78-I 三年生になりました
四ヶ月の社交シーズンを、全くパーティーに出ずに過ごした。本当なら王太子の婚約者として、或いはセイレンベルク公爵家の令嬢として幾つものパーティーにお誘いを受けていたのだけれど。
「今年はパーティーには出さない」
お父様にきっぱりと言い切られた。まあ王宮で陛下が狙われるなんていう事があったから仕方ないわよね。その分王宮に通いつめて王妃教育の基礎はほとんど身につけた。
王宮での事件については、実行犯の逮捕と共に国内全土に発表された。結果として国民はアイルクス王家に対する信頼を深めた。全て守りきるのがほぼ不可能と思われた不意打ちを、物の見事に返り討ちにした事が大きかった。
わたしはと言えば、王都の孤児院に顔を出すたびに街の人から感謝されている。
「しろねこ姫様、子供達を助けてくれて本当にありがとうね」
「ひめさま、ありがとう!」
「もっとあそんで!」
毎回差し入れを持ってきてくれるので、それを孤児院の子達にあげている。最初はケーキやアクセサリーが多かった差し入れも、わたしがお願いして野菜やパンにしてもらった。
「ふふ、ごめんね、そろそろ行かないといけないわ。また遊びましょう」
「うん!」
「やくそくだよ!」
そうして王宮や王都に通っていれば、あっという間に四ヶ月が経ち、わたしは再び学院にやって来た。クラス分けの掲示を見ると、Aクラスにあるわたしの名前の横に丸がついていた。下の方まで見ていくと、但し書きがあった。
『丸印がついている生徒は、生徒会役員に選出されました』
生徒会役員……という事は、モンスター退治出来るのね!
学院では、五年からAクラスの授業の一環としてモンスター退治を行う。もちろん他の授業と違ってかなり危険なので、行ける人も限られてくる。三年生以上の生徒からなる生徒会は、その全ての授業に同行し、攻撃や退却などの指示を行うのよ。
その間の授業には出れないから、それでも大丈夫なように頭の良い人が選ばれる。
もちろん学院の仕事もあるけれど、このために生徒会役員は実技も筆記も優秀な人が集まってくる。
教室でのんびりしていると、シリウス達がやって来た。三人かと思いきやアレックスもいた。立ち上がって挨拶する。
「皆様、ごきげんよう」
「ああ、……アイリーナも生徒会だな」
「ええ、シリウス様もですの?」
「僕とノエル、ディランにアレックス殿下だ」
まあ、流石だわ。四人とも文句なく強いし、筆記も上位十人に入っている。
「今日、授業終わりに集まりがあるらしい」
「分かりましたわ、皆で行きましょう」
伝えてくれたアレックスに感謝と共に微笑みかける。するとシリウスが不満そうにした。一方でノエルとディランは苦笑いした。アレックスはシリウスの肩に手を置いて慰めるようにしている。
「何かしら、えっ?わたし、変な事を申しましたか?」
「いや……いつも通り、何も変わらないよ」
シリウスが首を振る。それなら何で皆そんな反応をするのかしら?首を傾げたわたしに、シリウスが近づいてきた。
「……本当…昔から……何も変わってないよな……」
呟きながらどこかを睨みつける。その視線の鋭さに、わたしに向けられたものではないと分かっていても、思わず一歩退いてしまった。こんなシリウス見た事ないわ。怒ったようなシリウスが手をつかんでくる。
「なあ」
怒りを含んだ声。思わず手を引こうとして、シリウスにより強くつかまれる。気がつけばノエル達は離れていて、助けを求める事は出来ない。
「どうして僕から逃げる……?君は僕の婚約者だろう?」
その言葉にはっとする。そうね、わたしはシリウスの、王太子の婚約者だわ。これくらいで動揺してはいけないわ。しっかりとシリウスを見つめ返すと、シリウスがため息をついた。
「……少しは自覚してくれ………」
言いながら手を離してくれる。そうね、自覚が足りなかったみたいだわ。王妃教育では、何があっても怯えや恐怖を悟らせないように厳しく教えられたわ。
それに、他人に無闇に笑顔を向けてはいけないと。王妃たるもの、常に優雅に構えていなさいとフランジーナ先生に教わったわ。早速実践だわ。
「以後気をつけますわ」
「ああ」
いつものように優しい笑みを浮かべるシリウス。反射的に微笑んでしまった。満足げに自分の席へ向かうシリウスを見ながら、このままではいけないと強く思った。
授業終わりに皆で連れ立って歩く。向かった先は、生徒会室。代表でシリウスがドアを叩いた。
「失礼します」
中には紺色の髪の男の人が待っていた。どこかで会って……そうだわ、この方、学院を案内してくれた、シャルロッテのお兄様のライアックス様だわ。
「待っていたよ。僕は生徒会長のライアックス·フォン·アスピシャン。これからよろしくな」
それに続いてわたし達も自己紹介する。言い終わると、ライアックス様はわたし達を見回した。そして人当たりの良い笑顔を浮かべる。
「今年はかなり優秀だと聞いているから、期待しているよ」
その笑顔がわたしに向けられたものではないと分かっているから、わたしは自然に王妃教育の内容が実践出来た。
そうね、この調子だわ。自分に向けられるものは特別ではないのよ。改めてそれを認識すれば、無闇に笑わない事も簡単に思えてきた。
「生徒会の仕事は、学院をより快適な環境にする事。大きな行事、入学式なんかの準備と設営。モンスター退治の授業の指示役。それに加えて今年は、大学院祭の運営だ。細かい事はこれに書いてある」
一人一人に仕事内容が細かく書かれた書類が配られる。ライアックス様が大体の説明をしてくれる。その仕事の多さに驚いたけれど、きっと大丈夫。王妃教育の、より厳しくなったフランジーナ先生の課題の方が余程大変だわ。
それに、モンスター退治!これがあればやれるわ!
「……というわけだ。早速明日から始めるから、ここに来てくれ」
「「「「「はい」」」」」
明日が楽しみだわ。早く明日にならないかしら。
王妃教育の事などすっかり忘れて明日に思いを馳せた。




