34-I 不思議な人
「わあ、久しぶりの外だわ!」
「さあ。さっそく練習だぞ」
「「「はい!」」」
今日は、お父様との約束の日。家族五人で外にやって来た。
「リーナ、まず普通に泡を出してみてくれ」
「はい。『水泡』」
唱えれば、周囲が泡だらけになった。
「うわぁ!?」
「あらまぁ!」
「なんてこった…」
レオンハルトとお母様が驚きの声を上げ、お父様は頭を抱えた。レイチェルは楽しそうに泡を割っている。
「リーナ、今の所これをどこまで減らせるんだ?」
「ええと、やってみますね」
とりあえず今出した泡を消す。レイチェルが不満の声を上げた。
「お姉様、何で消しちゃうの?」
「ちょっと待って、今出すわ。『水泡』」
今度は慎重に調節して魔術を使う。結果、百個程に落ち着いた。
「ここまでですわ」
「分かった、それなら──」
お父様、そしてお母様に色々言われながら使う魔力量を調節し、二、三時間かけてようやく通常の量に出来た。使う魔力量、元の五分の一くらいじゃないかしら。一方その間レオンハルトとレイチェルはいつも通り魔術を出し合って遊んでいた。
「それじゃあ、今度は水球を出してみてくれ」
「『水球』」
お父様に言われて、使う魔力量に気をつけながら水球を作る。少し気を抜けばかなり巨大になってしまうので、集中する。
そして、さらに時間をかけ、ようやく。
「──そうだ、よく出来たな。恐らく大体の魔術はいつも通りの威力で使えるだろう」
「私は慣れるのに結構かかったのよ」
「お母様も『魔力変質』になった事があるのですか?」
「ええ、ちょうどレオンぐらいの時にね。…あの魔獣に会ったのは、その練習の帰りだったわ」
この前見たあの光景の事ね。そうだったのね、レオンハルトくらいの時に……
「あっ、あれ、フォナムよね?」
「そうだな、おーい!」
後ろでレオンハルトとレイチェルが誰かを見つけたらしい。振り返ると、近づいてくる人影があった。
「やあ、レオンハルト、レイチェル、それにアイリーナ。久しぶりだな」
「フォナム!もう、遊んでくれるって約束したじゃない、遅いわ」
「何してたんです?」
「ごめんな、ちょっと用事が出来ちゃって。元気だった?」
黒髪を揺らしてやって来たのは、前回外に来た時に会った、フォナム。フォナムに声をかけようとしたわたしは、お父様に聞かれた。
「リーナ、知り合いか?」
「はい、前回レオン達と外に来た時に会った、フォナムという人ですわ。友達ですの」
「あの人、見た目通りだと思わない方が良さそうね」
「お母様?」
じっとフォナムを見つめるお母様。その目には、どこか懐かしそうな色が浮かんでいた。そんなお母様を見ていたわたしに、フォナムが話しかけてきた。
「ごめんなアイリーナ。近くで見てたはずなのに気づけなかった」
「えっ、近くで?っていうか何に?」
えっ、どういう事?わたし、今まで学院に通ってたわよ?
「僕、学院に通ってるんだよ?」
「えっ?」
えぇぇええっ!?フォナムが学院に通ってるですって!?意外すぎるわ。確かに見た目こそ同じくらいだけど、もう少し上だと思っていたのよ。
「フォナムと言ったか、来年はリーナを頼むよ。少なくとも学院からは出さないでくれ」
「やっぱり間違いないわ」
お父様!?何言ってるのかしら!?ほぼ初対面の人にわたしを頼むですって?
その横ではお母様がぼうっとしている。お父様に話しかけられたフォナムがお父様の方を向こうとして、お母様に気がついて固まった。
「なっ、何でセシリア王女様がここに……」
「やっぱりそうなのね。いきなりいなくなったものだから、とても悲しかったわ」
「…ごめんなさい……」
えっ、何、お母様とフォナムって知り合いだったの?お父様は心当たりがあるらしい。
「リーナ、しばらく二人にしてあげようか」
「お父様?どうしてですか?」
「あの人は多分、シシーが学院に入学する直前に消えてしまった、王女付きの遊び相手だよ。そのせいか入学当初はずっと落ち込んでてな。やっと再会出来たんだ、話したい事もあるだろう」
そう言ってわたし達を少し遠ざけ、魔術の練習を続けようとするお父様。ただ一つだけ呟いた。一体何者なんだ、と。
帰りの馬車でレイチェルがお母様に聞いた。
「お母様、フォナムと何を話してたんですか?」
「昔の事を少しね。だけど不思議だわ。もう二十年くらい経つのに、全然変わってないんですもの」
「えっ、それならフォナムっていくつなの?」
レイチェルが首を傾げる。お母様やレオンハルトも頷く。その後家に着くまで、皆でフォナムの年齢、そして正体を考えて言い合った。
それから、魔術の練習やマナーのレッスンなどの合間に本を読みながら日々を送れば、あっという間に三ヶ月が過ぎていった。




