ってました。
生命は巡り深淵に帰す。
エザの守り木でまた会おうってね。」
キスツス
「じゃあ会いたい人って」
レンゲイ
「はい。カルミア隊長です。」
キスツス
「じゃぁ...父さんはここにいるんだね。」
レンゲイ
「はい。」
キスツス
「そっかぁ」
N
2人の間に温かな時間が流れた。
空を見上げ花びらを眺め
気づけばレンゲイの肩にキスツスは寄りそっていた。
※BGMがある場合終わるまで待つ
レンゲイ
「知っていますか?
エザの守り木は枯れないそうです。
例え、雨が降っても風が吹いてもね。
何故、エザと呼ばれるかは分かりませんが
花の鞘花になってから気が付きました。
この守り木からは様々な刃汽を感じるんです。
ほら、触ってみて」
N
レンゲイはキスツスの手を取り
エザの守り木に手を当てた。
レンゲイ
「目を閉じて」
キスツス
「うん。」
レンゲイ
「感じますか?歴代の花の鞘花の刃汽を」
キスツス
「...本当だ。知らなかった」
レンゲイ
「カルミア隊長も...いるでしょ?」
キスツス
「...父さん」
レンゲイ
「カルミア隊長の言ったことは間違って無かった。
カルミア隊長はエザの守り木で待っていてくれたんです。」
キスツス
「父さんに...会いたいなぁ」
レンゲイ
「泣かないで下さい。キスツス。
寂しい想いはさせませんから」
キスツス
「...それって」
レンゲイ
「はい。」
N
しばらく見つめ合う2人
すると桜の花びらがレンゲイの鼻をくすぐった。
レンゲイ
「フフッ」
キスツス
「フフッ。相変わらず可愛いなぁ。もう。
あっ!!今、キスツスって呼んだでしょー?」
レンゲイ
「すみません...つい流れで...」
キスツス
「ううん。キスツスでいいよ。」
レンゲイ
「分かりました。初めは慣れないと思いますが
キスツスって呼びますね。」
N
そう言うとレンゲイは種を取り出すと
手のひらの上でゆっくりと
赤いチューリップを咲かせた。
レンゲイ
「受け取って下さい。」
キスツス
「ありがとう。」
N
レンゲイはキスツスの髪を耳にかけると
チューリップをキスツスの耳にかけた。
レンゲイ
「花言葉は...」
キスツス
「愛の告白」
N
すると突然、柔らかな風が2人を吹き上げ
桜の花びらが巻きあがった。
それはまるで2人を祝福するかの様だった。
レンゲイ
「凄い...」
キスツス
「君の仕業かな?」
レンゲイ
「残念ながら僕はこんな気の利いた事は思いつきません。」
キスツス
「そっかぁ。じゃぁ父さんかな?」
レンゲイ
「かもしれませんね。」
N
2人はしばらく眺めていると
キスツスが静かに口を開いた。
キスツス
「ねぇ、花びらって綺麗だよねぇ」
レンゲイ
「どうしたんですか?急に」
キスツス
「風に乗って吹き抜けていくのを見ると
本当に綺麗だなぁって思ってさぁ」
レンゲイ
「そうですね。
生命の力強さと儚さを感じます。」
キスツス
「あっ、そうだ。君はさぁ。どう思う?」
レンゲイ
「どう思うって...美しいと思いますよ。」
キスツス
「君は"散る"って思う?」
レンゲイ
「この...花びらの事ですか?」
キスツス
「それとも君は"舞う"って思う?」
レンゲイ
「そうですね。花びらが散る...花びらが舞う...
どちらも意味合いとしては
変わらない気もしますけど...」
キスツス
「私はね、その時の心の在り方によって
言い方が変わるんじゃないかなぁって思ってる」
レンゲイ
「心の在り方...ですか」
キスツス
「ねぇ、君はこの花びらを見てどう思う?」
※BGMがある場合鳴り止むまで待つ
N
そして現在
ーーナーベルク帝国 帝都ルシファンブルク
第六区ロゼウス八番地にある郊外にてーー
ガーベラ
「レンゲイ先輩?どうしたんすか!?」
シルバ
「なんだ?体調でも悪りぃのか?
花の鞘花でもそんな事あんだなぁ」
レンゲイ
「いえ、何でもないです。
エザの守り木を眺めてたら
懐かしい事を思い出してしまって。」
ガーベラ
「ん?どう言う意味すか!?
アチシにも分かる様に説明してくだせぇ!!」
レンゲイ
「前に言われたんですよ。
花びらを見てどう思うかってね。」
ガーベラ
「んーーー。考えた事もないっすね!!
そんな事、気にも止めたことないっすよ!
でも...お姉ちゃんらしいっす。
人があまり気にかけない所によく気付く人でしたから。」
シルバ
「未だに信じられねぇよ。
ナーベルク最強の鞘花が死んだって事によ。」
ガーベラ
「お姉ちゃんなら今にも
そこの玄関から入って来そうなのに。」
レンゲイ
「僕も未だに夢を見ます。
2人で暮らしたこの家に彼女が帰ってくるのを。
二輪駆動魔進のエンジン音が
聞こえてくるんじゃないかって
耳を澄ましてしまうんです。」
シルバ
「...そうだな。」
ガーベラ
「ゲイジュの奴...許せねぇっす。
アナスタシアねぇさんじゃなくて
アチシが...殺してやりたかったすよ!!!」
レンゲイ
「ガーベラ君。」
シルバ
「レンゲイどうなんだ?
