1話 相棒
東から朝日が顔を出し、朝の訪れを告げる。
日光が滑走路やエプロン、格納庫や本部建物、兵舎、そして管制室のガラスを透き通って暗い室内を照らす。
多数の無線が鳴り響く管制室で、一人の女性がマイクを握った。
「ラビット、バッファロー、着陸を許可する」
『ラジャー、ラビット、着陸態勢に入る』
『バッファロー、コピー』
美しい黒髪をたなびかせ、透き通った声で着陸許可を出す彼女、イーヴァン・トルネオ(20)中尉。
「帰ってきましたねぇ、問題児共」
隣にいた管制官マルティが双眼鏡を覗きながら言った。
「そうね。相変わらず可愛げのない返事しましたよ」
するとイーヴァンの隣に座っていた男性が言った。
「ハッハッハ。何、若い男は不愛想なもんじゃよ」
「あら、それじゃぁまるで私は若くないみたいじゃ無いですか。バディル国防長官」
「そうですよ!これでも僕は中尉と同じ年なんですからね!」
「お、そうだな。これは失礼」
そう言うとバディルと呼ばれた男は帽子を被り直し、椅子から立ち上がって双眼鏡を覗いた。
それと同時に、2機の戦闘機が着陸した。
エアブレーキと機首を上げ、後ろ2軸のランディングギアを先に地面に付け、そしてゆっくりと機首を降ろす。
そしてゆっくりと失速しながら滑走路の中央辺りまで走ってゆき、タキシングに入る。
「綺麗な着陸の仕方をするもんじゃ・・・」
バディルは目を開いて息を吐くように言った。
イーヴァンは訊いた。
「長官は彼らが飛んでいるところをご覧になった事がないのですか?」
バディルは我に返ったように答えた。
「あ、あぁ。噂には聞いておったのじゃが見るのは今日が初めてじゃ」
後ろに立っていたマルティーが思い題したように言った。
「あぁ!だからあいつらが今晩飛ぶって言ったら慌てて来たんですか!」
「そうじゃよ!どんなものか見たかったんじゃよ・・・」
そう言って再び双眼鏡を覗き、タキシング中の2機の戦闘機を夢中で追いかけていた。
「めっちゃ夢中じゃん・・・」
マルティーは微妙な笑みを浮かべながらぼやいた。
そして再びバディルが口を開く。
「あれだけの技術を持っていて機体はF15Dなんじゃな」
F15D。
それはシルヴィー国軍の技術研究所が開発した戦闘機だ。
機動性と武器搭載能力に長けており、世界最強と謳われる程の能力を有した機体で、一部のマニアから一般の人でも名前ぐらいなら知っている機体である。
しかし、初飛行から20年近く経ちまだまだ現役ではあるが、それでも最新鋭機に比べお世辞にもシステ
ムも新しいとは言い難い機体である為、少しずつ退役しつつある。
「そうなんですよ。彼らの希望で」
「そうなのか?」
するとマルティーが言った。
「そうなんです。なんでも、扱いやすくていい機体なんだそうですよ」
それを聞いてバディルはう~ん、と唸った。
「それだったらF16の方が良いのでは?」
「それが、一度レヴィン大尉が乗せたらしいんですけど、ケンジ・・・ラビット03にはまぁまぁとは言われたんですけど02には不評でした」
バディルは驚いた。
「お、おぅ・・・そうじゃったか。ならF35ならどうじゃろうか?」
マルティーは少し引きつった笑みを浮かべ、困った。
「さ、さぁ・・・どうでしょうか?」
しかし、困っているマルティーをそっちのけにバディルは目を輝かせながら話す。
「ならやってみるか?」
「さすがにそんな最新鋭機なんてうちの基地にはありませんよ」
それをきいてバディルは力なく言った。
「やっぱそうかぁ・・・イーヴァン中尉はどう思・・・あれ中尉は?」
