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しろねこ姫の不思議な力  作者: しーにゃ
第6章 しろねこ姫の生徒会活動
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79-S 嫉妬と不安

「リリー」

「どうしたの?」


 二人きりの学院の訓練場で、僕は向かい合って魔術を練習していたアイリーナを呼んだ。こっちに来てと言うと、不思議そうな顔をしながらも近づいて来る。


「何かしら?」

「もう少しこっち…」


 手が届く距離になった所で、アイリーナの手を引いて抱き寄せる。そして、僕より少しだけ小さい彼女の頭を優しく撫でた。アイリーナは僕の胸元でふんわりと微笑んだ。


「ふふ、シルどうしたの?」

「ううん、何でもない……いや」


 僕は、怖くて聞けなかったかねてからの疑問を聞くことにした。どうして聞く気になったのかは分からないが、その時は今しかないとそう思った。


「リリー、僕の事、どう思ってる……?」

「シルの事?」


 いつも僕ら幼なじみにだけ見せる、あどけない笑顔を向けるアイリーナ。少し考えた後、答えた。


「大切な婚約者だけれど……それ以上に……」


 それ以上に……?愛くるしい笑顔に嫌でも期待が高まる。しかし、その次の言葉に僕の笑顔は凍りついた。


「…仲の良い幼なじみかしら。”親友”が一番近いかしらね」


 幼なじみ………親友………友達………あんな笑顔を向けておいて、それは………嘘だろ………僕はこんなに………アイリーナの事が………











 動転していた僕の元からアイリーナがいなくなっていた事に気づいたのは、暫くしてからだった。慌てて見回すと、入口近くに二人の人影があった。


「リーナ、…………?」

「………、アレク」


 何を話しているのかは全く分からないのに、お互いの呼び方だけは聞こえてくる。本人達は従兄弟だからと言っているが、それにしては仲が良すぎる気がする。


 二人に近づいてアイリーナに声をかけようとした時に、アイリーナが笑った。それは心から甘えている笑顔。僕もあまり見た事のないその特別を、惜しげもなくアレックス殿下に向けていた。


 それを見て僕は自分を抑えられなくなった。思わずアイリーナの手をつかもうとすると、怯えたようにアイリーナが一歩下がった。アレックス殿下がそっと慰めて、アイリーナが安心したような表情になる。そして、アレックス殿下が挑戦的な笑みを浮かべた。


 それはまるで、自分の方がアイリーナの特別だと言われているようで、盗られるという恐怖に襲われて……


「……………っ、やめて…」


 その場に崩れ落ちた。


「やめてくれ──!!!!!!」












 ────────────────────────











 はっとして飛び起きる。言い知れない不安と恐怖でまだバクバク言っている胸を押さえながら、辺りを見回す。ふかふかのベッドに真っ白な壁、やり途中の課題と開きっぱなしの本の乗った机。漸く状況を理解して、僕はほっと息を吐いた。


「…ゆ…夢か……」


 ここは王宮にある僕の部屋。つまりは、先程までの恐ろしい光景は夢だったという事だ。そもそも学院は今日から新学期だから、冷静に考えていれば夢だと分かったはずだが、どうもアイリーナが絡むと平静ではいられないらしい。


「──!」


 夢でのアイリーナの笑顔を、アレックス殿下に向けていた特別な笑顔を思い出して胸がぎゅっと締め付けられる。


 あの笑顔は僕以外誰にも見せたくない。絶対に他の誰かにアイリーナを渡すもんか。そのためには………


 今日する事を決めて、僕は侍女を呼んだ。





















 学院で掲示を見る。僕は生徒会役員に選ばれた。アイリーナも一緒、それは当たり前だよな。誰が見ても賢くて強い、その上かわいいアイリーナが選ばれないわけがない。


 他には、ノエルとディラン、そしてアレックス殿下もいた。アレックス殿下の名前を見て朝見た夢を思い出す。大丈夫、対策は考えて来た。あんな夢みたいな事にしてたまるか!


 ところが、ノエル達と一緒にアイリーナの所へ行く時に、アレックス殿下も一緒になった。それだけならまだしも、アイリーナはアレックス殿下に向かって微笑んだ。ありがとうという感謝の軽い微笑みだと分かるが、一瞬朝の夢と重なった。違うのは、アレックス殿下が僕を慰めるようにしている事だ。だが、そんな事はどうでもいい。


「何かしら、えっ?わたし、変な事を申しましたか?」

「いや……いつも通り、何も変わらないよ」


 きょとんとしているアイリーナに近寄る。どうしようもなく嫉妬に狂っている自覚はあるが、制御出来なかった。


 本当に昔から変わらない。誰にでも純粋に微笑みかける所が。そして、自分の魅力に全く無頓着な所が。誰にも渡さない、アイリーナは僕のだ。


 そんな僕に怯えたように一歩退くアイリーナ。またしても夢がちらついて、思わず手をつかんだ。


「なあ」


 出した声は思った以上に怒った声で、アイリーナが助けを求めるように辺りを見回している。ねえアイリーナ、どうして……


「どうして僕から逃げる……?君は僕の婚約者だろう?」


 不安そうにきょろきょろしていたアイリーナは、この言葉で何かに気がついたように僕を真っ直ぐ見つめ返してきた。強い意志を持った、父上と初めて会った時のあの瞳だ。


 そう、そうやって僕だけ見ていて。魅力的な君がそのかわいらしい瞳で見つめるのは僕だけで良い。だから。


「……少しは自覚してくれ………」


 切実に願う。頼むから、少しでいいから自分の魅力を理解してくれ。今の不安げな姿でさえすごくかわいいんだよ!


 そっと手を離すと、アイリーナが言ってきた。


「以後気をつけますわ」

「ああ」


 その瞳を見て安心する。きっと気をつけてくれるだろう。怖がらせてごめんなと微笑むと、アイリーナが微笑み返してくる。それを見て夢と違う事に満足した。











 授業が終わり、皆で生徒会室に向かう。ライアックス殿の説明を聞きながら、僕はアイリーナを見ていた。いつも誰にでも向ける純粋な微笑みではなく、あくまで一歩退いた社交的な笑みを浮かべるアイリーナ。良かった、ちゃんと魅力を抑えることを考えてくれているな。


 これからも、そんな感じで頼むよ、アイリーナ。

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