エザの守り木からキスツスの刃汽は感じられたか?」
レンゲイ
「いえ。エザの守り木は
花の鞘花の刃汽を分けてあげる事で
成長し続けるので
キスツスの刃汽はそもそも
受け入れませんから。」
シルバ
「そうか。」
ガーベラ
「先輩、もうすぐ日が暮れるっす。
そろそろ時間すよ。」
レンゲイ
「はい。」
シルバ
「考えて来たか?」
レンゲイ
「はい。」
シルバ
「じゃあ行くか。」
N
ガーベラとシルバは
グレイ家の大型四輪駆動魔進へと乗り込んだ。
レンゲイ
「キスツス。君は本当に死んでしまったんだね。」
N
レンゲイは二人の写真を胸ポケットにしまうと外にでた。
ガーベラ
「先輩!!行きやすよ!!」
レンゲイ
「僕はこれで行きます。
パチン。
夜天狼おいで。」
N
エンジンをふかしたキスツスの愛機が
家の庭から走って来た。
シルバ
「ねぇーと思ったらお前かよレンゲイ
俺が乗っていくから寄越せ」
ガーベラ
「アチシが乗りたかったのに!!」
レンゲイ
「2人じゃ足届きませんから無理ですよ。」
ガーベラ・シルバ
「グヌヌッ」
レンゲイ
「先行きますよ。」
N
そう言ってレンゲイはエンジンをふかして
走り出した。
ガーベラ
「待てぇえええ!!!」
N
マーベラスの件から約1ヶ月
慌しさも落ち着き
涼しげな風が松明を揺らしながら
雲ひとつない星空の下
帝国特務戦闘部隊"千刃花"
合同演習場にて
二刃花隊隊長、副隊長
先の戦いで亡くなった六刃花隊、
八刃花隊隊士たちの隊葬が行われていた。
壇上の段幕には普段、
左胸につけている千刃花の紋章が描かれていた。
そして一通りの弔辞が読み終わり
最後に五刃花隊隊長が壇上に上がった。
レンゲイ
「二刃花隊隊長キスツスは
入隊し間もなくして武功を瞬く間に上げていった。
誰にも飾ることなく優しく接し
時には他人を思い涙を流した。
戦う姿は勇ましく流麗で
誰もが美しいとさえ思える戦場の女神でもあった。
帝国 女性騎士 最高 栄誉である
月美夜女王の称号を授与されたのは
この十余年キスツス隊長ただ一人
我々帝国民はそんな貴重な人材を失った。
私が憧れた唯一の人だった。
キスツス隊長は
ラミオラス帝国の刺客でもあった部下に騙され
命を落とした。
彼女の魂はきっと無念で溢れているに違いない。
その無念、我等、帝国特務戦闘部隊"千刃花"隊士全員が
必ずや晴らすだろう。」
N
キスツスとの思い出を巡りながら
ゆっくりと目を閉じて再び開くと
レンゲイは隊葬に参列する者たち
そして星空に煌めく月を見た。
レンゲイ
「キスツス隊長、君の笑顔がまた見たいよ。」
N
レンゲイは敬礼すると大きな声で叫んだ。
レンゲイ
「君が好きだと言ってくれたあの景色を
今夜、再び贈ろう!」
レンゲイ
『輝夜•花蓮息吹ノ物語』
N
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作者 REN’sJackson
ー千刃花〜帝国特務戦闘部隊〜ー
番外篇 Rengei's Side Story
【 The Thousand Miles 】
※BGMがある場合鳴り止むまで待つ
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N
おまけ
N
レンゲイは松明と月明かりに照らされた
蓮の花を眺めながら
キスツスの言葉を思い出していた。
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キスツス
「ねぇ、花びらって綺麗だよねぇ」
レンゲイ
「どうしたんですか?急に」
キスツス
「風に乗って吹き抜けていくのを見ると
本当に綺麗だなぁって思ってさぁ」
レンゲイ
「そうですね。
生命の力強さと儚さを感じます。」
キスツス
「あっ、そうだ。君はさぁ。どう思う?」
レンゲイ
「どう思うって...美しいと思いますよ。」
キスツス
「君は"散る"って思う?」
レンゲイ
「この...花びらの事ですか?」
キスツス
「それとも君は"舞う"って思う?」
レンゲイ
「そうですね。花びらが散る...花びらが舞う...
どちらも意味合いとしては
変わらない気もしますけど...」
キスツス
「私はね、その時の心の在り方によって
言い方が変わるんじゃないかなぁって思ってる」
レンゲイ
「心の在り方...ですか」
キスツス
「ねぇ、君はこの花びらを見てどう思う?」
レンゲイ
「花が美しく舞っている。と思います。」
キスツス
「それはどうして?」
レンゲイ
「何故でしょうね。
美しく見えたからでしょうか」
キスツス
「心の在り方ってそう言う事だと思う。
同じ景色でも見え方や心が違えば全然違って見える。
不思議だよね。」
レンゲイ
「不思議なのはキスツスさんですよ?」
キスツス
「キスツスって言うって言ったでしょ?」
レンゲイ
「あ、すみません。」
キスツス
「フフッ。可愛いなぁ...レンは」
レンゲイ
「ん?今、僕の事なんて言いました?」
キスツス
「ううん。何でもなーい」
レンゲイ
「言わないと...」
キスツス
「ちょつ!!やめ!くすぐったいよぉ!!」
レンゲイ・キスツス
「フフッ...アハハハハアハハハ!!」
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N
隊葬に参列する隊士達のすすり泣く声が響く
レンゲイはキスツスとの思い出に少しハニカミながら
桜雌鹿を胸にしまうと
寂しげに空を見上げた。
レンゲイ
((君は今、この花びらを見てどう思うのでしょうか))