ふとバディルがイーヴァンに話をふると、そこにあったあったはずのイーヴァンがいなかった。
そして近くにいた管制官が応えた。
「中尉なら誘導を終えていつも通りですよ」
「あぁそっか。ありがとう。さて俺も行くか!あとは宜しく!」
「了解しました!お疲れ様です」
そう言ってお互い敬礼し、挨拶した。
そしてマルティーは管制室から出た。
バディルはマルティーの後ろをついて行きながら、聞いた。
「もうあそこにいなくてよいのか?」
「えぇ、僕とイーヴァン中尉の当直の時間は終わりましたから」
そう言ってマルティーは腕時計を見せた。
時刻は午前5時を回っていた。
「今日は僕たちは夜間の管制と警戒の担当でしたから」
「なるほど・・・所で今からどこへ?」
するとマルティーは笑みを浮かべて応えた。
「だいぶ変わった友人の所へですよ。丁度あなたもお会いしたかったんじゃないのでしょうか?バディル国防長官」
それを聞くと、バディルは満面の笑みを浮かべた。
地下格納庫からハンガーへ上げられた航空機が、トーイングカーで引かれてエプロンへ並べられる。
戦闘機が大半を占め、その他に空中給油機や早期警戒機、哨戒機や輸送機、なんとドクターヘリまでも同じように引かれてくる。
ここはシルヴィー空軍ランデノース基地。
シルヴィーの南にあるフェルマールの街より北に広がるエルセオ森林のど真ん中に位置する、シルヴィー空軍が初めて作った空軍基地だ。
広い森林のど真ん中に造られている為、騒音と敷地を気にする必要が無いのが利点だ。
そして、そんな場所に造られているにも関わらず、軍病院も併設している為、高度な医療も受けられる。
軍病院は一般にも開放している為、急患も受け付けている。
近くにフェルマールの街があるが、近くの街の景観保護の為、あまり大規模に展開できないのが難点である。
しかし、隊員同士の仲も良く、この世界1平和な基地と言っても過言ではないのかもしれない。
因みにこの基地から真っ直ぐ西に向かうと海軍の基地もある。
エプロンから出された航空機は、朝日に照らされながら給油を開始する。
そんな中、少し離れた所に駐機された戦闘機2機は今エンジンを止め、キャノピーを開けた。
その周りで整備スタッフがそれぞれの作業を行っていた。
あるものは梯子を掛け、あるものは車輪止めをはめ、あるものは安全ピンをはめる。
そしてパイロットはヘルメットとベルトを外し、機外にでる。
ケヴィン・レイン少尉(19)。
身長164cm、体重60kg、12月13日生まれ。
F15パイロット、第303多目的飛行隊、通称”グラスラビッツ”所属、その2番機のタックネーム『ラビット』。
冷徹クソイケメン(一部意見)。
天パが特徴的。
ケヴィンは梯子を降り、隣のF15のランディングギアに座る。
上では3番機のパイロット、タックネーム『バッファロー』、ケンジ・ヴァルクンレンが専属整備士のリュンと仲良く話している。
するとケヴィンの専属整備士マリアが話しかけてきた。
「お疲れ様です」
「お疲れ」
ケヴィンは不愛想な雰囲気で回答した。
その様子を見て、マリアはクスッと笑って話を続けた。
「各種異常はありませんでした。飛んでる最中どうでしたか?」
ケヴィンはそうだな、と少し考えた。
「・・・特にないな。いつも通り、いつでも飛べるように整備しておいてくれ」
「分かりました!」
「いつも助かる」
そう言うと、マリアは顔を赤くしてケヴィンのF15の方へと走って行った。
「フゥ~!わが基地のトップエース様は専属整備士に手を掛けようとしていますぞ?」
「うるさいぞケンジ」
ケンジはリュンと話し終えて、戦闘機から降りていた。
