47-I 疑われて
レテフィア嬢達は一ヶ月の謹慎処分となった。理由は、貴族らしからぬ言動。あの後お祖父様のお説教を受け、謹慎といってもマナーだけはきっちり教えこまれているらしい。
わたしはといえば、相変わらず楽しく過ごしている。外でシャルロッテやフローラとお茶したり、シリウスやノエル、ディランと一緒に王宮へ行ったり。
ノエルは『制圧』を解いて以来、シリウスやディランと同じようにユリアンナ嬢にはほとんど目もくれなくなった。どうもちょうど成績の事を気にしていた所につけ込まれたらしい。最も、さすがは昨年の学年一位、筆記試験は堂々の首位だった。
「さすがネル、成績良いじゃない」
「リリーもだよ」
「わたし?」
「そう、僕は筆記一位。実技首位はリリーだよ。総合ではリリーの方が上だ」
「まさか!」
慌てて確認すると、本当だった。試験の成績は全て掲示されるのだけど、見れば筆記もノエルに次ぐ二位だった。
この事で、暗黙の内にわたしを下に見ていた人達の態度が変わった。それまで嫌々という感じがした挨拶に、心がこもり始めた気がしている。
そして一ヶ月しない内に、わたしは皆に魔術を教える立場になっていた。それは、魔術の先生の一言がきっかけだった。
「アイリーナは私を手伝ってくれ」
「えっ?」
「皆に魔術を教えてくれ」
「…分かりましたわ。精一杯頑張りますわ」
そして、レテフィア嬢達が戻ってきた頃には、わたしは確固たる地位を築いていた。もはやわたしにちょっかいを出す事など出来なくなっていたのだ。
「ふふ、そろそろかしら」
『ああ、一ヶ月もしないうちに見事な花を咲かせるだろう』
「楽しみだわ!」
わたしは花壇で水やりをしながらソーア様と話す。そう、遂にソーア様にもらった植物がふっくらした赤い蕾をつけたのよ。お花を育てるのって楽しいわね。
『そちに、新たな植物があるんだが』
「本当ですか!」
『うむ。これだ。ちと癖があってな、育てるのが難しいのだよ。育ててみる気はあるか?』
「もちろんですわ!」
強く頷くと、ソーア様がそれを花壇に植えた。わあ、これはどんな花を咲かせるのかしら、楽しみね。
「アイリーナ様!」
「どうしたの、フローラ」
「レテフィア様が呼んでこいと……」
「…分かったわ」
そっとソーア様にお辞儀すると、フローラについてレテフィア嬢の元へ向かう。ソーア様は他の人には見えないらしい。一度普通に会話していた所にシャルロッテが来て、独り言かと問われて初めて知ったのよ。
向かう途中でたくさんの人に挨拶された。そう、地位があるのは良いけれど、なぜか人が集まって来るのよね。そのせいでお昼を食堂で食べられなくなってしまった。
仕方なく、特別ラウンジを使わせてもらっている。そこには基本王族しか入れないので、お祖父様に許可をもらって特別に入れてもらえた。これを知ったシリウスはなぜか大喜びしていた。
連れてこられたのは中庭だった。そこでレテフィア嬢達は腕を組んで待っていた。
「何の用かしら」
「貴女の実力を確かめるのですわ。昨年いなかった貴女がアレックス様に勝つなんて有り得ないわ。どうせお祖父様に頼んだのでしょう?」
「そんな事してないわ」
レテフィア嬢のこの一言で、周りに集まってきていた人達がわたしに疑いの目を向けてきた。一応わたしもミレイルとして通っていたのだけど、信じるのはアレックスくらいよね。
周囲の雰囲気に満足したように笑うと、レテフィア嬢が再び白い手袋を投げてきた。
「さあ?ズルは通用しないわ」
「受けて立つわ」
かくして、二度目の勝負となった。
またしても闘技場に移動する。前回と違って、今日は観客が大勢いた。中庭で一部始終を聞いた者、噂を聞きつけてきた者。二年生だけでなく、もはや学年問わずやって来た人で闘技場は半分以上が埋まった。
「ふふ、今ここにいる皆が証人よ。貴女のズルを暴いてやるわ!」
レテフィア嬢のこの叫びに、集まった人の八割近くがわたしに疑いの目を向けた。もはや睨んでいる者もいる。一年いないだけでここまで疑うのね。わたしは冷静に返した。
「あら、それではここでわたしが勝てば、その冤罪はなくなるのですわね?」
「私に勝てるならば、そうしましょう。ですが、ズルなしで私に勝てるのかしら?」
「もちろんですわ。ズルなどしておりませんもの」
「ならば、持てる力全てでかかって来なさい!」
「ふふ、傷つけないように気をつけますわ」
わたしの言葉に怒ったレテフィア嬢は、怒りのままに怒鳴った。
「っ、そんな余裕があるのも今のうちよ!『岩砲』!」
「…『土壁』―透明化、『水泡』」
審判が慌てるうちに、レテフィア嬢が岩を撃ってきた。わたしはそれを透明な土壁で難なく防ぐと同時に泡を周りに浮かべた。
わたしの冤罪をかけた勝負の幕は切って落とされた。




