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しろねこ姫の不思議な力  作者: しーにゃ
第3章 貴族しろねこ姫
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39-I 結果

「まさか、フローラまで倒すなんて思ってなかったわ。やるじゃない」

「あら、それは褒め言葉として受け取るわ」

「だけど、私は容赦しませんわ」


 キッとわたしを睨み付けると、レテフィア嬢は手を腰に当てた。


「それでは、最終勝負、始め!」


 先生の声が響いた。











「『岩砲(ロックキャノン)』」

「『水砲(アクアキャノン)』」


 初めから本気の攻撃を飛ばしてくるレテフィア嬢に、先程と同じくらいの威力で水砲を撃つ。しかし、なかなか止まらない。これはなかなかの威力だわ、そう思った時。


「『地揺れ(アースウェイア)』」


 地面が揺れ、岩に当てていた水砲がずれた。体勢を崩すわたしに、ほとんど元の威力で岩が飛んでくる。まずいわ、何とかしなくては。


「『水砲(アクアキャノン)』っ」


 思わず魔力変質が起こる前と同じ感覚で地面に向けて水砲を撃った。途端に空中に飛ばされる。えっ待って、ここまで飛ぶの!?


 学院の校舎が小さく見える。そして、そこから落下し始める。慎重に水砲を調節して降りていたが、威力が高くてレテフィア嬢達が見え始めるくらいの高さより下に降りれない。そして、問題が一つ。


 よく考えたらわたし、スカートだわ。


 つまり、今はまだ遠いとはいえ、下からは中が丸見えという事で。ど、どうしましょう、そこまで考えてなかったわ!


 一気に恥ずかしさが襲ってきた。一瞬頭の中が真っ白になった後、辛うじて一つの策を思いついた。もう、やるしかないわね。


「『凍結(フリジナム)』」


 先程の自分の魔術で濡れてしまったスカートを凍らせる。それで一応の形を保つと、水砲を止めて突風を下から吹き上げさせた。さらに、防壁を自分の足元に出すとそれに()()()ゆっくり地面に降りる。











「まさか自分で吹き飛んでいくとは思いませんでしたわ」

「ええ、もう少し良い方法があった気がしますわ」


 地上ではレテフィア嬢が唖然としていた。審判の先生も、観客席のシリウス達も固まっていた。しかし流石は侯爵令嬢、すぐに気を取り直して攻撃が始まる。


「『砂塵(ダステーレ)』」

「『泡弾(バブルショット)』」


 回転しながら自分を中心に円のように泡を撃ちだした。それで軽く他の人から自分が見えないようにすると、地揺れが来ると思われる瞬間に飛び上がり、足元に防壁を張った。


「『水砲(アクアキャノン)』」


 相手に岩砲を撃たれる前に、先手を打つ。


「『突風(ハイウィンド)』、『水刃(アクアエッジ)』」


 さらに、風で周りの泡をレテフィア嬢に向けて飛ばし、続けて水刃も撃ち込んだ。しかし次の瞬間岩が飛んでくる。これは先程と同じ状況になりかねないわ。とりあえず水砲で受け止めると、風で飛んでレテフィア嬢の後ろにある泡をそっと撃った。


「同じ手には乗らないわ」

「また飛び上がるんですの?恥ずかしいと………きゃっ!」


 地揺れを発動させて余裕そうなレテフィア嬢は、後ろからの泡攻撃に気づかず、まともにそれを受けた。わたしは水砲の威力を少し上げ、岩を飲み込むとレテフィア嬢に向けた。防壁を張ってはいるが、泡を当てられた事で動揺しているらしいレテフィア嬢は、防壁ごと吹き飛ばされた。


「──最終勝負、勝者アイリーナ!」











 やっと終わったわ、長かった。そう一安心した次の瞬間。


「……っくしゅん!」


 冷たい風が吹いてきて一気に体温を奪われる。そういえばスカート凍らせてたわ。加熱して溶かしてから、乾燥させる。ふと見れば、レテフィア嬢はともかくとして、他の三人もびしょ濡れだった。そこにシリウス達が降りてくる。


「リリー、お疲れさま」

「飛んでった時は何かと思ったよ」

「何で水属性しか使わなかったの?」

「ちょっとやってみたくて」


 これにシリウスが反撃してきた。


「リリーなら一撃で倒せただろう!」


 その勢いに思わず一歩下がると、シリウスが前に出てきてわたしは肩を掴まれた。


「無駄な心配をかけるんじゃない!」

「…だって、シルが言ったんじゃない、手加減しろって」

「シル、リリーの言う通りだよ」

「うっ、でも………!」

「それにリリー、あの水砲は……」

「ああ、あれ?咄嗟に今まで通りに撃っちゃったのよ」

「やっぱり……」


 シリウスはノエルに言われて言葉を探すも、何も思いつかないようで押し黙った。そして地面に撃った水砲の威力についてディランに聞かれ、答えるとノエルが納得したように頷いた。


「リリーは多分まだ威力調節が完璧じゃないんだよ」

「はあ?前にモンスター倒した時は……」

「……魔力変質か」


 色々言っている三人は放っておいて、わたしはレテフィア嬢達の所に向かった。


 ちょうど身を起こしたレテフィア嬢と、びしょ濡れの三人は、こちらを見て少し身を竦めた。


「な、何かしら……?まだやるんですの?」

「いいえ、もうしないわ。それより、大丈夫かしら?」

「っ、そんなわけ、ないわよ」


 動くたび痛そうなレテフィア嬢に聞くと、辛そうに返ってきた。すぐさま治癒をかける。ノエルの言う通り、まだ調節は難しいわ。その分、治癒や防壁などはいつも通りでも大丈夫だから良いわね。さらに震える四人に向かって笑いかけた。


「寒いわよね?ごめんね、今乾かすわ。『乾燥(ドライーア)』」


 びしょ濡れの三人、そしてレテフィア嬢にも魔術をかけて服を乾かす。いくら戦った相手とはいえ、わたしとしては何も思う所がない。ただ目の前で寒さに震えているのがかわいそうだった。それだけだったのに。


「……貴女、何属性なのですか?」

「え?一応全て使えるわよ?」

「なんて事……」

「「「……………」」」


 固まった四人。そこに先生が来た。


「とりあえず、今回の勝負はアイリーナの勝ちだが……」


 どうする、と先生に聞かれた。そんな事を言われても、と困った。だって、わたしは挑まれた勝負を受けただけだもの。


「別に、わたしは何かされたわけでも損するわけでもないので、何もなしで良いですわ」


 そう、勝負に勝てば負けた側に何か制限をかける事が出来る。レテフィア嬢達はわたしの行動を制限しようとしたのだろうけれど、わたしはそんな事しなくても良い。むしろいらない。


「良いのか?」

「ええ、もちろんですわ」


 その言葉に驚く四人。そうよね、普通四対一に勝ったのだから、それなりの制限がかけられても仕方ないと思うけれど。


「ふふ、そういえばわたしにどんな制限をかけようと思っていたのかしら?」

「……今度こそ勝って見せますわ!」

「あら、楽しみにしてますわね」


 それは楽しみだわ。授業以外で調節の練習が出来るのよね?それだったら、いくらでも受けて立つわ!


 微笑むと彼女らに背を向けて、シリウス達の所に戻り、四人で仲良く話しながら寮に帰った。

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