41-I 取り巻き二人目
春も半ばになり、花もきれいで暖かいからとわたしは中庭でお茶する事にした。今日は一緒にいるのはフローラ嬢だけ。シリウス達は剣術の授業があるので来れない、と残念そうに言っていた。
女子だけでお茶というのもなかなか良さそうね。初めてだわ。優雅に紅茶を飲んだわたしにフローラ嬢がそういえば、と問いかけてきた。
「アイリーナ様、一つ思ったのですけど」
「何かしら?」
「シリウス様やアレックス様の事、どう思ってらっしゃるのですか?」
「良き友人方、かしら。アレックス様は従兄弟ですし」
その答えにカップを落としそうになるフローラ嬢。何かおかしな事でも言ったかしら。
「あの、どなたが好きとか、そういう感情はないのですか?」
「……ないわね、この先どうなるかは分からないけれど」
どうしてそんな事を聞くのかしら。少し考えたわたしはある一つの行事を思い出した。そう、この国では十四歳になる年に大きな行事があったわ。
「……そういえば、わたし達のデビュタントは今年の冬でしたわね」
「いえ、そういう事では……いや、少し合ってるのかしら…?」
「フローラ嬢?」
「……あの、先日の勝負、なぜあそこまで不利な条件で挑まれたとお思いですか?」
「そういえばどうしてなのかしら。アレックス様の笑顔を見たから……?」
何だろう、他に思いつかないわ。そう答えると、フローラ嬢がため息をついた。
「大体合ってますが……ここまでとは……」
「フローラ嬢は知ってるのよね、教えてくださらない?」
「アイリーナ様、わたしの事は呼び捨てて構いません。それと、理由なのですが……」
そこで小声になった。そっと耳打ちしてくる。
「レテフィア様が、好意を持っていらっしゃるからです」
「好意を?誰に……まさか、アレックス様に?」
「はい。それで、昨年一年かけて仲良くなろうとしたのに、初対面のアイリーナ様に笑顔をお見せになったから、レテフィア様が嫉妬なさって……」
「……そんな事で……」
もっと重大な事かと思ったら割と些細な事だったのね。何かと身構えたわたしは拍子抜けした。しかし、どうもそうではないらしい。
「誰にも言わないでくださいね?」
「分かったわ、二人の秘密ね?」
いたずらをしてる気分だわ。とてもわくわくするわね。
「ところで、そう言うフローラは好きな方はいないの?」
「わたし、ですか?……いませんよ」
そう言うなりカップを手に取ったフローラ。頬がほんのり赤くなったみたいだけど、もしかして寒かったかしら?日差しが暖かいけれど、風はまだ冷たいものね。
「フローラ?寒い?」
「いえ、大丈夫ですわ」
「そう?顔が少し赤く…………っ!?『防壁』!」
手を伸ばして熱があるか確かめようとした時、視界に飛んでくる炎球が映った。慌てて防壁を張る。炎球は防壁に阻まれて消え去った。
それにしても、びっくりしたわ。ちょっと気づくのが遅かったらどうなっていた事か。フローラも少し震えている。
「な、なんですの……?」
「結構な威力でしたわね」
二人して飛んできた方を見ると、紺色の髪に紅い瞳の令嬢がこちらを見ていた。瞳が怒りに染まっている。そのままつかつかと寄ってきた。
「不意打ちを止めるなんて、やるじゃない」
「お褒めに預かり光栄ですわ、シャルロッテ嬢。良かったらわたし達とお茶会でもいかが?」
「アイリーナ様!?不意打ちしてきた相手ですよ!?」
「結構ですわ!」
吐き捨てるように叫ぶと、シャルロッテ嬢は何かを投げつけてきた。
「……またですの?」
またしても白い手袋を投げられて、思わず呟いた。横でフローラが申し訳なさそうに縮こまる。
「……それにしても、勝負の理由はなんです?」
「へっ?」
「ですから、勝負の……」
