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しろねこ姫の不思議な力  作者: しーにゃ
第4章 しろねこ姫のデビュタント
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59-I ダンスパーティーに向けて

 休み明けの学院の授業はほとんどダンスの練習になった。二人一組となってダンスを練習する。わたしの相手は、言うまでもなくシリウス。


「アイリーナ嬢、相手よろしくね」

「ええ、こちらこそよろしくお願いしますわ」


 そして、わたし達は先生に呼ばれる。模範として皆の前で踊って欲しいという事だった。わたし達は一も二もなく頷いた。先生がクラスの皆に声を張り上げて言う。


「皆ちょっと良いですか。今からシリウスとアイリーナが見本を見せてくれますので、良く見てくださいね」


 その言葉で皆の視線がわたし達に集中する。ダンスをここまで多くの人に見られた事なんてないから、緊張してきた。それを皆には悟らせないようにシリウスと向き合う。だけど、きっとシリウスにはバレてるわ。


 曲が流れる。ゆったりとした、練習にはもってこいの曲。それに合わせて手を取り合い、あくまでも優雅にステップを踏む。踊り始めれば、案外視線は気にならなかった。


 お手本という事もあってか、途中で先生が曲を止めた。そして言う。


「シリウス、アイリーナ、ありがとう。さあ皆、これを目指して練習です!」


 そして、それぞれ二人組を作ってお互いぶつからないように広がる。先生が曲を流すと、皆踊り始めた。わたしはどうしようかと考えていると、シリウスに呼ばれた。


「何かしら?」

「僕達も練習しようよ」

「でも、他の人達に教えなくて良いのかしら」

「大丈夫だよ、それは先生がやるだろ。それより、デビュタントで失敗しないようにとか、自分の事も考えたらどうだ?」


 そうだった、普通なら皆同じ立場だからあまり失敗する事なんて考えなくても良いけど、わたしは違う。デビュタントの場で婚約発表がある以上、嫌でも注目を浴びる。王子様の婚約者として、公爵令嬢として、失敗は許されないわ。


「そうよね、練習しなくては」


 差し出された手をとると、シリウスが嬉しそうに笑った。そして、先程とは違うステップを踏む。少し速めの曲に合うそのステップは、気を抜けば転んでしまいそうになる。これを本番でやっていたら危なかったわ。


「だから練習しようって言ったんだよ」


 踊りながら言われたその言葉に驚く。紋章を通さなくても、わたしの作った表情の奥にある本当の感情は、シリウスに筒抜けだわ。


「どうしてわたしの気持ちが分かるの?」

「ずっと一緒にいたからね」

「……でも、わたしには出来ないわ。()()を使わないと」

「………いつか、分かるようになるさ。いや、分かるようにしてみせる」


 シリウスの真剣な瞳にじっと見つめられる。碧翠のその奥には強い決意があった。わたしは微笑んで頷く。


「お願いします、シリウス先生」


 いたずらっぽく言えば、シリウスは少し目を大きく、頬をほんのり赤くした。そして、体が密着した拍子に耳元で囁かれる。


「もう離さないよ、かわいいリリー」


 甘く囁かれたその言葉は、わたしの心を揺さぶった。今までシリウスにそんな事を言われた事なんて、この前王宮に行った時くらいしかない。


 ただ、冗談ではない事は、その後のシリウスの表情から分かる。えっ、この場合、わたしはどうすれば良いのかしら!?お礼を言えば良いの?


 静かに混乱するわたしの心に小さく生まれた甘酸っぱい感情に、わたしはまだ気がついていなかった。


 一方でシリウスはわたしの反応を見てさらに目を大きくした。


「………っ、やば……」

「……シル?」


 どうしたんだろう、シリウスが少し俯き気味になる。そんな状態でもしっかりわたしをリードしてくれる。それがとても頼もしかった。


「リリー、それはずるいよ」

「何が?」


 何の事だろう。首を傾げれば、少し頬を膨らませたシリウスがまた別のステップを踏み出した。慌ててそれに合わせる。最高難易度のステップを踏みながら、シリウスが挑戦的な瞳を向けてきた。それに微笑む事で返すと、体をシリウスに預ける。


 練習という事も忘れてダンスを楽しんでいると、曲が終わった。いつの間にかわたし達のステップに合わせられていた曲。そして、クラス中から拍手が巻き起こる。少しシリウスと顔を見合わせると、優雅に礼をした。











 授業が終わると、今度は魔術の練習。呪文を唱え、自分のイメージに合わせて魔力をコントロールする。ただ、今までは実際に魔術を見たり、初めてでもイメージがしやすかった。それに比べて、流石に最上級魔術、わたしの普通のイメージでは太刀打ちできない。


「"強大なる光の精霊よ、我、その力を以て……"………あら?」


 ()()()()()()?つまり、わたし自身の魔力だけじゃなくて、自然に存在する魔力も使えという事かしら?


 思いついてすぐにそれはないかと首を振る。自然の魔力を操るのは、相当な高等技術。レッスンでカリオン様に習ったわ。


『私達の身体だけでなく、自然にも魔力というのは存在する。だが、それは身体にある物と違って操る事は不可能に近い。その上、そこに魔力を持った人がいると、その属性によって自然の魔力の流れが変わってしまう。だから、私達が使うのは自分に備わった魔力なんだ』


 だけど、自分の魔力だけではきっと上手くいかない。一か八か、やるだけ試してみる事にした。


 まずは、自然の魔力を感じる所から。空気と同じように、魔力にも流れがある。それを身体で感じる。初めはほとんど何も感じなかったけど、だんだん分かるようになってきた。わたしをそっと撫でていく優しい魔力。


 続いてその魔力の属性を識別する。これが本当に難しいわ。イメージとしては、感じている魔力に色をつけていく感じ。微かな自分の感覚を信じて、絶えず流れる魔力を見分けていく。これが完全に分かるようになるのに三日かかった。


 いや、逆に三日で分かるようになったのよ、頑張ったんじゃないかしら?ダンスパーティーまでは後一週間。やっと自然の魔力が識別出来るようになったのだもの、何としても魔術を成功させるわ!


 そうして、わたしは残った時間を全て費やし、魔術を練習した。

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