74-I 誘拐犯と対峙しました
飛んでくる水刃に怯える子供達。わたしは隙をついて手を前に出すと、『防壁』を張った。わたしの防壁の前に、男達の放った攻撃はなす術もなく防がれた。
「何、わしの攻撃が防がれただとお!?」
大声を出して驚く男に、子供達がまた怯える。大丈夫だよと宥めつつ、これ以上怯えさせないように、わたしは立ち上がった。
「何だ君はぁ!邪魔をするなぁ!」
「お邪魔でしたか?それでは、皆を連れて出て行きますので」
「そうじゃない!」
怒った男は、わたしを指している。その指がぷるぷる震えていた。
「ゆっ、許さん!存分に痛めつけてやるぅ!」
言葉と共にたくさんの水刃が飛んでくる。さらには、横に控えていた男達も風刃を飛ばしてきた。
「『防御結界』」
子供達に被害が出ないように結界を張る。
「ここにいたら安全だから、動かないでね?」
子供達が頷いたのを見て、わたしは前に出た。男はふんと鼻を鳴らした。
「その目、水属性だろぉ?水属性に水属性が勝てるわけないんだぁ!」
「その言葉、そっくりお返ししますわ」
今度は水砲が飛んできたので、こちらも水砲で迎え撃つ。その横から竜巻が迫ってきた。
「こっちには風属性もいるんだぞぉ!」
「そうですか。『水砲』」
仕方なしに両手から水を吹き出させ、片手で水砲を、もう片方の手で竜巻を相手した。
「竜巻を受け止めるとはやるなぁ。だが、わしはギリジャフ様の腹心。ここで負けるような男ではないのよぉ!」
「ギリジャフ様?」
面倒だからさっさと終わらせようと思った所に、男が叫んだ事で気が変わった。攻撃を止めて聞き返せば、男は誇らしげに喋り出した。
「そうだよぉ。わしは偉大なるギリジャフ様の命でここにいる。アイルクスの奴らを連れてきて、セトルータでこき使ってやるのよぉ!」
その後も男は面白いくらいに重要な話を喋り続けた。
セトルータ王国とインヴェノ帝国が秘密裏に同盟関係にある事。
今頃仲間が王宮で暗躍している事。
セトルータ王国がアイルクス王国に戦争をしかけようとしている事、などなど。
「……お前も来るか?」
「お断りします」
「ならば、力づくで連れていくのみぃ!」
飛んでくる攻撃を尽く受け止めると、男が再び怒鳴り声を上げた。
「ええい、このぉ!!」
「あらまあ、頭をお冷やしになったらいかが?『滝行』」
男達の頭上から水が降り注ぐ。全身ずぶ濡れになった彼らを見据える。
「何なら全身冷やして差し上げますわ。『凍結』」
死なない程度に威力を落として水を凍らせると、ずぶ濡れの彼らは凍りついたように動かなくなった。
「なっ、お前……それは……」
「あら、誰が水属性しか使えないと言ったかしら?」
唖然として、しかしまだ負けを認めない男は、何かに気がついてにやりと笑った。
直後、新たに二人の男が現れた。わたしがここに忍び込んだ時に出て行った、あの二人だわ。二人は子供を連れていて、わたし達の方に押しだした。慌てて受け止める。
「誰がこれで全員だと言ったかなぁ!わしらは七人なのよぉ!」
しかし、それを確かめようと魔力の流れを見ると、十数人が、それも魔力を持った人達がここに集まってきていた。
「本当に七人?」
「何だよ、疑うのかぁ!?正真正銘、わしらは七人だぁ!!」
「そうか、それは良い事を聞いたな」
突然別の声が割って入ったかと思うと、最後に来た二人が呻き声を上げた。カシャカシャと音を立てながら部屋に入って来たのは、寧ろわたし達の味方だった。
「誘拐の現行犯、及び人身売買の疑いでお前らを拘束する」
そうは言ってももはや相手は全員が動けなくなっている。男達を連れていくよう指示した後、その代表と思しき人がわたしの所にやって来た。
「ご助力、感謝します」
「いいえ、当然の事をしたまでよ」
やって来た彼らは王都警備隊。れっきとした騎士で、王都での事件などを取り締まっている。彼らが来て男達を連れていった事で、漸く子供達もほっと安心したらしい。見回せばまた涙を浮かべていた。
「ほら、泣かないの。お母さん達の所に行きましょう?」
皆がわたしと手を繋ぎたがり、なかなか進まなかった。やっとの事で外に出る。路地裏から広場に向かうと、そこでは暖かな日差しの中たくさんの人が待っていた。
「あっ、お母さん!」
「兄ちゃんっ」
「ああ、良かった!」
親を、家族を見つけた子供達が駆け出していく。広場のそこかしこで抱き合う姿が見受けられた。ああ、良かったわ。
「良かったわ、皆笑顔が戻ってきたわ」
「……お優しいですね」
微笑みながらその光景を見ていたわたしに、横に立っていた警備隊長が呟いた。
「そうかしら」
「ええ。ここまで平民の事を気にされる貴族の方は、あまりいらっしゃいませんので」
「ただ生まれた場所が違うだけなのに、悲しい事だわ」
本当にそうだわ。ただ平民だからと嫌がらせされる。自分の方が身分が上だと思い知らせようとする。一体何のために?
それは、一年間とはいえ学院に平民として通ったわたしの、貴族に対する疑問だった。
「しろねこ姫様、本当にありがとうございます……!」
「もう何と言ったら良いのか……」
「ひめさま、ありがとう!」
あちこちから人々が集まってくる。ひっきりなしにお礼を言われ、気がついた時にはかなりの時間が経っていた。
「あの、そろそろわたしも帰らなくては……」
「あっ、ごめんなさい」
「いいえ、それでは失礼しますね」
そう言って帰ろうとしたわたしは、少しして手を引かれた。
「姫様、待って」
「ミシェたちも、つれていって」
「貴方達、お母さんは?いないの?」
「分からない。気がついたらここにいたんだ」
「分かったわ、一緒に行きましょうか」
「うん、ありがとう!」
結局ミラルドとミシェラも連れて、わたしは家に帰った。
「ただ今帰りました」
家に帰ると、侍女達が飛んできた。
「アイリーナ様、お帰りなさいませ」
「ご無事で何よりでございます」
「奥様を呼んで参ります」
その様子を、戸惑ったように見ているミラルドとミシェラ。家に着くまで話した結果、二人はマグラドア侯爵家の子だという事が分かった。
マグラドア侯爵家と言えば、王妃様の生家で、現当主は人事大臣を務めている。先程の男の言っていた事と合わせて、二人と一緒にいる事をお父様に『伝鳥』で伝えた。
「お帰りなさい、リーナ。その子達は?」
「お母様、実は……」
現れたお母様に粗方の事情を説明すると、お母様は微笑んだ。
「分かったわ。それより、リーナを心配して落ち着かない方がいらっしゃるから、応接間に行ってあげて」
二人をお母様に任せ、言われた部屋に向かう。落ち着かない人、誰かしら?考えながらドアを開ける。
「今帰ったわ」
言った途端に誰かが飛びついてきた。