ケンジ・ヴァルクンレン少尉。
身長168cm、体重69kg、2月12日生まれ。
タックネーム『バッファロー』。
調子乗り。
二重に程良く焼けた感じが特徴的。
「全く嫌だねぇエース様は!ただでさえも顔だけで女子何人も落としてきたのに言動でも落とそうなんて」
「別に顔も良くないしそんなつもりも無い」
ケヴィンは吐き捨てるようにプイっと言わんばかりにそっぽを向いた。
「またまたぁ!ただでさえも俺たちの基地は何故か知らねぇけど女子率が地味に高いんだよ?そんな所で女の泥沼なんて作ってみろ!男らしい職業No1の実績を誇る軍隊が女子の修羅場にぃっ!ゲホッ!」
流暢に話すケンジの腹に陸軍仕込みの鉄拳が炸裂した。
そしてケヴィンはなだめるような表情でケンジに言った。
「お前は口を開かなければそこそこモテそうなのにな」
「あ、相変わらず、だれでも、お、落としそうだ、な」
ケンジは腹を抑えてうずくまりながら、ケヴィンを見た。
「はぁ・・・ほら、いくぞ相棒」
そう言って耐Gスーツの首元を掴み、ケンジを引きずりながら本部建物へ歩き始めた。
「あっ居た!ケヴィン!ケンジ!」
ケヴィンが歩いているのを発見したイーヴァンは、ケンジを引きずるケヴィンにむかって走っていき、二人纏めて抱きしめた。
ケヴィンの顔がイーヴァンの豊満な胸部装甲へと押し付けられる。
「お帰り!ケヴィン!」
「ただいま、イーヴァン姉」
イーヴァンに抱きしめられながらケヴィンは応えた。
「・・・ン”ン”ン”ン”ン”!」
「あ!マルティー!」
イーヴァンの後ろで、マルティーが咳ばらいをした。
そして眉を小刻みに動かしながら話し始めた
「あの、お3方。仲良くされるのは構いませんが、エプロンのど真ん中、ましてや国防長官の前ではもう少し静粛にお願いいたします」
するとケヴィンが反応した。
「国防長官?」
そしてイーヴァンがマルティーの言葉に返事した。
「はい」
そしてケンジは論外だった。
「俺も含まれてるの!?」
すると、バディルはハッハッハと笑った。
「やはり今日訪れて良かったわい!申し遅れた、私は国防長官バディル・ベルケンじゃ」
すると、ケヴィンとケンジは姿勢を整え、敬礼した。
「私は第303多目的飛行隊所属、2番機パイロット、ケヴィン・レインです。お会いでき光栄であります」
「同じく第303多目的飛行隊所属、3番機パイロット、ケンジ・バルクンレンです。お会いでき恐縮です」
挨拶が終わり、早速ケヴィンが質問した。
「失礼ですが、一体こんな田舎の基地にどんな御用でしょうか?」
「確かに、国防長官たる人物がどうしてこんなところに」
ケンジも続けて言う。
「あぁそうじゃな、あまり詳しい事は言えないんじゃが、視察と言った所じゃ」
ケヴィンは不思議そうに首を傾げた。
「視察、ですか」
「そうじゃ、今後何が必要であるかを検討する為じゃ」
それを聞いて、二人は納得した。
「そう言う事でしたか」
「では引き続き、頑張ってください。では、この後報告があるので、私たちはこれで失礼します」
そう言って、ケヴィンとケンジは敬礼してその場を後にした。
「意外と真面目な少年達なんじゃな」
ケヴィンとケンジとイーヴァンが立ち去ったあと、バディルがマルティーに言った。
「さすがに国防長官殿の前では変な事はしませんよ」
「そうじゃな」
するとバディルは目の色を変えて、去っていく2人を見つめて言った。
「しかし、腕はとても去年初めて操縦桿握ったわっぱとは思えんが」
マルティーは同じように2人を見ながら言った。
「そうですね」
「今後どうなるのやら、見ものじゃな」
ちょっとネタっぽかったかな?