「聞こえてますわ!」
怒りのせいか真っ赤になったシャルロッテ嬢は、今までの勢いはどこへやら、小さな声で呟いた。
「ノエル様を、独占しているから」
小さすぎてほとんど何も聞こえなかったけど、フローラには聞こえたらしい。呆れたように呟く。
「貴女もですか」
って事は、またアレックス関係なの?アレックスって結構人気なのね。仕方ないわ、誤解は解かないと。
「分かったわ、勝負、お受けしますわ」
勝負は呆気なく終わった。適当に撃った水球がシャルロッテ嬢の攻撃を飲み込んでシャルロッテ嬢に迫り、慌てる彼女の後ろから泡を当てた。それだけだった。
「もうおしまいですの?」
「………っ、水球にわたしの魔術が負けるだなんて……」
項垂れて何やら呟くシャルロッテ嬢に、笑顔で話しかけた。
「わたしの勝ちで良いかしら?」
「……ええ。わたしが勝てるはずもありませんでしたわ」
「あら潔いわね。誰かさんとは大違いだわ」
「うう…………あっ!」
「……?」
一瞬キョトンとしたシャルロッテ嬢に、呻いたフローラが何かを耳打ちした。そのまま二人で話し込む。一人取り残されたわたしは、その場にしゃがみ込んだ。
二人は取り込み中みたいだし、今のうちに試してみようかしら。地面に手を当て、そっと話しかける。
「こんにちは、わたしアイリーナと申します。大地さま、いつもわたし達を支えてくださってありがとうございます。実は、折り入ってお願いがあるのですが……」
『……面白い娘だなぁ。まさか私にお礼を言ってくるとは。アイリーナと言ったか、そちの願い、聞き届けよう』
「あ、ありがとうございます!」
顔を上げると、目の前にレイチェルくらいの女の子が浮いていた。レンガのような色の髪を腰まで伸ばし、右が赤、左は茶の瞳がわたしをじっと見てくる。その背中からは間違いなく、羽が生えていた。それは、本に出てくるような姿。思わず言葉が漏れた。
「精霊さま……」
『おや、私が見えるのかい。残念だが今は時間が取れないから、願いは明日で良いかな』
「もちろんですわ!」
ではまた明日ここで、と言い残し、精霊さまは消えてしまった。やったわ、これでわたしも変身出来るようになるのね!
ちょうど話が終わったらしく、フローラとシャルロッテ嬢がやって来た。覚悟を決めたようなシャルロッテ嬢は、先日のフローラを彷彿とさせる。
「アイリーナ様、わたしにはその資格がない事は承知しております。ですが、どうか、アイリーナ様のお傍にいさせてもらえないでしょうか」
「あら、それはどんな心境の変化かしら?」
「………ノエル様の近くにいられるなら、この方が良いと…」
「ノエル様?アレックス様ではなくて?」
「アイリーナ様、シャルロッテ様はそんな事は仰ってませんよ」
「だけどフローラ、貴女が言ったんじゃない。『貴女もですか』と」
「それはそういう意味ではなく……」
なぜか頭を押さえるフローラ。あの言葉は、そういう事だったのではないの?一方でシャルロッテ嬢は小さく呟いた後は真っ赤になって俯いてしまっていた。
「シャルロッテ嬢、貴女に資格がないとは思わないわ。だけれど、貴女がそう思っているのなら……」
わたしの言葉にビクリと体を震わせたシャルロッテ嬢。わたしは微笑みかけた。
「わたしの傍にいることを、許します。シャルロッテ·フォン·アスピシャン」
「………!」
顔を上げたシャルロッテ嬢は、まだ熱がありそうに赤い頬に涙を零した。あら、言い方を間違えたかしら。その涙を拭おうと手を伸ばすと、シャルロッテ嬢に握られた。
「ありがとうございます、アイリーナ様……!わたしの事は、どうぞシャルロッテとお呼びください」
それからわたしはこの三人で行動をとる事となる。




