80-I 生徒会の仕事
次の日の授業終わり。午前授業だけだったので、お昼を食べて集まった。生徒会室で、わたし達はライアックス様に大量の書類を渡された。
「君達の最初の仕事だ。これを、内容ごとに分けてくれ」
「こ、これを……全て?」
「ああ。辛いと思うが、毎年恒例の事だから頑張ってほしい」
ディランが絶句する。シリウスやノエルも顔を顰めた。アレックスだけは変わらずいつもの真顔だった。
ライアックス様が頼んだよと言って出て行ってしまう。固まっていても仕方ないわ。ライアックス様を見送って、わたしは早速仕分けに取りかかった。しかし、それは思ったよりも大変な作業だった。
まず、ある程度書類を読んで、大体の内容を把握する必要がある。そして、その内容に従って大まかにモンスター関連、大学院祭関連、毎年の学校行事関連、そして授業関連とその他に分ける。そうやって一つ仕分けるのに軽く二分は費やしてしまう。
「これ……終わらなくないか?」
「……ああ、僕もそう思う」
そうよね、一番大変なのは内容把握だから、これを何とか出来れば………
シリウスとディランの会話を聞き、考え事をしながらも書類を仕分けていく。ぱっと見てモンスター関連の書類だけはすぐ分かるのに、他が仕分けにくいわ。多くの物から一つを探す方が楽なのだけれど………
「……そうだわ」
「リリー?」
ある事を思いついたわたしは顔を上げた。ノエルが不思議そうにわたしを見てくる。
「何かあった?」
「うん、少し提案があるの」
一度皆に作業を止めてもらって、例え話を始めた。
「ねえ、たくさんの色のついた球がある時、赤い球だけ取るのと、全部仕分けるのとどっちが楽かしら?」
「いきなりだな……そりゃ赤い球だけの方が楽だろう」
「……ああ、そういう事か」
「なるほど、面白い案だ」
雑な例え話だったけれど、シリウスとアレックスには伝わったみたい。わたしは話を纏めた。
「つまり、それぞれが一つの種類の書類だけ仕分けた方が楽だということよ。例えば、わたしがモンスター関連の書類を分けるわ」
「なら、次は僕が大学院祭関連の書類を分けよう」
「ああ、なるほどな」
「分かった、やってみよう」
ノエルとディランも頷いて、早速作業を始める。わたしは書類の山からモンスター関連の物を仕分け、そうでない物はシリウスに回す。シリウスはそこから大学院祭に関する物を仕分け、アレックスに回す。
そうしてざっくりと五つに分けられていく書類。取りこぼしてしまった物は、最後のディランが仕分けてくれる。それぞれが集中して書類を仕分けていく。
気がついた時には、山のようにあった書類は残り半分を切っていた。ずっと文字を読んでいたので疲れた目を窓の外に向ければ、澄み切った青空が広がっていた。
「うーん、疲れたぁ」
「そうだよな、僕らかなり仕分けて……あれ、まだそんなに時間が経ってないな」
シリウスが外を見て驚く。それに対してアレックスが進捗状況を伝えた。
「それにしてはもう半分仕分け終わってるぞ」
「えっ、嘘……本当だ!」
一旦作業を中断して皆で休憩する。横にいたシリウスがわたしの手を取ろうとする。
「なあリリー……」
ちょうどその時に部屋のドアが開く音がして、水色のさらさらな髪を持った男の人が入って来た。綺麗な、だけれどかなり鋭い茶色の瞳を向けてくる。そしてよく通る声で言った。
「君達は……新しい役員か。ちょうど良い、一人来てくれ。ああ、君で良い」
指名されたわたしは立ち上がって呼ばれた方へ向かった。立ち上がるとシリウスが名残惜しそうにした。心配そうな視線に、大丈夫と微笑んだ。
あっ、笑わないようにするんだったわ。気を抜くとすぐに忘れてしまうわね。
「少し手伝ってくれ」
「分かりましたわ」
男の人に連れられて部屋を出る。どこに向かうのか、何をするかなどは歩いている間には何も説明されなかった。それどころか、名前すら知らないまま暫く無言で歩き続けた。
「なあ、フローラと仲良いのか?」
「えっ?」
いきなり話しかけられて、わたしはすぐには反応できなかった。
「え……ええ、いつも一緒にいますわ」
「……そうか」
これを聞いた男の人は頷いて、そして気づいたように言ってきた。
「そういえば自己紹介してなかったな。俺はローレンス·アル·コーネル。フローラの兄だ」
「あっ、わたしはアイリーナ·フォン·セイレンベルクです」
確かに言われてみればどことなくフローラの面影があるような……?髪の色も同じだわ。
俺の話を聞いてくれるかと聞かれ、はいと答えるとローレンス様は徐に口を開いた。
「……俺は三年の時から生徒会役員なんだ。だから、一年の時のあいつのした事も知ってる」
鋭い目を上に向けながら、ローレンス様が話す。その時にフローラの事情に気づけなかった事を後悔しているという。
「……俺は、あいつを追いつめてしまった………」
「ローレンス様…」
そんな事はないと、簡単には否定出来なかった。ローレンス様がどれほどフローラの事を考えているかは話し方と表情で分かる。しかし、知り合ったばかりのわたしが慰めてもローレンス様の心には届かないわ。
「……………」
何も言う事が出来ず、わたしはただただローレンス様を見た。視線に気がついたローレンス様が少し驚きの表情を浮かべた。
「………珍しい人だ」
「……何がです?」
「あっ、いや……」
思わず漏れたような呟き。聞き返すと、ローレンス様がバツの悪そうな顔になった。恐る恐るといったように聞いてくる。
「……俺が、怖くは……ないのか……?」
「…………えっ?」
怖い?確かに目つきは鋭いし、眉間に皺も寄っていてまるで怒っているような表情だけれど……
「……いいえ、怖くなんてありませんわ」
そんな事で人を避けてはいけないわよね。王妃教育でも言われたわ。外交や政治においては、人の表情を簡単に信用してはいけない。その奥にある本当の考えを見抜きなさい、と。
再び見上げた時には、目を大きく見開いて驚愕を表していた。そしてぼそっと呟いた。
「………もっと早く出会いたかった……」
わたしには何も聞き取れなかったけれど、残念そうな中に少し嬉しそうな表情が滲んでいるから、多分気にしなくて大丈夫よね。




