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しろねこ姫の不思議な力  作者: しーにゃ
第3章 貴族しろねこ姫
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45-N 葛藤

 学院二年生になって、僕は教室に行くのを楽しみにしていた。今年からはアイリーナが一緒、それだけであのつまらない授業だって耐えられる気がした。


 しかし、アイリーナに話しかけると、まるで他人みたいな対応をされた。ちょうど近くにいたシリウス、ディランと一緒にため息をつく。間違いなくアイリーナが正しい、だがどこか心に穴が空いたみたいだ。


 そしてアイリーナは相変わらずだった。魔術の授業中、アイリーナとその相手のアレックス王子殿下を見ていたが、なんとアイリーナはあの笑わない事で有名なアレックス王子を笑顔にした。


 そして、その事で令嬢達四人に同時に勝負を挑まれ、ものの見事に打ち倒した。シリウスはアイリーナの緊張を解していたというのに、僕は見守る事しか出来なかった。


 妹みたいなアイリーナがすごい事をどんどん成し遂げていくのに、兄貴分の僕は何が出来る?せいぜい勉強くらいだ。


 昨年は学年一位をとったが、今年はアイリーナがいるからどうなるか分からない。もし負けるような事があれば、アイリーナはもう僕の手が届かない場所に行ってしまう気がした。だから、昨年以上に勉強しようと決意した。


 ところが、図書室に通ううちにクレノール男爵令嬢と鉢合わせた。昨年はシリウスだけを追いかけていたというのに、今年は僕ら三人ともに声をかけてきた。だから軽くあしらうつもりだったのに。


「ノエル様、勉強を教えてくださる?」


 どうしても断れなかった。アイリーナなら断らない、そう思ったら隣に座っていた。


 彼女に勉強を教えるうちに、何だか変な気分になってきた。しかし、その度にクレノール男爵令嬢が優しく説得してくる。


「ノエル様はすごいですわ!」

「是非魔術も教えて欲しいくらいです」

「先生がノエル様だったら良かったのに」


 そして、気がつけば毎日のように図書室で勉強を教えていた。シリウス達には呆れられた。


「何でリリーを閉じ込めたやつに親身に勉強を教えるんだ?」


 ある日教室で言われたその言葉にはっとした。その通りだと思った。だから今日で終わりにしようとクレノール男爵令嬢にそう言ったら。


「どうせその人もノエル様から離れていくんでしょう?」


 そんな、アイリーナが僕から離れていくわけがない。だが、もし隣国に行く事にでもなったら?アイリーナの前でだけ笑顔を見せるあのアレックス王子に婚約でも申し込まれて、それを受けたら?


「私はそんな事はしないわ」


 そして、僕はその悪魔の囁きに乗ってしまった。


 しばらくはアイリーナと会わなかった。その事もあって僕の心は弱っていった。僕はもうアイリーナに必要とされてないんだ。僕は要らないんだ。











 しかし、ある日図書室にアイリーナがやって来た。


「ノエル様、ごきげんよう」

「勉強しに来たのか?」


 そう、最初は何も思わなかった。しかし、邪魔だからと奥に行こうとしたアイリーナに、負けていた僕の心が叫んだ。


『待って、行かないで』


 声にならないその叫びは当然アイリーナには届かず、僕はまた心を閉ざした。


 次の日、今度は訓練場で実技の練習をすると聞き、僕は()()説得して訓練場に来た。そこでは属性ごとに場所を決めて練習が始まった。僕はシリウスと水属性を練習していたが、アイリーナがとてつもない威力の魔術を使うのを見て心が折れかけた。アイリーナはあんなに出来るのに、僕は……


 そして、その時シリウスが話しかけてきた。


「なあネル、どうしてクレノール男爵令嬢に勉強を教えてるんだ?」

「頼まれたからだよ」

「だけど、リリーを傷つけた相手だぞ、それは良いのか?」


 またアイリーナ。これを聞いて僕はもう一人の僕に負けた。()がシリウスと言い合いになっているのを、僕はどこか呆然と眺めていた。


 そこにアイリーナがやって来た。


「シル、ネル、どうしたの?」

「リリー、聞いてくれよ。ネルがクレノール男爵令嬢を擁護するんだ」

「だってあの子だっていじめられてるんだ。何とかしてやりたいじゃないか」

「何でリリーを傷つけたやつを助けるんだ」


 そのシリウスの呟きにアイリーナが微笑んだ。それを見て僕はどんどん堕ちていく。


 しかし、お礼を言い終わったアイリーナは僕に向き直り、しっかりと僕の瞳を見つめて言う。


「ネル、確かにいじめられてる子を助けるのは当然だわ。だけど、シルにそこまで強く言う必要はあるのかしら?」


 その言葉に心で叫ぶ。


『ない、ないけどリリー、僕の事も見てくれ!』


 そして、僕の口からは心と裏腹な言葉が出てくる。


「貴女も何か文句があるのか?」

「ネル……?」


 何か考え込んだアイリーナは、しかし怯む事なく僕に話しかけてきた。


「ネル、失礼するわ」

「えっ、な、何を…」


 一言言って僕の体に触れてくる。そう、こんな優しいアイリーナを傷つけた人を、どうして庇うんだろう?


 ところが、もう一人の僕が否定してくる。僕はアイリーナとは釣り合わない、と。


 そんな事ない、そう思うが果たして本当にそうなのか?


 またしても負けそうになった僕に、アイリーナが語りかけてきた。


「ネル、わたしはここにいるわ。約束したじゃない。『わたしたち、なにがあってもずっとなかよしだもんね?』って、そう言ったじゃない」

「……………!!」


 そうだ、昔約束したじゃないか。何があっても友達だと。アイリーナは覚えていてくれたのに、僕は……


 そうだ、約束した以上、アイリーナが僕を置いて行くなんて有り得ない。確かにアイリーナはすごい人だ、だけどそれが何だ。僕には僕の良い所があるんだ!


 強く心を持つと、もう一人の僕がだんだん消えていく。すっかりいなくなって、目の前のアイリーナにお礼を言った。ちゃんと僕を見てくれている、勝手に消えたりしない。だけど、今だけは確認していたかった。アイリーナがちゃんとそこにいる事を。


 少し抱きしめていると、シリウスに言われた。どこか拗ねたような声。あ、シリウス、もしかして……


 とりあえずお礼を言いながらアイリーナを離した。


「リリー、本当にありがとう」

「どういたしまして」


 僕は僕なりに出来る事をするだけだ。アイリーナは待ってくれる。もう一度強く思った。

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