77-I 長い一日の終わり
紅茶を飲みながら五人で談笑していた所に、お母様がミラルドとミシェラを連れて来た。二人とも髪の毛が茶色かったのが深い青色になっている。わたしを見るなり駆け寄って来た。
「リーナ、テオ様が呼んでらっしゃるわ。王子殿下方とこの二人を王宮に連れて来いって」
「分かりましたわ」
二人が抱きついてくる。わたしはそっと頭を撫でると、立ち上がってミラルド、ミシェラと手を繋いだ。
「行きましょうか」
「うん!」
振り返ってシリウスとクラウスにも声をかけた。シリウスはミラルド達を見て怪訝そうな顔になった。
「その子達は誰だ?」
「マグラドア侯爵様の子供達よ。シル達の従兄弟ね」
「何でここに………ああ、そうか…」
何か聞こうとしたらしいシリウスは、しかし自分で納得したようでため息をついた。
クラウスがアイリスを抱いたまま馬車へと向かう。わたしはレオンハルトとレイチェル、お母様に行ってきますを言ってから馬車に乗り込んだ。
馬車で、わたしの膝の上に横向きに座ったミシェラが問いかけて来た。
「ひめさま、ミシェたちどこにいくの?」
「王宮よ。たぶんお父様がお待ちだわ」
「おとうさまが?」
ミシェラが嬉しそうに笑った。ミラルドも聞いていたかなと横を見ると、わたしに寄りかかって寝てしまっていた。そうよね、連れ去られていたのだもの、疲れてるわよね。
さっきまで元気だったミシェラも眠そうに寄りかかって来た。
「ふふ、寝てて良いわよ」
「………ん……」
すやすや寝息を立てる二人。正面に座っていたシリウスが、二人を起こさないようにそっと話しかけてきた。
「随分と懐かれてるな」
「そうね、誘拐されていたのを助けたからかしらね」
「ゆ、誘拐………やっぱり……」
「えっ、どういう事?」
ざっくりと説明をして窓の外を眺める。見上げた空は真っ赤で、もうすぐ夜がやって来る。今日は長かったわ。朝、王妃教育を受けに王宮に行ってから、色々な事があったわね。
「……やっと今日が終わるな…」
「楽しかったね」
わたしと同じ事を思ったか、シリウスがしみじみと言った。その横でクラウスが笑顔で呟く。今日の出来事の意味をほとんど分かっていない発言だけれど、寧ろ知らない方が良いわ。わたしはシリウスと顔を合わせた。
「そうだな、良かったな」
「ふふ、王都と我がセイレンベルク公爵家の屋敷はいかがだったかしら?」
「また行きたい………!」
アイリスを撫でながら楽しそうに言った。
そして、クラウスの初めてのお出かけは終わりを迎えた。
王宮の昼の混乱は収まったみたいだわ。良かった。ただし、警備が厳重になっていた。シリウス、クラウスには家まで来た騎士に加え、さらに二人が護衛に来た。
わたしにも一人騎士が護衛につけられる事となった。護衛に集まった五人の騎士の中で、何やら話し合いが行われたらしく、わたしの護衛にはエバートがなった。
「護衛よろしくね、エバート」
「はっ!」
エバートは敬礼で答えた。クラウス、シリウスが馬車から降りる。その音でミラルドが起きた。
「ふわぁ…あ…姫様……」
「おはよう、一人で歩けるかしら?」
寝惚け眼だったけれど、ミラルドは頷いた。少しふらついているけれど大丈夫そうね。
わたしは気持ち良さそうに眠るミシェラを抱きかかえて、起こさないように馬車を降りた。少し『浮遊』を使って負担を軽くする。
騎士に連れられてわたし達が向かったのは、謁見の間。そこに着く頃にはミシェラも起きた。
「……ひめ……さ…ま…?」
「おはよう、もうすぐ着くわ」
まだ眠そうな目で見つめてくる。もうすぐだよと微笑むと、安心したように首に回した腕でぎゅっとしがみつかれた。
騎士が中に到着を知らせると、少ししてドアが開けられる。正面、玉座には陛下がどっしりと構えていた。その前にお父様と紺色の髪の男の人、反対側にジュレハント様とディルクーフェン様が並んでいた。
「………っ、ミラルド、ミシェラ!!無事で良かった……っ!」
四人の真ん中、騎士の横にいた深い青色の髪の男の人が、開いたドアのこちら側、ミラルドとミシェラを見て声を上げて駆け寄って来た。
「父上!」
「おとうさま!」
ミシェラをそっと降ろすと、ミラルドと一緒に駆けていく。あの人がマグラドア侯爵様なのね。王妃様の実のお兄様だというけれど、正直そこまで似ていないわね。彼は駆け寄っていった二人を思い切り抱きしめる。
「ごめんな、本当にごめん……怖かったな」
「おとうさま……っ」
二人ともマグラドア侯爵様にしっかりしがみついて離れない。良かったわ、二人ともきちんと家族の元に帰れたわ。
微笑みながらそれを見ていたわたしは、厳しい表情をしたお父様に呼ばれた。そういえば、わたしお父様にシリウス達の事を任されたのに、途中で放り出してしまったわ。
お父様の所へ行くと、ごめんなさいと頭を下げた。
「勝手な行動をしてしまいましたわ」
「……確かにな。だが、今回はそれで僕らはかなり助けられた。頭を上げなさい」
優しいお父様の声。指示通りにすると、お父様が微笑んだ。すっかりいつものお父様に安心した。
「リーナ、ありがとう」
「私からも礼を言う。王妃とその二人を助けてくれた事、感謝する」
「陛下……大変光栄に存じますわ」
玉座から立ち上がった陛下は、そのまま降りてきてわたしの目の前に立った。手には何かの書類を持っている。
「今回の功労を讃え、そなたには褒美をつかわそう」
「褒美など…とんでもございません」
「そう言わず、是非とも受け取ってくれ。ベルマン子爵位と領地だ」
そこまで言って陛下は声を小さくした。
「領地が余ってしまったんだ、手伝ってくれるな?」
そういう事ならと頷いた。
「精進致しますわ」
陛下の持つ書類をありがたく頂いた。ベルマン子爵領はセイレンベルク公爵領の隣にあって、自然の恵みが豊かな土地。元々はマグラドア侯爵領だったはずだけど、色々あったのね。
その後マグラドア侯爵──改めマグラドア伯爵に感謝され、一息ついた所でそこを辞した。
やっと長い一日が終わるわ。帰りはアイリスを膝に乗せながら馬車に揺られた。
言うほど長くはなかったかもしれませんが、これにてやっと一日が終わります
次章からはまた学院でのお話になります




