49-D 敵の思うつぼ
僕は珍しく一人で学院を歩いていた。なぜなら、シリウスとノエルが水属性の先生に呼び出されたからだ。暇だな、アイリーナの所にでも行こうかな、そう思っていた時僕は呼び止められた。
「あの、すみません」
「ん?」
振り返ると、そこには同じクラスの令嬢がいた。何だと聞き返すと。
「実は、レテフィア様が勝負なさっていて。その勝負を見に、闘技場の半分が埋まってしまって、試合のようになってしまったのです。私は学院長様に知らせようと思ったのですが、疲れてしまって。伝言をお願い出来ますか?」
「分かった、学院長様に、普通の勝負なのに観客が大勢いると伝えれば良いんだな?」
「はい、ありがとうございます」
僕はそれを聞いて学院長室に向かう。途中で、先程の令嬢、さほど疲れてなかったようなと思ったが、気のせいだろう。
向かいながら考える。そもそも勝負と試合とは似ているが全く違うものだ。勝負というのが当人達、そして数人の証人がいる、こじんまりとしたもの。勝ち負けを争い、勝った方が負けた方に何か言う事が出来る。それは、身分関係なくだ。そして、勝負は相手を傷つけないのが基本である。最も、軽傷は仕方ないが。
それに対して試合とは、傷つけ合うのが認められたもの。勝ち負けは争うが、勝ったからといって何かがあるわけではない。しかし本気で戦うため、多くの観客が見るのが一般的である。また、重傷を負う危険があるために学院では学院長様の許可なく行うのは禁止されている。
今回は、申し込んだのは勝負らしいが、戦いの状況は試合である。だからこそ学院長様に伝える必要がある。重傷者が出てしまう前に。
「学院長様、ディラン·フォン·アークウェルです。伝言を頼まれました」
「入りなさい」
一礼して入室する。顔を上げれば、奥の椅子にどっかり腰を下ろしていた学院長様に見つめられていた。
「何の用だ?」
「はい、普通の勝負に観客が大勢いるらしいです」
「……戦っているのは誰だ?」
「片方はレテフィア嬢だと聞きました」
「………」
僕にだって分かる。相手はアイリーナだろう。暫く考え込んだ学院長様は一つ頷いた。
「アイリーナなら大丈夫だと思うが……一応注意はしに行くか」
僕も学院長様に続いて部屋を出て、闘技場に向かう。途中で学院長様は小さく呟いた。
「……何で勝負してるんだ?」
確かにそれもそうだ。ただの勝負なら、前回のようにアイリーナが圧勝するだろう。それなのに勝負を挑んだ、何のために?
闘技場に着くと、それまで騒がしかった中がいきなり静まり返った。何だろう、何があったんだ?
「これは、何の騒ぎだ?」
中に入った学院長様が静かに問う。僕も続いて中に入った。そこでは、予想通りアイリーナがレテフィア嬢と対峙していた。
誰も反応しなかったので学院長様がもう一度問うた。
「何の騒ぎだと聞いている。単なる勝負にこんなに観客がいるはずがない。かといって私は試合の許可を出した覚えはないが?」
「ほら、やっぱり来たわ。皆、これがズルの証拠ですわ。たかが勝負に学院長様が出てきた事、どう思います?」
学院長様に被せるようにレテフィア嬢が訴える。静かだった観客の反応は真っ二つに割れた。
「そうだ、家族贔屓だ!」
「成績も改竄したんだろう!」
「それは言い過ぎだろ」
「ああ、あの子は十分に強い。ズルなど必要ない」
これは、来てはいけなかったのか?
「全く、貴方も馬鹿ですわよね、まさかここにのこのこやって来てくださるとは思いもしませんでしたわ。ですが、これでこの方のズルはハッキリ致しましたわ!」
「………」
ああ、やっぱり来てはいけなかったらしい。ごめん、アイリーナ。言われた学院長様は呆然としている。そして小さく呟いた。
「……すまん、アイリーナ……」
「……許せないわ」
「何よ、暴露されたのがかしら?オホホ、これで貴女もおしまいね!」
学院長様が馬鹿にされた事でアイリーナが怒り出した。それも、見た事ない程激怒している。笑顔は消え去り、完全に無表情になった。その瞳が、右が水色、左は緑に輝いたかと思うと、辺りが寒くなってきた。その上、風も吹き荒れている。まるでアイリーナの心情を表現しているみたいだ。
その真ん中にいるアイリーナが静かに口を開いた。
「………今、わたしに対して少しでも疑いを持っていらっしゃる方、全員ここにいらしてくださる?そう、全員ですわ。同時にわたしにかかって来なさい。その怒りをわたしにぶつけてくださって構わないですわ」
いくら何でもそれは無茶だろう。魔術のレッスンで僕達四人を相手していた事もあるが、今集まりつつあるのは数十人、いや、もっといるかもしれない。
そして、その人達がアイリーナを取り囲んだ所で、アイリーナが始めを告げた。途端に四方八方からアイリーナに降り注ぐ魔術攻撃。泡や炎、風刃、岩に至るまで、様々な種類の攻撃がアイリーナを襲った。そのせいでアイリーナが見えなくなってしまった。
僕の憧れの人、アイリーナ、もちろん無事だよな?
少しして攻撃が止むと、その中心にアイリーナの姿が見えた。あれだけの攻撃を受けておきながら、アイリーナは無傷で立っていた。さすがアイリーナ。そして無表情のまま問いかける。
「もう終わりですの?ならば、反撃といきますわ」
その言葉通り、アイリーナは瞳を緑に輝かせて竜巻を巻き起こした。そして、驚く人達を次々に巻き込みながらアイリーナの周りを一周させた。
全員が竜巻に巻き込まれ、地面に倒れた所で、アイリーナはもう一つ魔術を展開する。茶色く輝くアイリーナの瞳。
「『地揺れ』」
地面に倒れ伏す人々の多くは、なす術もなくその攻撃を喰らった。
アイリーナが地揺れを収めた時、それでも立ち上がる者は十数人になっていた。しかし、今のアイリーナの魔術にそれぞれ衝撃を受けた様子。
「……俺の攻撃が通じないなんて………」
「この実力があって、ズルなんかするか?」
「…いや、だが学院長様は身内で……」
アイリーナ、これを見越していたんだな?見ているだけでは伝わらない奴らに、自分の実力を体感させる。それを以て自らの潔白を証明しようとしたのか。
その作戦は成功といえた。倒れている人々はもはや疑ってなどいないだろう。立っている人達も半信半疑、或いはアイリーナの事を信じ始めている。
そしてアイリーナは駄目押しとばかりに瞳を黄色く輝かせた。
ちょうど書いていた章が書き終わったので、これからは書き溜めたストックを上げていきます。
ちなみにストックは第7章の110話(閑話なし)まであるので、12月初めまでは今まで同様に上げていきます。
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