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しろねこ姫の不思議な力  作者: しーにゃ
第4章 しろねこ姫のデビュタント
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54-I 試験の合間に

「……終わりです。解答を回収しますのでそのまま待っていてください」


 わたしは伸びをした。ちょうど筆記試験が終わった所で、周りでも伸びをしたり欠伸したりしている人がいる。その一方で頭に手を当てて、考え込んでいる人もいた。


 それはともかく、これで筆記試験が終わったのね!今回は実技指導に時間を割いていたから、前回程良い成績が取れた自信はない。ただ、そこまで難しい問題ではなかったので大丈夫だろう。


「皆さんお疲れ様でした。これで筆記試験を終わります。午後の実技試験の時間になったら、忘れずに訓練場に来てください」


 試験監督の先生が出て行くと、皆が席を立ち始める。わたしも立ち上がってもう一度伸びをした。











 シャルロッテとフローラがやって来る。わたし達は歩きながら話した。


「アイリーナ様、お疲れ様です。今回の試験はどうでしたか?」

「そうね、難しくはなかったけれど、いくつか間違えた気がするわ」

「流石アイリーナ様、あの問題を難しくないと仰るとは。わたしは結構手こずりましたわ」

「わたしもですわ。特に禁術説明問題なんて、ほとんど勉強してませんでしたわ」


 ああ、あの問題ね。『禁術指定されている魔術のうち一つを選択し、その効果と禁術指定された理由を解答用紙一枚分説明しなさい』というもの。理由はともかくとして、わたしは過去三回も禁術と関わっている。そのおかげで効果については何も問題なく記述したわ。


「何の話をしてるんだ?」


 いつの間にか後ろにシリウス達がついてきていた。


「シリウス様、お疲れ様です。後でお教えしますわ」


 立ち止まる事なく答える。マナー的にはあまり宜しくないけれど、立ち止まると邪魔になるのでそのまま歩き続ける。シリウスはそれ以上聞いてくる事もなく、わたし達は特別ラウンジに入った。王子であるシリウスが許可を出したので、ノエル達も入る事が出来る。


「それで、話って何だったんだ?」

「試験問題について少し話し合っておりましたの」

「どの問題?」


 試験問題と聞いて頭の良いノエルが食いついた。そういえばノエルはどんな事を書いたのだろう。


「禁術説明問題ですわ。ちなみにノエル様はどんな事をお書きになったのかしら?」

「それはもちろん()()だろう、なあネル?」


 わたしに続いてシリウスも揶揄うように問う。自分から聞きに来た以上この質問から逃れられないノエルは、顔を覆って呻いた。


「ああ、それ以上聞かないでくれ。あれは二度と思い出したくないんだ」

「ノ、ノエル様……」


 悶えるノエルを見て、いた堪れなくなったシャルロッテが何かを言いかけて止めた。それを見たわたしはシャルロッテに問いかける。


「あら、シャルロッテも知りたいわよね?ユリアンナ嬢の事」

「……………!」

「や、止めてくれ、お願いだリリー……」


 ユリアンナと聞いてシャルロッテが食いつく。ノエルは弱々しく呟いた。そして、わけが分からずにただ困惑するディランとフローラ。わたしはシリウスを見て、そして二人で頷きあった。


「ほら、皆、筆記試験学年一位のネルの答えが聞きたいって」

「……うぅ………」


 ガックリと項垂れたノエルは暫く黙り込み、やっと小さく答えた。


「……"『制圧(サプレッサー)』をかけられた者は、まるで自分の中にもう一人の自分がいるように感じ………もう一人の自分に負ければ自分の意志とは全く異なる言動をしてしまう"……………もう良いか?」


 シリウスが満足気に頷いた。まるでイタズラが上手くいったような笑顔のシリウスに、ノエルが不貞腐れた。


「………っ、もう、シルなんて嫌いだ」

「あはは、そんな事言うなって」


 一方でよく分かっていないようなディラン、フローラに加え、シャルロッテまでがわたしに問いかけるような視線を送ってきた。


 そうよね、今のでは何も分からないわよね。ちょっと微笑んで三人に教える事にする。


「……つまり、夏の試験前に図書室でユリアンナ嬢と勉強していたのは、『制圧(サプレッサー)』のせいだって事よ」

「なっ、リリー、どうして言っちゃうんだ!」


 シリウスと何か言い合っていたノエルがこれを聞いて声を上げた。慌ててわたしの方に来て肩を掴んでくる。気がつけば、真っ赤になったノエルの顔が、息がかかりそうな程近くにあった。


「ねえリリー、もう言わないで、ね?お願い」


 他の人に聞かれないようになのか、小声で囁いてくる。でもね、聞かれたくないのなら、便利な力があるわ。


 わたしは左手を真っ赤に染まったノエルの頬に当てた。頬に集まった熱が手に伝わってくる。ノエルは少し目を大きくしてわたしを見つめてきた。そのまま紋章の力を発動させる。


『どうしても言って欲しくないのね』

『もちろんだよ。恥ずかしくて死にそうだ』

『そんなになの?ふふ、分かったわ。もう言わないって約束するわ』

『本当、約束だよ?ありがとうリリー』


 すぐ目の前でノエルが安心したように微笑んだ。つられてわたしまで笑顔になる。途端に、慌てたようにノエルがわたしの肩にかけていた手を離す。


 その後ろからシリウスが近づいてきて、ノエルの制服を掴んで引っ張った。シリウスは制服を掴んだままいつもより数段低い声でノエルを問い詰める。


「ネル、どういうつもりだ?」

「さっきのお返し」

「だからって、あんな、僕だって……」


 上手く言葉が見つからないようなシリウスに、ノエルがイタズラっ子の笑みを浮かべる。つい先程とは立場が入れ替わってるわ。そこにディランも参戦して、三人で仲良く言い合いになった。


 一方でシャルロッテとフローラはぐったりとしていた。


「どうしたの二人とも、元気ないわよ?」

「……アイリーナ様には勝てる気がしませんの………」

「本当に無意識なんですのね…」

「何の事かしら?それよりも、早くお昼を頂かないと時間になってしまいますわ」


 午後の実技試験は一人ずつ呼ばれるので、しっかりと準備しておかなければならないわ。……もっとも、元気のない二人と、言い合いをしている三人はそれどころではなさそうだけれど。

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