36-A 第二王子
いつも読んでくださってありがとうございます!皆様のおかげでブックマーク100件超えました。これからもこの作品をよろしくお願いします!
意見や疑問、感想などお気軽にお寄せください!
私、アレックス·サン·ライア·ファルクはファルク王国の第二王子として生まれた。
幼い頃から王族として貴族達の下心がある挨拶を受け続け、成長するうちに私は笑わなくなってしまった。それは、作り笑いの裏にある表情が見えてしまうから。
その証拠に私のご機嫌とりをしてくる貴族達は、王太子である兄上が現れれば皆そちらに行ってしまう。綺麗な笑顔を見せる兄上は真顔の私と違って人気がある。
しかし兄上は笑顔の裏で、すり寄ってくる者達を利用しようとしているのだ。相手が興味あるのは私達の地位、権力だけと分かっているからだろう。
そんな中で十二歳になったある日、私は父上に呼び出された。
「アレックス、アイルクス王国に留学して来い」
「は……?なぜですか?」
父上の突拍子のない言葉に思わず固まった。困惑して聞き返した私に、父上は国王の顔を向けた。
「アイルクス王国の情勢を見て来い」
それだけ言う。そうだよな、私個人のためなわけがない。俯きかけた私に父上が笑った。……これは、心からの笑顔だ。
「……というのは建前で、私の妹に会ってきたらどうだと思ってだな」
「えっ?」
父上がそんな事を言うなんて初めてだ。さらに困惑する私に父上が言う。
「私も昔お前と同じような気持ちになってな。その時にシシーが私の心の拠り所だったのだ。お前も会った事あるだろう?」
「……そんな覚えはありませんが」
「そうか?昔アイルクス王国に行った時に会わなかったか」
ああ、あの時か。私は一人でアイルクスの王宮を歩いていたから会わなかったんだな。
「……そうだ、確かシシーのいるセイレンベルク公爵家にはお前と同い歳の令嬢がいたな。その子と友達にでもなったらどうだ?」
「その子は昔王国に行った時に会いましたか?」
「いや、その時はちょうどレッスンがあるとかでいなかったな」
あの時の令嬢の中にいなかったのは良いが、所詮貴族令嬢。父上が勧めるからと期待すれば、またいつも通り落胆するに違いない。そう思ったが。
「留学先の学院に、同じ学年で入学するらしい。学院で探してみてはどうだ。名前はアイリーナ·フォン·セイレンベルクという」
うん、アイリーナ?その名前、昔どこかで聞いた事があるような………?どこでだ、名前にはなぜか良い印象を持っているのだが。
何とか思い出そうとする私の耳に、父上のさらなる説明が聞こえてくる。
「……髪の毛はピンクがかった金色で、珍しい空色の瞳をしているから、見れば分かるだろう」
空色の瞳と聞いて思い出した。私に対して家族以外で初めて心からの笑顔を向けてくれたあの子か。そうか、アイリーナというんだったな。
「プレゼントがあった方が良いだろう。これを持って行きなさい」
そう言って父上が見せてきたのは、宝石が入っていそうな小箱。受け取って開けると、そこには。
「どうだ?綺麗なルビーだろう?」
「……父上、私を試していらっしゃるのですか?」
「……どういう事だ」
私の目に映ったのは、箱の中に丁重に入れられただけのただの石。どう見てもルビーには見えない。父上にこれは普通の石だと告げると、父上は怪訝な顔でそれを受け取ってじっくり眺める。少しして、父上がまさか、と呟いた。
「『攪乱解除』」
父上が呪文を唱えると、その表情が驚きへと変わっていった。私には何も変化など起こっていないように見えたが、父上には何か見えたらしい。しばらくして、父上に質問された。
「……いつからだ?」
「何がです?」
「これが偽物だと分かったのはいつだ?」
「いつも何も、初めに見た時から普通の石でしたが」
その答えに黙り込む父上。不安になった私は父上に聞いた。
「どうされましたか」
「……いや、驚いただけだ。まさかお前が真眼持ちだとは」
「私が、真眼持ち?」
真眼、物事の本質を見抜く特殊能力。魔術で見た目を誤魔化していても、その本当の姿が見える。私が、本当にそんな能力を持っているのか?
