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しろねこ姫の不思議な力  作者: しーにゃ
第3章 貴族しろねこ姫
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44-I 二つの疑問

 今日は先生に言って訓練場を借り、実技の練習をする事にした。一緒に練習するのは、シャルロッテ、フローラにシリウス。ディランと、ノエル。今日はユリアンナ嬢はいないらしい。その代わり、珍しい人物がいた。


「あら、フォナム様もいらっしゃったのですか?」

「ああ。少し練習したくて」

「では一緒にいかがでしょう?」

「……是非!強くなったアイリーナの魔術も受けてみたいし」


 けっきょく七人で訓練場に向かった。











 広い訓練場で、属性ごとに場所を決めた。シャルロッテとディランは火属性を、シリウスとノエルは水属性を、それぞれ練習し始める。残ったわたしとフローラ、フォナムで一緒にする事になる。


「フォナム様って何属性が使えるんですの?」

「地と闇だよ」

「まあ、それでは丁度良いわ。地属性を練習しましょう」


 それから練習を始めた。フォナムはなかなか魔術が上手く、威力もあった。そして、フローラが少し休んでいる間にわたしはフォナムに頼まれた。


「少し全力で攻撃してみてくれない?」

「えっ?だけど、わたし少し前に魔力変質を起こして、威力が桁違いになっているのよ?それでも良いの?」

「……良いよ」

「……分かったわ」


 大きく深呼吸すると、慎重に、暴走しないように気をつけながら魔力を練っていく。溢れそうになるのを押し留めながら、呪文を唱えた。


「『岩砲(ロックキャノン)』、『地揺れ(アースウェイア)』」


 途端、地面が揺れるどころかもはや隆起してフォナムに迫る。さらに、わたしの手元からも岩が飛んでいく。フォナムはそれを、黒い球を出して対処している。


 なるほど、これはこれで使えそうな魔術だわ。地揺れを全力で出すと隆起すると。覚えておきますか。


「……ふう。こりゃあいつに匹敵するかもなぁ」

「フォナム、あいつって?」

「あ、いや、何でも………」

『フォ……ナ……ム……!』

「あちゃー」


 そこにとてつもない怒りが込められた声が聞こえてきた。振り向くと、そこには怒りのソーア様。


『そちは何時になったら分かるんだい?毎回毎回大地をボロボロにして……』

「ソ、ソーア様、ごめんなさい。これはわたしがやったんです」

『おや、アイリーナかい。良いんだよ、どうせこいつに言われたんだろう?こいつは昔からそうなんだよ』

「ソ、ソーア、すまなかった」

『元通りにしときなさい』

「……はい」


 フォナムが項垂れると、ソーア様は満足したように消えていく。残されたフォナムはそそくさと片付け始めた。それを見ながらわたしは首を傾げる。今、フォナム、ソーア様の事を呼び捨てで呼んだよね?一体どういう事かしら?


「ねえフォナム、貴方って一体何者なの?」

「えっ?どういう事?」

「だって精霊のソーア様を呼び捨てにしてたし、お母様とも知り合いなんでしょう?」

「……っ、ボクは…」

「アイリーナ様、お待たせしました、もう大丈夫ですわ」


 ちょうどその時にフローラがやって来た。そしてわたし達を見てキョトンとする。フローラ、もう少し待ってて欲しかったわ。


「フォナム様、どうなさったのです?」

「いや、何でもない」

「フローラ、わたしちょっと他の所に行ってきますわ」

「分かりましたわ」


 これ以上ここにいても何も聞けないので、他の所で他の魔術の練習をする事にした。











 まずはシリウスとノエルの所に向かう。そこでは、何やら言い合いをしていた。


「……だから、あいつはリリーを傷つけたんだぞ!」

「それがなんだ、知らなかったんだよ!ただ閉じ込めただけだろ!」

「結果的に助かったけど、死んでたらどうしたんだ!」


 何かどこかで聞いたような言い合いだわ。それに、ノエルはどうしたのかしら。あそこまで強い口調のノエルは見た事ないわ。


「シル、ネル、どうしたの?」

「リリー、聞いてくれよ。ネルがクレノール男爵令嬢を擁護するんだ」

「だってあの子だっていじめられてるんだ。何とかしてやりたいじゃないか」

「何でリリーを傷つけたやつを助けるんだ」


 シリウスが呟く。それを聞いて心が温かくなる。わたし、皆に気にかけてもらえているのね。それってとても幸せな事だわ。


「ありがとう、シル」


 お礼を言って笑いかけると、シリウスはほんのり赤くなった。わたしはノエルに向き合う。


「ネル、確かにいじめられてる子を助けるのは当然だわ。だけど、シルにそこまで強く言う必要はあるのかしら?」

「………っ、リリー…」


 ノエルはまたしても何か言いたげな瞳をした。先程のノエルとは少し違う雰囲気がする。しかし、苦しげな表情になると、また強い口調のノエルに戻ってしまった。


「貴女も何か文句があるのか?」

「ネル……?」


 わたしはずっとノエルの瞳を見つめていた。今のノエルの瞳は、微かにだけど濁って見える。それにここまでの人格の変化、もしかして……


「ネル、失礼するわ」

「えっ、な、何を…」


 抵抗しようとしたノエルは、しかしなぜか固まった。その隙にノエルの体に触れ、問答無用で紋章の力を使う。聞こえてきたのは、苦しげなノエルの声。そしてもう一つ、命令口調のユリアンナ嬢の声だった。


『シルの言う通りだ、僕は何でクレノール男爵令嬢を擁護する必要があるんだ?』

『そんなリリーなんて女ほっときなさい。どうせあんたには釣り合わないわよ』

『………っ、そんな事ない、そんな事……』

『どうせどこかに行っちゃうのよ、諦めなさいよ』

『……………』


 聞いていてだんだん苛立ってきて、手を離した。何で男爵令嬢の立場で公爵令息のノエルにここまで命令口調なのかしら?それにノエル、貴方そこまで弱かったかしら?


 どちらにせよ、これではっきりしたわ。ノエルは『制圧』されている。これを解除するには、心を強く持つしかない。だから、わたしはノエルに語りかけた。思い出すのは、昔ノエルが苦しんでいた頃の事。


「ネル、わたしはここにいるわ。約束したじゃない。『わたしたち、なにがあってもずっとなかよしだもんね?』って、そう言ったじゃない」

「……………!!」


 ノエルが目を見開いた。その瞳に輝きが戻ってくる。少しして、その瞳からは濁りは消え去り、透き通った瞳は一瞬黄緑色に輝いた。


「えっ、ネル……?」

「……リリー、ありがとう、ありがとう………!」


 しかし一瞬の後、もう一度見ればノエルの瞳は蒼く輝いていて、黄緑には到底見えない。見間違えだったのかしら、そう思うわたしにノエルが近づいてきて、思い切り抱きしめられた。いつもどこかお兄さんみたいなノエルが、まるでレオンハルトみたいに縋り付いてくる。思わずその頭を撫でた。


「……ネル、もう良いだろ」

「そうだな、リリー、本当にありがとう」

「どういたしまして」


 それからノエルにかかっていた『制圧(サプレッサー)』について二人に話し、少し三人で水属性魔術を練習した。

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