「試そうか?」
「お願いします」
父上がちょうど持っていた石に何か魔術をかけた。だが、私には何も変わっていないように見える。
「何も変わりませんが」
「……間違いないな。今これはサファイアに見えるのだ」
そんな事を言われても、石にしか見えない。よく分からないでいると、父上が苦笑した。
「とにかく、他人と違うように見えるのだ。そこには何か事情があるかもしれない。特に人にかかっている時はな。だから、迂闊に暴露したりしないようにな」
「……肝に銘じます」
この時は、そんな事などないと思っていた。
結局新しい本物のサファイアをアイリーナへの贈り物として持ち、ファルク王国を出発した。一週間程かかってアイルクス王国に着き、ユリウス国王陛下に挨拶しに王宮に向かう。案内を待っている間、昔ここに来た時の事を思い出していた。
それは、私が七歳の頃。父上、母上、兄上と私でアイルクス王国を訪問した時の事。兄上と私は父上にアイルクス王国の貴族子息、令嬢達と交流しろと言われた。案内された部屋には十数人の子供達がいた。この頃はまだ普通に笑う事が出来ていて、私も兄上も笑顔で会話していた。
しかし、少しすると皆兄上の方に集まっていった。ああ、この子達も一緒か、どうせ親にでも言われたのだろう。まずは王太子である兄上と仲良くなるように、と。もはや私の周りには誰もおらず、私は気づかれないように部屋を出た。
気がつけば私は庭園にいた。そこにあった大きな木に寄りかかって座り込む。誰も本当の私を見てくれないんだ、気にするのは第二王子という肩書きだけ。皆私を利用して自分の権力を増す事しか考えてないんだ。これは薄々気づいていた事ではあったが、いざ目の当たりにするとかなりの衝撃だった。そんな奴らに、笑顔で話す事はないよな。
「……どうしたの?」
俯いていた私はその声に顔を上げた。そこにいたのは、日光を反射する綺麗な金髪と、見上げた空と同じ色の瞳を持った私と同じくらいの女の子。着ている白いドレスが眩しかった。何も言えずに見つめていると、その子が話しかけてきた。
「もう泣かないで、何があったか教えて?」
優しい声、だが私は首を横に振った。どうせこの子も私の肩書きを気にしているだけだ。そんな手には乗らない。唇をかみしめると、その子がしゃがみこんでそっと手を差し出してきた。
「わたしはアイリーナ。あなたは何て名前なの?」
「え……?」
この子、私の事知らないのか?驚いて瞬きすると、涙が一粒こぼれた。
「アレックス……」
小さい声で呟くと、アイリーナが聞き返してきた。
「アレクね?」
「…あ……」
小さすぎてちゃんと聞こえなかったらしい。だけど、まあいっか、この方が良い。今だけは王子の肩書きを捨てよう。私は頷いた。
「アレク、ほら立って?」
「う、うん」
差し出された手をつかんで立ち上がる。ふと下を見れば、服が汚れていた。自分のは良い、アイリーナの真っ白なドレスまで泥で汚れてしまっていた。はっと顔を上げた。
「あっ、あの、ごめん」
「何が?」
「服、汚れがついて……」
「あら、本当。ちょっと待ってね。『掃除』」
アイリーナが呟くと、その空色の瞳が輝いた。私はただ見つめるしか出来ない。
「ほら、きれいになったわ」
「す、すごい……」
服は元通り綺麗な状態に戻っていた。それにしても、私と同じくらいのアイリーナが、こんなに上手く魔術を使えるなんて。私はまだ『浮遊』くらいしか使えないのに。それも、少し浮くだけの、上手とは言えないもの。驚いて声も出ない私に、アイリーナが何か思いついたように言った。
「ねえアレク、少し遊ばない?」
それは、今まで一度も言われた事のない言葉。父上も母上も、兄上だって言ってくれなかった。いつも忙しそうな彼らにそんな事を頼めるはずもなく、侍女達はただいるだけ。
でも、きっとアイリーナなら私とちゃんと向き合ってくれるはずだ。思わず髪を触る。不安の中に一縷の望みをかけて、アイリーナに問いかけた。
「……私と一緒に、遊んでくれるの?」
「もちろんよ!」
アイリーナは私の言葉にぱっと笑顔になった。そこにあるのはただ純粋な気持ち。それが分かって、やっと私も笑顔になれた。
「ありがとうっ!」
「お待たせ致しましたアレックス王子殿下、こちらでございます」
アイリーナとの思い出について考えていたせいか、無性に会いたくなった。これは学院で会えるのが楽しみだ。しかし、通された謁見の間では残念な知らせが待っていた。
「アレックス王子、遠い所ご苦労だった」
「いえ、ユリウス陛下もお変わりないようで何よりです」
そしてファルク王国から持ってきた贈り物を渡した。その後少し話をする。
「私の叔母上は元気にしてらっしゃいますか?」
「テオドール、どうなんだ?」
「はい、毎日楽しそうに過ごしております」
テオドールと呼ばれた宰相が答える。と言う事は、あの人がアイリーナの父親か。アイリーナへの贈り物は自分の手で渡したかった。会えるかどうか聞いてみる。
「それは良かったです。ところで、父上に御息女が学院に通われると伺ったのですが、会わせて頂いても良いでしょうか?」
「それが……」
言葉を濁して顔を見合わせる宰相と陛下。何だ、アイリーナに何かあったんだろうか?不安になる私に、宰相が告げた。
「実は、あの子は一年の間、療養する事になりました」
「そ、そうですか。お大事にとお伝えください」
「はい、心配してくださりありがとうございます」
そんな、アイリーナは学院に来ないのか。あの元気だった子が、療養とは思いもしなかった。
サファイアは結局私が持ったまま、私は学院に入学した。




